平成28年度 第1種 電力

2022年6月5日更新

目次

  1. 揚水発電所における揚水時の同期発電電動機の始動方式と水車の動作
  2. 火力発電所における過熱器の種類
  3. 分散型電源の低圧及び高圧配電系統連系保護
  4. 変圧器構成材料の劣化診断
  5. 変電所機器の耐震設計
  6. 直流送電の適用箇所

問1 揚水発電所における揚水時の同期発電電動機の始動方式と水車の動作

  1. 発電電動機の界磁回路を短絡し,回転子の制動巻線を利用してかご形誘導機として始動するのは制動巻線始動方式である。
  2. 発電電動機と他の発電機を停止状態で電気的に接続し,両機に励磁を加えた後に発電機を始動し,発電機の周波数を零から定格値まで徐々に増加させて始動するのは同期始動方式である。
  3. 発電電動機と同軸上に直結された巻線形誘導電動機の二次巻線に接続された抵抗器で始動トルクを制御して始動するのは直結電動機始動方式である。
  4. 発電電動機の停止中にあらかじめ励磁を加え,サイリスタ変換装置で発生した交流電力を発電電動機に加え,その周波数を低周波から定格周波数まで連続的に変えて加速するのはサイリスタ始動方式である。
  5. フランシス形ポンプ水車の揚水始動時には,始動トルクを軽減するため,圧縮空気発生装置を用いて吸出管の水面を下げる。

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問2 火力発電所における過熱器の種類

過熱器はボイラドラムなどからの飽和蒸気を過熱するもので燃焼ガスの通路中に配置されるのが一般的である。

過熱器は設置場所によって,接触(対流)過熱器,放射過熱器及び放射接触過熱器に区別され,接触過熱器は火炉外に設けられている。また,放射過熱器はボイラ火炉上部又は火炉壁の一部として設置され,放射接触過熱器はボイラ火炉出口付近に設置されている。

運用特性として,放射過熱器ではボイラ負荷の増加とともに熱吸収量の割合は減じ,反対に接触過熱器では増す特性をもつ。

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問3 分散型電源の低圧及び高圧配電系統連系保護

分散型電源を配電系統に連系する場合,分散型電源設備の故障及び電力系統の故障を考慮する必要がある。

分散型電源設備の故障については,例えば逆変換装置を用いた分散型電源を配電系統に連系する場合,逆変換装置の内部故障などにより変圧器の偏磁現象が生じて分散型電源設置者以外の者に影響を及ぼすおそれがあるため,直流成分の流出を防止する変圧器の設置や直流成分の検出時に出力を停止する機能の設置によって保護する。

一方,電力系統の地絡故障保護については,低圧配電線との連系の場合,単独運転検出機能を有する装置によって検出し保護するが,高圧配電線(非接地系統)との連系の場合は,地絡過電圧リレー(OVGR)によって地絡電圧を検出し,分散型電源を解列する。この場合,連系している配電線以外の配電線の地絡故障では動作しないよう時限協調を図って保護する。

また,高圧配電線の短絡故障時に,短絡故障点が分散型電源設置点から離れている場合は,過電流リレー(OCR)では保護協調が図れないため,例えば,同期発電機では短絡方向リレー(DSR)を有する保護装置によって保護する。

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問4 変圧器構成材料の劣化診断

変圧器の寿命は,絶縁材料の劣化の程度に左右される。絶縁油は劣化しても洗浄や交換などが可能であるが,紙材料は,一般に修理や交換は不可能である。

紙材料の中では,巻線に巻かれている絶縁紙が最も高温になるので,変圧器の寿命は巻線に巻かれている絶縁紙の最高温度部の劣化程度に左右される。このため,運転時間とともに絶縁紙の機械的性能である引張強度が低下し,初期の引張強度の 50 ~ 60 % が寿命とされている。絶縁紙の主要構成物質はセルロース分子であり,この分子の長さの目安として平均重合度が用いられ,絶縁紙が熱的に劣化すると,絶縁紙のセルロース分子間の連鎖が切断され,平均重合度が低下し,引張強度は低下する。つまり,絶縁紙の引張強度は,平均重合度という物差しで決めることができる。

しかし,運転中に変圧器内の絶縁紙を採取することは困難であるため,変圧器の絶縁紙が劣化すると絶縁油中に溶解するセルロースの分解生成物であるフルフラール等の量を用いて,平均重合度との相関から絶縁紙の経年劣化度を診断する方法が実用化されている。

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問5 変電所機器の耐震設計

変電機器のうち,がいし形機器やブッシングの固有振動数は 0.5 ~ 10 Hz 程度であり,高電圧の機器になるほど低くなる。実際の地震波の卓越振動数は,上記固有振動数の範囲にあるので,頭部荷重が大きい変電機器は地震波との共振を起こす可能性があるため,適切な動的耐震設計を採用する必要がある。がいし形機器の設計地震力は加速度 3 m/s² の共振正弦 3 波を架台下端に印加する手法が用いられる。また,変圧器のブッシングは,設計地震力として加速度 5 m/s² の共振正弦 3 波をブッシングポケット下端に印加する設計手法が一般的に用いられるが,基礎や地盤の条件によっては個別検討となる場合もある。

変圧器本体は剛体とみなせるため静的耐震設計が採用されており,設計地震力は加速度 5 m/s² である。本体や中身の強度は輸送時の外力や短絡電磁力の大きさなどから決まり,耐震構造上は十分な強度を有している。ただし,変圧器本体を基礎に固定するアンカーボルトについては,破断した際に本体の滑動が生じるおそれがあるため,強度を十分に確保することが必要である。

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問6 直流送電の適用箇所

  1. 直流送電では,一旦交流を直流に変換して交流へ逆変換しているので,周波数の異なる交流系統を接続して潮流制御が可能となる。
  2. 海峡横断や洋上風力などでケーブルを使用する送電においては,交流送電では距離が長くなると充電電流誘電体損失が増加するのに対し,直流送電ではこれらの発生がないので送電容量を高めることができる。なお,離島への送電も適用対象となるが,他励式変換器の場合,離島での短絡容量が送電容量に比較してさほど大きくない場合には制御不安定性が生じるので自励式変換器を用いる必要がある。
  3. 同一の周波数の交流系統であっても,これを交流で接続すると,短絡電流の増加や同期安定性の悪化,潮流制御や事故波及防止の困難化などの問題が発生する場合がある。このような箇所に BTB(Back to Back)を含む直流送電がそれらの解決策として適用されることがある。
  4. 交流系統での長距離大電力送電では同期安定性が厳しくなるのに対し,直流送電では,この問題がない。さらに,絶縁設計において,直流は交流に比べ有利であるため,送電鉄塔に要するコストが交流送電に比べ安価となる。ただし,直流送電は交直変換のための設備が必要であるため,短距離送電では不利となる。

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