平成27年度 第1種 電力

2022年6月21日更新

目次

  1. 立軸水車発電機の軸受
  2. 石炭ガス化複合発電
  3. 風力発電
  4. 同期発電機の励磁系と同期安定性
  5. 架空送電線の電気的定数
  6. 大形変圧器と分路リアクトルの鉄心材料及び構造

問1 立軸水車発電機の軸受

立軸水車発電機の回転体の主軸はスラスト軸受と案内軸受によって支えられている。スラスト軸受は発電機回転子,水車ランナの重量及び水車ランナに加わる水圧を支える部分である。この軸受の回転部と接触する部分を静止板といい,回転部との摩擦を小さくし,発熱・磨耗を防いでいる。その表面には従来ホワイトメタルが採用されていたが,近年では更に耐熱性・耐磨耗性・摺動性に優れる材質の樹脂軸受も採用されてきた。この樹脂軸受の利点として,軸受損失の低減,始動摩擦の低減や焼き付け防止のために必要とされたオイルリフト装置や冷却装置の省略及び軸受表面の長寿命化などが挙げられる。

他方,案内軸受は主軸の横振れを防止する軸受で,二つ割の円筒軸受や更に多数に分割されたセグメント軸受を用いる。

軸受配置の形式がかさ形と呼ばれる水車発電機は,スラスト軸受を回転子下部に設け発電機上部の案内軸受を省略したもので,低速かつ低振動の場合採用される。

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問2 石炭ガス化複合発電

石炭ガス化複合発電とは,石炭をガス化炉内で部分酸化することにより一酸化炭素と水素を主成分とする可燃性ガスに転換し,その生成ガスから窒素化合物,硫黄化合物,ダスト,金属成分などの不純物をガス精製装置で除去した上で,LNG と同様にガスタービン複合発電の燃料として使用する発電方式である。

石炭ガス化複合発では,LNG 焚き複合発電と比較すると,その送電端熱効率は低い

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問3 風力発電

プロペラ形風車を用いた風力発電では,風を風車のブレード(翼)に当てることにより,揚力を発生させ,風車の軸部(ハブ)に回転力を与える。ハブには直接あるいは増速装置を解して誘導発電機や同期発電機の軸が接続されており,交流の電気エネルギーに変換する。これを商用系統に並列する方式には,AC リンク方式と DC リンク方式がある。

AC リンク方式では,誘導発電機が多く用いられる。その中で,かご形誘導発電機を用いた方式が構造的に最もシンプルであるが,風車の回転数が商用系統の周波数に対応した回転数にほぼ固定される。この欠点を補うため,巻線形の誘導発電機を用い,二次抵抗を制御することにより同期速度の 100 ~ 110 % 程度の範囲で回転数を制御できる方式もある。これらでは,いずれも増速装置が必要であり,また系統への併入時の突入電流を制限するソフトスタート装置や,力率改善用キャパシタが必要である。

巻線形誘導発電機の二次側をインバータなどにより適切な滑り周波数の交流で励磁すれば,更に広い範囲での可変速化が可能であり,併せて電圧や無効電力の調整も可能となる。これを二次励磁方式という。

DC リンク方式では,発電機の交流出力を一旦直流とし,これをインバータで交流として並列する。二次励磁方式と同様の効果が,更に広い回転数範囲で得られる。ただし,二次励磁方式と比較すると大きなインバータ容量を必要とする。また,多極の同期発電機を用いれば,増速装置なしでの発電も可能となる。

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問4 同期発電機の励磁系と同期安定性

電力系統において事故が発生すると,同期発電機において機械入力と電気出力のバランスが崩れ,同期発電機間の位相差が広がる。これがある範囲を逸脱する場合には,不安定な運転状態となり,同期運転が保てず脱調に至る。

系統の同期安定性を向上させることを目的に,同期発電機の励磁装置の速応性や頂上電圧を高める対策を採用することがある。特にサイリスタ励磁方式は,励磁系としての時定数が小さく,また励磁変圧器の二次電圧を大きくとることで,同期発電機間の位相差の過渡的な変動を抑制すると,短時間領域での安定性向上に効果的である。

しかし,これらの対策によって,第 2 波以降の中間領域の同期安定性や小じょう乱同期安定性を悪化させることがあるため,PSS(電力系統安定化装置)が広く用いられている。

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問5 架空送電線の電気的定数

架空送電線では,可とう性などの理由から,一般により線が用いられるが,この場合,素線の実長は中心導体に比べて若干長くなるので,その分抵抗が大きくなる。この割合をより込み率といい,通常は 2 % 程度である。一方で,電線に交流が流れると電流は断面全体にわたって一様に流れず,表面に近くなるほど多く流れる。この現象を表皮効果といい,このため抵抗が増加する。この際電流の流れる部分の深さを $\delta$ [m] は角周波数を $\omega$ [rad/s] ,透磁率を $\mu$ [H/m] ,導電率を $\sigma$ [S/m] とすれば $\displaystyle \delta=\sqrt{\frac{2}{\omega\mu\sigma}}$ [m] と表される。

一方,電線(単導体)1 本の単位長当たりの作用インダクタンス $L$ [mH/km] は比透磁率 $\mu_s$ ,線間距離 $D$ [m] ,電線半径 $r$ [m] として $\displaystyle L = 0.05\mu_s + 0.4605\log_{10}\frac{D}{r}$ [mH/km] と表される。架空送電線の作用インダクタンスの値は 1 mH/km 程度である。

また,電線(単導体)1 本の単位長当たりの作用静電容量 $C$ [μF/km] は比誘電率 $\varepsilon_S$ ,線間距離 $D$ [m] ,電線半径 $r$ [m] を用いて $\displaystyle C=\frac{0.02413\varepsilon_{S}}{\log_{10}\frac{D}{r}}$ [μF/km] と表される。架空送電線の作用静電容量の値は 0.008 ~ 0.01 μF/km 程度である。

問6 大形変圧器と分路リアクトルの鉄心材料及び構造

大形変圧器に一般に用いられている鉄心材料は方向性けい素鋼板である。方向性けい素鋼板は結晶格子が同一方向に配向しており,無配向けい素鋼板に比べて,鉄損磁気ひずみが小さく透磁率が高いので,大形変圧器の低損失化や低騒音化,小形化に寄与している。

方向性けい素鋼板は,鋼板製造時の圧延方向と同じ方向に磁束を流し,その特性を最大限に活用するような鉄心形状が用いられている。

また,最近では磁化特性の改善のため,磁区の高配向性化やレーザ照射などにより材料表面に溝を形成する磁区制御技術が適用されている。

一方,分路リアクトルにはギャップ付鉄心リアクトルと空心リアクトルの二種類がある。ギャップ付鉄心は容量の大きなものでは,ギャップ部分の磁束のフリンジングによって鉄損が増加する。それによる過熱を防ぐため,方向性けい素鋼板を放射状に積層し,樹脂で一体化した鉄心ブロック(放射状鉄心)が使用され,絶縁スペーサと交互に積み上げられたものを上下継鉄を通して強固に締め付ける構造となっている。空心リアクトルは,方向性けい素鋼板を使用すると高コストになる場合,また,鉄共振や高調波による鉄損が問題となる場合に用いられる。

参考文献

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