平成30年度 第1種 機械
目次
問1 同期発電機の電機子巻線の分布係数
同期発電機では界磁磁束によって電機子巻線に発生する誘導起電力の波形は正弦波であることが望ましい。しかし,界磁磁束の空隙の磁束密度分布は台形波に近くなり,奇数次の高調波成分を含む。また,電機子巻線に対称三相交流電流がながれるとき,1 個のコイルによって生じる回転方向に沿った起磁力の分布は方形波となり,奇数次の高調波成分を含む。そこで界磁磁束によって電機子巻線に発生する誘導起電力の波形を正弦波に近づけるとともに,電機子電流による起磁力の高調波成分を低減するため,電機子巻線に分布巻が用いられる。ここでは,界磁磁束によって電機子巻線に発生する誘導起電力の波形に対する分布巻の効果を分布係数で説明する。
毎極毎相の導体を 1 個のスロットに納める集中巻に対して,何個かのスロットに分布して配置することを分布巻という。毎極毎相のスロット数を $q$ 個(整数とする)とすると,隣り合うコイルの誘導起電力はスロット間隔に対応した位相差を生じ,$q$ 個のコイルに発生する誘導起電力は各コイルの誘導起電力のベクトル和となる。一方,集中巻の場合は 1 個のコイルの誘導起電力の大きさの $q$ 倍となる。
分布巻の場合の集中巻の場合に対する誘導起電力の大きさの比を分布係数という。相数を $m$ として,基本波成分に対してはスロット間隔に対応して各コイルの位相差は電気角で $\displaystyle \alpha = \frac{\pi}{mq}$ [rad] となり,分布係数は $k_\text{d1} =$ $\displaystyle \frac{\sin(\frac{\pi}{2m})}{q\sin(\frac{\pi}{2mq})}$ となる。また,$v$ 次高調波成分に対してはスロット間隔に対応して隣り合うコイルの高調波誘導起電力の位相差は電気角で $\displaystyle v\alpha = \frac{v\pi}{mq}$ [rad] となるので,$v$ 次高調波誘導起電力に対する分布係数は $k_\text{dv} =$ $\displaystyle \frac{\sin(\frac{v\pi}{2m})}{q\sin(\frac{v\pi}{2mq})}$ となる。
分布係数の値は,通常,基本波に対しては数パーセントの減少であるが,高調波に対しては大きな減少となり,誘導起電力の波形は正弦波に近づく。
(1)
正解は(ロ)奇数である。
(2)
正解は(ト)方形である。
(3)
正解は(ヨ)ベクトル和である。
(4)
正解は(ハ)$\displaystyle \frac{\sin(\frac{\pi}{2m})}{q\sin(\frac{\pi}{2mq})}$ である。
(5)
正解は(チ)$\displaystyle \frac{\sin(\frac{v\pi}{2m})}{q\sin(\frac{v\pi}{2mq})}$ である。
問2 変圧器のスコット結線
変圧器のスコット結線は,単相変圧器 2 台を用いて三相交流を二相交流に変換する結線で,交流電気車に単相交流電力をき電する場合や,単相電気炉 2 台を運転する場合などに使用されている。
図 1 に,単相変圧器 T1 及び T2 を用いて,T1 の一次巻線の一端を T2 の一次巻線の中点 O に接続して,T1 の残りの一端と T2 の一次巻線の両端とを三相電源に接続する場合を示す。この場合,T1 を T 座変圧器,T2 を主座変圧器という。
T1 及び T2 を無負荷として,一次側(U,V,W)に対称三相交流電圧を印加した場合,二次側に生じる電圧の大きさがそれぞれ等しく,かつ,その位相が $\displaystyle \frac{\pi}{2}$ rad 異なるためには,T2 の巻数の比 $a:1$ に対し,T1 の巻き数の比を($\displaystyle \frac{\sqrt{3}}{2}$ $\times a$):1 にする必要がある。このように構成されたスコット結線の二次側の各相に,等しい単相負荷を接続すれば,一次側には平衡した三相交流電流が流れる。この場合,T1 の容量が T2 の $\displaystyle \frac{\sqrt{3}}{2}$ 倍となるので総合利用率は 92.8 % である。
次に,図 1 の T2 と容量及び巻数が等しい 2 台の単相変圧器 T3,T4 をスコット結線として図 2 に示すように接続する。このとき,T3 の一次側巻線に巻き数の比が($\displaystyle \frac{\sqrt{3}}{2}$ $\times a$):1 になる位置にタップを設け,タップを図 1 と同じように対称三相交流電源の U 相に接続する。この場合においても二次側の各相に等しい単相負荷を接続すれば,一次側には平衡した三相交流電流が流れる。この場合の総合利用率は 86.6 % である。


(1)
正解は(ヲ)T 座である。
(2)
正解は(ホ)$\displaystyle \frac{\pi}{2}$ である。
(3)
正解は(ル)$\displaystyle \frac{\sqrt{3}}{2}$ である。
(4)
正解は(イ)92.8 である。
(5)
正解は(ト)86.6 である。
問3 交流電源と蓄電池との間で電力を双方向にやり取りする電力変換装置
電力変換装置の一例として,PWM 変換器,中間直流回路及びチョッパからなる構成を図 1 に示す。ここで,PWM 変換器は,電圧形インバータと同じ主回路を交流電源側に適用したものである。
蓄電池を充電する場合,PWM 変換器を通過する電気エネルギーの流れは,交流電源から中間直流回路に向くことになる。図 1 において交流電源相電圧 $e_\text{S}$,PWM 変換器交流側相電圧 $v_\text{C}$,リアクトル電圧 $v_\text{L}$ 及び交流電流 $i_\text{S}$ は矢印の方向を正とし,それぞれの基本波のフェーザを $\dot{E}_\text{S}$,$\dot{V}_\text{C}$,$\dot{V}_\text{L}$ 及び $\dot{I}_\text{S}$ とする。これらの電圧,電流は三相対称交流の内の 1 相分である。このとき,電源力率 1 の $\dot{I}_\text{S}$ を得る PWM 変換器の動作を表しているフェーザ図が図 2 である。目標とする $\dot{I}_\text{S}$ を実現するために,結果として $v_\text{C}$ の基本波のフェーザが図 2 に示す $\dot{V}_\text{C}$ となるように制御している。特に三角波比較正弦波 PMW 制御は,電圧のパルス幅によってスイッチング周期ごとの平均電圧を制御するものであり,スイッチング周波数を十分高くとれば正弦波状に変化する交流電圧波形に制御できることになる。そして,このような動作を行う PWM 変換器では,通常中間直流回路の電圧 $v_\text{dc}$ は交流電源線間電圧のピーク値よりも高くしている。
一方,チョッパは,PWM 変換器を通して交流電源と中間直流回路が授受する電気エネルギーを,中間直流回路と蓄電池との間で出し入れする。交流電源と蓄電池との間でやり取りする電力が PWM 変換器によって制御されている場合,チョッパは,図 1 に示す中間直流回路の電圧 $v_\text{dc}$,チョッパ出力直流電圧 $v_0$ 及び蓄電池の電圧 $v_\text{batt}$ のうち,$v_\text{dc}$ を一定にする制御を行う。




(1)
正解は(ニ)電圧形インバータである。
(2)
正解は(ヘ)図 2 である。
(3)
正解は(カ)パルス幅である。
(4)
正解は(ロ)よりも高くである。
(5)
正解は(ハ)$v_\text{dc}$ である。
問4 熱電素子
熱電素子は異なる 2 種類の物質を接続して構成されている。熱電素子に電流を流すと,物質の接合界面で吸熱や放熱が起こる。これをペルチェ効果といい,静止形のヒートポンプとして利用することができる。熱電素子は半導体製造,光通信,バイオ・医療などの分野において,温度調節や冷却などの目的に広く使われている。民生部門では,小形の保冷庫や冷蔵庫などにも用いられている。
熱電素子は,電流方向の切換えによって,一つの素子で加熱と冷却の両方が行えるため,フィードバック制御によって精密な温度制御が可能である。ペルチェ素子による吸熱量は,二種類の物質のゼーベック係数をそれぞれ $S_\text{A}$,$S_\text{B}$ とすると,$S_\text{A} - S_\text{B}$ に比例する。この吸熱量のほかに,素子で発生するジュール熱,素子の熱コンダクタンス,吸熱面と放熱面との温度差などによって,熱電素子としての熱輸送量が決まる。吸熱面と放熱面との温度差を一定にして,大きな熱輸送量を得るために,複数の熱電素子を熱的に並列に接続し,一つのモジュールを構成している。吸熱面と放熱面との温度差をより大きくとりたい場合には,このようなモジュールを多段に積み重ねる。
また,熱電素子の性能を表す指数の一つに成績係数(熱電素子の消費電力に対する吸熱量及び放熱量の割合)がある。冷却の成績係数の値は加熱の場合より 1 だけ小さい。
(1)
正解は(イ)ペルチェ効果である。
(2)
正解は(ワ)ゼーベック係数である。
(3)
正解は(ハ)$S_\text{A} - S_\text{B}$ である。
(4)
正解は(ヌ)熱的に並列である。
(5)
正解は(ロ)1 である。
問5 かご形誘導電動機の始動時異常現象
かご形多相誘導電動機を直入始動するとき,速度の低い領域で,それ以上加速しないで,電流が大きい状態でとどまることがある。この現象をクローリング現象という。
固定子起磁力の基本波は,同期速度で回転し,回転子起磁力との間に図 1 に示すトルク $T_0$ を発生する。ところが,固定子起磁力の空間高調波のうち,第 7 調波の成分は基本波と同方向に回転し,回転子に電流を誘導して図 1 に示すトルク $T_\text{x}$ を発生する。これが $T_0$ に重畳され,合成トルクは $T_1$ のようになる。負荷トルクを図 2 に示す $T_\text{L}$ とすると,両曲線の交点が運転点となる。始動の場合,まず,図 2 の三つの交点のうちで c が運転点となるので,それ以上速度は上がらないことになる。
固定子起磁力の第 5 調波は基本波と反対方向に回転するので,その発生トルクは,図 1 に示す $T_\text{y}$ になる。この場合,発生トルクが正になるのは $s \gt 1$ の領域なので,クローリング現象の原因とはならない。


(1)
正解は(カ)クローリングである。
(2)
正解は(ワ)空間高調波である。
(3)
正解は(ト)7 である。
(4)
正解は(ヲ)c である。
(5)
正解は(イ)5 である。
(6)
正解は(レ)$s \gt 1$ の領域である。
問6 光束法による照明器具台数及び平均照度の計算
問6及び問7は選択問題であり,問6又は問7のどちらかを選んで解答すること。
両方解答すると採点されません。
間口 $X$ = 7.0 m,奥行 $Y$ = 14.0 m,天井高さ $H$ = 2.7 m,室各面の反射率が天井 70 %,壁 50 %,床空間 30 % の室がある。その床上 $h$ = 0.85 m 全体を作業面とし,定格光束 $\Phi$ = 3 000 lm のランプが 2 本は言った照明器具を天井面に埋め込んで,作業面を平均照度 $E$ = 500 lx で照明したい。以下の説明に沿って,必要な照明器具の台数を求め,新設時(初期)の平均照度を求める。
光束法の照明計算は,照度の定義が「単位面積当たりに入射する光束」であることに基づいている。ここでは,面に入射する光束を求める方法として,照明器具ごとにあらかじめ作成されている照明率表(表参照)を用いる。この照明率 $U$ は,照明器具が天井空間に均等配置された条件下において,室各面の相互反射後,最終的に作業面に到達する光束のランプ定格光束の総和に対する比である。表の照明率は,作業面と照明器具との間の室部分の形状を数値化した室係数 $K_\text{r}$ と呼ばれる値と室各面の反射率に対して与えられる。室指数は ① 式で求まる。
\[ K_\text{r} = \frac{X\cdot Y}{(H-h)(X+Y)} \]① 式から $K_\text{r}$ を算出し,表から照明率を求めると $U$ = 0.59 となる。
一方,ここで得ようとする平均照度 $E$ = 500 lx(JIS の推奨照度)は,一定期間使用した後において維持しなければならない値である。このため,維持しなければならない平均照度の新設時(初期)の平均照度に対する比として保守率を見込む。ここではこの値を 0.75 とする。
以上から,平均照度 500 lx を得るため必要な台数は 19 台となる。
いま,実際の施工を考慮して,照明器具台数 $N$ を 4 行 6 列配置の 24 台とすると,この場合の照明器具新設時(初期)の平均照度は,約 870 lx になる。

(1)
正解は(ホ)ランプ定格光束の総和である。
(2)
正解は(ロ)$\displaystyle \frac{X\cdot Y}{(H-h)(X+Y)}$ である。
(3)
正解は(カ)保守率である。
(4)
正解は(ニ)19 である。
(5)
正解は(ワ)870 である。
参考文献
- 目指せ!エネルギー管理士 電気分野「【要点ノート】照明」
問7
問6及び問7は選択問題であり,問6又は問7のどちらかを選んで解答すること。
両方解答すると採点されません。
施設の遠隔監視やセキュリティの確保などの場面で,ディジタル画像の保存や伝送が行われている。画像データは情報量が多く,保存や伝送に適するようデータを圧縮し,記憶容量を削減する必要がある。
2 値画像のデータ圧縮方法としてランレングス符号化がある。2 値画像は同じ画素値が連続して並ぶことが多いため,画像を走査したときの白又は黒の連続する画素数を数値で表すことによって,データ量を圧縮することができる。ファクシミリでは,この連続する画素数の統計的な発生確率を利用して,よく現れる数値には短い符号を,逆にほとんど現れない数値には長い符号を割り当てる可変長符号化であるハフマン符号化が応用されている。
カラー静止画像の場合は,非可逆圧縮方式の JPEG アルゴリズムが普及している。この方式は,画像の空間周波数の高いところでは色差情報を粗くしても画像の劣化に気付きにくいことなどを利用してデータ量を圧縮したものである。
JPEG アルゴリズムの圧縮演算時は,最初に表色系を変換し,色差成分の間引きを行う。その後,画像をブロック分割し,二次元離散コサイン変換(DCT)によって空間周波数を算出し,高周波成分には粗いビット数を割り当ててデータ量を削減する。さらに,画像の走査方法を工夫し,エントロピー符号化によってデータ圧縮を行う。ただし,画像の圧縮率が高いと劣化現象としてブロックノイズやモスキートノイズが発生するので,要求される画像品質に応じた演算パラメータの設定が必要である。
(1)
正解は(ト)2 値である。
(2)
正解は(カ)JPEG である。
(3)
正解は(ヨ)高いである。
(4)
正解は(ヘ)コサインである。
(5)
正解は(チ)モスキートである。