平成24年度 第1種 電力

2022年6月26日更新

目次

  1. 送電系統における再閉路による火力発電所のタービン発電機への影響
  2. 主に超高圧以上の送電線に多く用いられる多導体
  3. 発変電所用の酸化亜鉛形避雷器の試験
  4. スポットネットワーク配電方式の特
  5. 中小水力発電所の開発
  6. 開閉サージと長ギャップに対するフラッシオーバ電圧

問1 送電系統における再閉路による火力発電所のタービン発電機への影響

送電系統において再閉路が行われた場合,火力発電所のタービン発電機には,短絡などによる送電線故障時の過渡トルクに,再閉路時の過渡トルクが重畳されて,ねじり振動が発生する。

特に三相高速再閉路の場合は,過大な過渡トルクが発生するため,事故点,事故遮断までの時間,及びその後の再閉路までの時間によってはタービン発電機の寿命に影響を及ぼす場合がある。再閉路によるタービン発電機への影響は,過渡トルクのほかにも,過渡電流による発電機固定子巻線への電磁力の影響,逆相電流による発電機回転子表面の温度上昇があるが,これらの影響度合いは,再閉路方式,系統定数,発電機及びタービンの定数に関係してくるので,それぞれの場合について,事前に十分検討しておく必要がある。

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問2 主に超高圧以上の送電線に多く用いられる多導体

多導体は,単導体に比べて次に挙げるような多くの利点があるため,主に超高圧以上の送電線に多く採用されている。

  1. 単導体と合計断面積が等しい多導体は,単位長当たりの全導体表面積が大きくなるとともに,表皮効果が小さいので,許容電流を大きくとることができる。
  2. 送電線のインダクタンスが減少し,また,静電容量が増加するため,固有送電容量が増加する。
  3. 導体表面の電位傾度を減少できるので,コロナ開始電圧が高くなり,コロナ損失,雑音障害を防止できる。
  4. 送電線のインダクタンスが小さくなるので,系統安定度が向上する。

なお,多導体では,導体相互の間隔を保持するためにスペーサを取り付ける必要があるが,スペーサの取り付け間隔は,サブスパン振動,常時電流による電磁吸引現象,捻回復元現象及びクランプ把持力によって決定される。

平成12年度 問4 超高圧以上の送電線に多く用いられる多導体と類似問題である。

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問3 発変電所用の酸化亜鉛形避雷器の試験

酸化亜鉛形避雷器は,優れた非直線抵抗特性を持っているため,直列ギャップを必要としないので,放電遅れがなく,構造的に簡単,かつ小形である。酸化亜鉛形避雷器の試験には,一般的な構造検査や絶縁抵抗測定試験のほか,代表的な次のような試験が挙げられる。

  1. 漏れ電流試験は,定格電圧の90 [%] 及び連続使用電圧に相当する商用周波電圧を印加して測定する。この場合,全漏れ電流の他,抵抗分漏れ電流を測定する。
  2. 動作開始電圧試験は,酸化亜鉛形避雷器の電圧-電流特性の小電流域における所定の電流値(抵抗分漏れ電流 1 ~ 3 [mA])に対する避雷器端子間電圧を測定する。動作開始電圧は,連続使用電圧や短時間過電圧に耐える能力の指標になる。
  3. 制限電圧試験は,急しゅん波雷インパルス,雷インパルス及び開閉インパルスの 3 種類の電流波形について,所定の電流値における制限電圧の値を求める。
  4. 酸化亜鉛形避雷器が「実系統で課せられる責務を果たした後,引き続き使用できること」を確認するために行う試験を安定性評価試験という。30 年間の使用期間中の連続運転電圧の課電,雷サージ(公称放電電流) 15 回,開閉サージ(遮断器の正常動作で発生するレベル) 50 回,短時間過電圧 50 回の 4 種類の電気的ストレスを等価模擬した試験を行う。

酸化亜鉛形避雷器の試験は JEC-217 に規定されており,下表のようになる。

表 酸化亜鉛形避雷器の試験
番号 大分類 試験項目
(1) 構造検査 a. 構造検査
(2) 絶縁抵抗試験 a. 絶縁抵抗試験
(3) 漏れ電流試験 a. 漏れ電流試験
(4) 保護特性試験 a. 急しゅん波雷インパルス制限電圧試験
b. 雷インパルス制限電圧試験
c. 開閉インパルス制限電圧試験
(5) 動作責務試験 a. 雷サージ動作責務試験
b. 開閉サージ動作責務試験
(6) 耐久性試験 a. 動作開始電圧試験
b. 安定性評価試験
(7) 汚損試験 a. 汚損試験
b. 活線洗浄試験
(8) 放圧試験 a. 放圧試験
(9) 耐電圧試験 a. 商用周波耐電圧試験
b. 雷インパルス耐電圧試験
c. 開閉インパルス耐電圧試験(定格電圧420[kV]のみ)
(10) 耐劣化性試験 a. 気密試験
b. 浸水試験

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問4 スポットネットワーク配電方式の特徴

スポットネットワーク方式は,複数の配電線から分岐線をいずれも T 引き込みし,それぞれ受電用断路器を経てネットワーク変圧器に接続される。各低圧部はネットワークプロテクタを経て並列に接続し,ネットワーク母線を構成する。

ネットワークプロテクタは,プロテクタ遮断器,プロテクタヒューズ及び保護リレーから構成され,逆電力遮断特性,差電圧投入特性,無電圧投入特性の三つの特性を備えている。

このうち,差電圧投入特性とは,逆電力遮断により,プロテクタ遮断器が開放され,かつネットワーク母線が充電されている状態で,プロテクタ遮断器の変圧器側の電圧がネットワーク母線側の電圧より高く,かつ適正な位相にあるとき,その差電圧と位相差を検出してプロテクタ遮断器を投入する特性をいう。

一般に,スポットネットワーク方式は,高圧又は特別高圧側は多回線で供給するため,供給路の 1 回線が停電しても無停電供給が可能であり,信頼度が高い。ただし,負荷に大きな回生電力を発生する回転機があると逆電力によりネットワークプロテクタが不必要な動作をするおそれがある。この対策として,多回線同時に逆電力が発生した場合は保護リレーをロックするとか,ダミー負荷で回生電力を消費するなどの方法がある。

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問5 中小水力発電所の開発

水力エネルギーの未利用地点は落差や流量の小さい場合が多く,このような地点の発電所に選定される効率のよい水車は限られ,チューブラ水車やバルブ水車などの反動水車が多く採用されている。また,S 形チューブラ水車は,水路外部に発電機を設置できるため,バルブ水車に比べ,発電機構造や機器配置などの設計自由度が高いという特長がある。

クロスフリー水車は,円筒かご形のランナが特徴的で,反動水車と衝動水車の両方の特性を併せもち,出力 1 000 [kW] 程度以下で,落差が 5 [m] ~ 100 [m] 程度の地点に適用され,流量変化に対して大小に分割したガイドベーンを切り替えることで効率の良い運転ができるものもある。

さらに小規模な数百 [kW] 以下の発電所では,施工が容易な,汎用ポンプを逆転させたポンプ逆転水車や,水車と発電機を一体として水中に設置する水中タービン発電機なども採用されることがある。このような小規模な発電所では,構造も簡単で保守も容易な誘導発電機を採用することが多い。

また,これらの発電機を高圧連系する場合には,上位系統故障時の感電事故防止や他の電気設備の安全確保等の観点から,周波数上昇リレー,周波数低下リレー及び転送遮断装置又は単独運転検出機能を有する装置により単独運転の防止を図っている。

表 中小水力用水車の種類・特徴
種類 適用範囲 特徴
ペルトン水車 落差 150 ~ 1 000 [m]
出力 100 [kW] ~ 100 [MW]
軽負荷まで高効率運転できる。緩閉鎖が可能で,鉄管設計水圧を低減できる。
フランシス水車 落差 10 ~ 800 [m]
出力 1 ~ 700 [MW]
構造が簡単で最も普及しており,中小容量にも適用できる。
S 形チューブラ水車 落差 3 ~ 20 [m]
出力 50 [kW] ~ 5 [MW]
低落差小容量,可動ランナベーンとし小容量まで運転可能。軽負荷特性改善
バルブ形チューブラ水車 落差 5 ~ 20 [m]
出力 150 [kW] ~ 4 [MW]
高効率特性,水車・発電機がパッケージ化されており現地据付けが容易
クロスフロー水車 落差 7 ~ 100 [m]
出力 50 [kW] ~ 1 [MW]
最高効率は劣るが,複数のガイドベーンを個別制御し軽負荷まで効率がよい
ターゴイパルス水車 落差 25 ~ 300 [m]
出力 100 [kW] ~ 10 [MW]
ジェットの角度を変えることで軽負荷でも性能を維持できる
一体形水車 落差 2 ~ 25 [m]
出力 100 [kW] ~ 20 [MW]
超低落差に適用可能。発電所をコンパクト化できる。実用化開発中

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問6 開閉サージと長ギャップに対するフラッシオーバ電圧

送電系統に生じる異常電圧の一つである開閉サージが発生する主なメカニズムは,「超高圧以上の送電線における遮断器の投入により高いサージ電圧が発生する」,「無負荷送電線の充電電流を遮断する際に遮断器の極間絶縁が不十分であるとき,再点弧を起こし,高いサージ電圧を発生させる」,あるいは「変圧器の励磁電流を消弧性の強い遮断器で遮断すると電流裁断を生じ,変圧器のインダクタンスに応じた過電圧を発生する」などである。

長ギャップに対するフラッシオーバ電圧の $V-t$ 特性は,数十 ~ 数百 [μs] で最小値をとる。これを U 特性と呼んでいる。この U 特性の発見をきっかけに開閉サージを模擬する開閉インパルス電圧標準波の波頭長が 250 [μs] と定められた。開閉インパルス電圧の長ギャップ放電に特有な性質は, U 特性以外にもいくつか知られている。その一つが飽和特性,すなわちギャップ長に比例してフラッシオーバ電圧が増加せず飽和傾向が顕著になる性質である。 500 [kV] 以上の電力系統で現れる開閉サージの大きさがこの飽和傾向の強まるところと一致している。このため 500 [kV] 以上の送電線では開閉サージ倍数が大きいと絶縁間隔が大きくなり鉄塔も大形化して建設費も増大するため,高性能避雷器の設置,抵抗付き遮断器の採用などの開閉サージ抑制対策が行われる。

参考文献

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