平成16年度 第1種 電力

2022年8月14日更新

目次

  1. 水車発電機の固定子巻線絶縁の非破壊試験
  2. 屋外変電所の変電機器の耐震設計
  3. 電力系統の絶縁協調
  4. 高圧配電線路の雷害防止対策
  5. 蒸気タービン及びタービン発電機に発生する軸電流
  6. 電力ケーブルの許容電流

問1 水車発電機の固定子巻線絶縁の非破壊試験

固定子巻線の絶縁劣化状態を判定するために行われる非破壊試験には,直流試験と交流試験がある。

直流試験としては,絶縁抵抗測定,直流電流試験などがある。

絶縁抵抗測定は,絶縁抵抗計を用いて行うもので,保守・点検のほどんどの場合に実施される。

直流電流試験では,電圧印加後の電流は時間の経過とともに減衰するが,この電流の時間的変化の程度を表す指標として成極指数がある。これは絶縁物の吸湿・汚損の状態を判断する目安として用いられている。

交流試験としては,誘電正接試験,交流電流試験及び部分放電試験がある。

誘電正接試験は絶縁物の $\tan \delta$ を測定する試験である。$\tan \delta$ は絶縁物の形状・寸法にあまり影響されず,固有の性質を示すものであり,絶縁物内部で放電が生じると値が大きくなる。また,絶縁物内で消費されるエネルギー損失である誘電損の目安ともなる。

交流電流試験は,電圧を印加し,その電流を測定する試験である。印加電圧を増加させていき,電流が急増した点の電圧及びそのときの電流の変化率などから劣化の程度を推定する。

部分放電試験は,電圧を印加し,固定子巻線表面又は巻線絶縁物内部のボイドで発生する部分放電を測定する試験であり,最大放電電荷などから劣化の程度を推定する。

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(1)

正解は(ト)絶縁抵抗計である。

(2)

正解は(ロ)成極指数である。

(3)

正解は(チ)誘電損である。

(4)

正解は(ル)急増である。

(5)

正解は(カ)ボイドである。

参考文献

問2 屋外変電所の変電機器の耐震設計

変電所の耐震設計は,通常の機器の設計地震力については重力加速度の 0.5 ~ 1.5 倍を水平加速度として設計している。しかし,最近では高電圧・大容量化に伴い機器の頭部荷重が増大し,これに塩害対策を考慮することによって充電部の高さがこれまで以上に高くなる傾向にあるので,変電機器については,がいし形機器やブッシングを主な対象として耐震設計がなされている。

これら変電機器の固有振動数は 10 [Hz] 以下であり,高電圧の機器になるほど低くなるが,実際の地震波の卓越振動数は,上記固有振動数の範囲にあるので,頭部荷重が大きい変電機器は地震波との共振を起こす可能性があり,変位が大きくなる場合が多い。このため,地盤の特性を勘案して,適切な動的耐震設計を採用する必要がある。

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(1)

正解は(ハ)0.5 ~ 1.5 倍である。

(2)

正解は(チ)塩害である。

(3)

正解は(ワ)がいしである。

(4)

正解は(ヨ)10 である。

次表に,これまでに報告されている資料から地震波に含まれる振動数範囲を検討した例を示す。地表面地震力の卓越振動数範囲はほぼ 0.5 ~ 10 [Hz] と考えられる。

表 地震波の卓越振動数範囲
資料 振動数 [Hz]
Seed 氏らが米国の過去の地震記録をまとめたもの 5 以下
国土交通省土木ガイドラインで採用されているもの 1 ~ 10

一方,変電機器の固有周波数は 10 [Hz] 以下であり,高電圧の機器になるほど低くなり,卓越振動数範囲に存在するため,地震と共振する可能性が高く,その応答はかなり高くなる場合が多い。

このため,地盤の特性を勘案して,適切な動的耐震対策を行う必要がある。

(5)

正解は(リ)共振である。

参考文献

問3 電力系統の絶縁協調

電力系統の絶縁設計上考慮しなければならない異常電圧には,雷サージ,開閉サージなどがある。開閉サージは,内雷とも呼ばれ,その最大値は非有効接地系では通常常規対地電圧波高値の 4 倍以下であるため,全絶縁を採用する非有効接地系では問題になることは少ない。

架空送電線路においては,電線への直撃雷のほか,鉄塔又は架空地線への雷撃による鉄塔の電位変化により,線路がいしアークホーン(アークリング)を通じて電線にフラッシオーバする,いわゆる逆フラッシオーバが発生することがある。これによる雷サージは,線路がいしアークホーンにより制限されるものの,極めて高い波高値で変電所等に侵入する。

変電所に侵入する雷サージについては,それに耐える絶縁強度を機器に持たせることは経済的ではないため,雷サージに機器が設計上耐えるべき絶縁強度として公称電圧ごとに雷インパルス耐電圧が定められ,これを超える電圧が変電所内主要機器に侵入しないよう避雷器により対処している。

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電力系統の異常電圧に対する絶縁設計は,発生する異常電圧,保護レベル,電力機器の絶縁強度を考慮し,電力系統を構成する機器の絶縁強度を保護レベルよりも高くとり,最も経済的で信頼性のある設計とすることが必要である。

現在,わが国で採用されている絶縁強調の基本的な考え方は,「外部異常電圧の雷に対しては,避雷装置によって電力機器の絶縁を安全に保護することとし,開閉サージや地絡事故などに伴う内部異常電圧に対しては,電力系統各部の絶縁でこれに十分耐えるように設計する」ことを前提としている。

(1)

正解は(チ)内雷である。

(2)

正解は(ヌ)常規対地電圧波高値である。

(3)

正解は(リ)逆フラッシオーバである。

送電線には架空地線を設置し,直撃来を防止しているが,雷がこの架空地線に直撃すれば,鉄塔電位が上昇し,絶縁設計強度を超えると逆フラッシオーバ(線路がいし,アークホーンを通じて電線にフラッシオーバする)して雷サージが線路に侵入する。

(4)

正解は(ロ)雷インパルス耐電圧である。

(5)

正解は(ヘ)避雷器である。

参考文献

問4 高圧配電線路の雷害防止対策

高圧配電線路における雷害防止対策は,大別してフラッシオーバ防止とフラッシオーバ後の続流アーク被害の拡大防止とに分けられる。

前者は,避雷器や架空地線を取り付けて,雷サージを軽減するものであるが,配電線の絶縁耐力が低いため,これらの施設で防止できるのは誘導雷に限られ,この誘導雷も過酷な近傍雷撃によるサージは防止することが困難である。架空地線による誘導雷の防止原理は,架空地線に雷電圧が誘導されると,架空地線の接地点で雷電圧と反対極性の反射波が電線に誘導されて,電線に発生した雷電圧を低減するというものである。したがって,架空地線は,電線との結合率をできるだけ大きくする必要がある。

後者は,上記のように配電線路では,雷サージによるフラッシオーバ事故を皆無にすることは困難であるため,たとえフラッシオーバが発生しても,機材の損傷をできるだけ防止して停電範囲を局限化し,早期復旧を図ろうとするもので,配電用変圧器周辺と線路の間に格差絶縁方式を採用するなどの種々の対策が行われている。

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高圧架空配電線に侵入する雷は線路に直接落雷する直撃雷と,線路周辺での落雷あるいは雷雲間での放電による空間の急激な電界の変化によって線路に誘起される誘導雷に分けることができる。

配電線では直撃雷による雷害事故の頻度が少ないうえ,万一落雷した場合には線路機器の絶縁強度をはるかに超える異常電圧となるため,直撃雷に対する保護は困難である。

したがって,従来から配電線の雷害対策は,線路を構成するがいしや機器の絶縁レベルが低いことから,おもに誘導雷を対象として行われてきている。

(1)

正解は(チ)避雷器である。

(2)

正解は(ハ)絶縁耐力である。

(3)

正解は(リ)接地点である。

(4)

正解は(ヲ)結合率である。

(5)

正解は(ロ)格差絶縁である。

参考文献

問5 蒸気タービン及びタービン発電機に発生する軸電流

蒸気タービン及びタービン発電機の軸に起電力が発生した場合に,軸受及び軸受台を通してほとんど短絡状態に近い閉回路ができると軸電流が流れる。

蒸気タービンでは,蒸気の粒子が相互摩擦,あるいは,高速でタービン動翼,軸に衝突又は摩擦する際,蒸気タービン軸に静電荷が発生,蓄積することにより軸電流が発生する。

タービン発電機では,次のような原因で軸方向の起電力を生じることがある。

  1. 主として,電機子鉄心の割目数の不適当,工作上の不整,継ぎ目ギャップの不整等,構造上の原因から電機子鉄心の円周方向に対する磁気抵抗が不均一であると軸と鎖交する交番磁束が発生するため,タービン発電機軸に起電力が生じる。
  2. 軸の残留磁気などにより,軸方向の磁束が発生し,タービン発電機軸に局部起電力が発生する。
  3. 界磁回路の巻線絶縁不良により界磁電圧の一部が軸に印加される。

これらの起電力によって,軸と軸受の間に放電が起こると軸電流が発生する。これにより,軸受油膜が破られ,軸受が局部的に過熱したり,軸受メタルにピッチングが発生したり,潤滑油が劣化するなど運転に支障となる問題が発生する場合がある。

したがって,これを防止するために蒸気タービン軸にブラシを取り付けて接地したり,タービン発電機の一部の軸受台と台(ベース)との間に絶縁物を挿入するなどの対策を講じる必要がある。

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(1)

正解は静電荷である。

(2)

正解は磁気抵抗である。

(3)

正解は磁束である。

(4)

正解は軸受油膜である。

(5)

正解は絶縁物である。

参考文献

問6 電力ケーブルの許容電流

電力ケーブルの許容電流は,絶縁体に影響を及ぼさない導体の最高許容温度によって定められている。電力ケーブルの課電通電時に,その温度が限界を超えて高くなると,絶縁体の機械的及び電気的強度が低下し,寿命を短縮する。そこで電力ケーブルの最高許容温度を超えない電流を許容電流と言っている。許容電流は,連続して流してよい常時許容電流,線路や機器などの事故時などに系統の切替後数分ないし数時間を対象とした短時間許容電流及び線路事故の際に流れる 2 秒程度以下を対象とした瞬時許容電流の3種類に大別される。

ケーブルの温度上昇は,導体内に発生する抵抗損,絶縁体内に発生する誘電損,金属シースに流れる誘起電流によるシース損などに伴う発熱によって起きる。

以下で,直埋及び管路布設ケーブルの常時許容電流を求めてみる。

ケーブルの最高許容温度を $T_1$ [°C],大地の基底温度を $T_2$ [°C],単位長さ当たりについてケーブルから基底温度帯に至る全熱抵抗を $R_{th}$ [°C・m/W],ケーブルからの発生熱量を $W$ [W/m] とすれば,$\displaystyle W=\frac{T_{1}-T_{2}}{R_{th}}$ が成立する。

導体に流れる電流を $I$ [A],導体抵抗を $r$ [Ω/m],心線数を $n$ とすれば抵抗損は $nI^{2}r$ [W/m] となる。誘電損を $W_d$ [W/m] とし,発生熱量は抵抗損と誘電損のみで決まり,他の損失は無視できるほど小さいとすると,定常状態における許容電流 $I_{max}$ [A] を表す式は $\displaystyle I_{max}=\sqrt{\frac{1}{nr} (\frac{T_{1}-T_{2}}{R_{th}}-W_{d} )}$ となる。

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(1)

正解は短時間許容電流である。

(2)

正解はシース損である。

(3)

正解は $\displaystyle \frac{T_{1}-T_{2}}{R_{th}}$ である。

(4)

正解は $nI^{2}r$ である。

(5)

正解は $\displaystyle \sqrt{\frac{1}{nr} (\frac{T_{1}-T_{2}}{R_{th}}-W_{d} )}$である。

参考文献

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