平成22年度 第1種 電力

2022年8月14日更新

目次

  1. ウラン235 の核分裂の概要
  2. 反動水車の吸出し管
  3. 変電所の塩害及びその対策
  4. 非接地三相 3 線式高圧配電方式
  5. 汽力発電所(コンバインドサイクル発電を除く)の蒸気タービン制御
  6. 保護リレーシステムの信頼度向上策

問1 ウラン235 の核分裂の概要

核分裂の仕方は様々であるが,ウラン235($^{235}_{92}U$)に1個の中性子が衝突することによって,ストロンチウム($^{94}_{38}Sr$)とキセノン($^{140}_{54}Xe$)に分裂し 2 個の中性子が生じる場合,質量欠損は約 0.09 [%] であり,その際,放出されるエネルギーはウラン原子 1 個当たり約 200 [MeV] である。なお,核分裂反応時に放出されるエネルギーの大部分は核分裂によって生じる原子核の運動エネルギーであるが,これは核分裂が発生した場所の近傍で直ちに熱エネルギーに変換される。

1 [eV] は約 1.6 × 10-19 [J] である。質量欠損に同等なエネルギーを $E$をジュール [J] 単位で求める式は,質量欠損 $m$ [kg],光速 $c$ [m/s] とすれば,$E=mc^2$ [J] で表される。

$E = mc^2$ の式は,ドイツの物理学者アインシュタインが相対性理論の中で発表したもので,物質とエネルギーとは互いに転換できるというものである。

参考文献

問2 反動水車の吸出し管

吸出し管とはランナ出口から放水面までの接続管をいい,次の二つの機能を持っている。

  1. ランナ出口と放水面間の落差(位置エネルギー)を有効に利用する。
  2. ランナから放出された水のもつ運動エネルギーを効率よく回収し,吸出し管出口の廃棄損失を少なくする。

水車に働く総エネルギーに対する,ランナ出口から放出される水のもつ運動エネルギーの割合は,低速水車よりも高速水車になるほど大きいため,一般的に,高速で,低落差の水車では,吸出し管の設計や施工の良否が水車全体の効率に大きく影響する。

いま,図のように,ランナ出口の圧力,流速をそれぞれ $p_1$ [Pa],$v_1$ [m/s],吸出し管出口の流速を $v_2$ [m/s],大気圧を $p_a$ [Pa],吸出し高さを $h_s$ [m],吸出し管内における損失水頭を $h_d$ [m],水の密度を $\rho$ [kg/m³],重力加速度を $g$ [m/s²]とすると,ベルヌーイの式より次式を導くことができる。

\[ \frac{p_{1}}{\rho g}=\frac{p_{a}}{\rho g}-h_{s}-(\frac{v_{1}^{2}}{2g}-\frac{v_{2}^{2}}{2g}-h_{d}) \]

$\displaystyle \frac{v_{1}^{2}}{2g}-\frac{v_{2}^{2}}{2g}-h_{d}$ は,吸出し管で回収された運動エネルギー分を表し,この値が大きいほど $\displaystyle \frac{p_{1}}{\rho g}$ が小さくなり水車出力は増加する。吸出し管の効率を $\eta_d$ とすると,回収された運動エネルギーに相当する水頭は $\displaystyle \frac{\eta_{d}v_{1}^{2}}{2g}$ で表され,$\eta_d$ は,普通,円すい形吸出し管で 0.8 程度,エルボ形で 0.6 程度である。

また,上式より,ランナ出口の圧力は大気圧より低くなるが,その値が水の蒸気圧より下がって蒸気の気泡が生じる現象をキャビテーションと呼ぶ。

吸出し管(概略図)
吸出し管(概略図)

参考文献

問3 変電所の塩害及びその対策

変電所で電気絶縁のため使われるがいし,ブッシングの表面には,台風や季節風などによる強い海風により運ばれる海塩が付着する。この表面が湿潤を受けて導電性を有するようになり,漏れ電流が流れ,その発熱により電流が集中するところに乾燥帯が形成される。汚損,湿潤の程度によって乾燥帯での局部的な放電の発生にとどまる場合から,表面が絶縁破壊し停電事故に至る場合もある。

変電所の塩害対策は,一線地絡時の健全相電圧上昇に耐えることを基本に,塩分付着量度合いを考慮して決められる。塩害対策は,母線がいしにおいては設計汚損量までは絶縁強化で対策し,機器用がいしやがい管は,0.03 ないし 0.06 [mg/cm²] まで絶縁強化で対策し,それ以上は洗浄による対策を施しているのが実情である。154 [kV] 以下の電圧ではシリコンコンパウンド塗布が用いられることもある。

また,重汚損地区では,屋内化や GIS など隠ぺい化の対策が採られることが多い。

表 塩害対策の適用の考え方
変電所 軽汚損地区
0.03 [mg/cm²] 以下
中汚損地区
0.03 超過 ~ 0.06 [mg/cm²] 以下
重汚損地区
0.06 超過 ~ 0.12 [mg/cm²] 以下
超重汚損地区
0.12 超過 ~ 0.35 [mg/cm²] 以下
特殊地区
0.03 超過 [mg/cm²]
154 [kV] 以下 絶縁強化 絶縁強化 絶縁強化 洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化
187 ~ 275 [kV] 絶縁強化 絶縁強化 洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化
500 [kV] 絶縁強化 絶縁強化または洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化 洗浄・隠ぺい化

参考文献

問4 非接地三相 3 線式高圧配電方式

非接地三相 3 線式高圧配電方式は回路の中性点を接地しない方式である。

しかし,通常,配電用変電所において配電線保護として零相電圧検出を行うため,零相電圧検出用の計器用変圧器が設置されており,その二次あるいは三次側 Δ 結線の開放端に地絡方向リレーの適正動作と異常電圧防止を兼ねて数十 [Ω] 程度の制限抵抗が接続されるので,一次側に換算すると 5 000 ~ 10 000 [Ω] の高抵抗接地となる。

非接地三相 3 線式高圧配電方式のメリットは下記の通りである。

  • 1 線地絡故障時の地絡電流が十数 [A] 程度と小さい。
  • 低圧との混触が起こった場合の低圧側対地電圧上昇(混触時低圧側電圧上昇)を容易に抑制できる。
  • 通信線電磁誘導障害の抑制ができる。

参考文献

問5 汽力発電所(コンバインドサイクル発電を除く)の蒸気タービン制御

運転中の蒸気タービンの回転速度を一定に保つには,調速装置によって蒸気加減弁を駆動・制御し,タービンに流入する蒸気流量の調節を行う。

なお,再熱タービンにおいては,系統の負荷が急激に遮断されたとき,蒸気加減弁を閉じても再熱蒸気がタービンに流入するためインタセプト弁によってこれを阻止し,過速を防止する。蒸気加減弁インタセプト弁などを作動させる駆動力には一般に油圧が用いられる。

発電機の系統並列運転時には,タービンの回転速度は系統周波数に左右されるため,調速装置は系統周波数変化に対するタービン出力応答機能として働く。

系統事故時などにおいて,蒸気タービンが定格負荷運転から無負荷になり安定した時点では,蒸気タービンの回転速度は上昇するが,この回転速度変化量の定格回転速度に対する割合を速度調定率という。速度調定率が大きすぎると周波数変化への対応が鈍感になり,逆に小さすぎると敏感になる。

速度調定率は,通常 2 ~ 5 [%] 程度に設定される。

あるタービンの回転数が $n_1$ [min-1] から $n_2$ [min-1] に変わると,出力が $P_1$ [kW] から $P_2$ [kW] に比例して変わる特性を持たせたとすると,出力がある量変化するためには,回転数の変化がどのくらいあるかが敏感度を表すことになる。

\[ \frac{n_{2}-n_{1}}{P_{1}-P_{2}} \]

ところで回転数は発電機によって異なるから,数多く並列運転している発電機相互の比較がしにくい。そこで次式のように回転数は定格回転数 $n_0$ [min-1] に対する比率,出力は定格出力 $P_0$ [kW]に対する比率で表すこととし,これを速度調定率という。

\[ \frac{\frac{n_{2}-n_{1}}{n_{0}}}{\frac{P_{1}-P_{2}}{P_{0}}} \]

速度調定率は一般に 2 ~ 5 [%] 程度に設定されており,全負荷を遮断する際には,一時的に回転数が高くなるが,最後は 2 ~ 5 [%] の上昇でおさまる。

参考文献

問6 保護リレーシステムの信頼度向上策

第1表
信頼度向上策 ねらい 具体例 誤動作率 誤不動作率
不良発生の防止 故障する要因を排除し故障しにくいものにする。 サージ対策
自動監視の適用 稼動信頼度の向上(故障したらすぐ発見・修復を行う) 電圧監視,情報伝送回路のパリティチェック
多系列化 装置不良と系統事故との同時発生に備え保護の確実化を図る 並列二重化
直列多重化 故障しても直ちに不要動作につながらない構成とする フェイルセーフ

保護リレー装置の信頼度確保の基本としては次の対策が重要である。

  1. ハードウェア・ソフトウェア信頼度および系統の要求に合致した性能信頼度を含めた装置の固有信頼度を確保すること。
  2. 装置が使用環境で壊れることがないようにサージ対策などの耐環境性を向上させ不良発生の防止を図ること。
  3. 単一故障で誤動作することのないように事故検出リレーと組み合わせ,直列多重化構成とすること(フェイルセーフシステム)。
  4. 自動監視の適用による稼動信頼度の向上とともに定期点検の省力化を図ること。
  5. 重要系統においては,保護リレー装置の2系列化により要求信頼度の確保を図ること。

誤動作

電力系統が健全であるにもかかわらず動作してしまうとか,保護範囲外の事故時に動作してしまうこと。

誤不動作

動作すべきときに動作しないもの。

参考文献

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