令和3年度 第1種 電力
目次
合格基準は,80 点満点換算で 48 点以上,受験者は 765 人,合格者数は 534 人で,合格率は 69.8 % だった。
問1 水車発電所の調速機
調速機は,起動時の系統並列に向けた速度調整や負荷遮断時の異常な水圧上昇等を抑える役割を持つが,通常時は,系統の (1) を安定させることが要求されており,負荷の増減に関わらず,水車の (2) を一定に保つ役割を持っている。
調速機は,電圧制御部,油圧機構部,サーボモータ操作部などで構成されるが,大別して,電気制御部を (3) ,圧油操作部を (4) と呼んでいる。最近では,発電所の油レス化を図るために,圧油に代わり,電動サーボモータが用いられる場合も多い。
今,単独運転状態で定格出力が $P_\text{n}$ の水車発電機において,発電機が出力 $P_1$,定格回転速度 $N$ で回転しているとする。次に,負荷が減少して発電機出力が $P_2$ に減少すると,回転速度は $N_2$ となり,少し回転速度が上昇する。速度調定率 $R$ は,その変化度合いを表すものであり,(5) により,求められる。
水車発電機の調速機(governor)に関する問題である。
(1)
正解は(ヌ)周波数である。
通常時,調速機により発電機の出力や周波数変化の調整を行う。
(2)
正解は(ヨ)回転速度である。
水車発電機が定常状態で運転中,事故などで急に出力が減少すると回転速度が上昇する。また,反対に急に出力が増加すれば回転速度は減少する。
(3)
正解は(ホ)レギュレータである。
(4)
正解は(ヲ)アクチュエータである。
(5)
正解は(ロ)$\displaystyle R = \frac{(N_2 - N)}{N}/\frac{(P_1-P_2)}{P_\text{n}}$である。
ある有効落差,ある出力で運転中の水車の調速機に調整を加えずに直結発電機の出力を変化させたとき,定常状態における回転速度の変化分と発電機出力の変化分との比を速度調定率(speed regulation)という。
参考文献
- 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「水車発電所の調速機」
問2 火力発電所で使用される LNG
LNG はメタン,エタンを主成分とする天然ガスを超低温で液化したもので,その主成分は約 (1) がメタンで占められている。メタンは常温・常圧で気体であるが (2) °C という超低温まで冷却すると液化し,体積は約 (3) に減少するため大量貯蔵を可能としている。また,液化する過程で (4) ,窒素分,炭酸ガス,水分などの不純物を除去できるので大都市圏の大気汚染防止対策用のクリーンエネルギーとして注目されている。
LNG の特色としては石炭や石油に比べ発火点が (5) ,組成も単純で火炎が安定しているため燃焼制御が容易であり,燃焼による煤煙の発生がほとんどなく,また灰のような残留物もないことなどがあげられる。
ガス耐燃料である液化天然ガス(LNG)に関する問題である。LNG の特徴は次のとおりである。
- 液化できるため多量の輸送が効率的にできる。
- 硫黄分および煤じんの発生がない。
- NOx および二酸化炭素(CO2)の発生が重油・原油よりも少ない
- 含有水分量が多いので,ボイラ効率が 1 ~ 2 % 低下する。
(1)
正解は(ヘ)9 割である。
(2)
正解は(ト)-162である。
(3)
正解は(リ)1/600である。
(4)
正解は(ハ)硫黄分である。
(5)
正解は(ニ)高くである。
参考文献
- 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「火力発電所で使用される LNG」
問3 送電用変電所に用いられる油入変圧器の過負荷運転
変圧器は,使用しているうちに次第に劣化を生じる。主な劣化箇所は (1) であり,次の要因が考えられる。
- (2) による劣化
- コロナによる劣化
- 機械的応力による劣化
このうち,過負荷運転による劣化に最も大きな影響を及ぼすのは (2) による劣化である。
変圧器の過負荷運転は,寿命を犠牲にする場合もあるが,次の
- 周囲温度が (3)
- 過負荷時間が短い
- 温度上昇試験記録が規定温度上昇値に達しない
という条件下において,巻線の最高点温度を最大でも (4) °C として連続運転した場合には,正規寿命(設計時点で定義された運転・温度状態で使用した場合の設計寿命)が期待できる。
ここで,正規寿命を期待する場合の許容負荷が表 1 のように示される変圧器を,表 2 のような負荷パターンで短時間過負荷運転する場合を考える。このとき,変圧器の寿命を犠牲にせずに過負荷運転が可能な等価周囲温度を表から読み取ると (5) °C 以下である。ただし表 1 は,軽負荷時の負荷率が何 % 以下であるかに応じて,等価周囲温度 [°C] と過負荷時間 [h] により決まる許容負荷(定格負荷に対する百分率)の最大値を表す。また,表 2 の負荷パターンにおける軽負荷時の負荷率は
により求められるものとする。
軽負荷時の負荷率 [%] | 50 % 以下 | 70 % 以下 | 90 % 以下 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
等価周囲温度 [°C] | 10 | 20 | 30 | 10 | 20 | 30 | 10 | 20 | 30 | |
過負荷時間 0.5 ~ 24 h における許容負荷 (定格負荷に対する百分率) |
0.5 | 150 | 148 | 144 | 150 | 144 | 139 | 147 | 137 | 132 |
1 | 144 | 137 | 132 | 142 | 134 | 129 | 138 | 129 | 123 | |
2 | 133 | 129 | 125 | 131 | 126 | 123 | 129 | 125 | 115 | |
4 | 128 | 124 | 121 | 125 | 122 | 115 | 123 | 112 | 109 | |
8 | 118 | 110 | 106 | 118 | 110 | 106 | 115 | 109 | 104 | |
24 | 112 | 104 | 100 | 112 | 104 | 100 | 112 | 104 | 100 |
No. | 時間帯 | 負荷時間 | 負荷率 | 負荷種別 |
---|---|---|---|---|
1 | 0 時 ~ 8 時 | $H_1$ = 8 h | $P_1$ = 20 % | 軽負荷 |
2 | 8 時 ~ 12 時 | $H_2$ = 4 h | $P_2$ = 60 % | 軽負荷 |
3 | 12 時 ~ 16 時 | $H_3$ = 4 h | $P_3$ = 120 % | 過負荷 |
4 | 16 時 ~ 18 時 | $H_4$ = 2 h | $P_4$ = 80 % | 軽負荷 |
5 | 18 時 ~ 24 時 | $H_5$ = 6 h | $P_5$ = 40 % | 軽負荷 |
(1)
正解は(ヘ)絶縁物である。
「高経年設備更新ガイドライン(案)」(電力広域的運営推進機関)での変圧器における故障(設備劣化により機能不全となる状態)の定義は,「設備劣化(絶縁紙劣化等)により絶縁破壊が生じる状態」とされている。
(2)
正解は(ヌ)熱である。
絶縁物の劣化は Arrhenius の法則で与えられ,寿命は次式で与えられる。
\[ Y = e^{A+B/T} \]ただし,$A$,$B$ は定数,$T$ は温度(絶対温度 [K]) である。
(3)
正解は(ヨ)低いである。
変圧器規格 JEC-204 (1978) 制定に際しては最高点温度と寿命の関係について,十分な検討が加えられ,その経過は,JEC-204 (1978) 付録 5 に詳細説明されている。
(4)
正解は(ホ)95である。
「油入変圧器運転指針」(変圧器信頼性調査専門委員会)においては,30 年程度の正規寿命が期待できるものとして定められている。
(5)
正解は(ト)30である。
軽負荷時の負荷率を計算する。
軽負荷時の負荷率 50 % 以下,過負荷時間 4 h における許容負荷が 120 % 以下であればよいので,等価周囲温度は 30 [°C] となる。
参考文献
- JEC-204 (1978)
- 「高経年設備更新ガイドライン(案)」(電力広域的運営推進機関)
- 「油入変圧器運転指針」(変圧器信頼性調査専門委員会)
- 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「送電用変電所に用いられる油入変圧器の過負荷運転」
問4 配電系統のスポットネットワーク方式
スポットネットワーク方式は,22 kV ~ 33 kV の同一変電所から標準 3 回線の配電線により (1) で需要家に電力供給を行う方式である。この方式は,供給信頼度が高く,都市部の高層ビルや大工場などのように極めて高度に集中化した大容量負荷部に適用するもので,その他の配電方式と比べて,電圧降下,(2) などが少ないことが特徴として挙げられる。
また,1 回線の配電線又はネットワーク変圧器が事故停止しても,残りの変圧器の過負荷運転で最大需要電力を供給できるよう変圧器容量を選定している。ここで,変圧器の過負荷耐量としては,経済性を考慮して少なくとも定格容量の (3) 倍とすれば,最大負荷状態でも年間数回までであれば各回 8 時間程度の連続運転により,健全な設備から無停電で供給を継続することができる。
この方式では,ネットワークプロテクタが必要であり,一般的に遮断器,ヒューズ及び保護リレーから構成されており,次の三つの特性をもっている。
- (4) 遮断特性
- (5) 投入特性
- 過電圧投入特性(差電圧投入特性)
スポットネットワーク方式は,複数の配電線(標準では 3 回線)から T 分岐で引き込み,信頼性がきわめて高く,需要家の設備が簡単になるなどの特徴がある。

(1)
正解は(ハ)常時接続である。
スポットネットワーク方式は,常時並列で需要家に電力供給を行う。
(2)
正解は(イ)電力損失である。
スポットネットワーク方式は,その他の配電方式と比べて,電圧降下,電力損失などが少ない。
(3)
正解は(チ)1.3である。
(4)
正解は(ヘ)逆電圧である。
(5)
正解は(ル)無電圧である。
参考文献
- 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「配電系統のスポットネットワーク方式」
問5 架空送電線の許容電流
電線に電流が流れると,(1) による発熱のため電線温度は周囲温度より高くなる。電線の温度が限度以上に高くなると,電線の諸性能,例えば,(2) が低下する。そのため,一定の温度(最高許容温度)を超えて電流を流してはならない。このときの電流を許容電流という。
鋼心アルミより線の最高許容温度は,短時間では 100 °C としているが,長時間使用すると (2) が幾分低下することなどから,標準の最高許容温度としては (3) °C が推奨されており,そのときの許容電流を長時間許容電流という。耐熱鋼心アルミより線の場合,同じ公称断面積の鋼心アルミより線に比べ許容電流は約 (4) となる。許容電流は,電線の材質,構造,表面の状況,周囲温度,(5) ,風向・風速などにより異なる。
許容電流は,電線の電流による熱損失と電線の周囲への対流によって放散する熱量が等しいとして次式で示される。
ただし,$I$ は許容電流 [A],$d$ は電線外径 [cm],$l$ は電線の長さ [cm],$K$ は熱放散係数 [W/(°C·cm2)],$t$ は温度上昇 [°C],$R$ は最終温度における長さ $l$ の電線の抵抗 [Ω] とする。
自然環境の影響を大きく受ける架空送電線の許容温度は,過去の気象観測データなどから厳しい条件を設定し,一般的に,周囲温度は,40 °C(夏季),(7) °C(冬季)を用いて計算している。そのため,夏季の許容電流は冬季に比べて (8) 。近年では,送電線をより効率的に運用する取組として,線路電流,電線温度,(5) などを実測して,許容電流を管理する手法(ダイナミックレーティング)が試行されている。
(1)
正解は(ホ)抵抗である。
(2)
正解は(ル)引張強さである。
(3)
正解は(ヨ)90である。
(4)
正解は(ワ)1.5 倍である。
(5)
正解は(ヲ)日射量である。
(6)
正解は(リ)$\displaystyle \sqrt{\frac{\pi dlKt}{R}}$である。
(7)
正解は(ツ)25である。
(8)
正解は(ヌ)小さくなるである。
参考文献
- 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「送電線の送電容量」
問6 対称座標法
電力系統の故障電流は,故障点に (1) を適用し,電力系統側を電圧源とインピーダンスからなる等価回路で表現して計算するのが一般的である。その際には,故障点に仮想的に設けた端子での三相電圧・電流を対称座標変換し,故障点から見た電力系統を発電機の基本式を用いて表すことにより故障電流を計算することが多い。
対称座標法では,三相(a,b,c で表す)の電圧・電流を零相,正相,逆相(それぞれ 0,1,2 で表す)の電圧・電流に変換する。例えば正相電流 $\dot{I_1}$ は,三相電流を $\dot{I_\text{a}}$,$\dot{I_\text{b}}$,$\dot{I_\text{c}}$ とすれば,$\displaystyle a = -\frac{1}{2} + \text{j}\frac{\sqrt{3}}{2}$ を用いて (2) となる。
故障前における故障点の a 相電圧を $\dot{E_\text{a}}$,故障点から見た零相,正相,逆相インピーダンスをそれぞれ $\dot{Z_0}$,$\dot{Z_1}$,$\dot{Z_2}$ とするとき,1 線地絡時(故障相は a 相)及び 3 線地絡時の故障点電流は次のとおりとなる。ただし,故障点抵抗は 0 とする。
- 1 線地絡時 : (3)
- 1 線地絡時 : (4)
上記の計算のためには発電機等の対象ぶんインピーダンスが必要である。発電機,送電線,変圧器の直列インピーダンスは以下の特徴を有する。
① 発電機
正相の電機子電流は発電機内に機械的な回転方向と同じ方向に回転する回転磁界を,逆相の電機子電流はそれと反対方向に回転する回転磁界を作るのに対して,零相の電機子電流は発電機内に回転磁界を作らない。これらにより,発電機の零相,正相,逆相インピーダンスは異なる値をとる。図は,単相の外部電源(電圧 $\dot{V}$)に発電機の三相巻線を直列に接続することにより,発電機の零相インピーダンスを測定する回路である。この場合,$\dot{V}$ は三相電圧の和となるため零相電圧の (5) となり,電流 $\dot{I}$ は三相電流が等しいため零相電流だけとなる。このため,$\dot{V}$ と $\dot{I}$ より零相インピーダンスが求められる。
② 送電線
正相及び逆相電流が作る電線周辺の磁界の大きさはどちらも同じとなるため,正相及び逆相インピーダンスは同一となる。また,零相インピーダンスは,零相電流が大地を帰路として各相導体に同位相で流れるため,正相,逆相インピーダンス (6) 。
③ 変圧器
正相,逆相インピーダンスとしては変圧器の漏れリアクタンスを考慮する必要がある。また零相インピーダンスには,変圧器の結線方式とともにその (7) が大きく影響する。

(1)
正解は(リ)テブナンの定理(Thévenin's theorem)である。
内部に電源電圧 $E_1$,$E_2$,…,$E_\text{n}$ を含む回路網 A があり,一つの端子対 ab に着目する。ab 間の電圧を $V(=E)$,ab から見た回路網 A のインピーダンスを $Z_0$ とすれば,端子対 ab に任意のインピーダンス $Z$ を接続したときに,$Z$ を流れる電流 $I$ は次式で与えられる。
\[ I=\frac{E}{Z_0 + Z} \](2)
正解は(タ)$\displaystyle \frac{\dot{I_\text{a}}+a\dot{I_\text{b}} + a^2 \dot{I_\text{c}}}{3}$である。
(3)
正解は(ヌ)$\displaystyle \frac{3\dot{E_\text{a}}}{\dot{Z_0}+\dot{Z_1}+\dot{Z_2}}$である。
(4)
正解は(ソ)$\displaystyle \frac{E_\text{a}}{Z_1}$である。
(5)
正解は(イ)3 倍である。
(6)
正解は(ホ)より大きいである。
(7)
正解は(ネ)中性点接地インピーダンスである。
参考文献
- 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「対称座標法」