令和元年度 第1種 機械

2021年12月30日作成,2022年6月19日更新

目次

  1. 容量性負荷における同期発電機の特性
  2. タップ切換変圧器
  3. 自励式無効電力補償装置 STATCOM
  4. アーク加熱
  5. 電動機の可変速ドライブシステム
  6. 発光ダイオードの発光原理と発光波長
  7. 銅の電解精錬

問1 容量性負荷における同期発電機の特性

無負荷の長距離送電線に同期発電機を無励磁で接続しても,送電線の線間及び対地静電容量の影響によってこれらを充電する電機子電流が流れ,これによって発電機の端子電圧が高められ,さらに電流が増すという過程を繰り返して,端子電圧が著しく増大することがある。このときの同期発電機の電機子電流 $I_\text{a}$ に対する端子電圧 $V$ は図の曲線 O'a のような飽和特性であるとする。同期発電機に上述の静電容量に相当する 1 相当たりのキャパシタンス $C$ の容量性負荷を接続した場合,その電圧電流特性を直線 Ob で表し,その傾きを $\tan\theta$ とする。発電機には残留磁気による誘導起電力 OO' を生じているから,これによって進相の電機子電流が流れる。この電流による電機子反作用は増磁作用となり端子電圧を上昇させ,ある電機子電流 $I_\text{a}$ に対して飽和曲線 O'a と直線 Ob の交点 P に達し,この点で安定し運転を持続する。このような現象を同期発電機の自己励磁といい,点 P を電圧確立点という。点 P の電圧はキャパシタンス $C$ の大きさによって上下する。$C$ が大きく,傾き $\tan\theta$ が小さい場合,点 P の電圧が高くなる。その結果,点 P の電圧が発電機の定格電圧より非常に高くなる場合には,機器の絶縁を脅かすことになる。これを防ぐためには,その交点の電圧が同期発電機の定格電圧よりも低いことが必要である。

同期発電機の飽和特性
同期発電機の飽和特性
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(1)

正解は(ヌ)進相である。

(2)

正解は(リ)増磁である。

(3)

正解は(ワ)自己励磁である。

(4)

正解は(ホ)電圧確立である。

(5)

正解は(ヘ)大きである。

問2 タップ切換変圧器

電源電圧や負荷の変動による出力電圧(二次電圧)の変化を補償するために,巻線の途中から口出し線を出してタップを設け,これを切り換えることで巻数比を変更できるようにしたものをタップ切換変圧器という。タップ切換変圧器には無電圧切換変圧器と負荷時タップ切換変圧器がある。

無電圧タップ切換変圧器は,変圧器をいったん回路から切り離し,無励磁状態とした後,タップ切り換えを行う。負荷時タップ切換変圧器は,負荷をかけたまま負荷時タップ切換装置により無停電でタップ切り換えを行う。

負荷時タップ切換変圧器は直接式と間接式に大別される。直接式は,外部回路に接続された巻線の負荷電流が負荷時タップ切換装置を通過するように結線された方式であり,間接式は,直列変圧器の励磁巻線を流れる電流が負荷時タップ切換装置を通過するように結線された方式である。

三相変圧器の高圧側が星形結線の場合,タップを巻線の中性点側に設けると,負荷時タップ切換装置の相間の絶縁を低減することができ,各相を一体化することができる。

負荷時タップ切換装置は無停電でタップを切り換えるため,タップ切り換えの途中で電圧の異なる二つのタップが一時的に橋絡され,その間に循環電流が流れる。この循環電流を制限するため,限流インピーダンスを挿入する。

切換開閉器は,タップ切り換え時に負荷電流を投入,遮断する開閉器である。油中開閉器の場合,タップ切り換えの正常動作の際に発生するアークにより絶縁油が汚損する。この影響を避けるため,最近では真空バルブ式開閉器が用いられることが多い。

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(1)

正解は(ヨ)負荷である。

(2)

正解は(カ)星形結線である。

(3)

正解は(ワ)中性点側である。

(4)

正解は(ホ)限流である。

(5)

正解は(ト)汚損である。

参考文献

問3 自励式無効電力補償装置 STATCOM

自励式無効電力補償装置 STATCOM は,電圧形変換器の交流端子を連系リアクトルを介して交流系統に,直流端子を直流コンデンサに接続して構成する。電圧形変換器の交流端子電圧の振幅,周波数及び位相を系統電圧と等しくすれば,交流側電流は零となる。この状態から,系統電圧に比べて,交流端子電圧の振幅を大きくすると,STATCOM は進相コンデンサのように振る舞い,進み無効電力を吸収する。また,系統電圧に比べて,交流端子電圧の位相を遅れにすると,電圧形変換器に有効電力が流入するので,STATCOM ではこれが零となるように制御する。

変換器の PWM 制御により変調率を調節して無効電力を制御することもできるが,変調率を一定としたままで,直流コンデンサ電圧を調節することでも無効電力を制御できる。120 度通電の三相方形波変換器の直流コンデンサを $V_\text{d}$ とすると,変換器の交流端子の線間電圧の基本波成分実効値は $\displaystyle V_1 = \frac{\sqrt{6}}{\pi}V_\text{d}$ である。この変換器を $X$ = 0.3 p.u. の連系リアクトルを介して 6.6 kV の三相正弦波交流系統に接続して定格の進み無効電力を吸収する場合,連系リアクトルでの電圧降下を補償するため,変換器の交流端子の線間電圧基本波成分実効値は 1.3 p.u. とする必要があるので,直流コンデンサ電圧を 11.0 kV にすればよい。このとき,5 次高調波に対する連系リアクトルのリアクタンスは,$X_5 = 5X = 5\times0.3 = 1.5$ p.u. であり,変換器の交流端子の線間電圧の 5 次高調波成分は基本波成分の $\displaystyle \frac{1}{5}$ であるので,交流側電流の 5 次高調波成分は基本波成分の 17.3 % 程度であり,サイリスタを用いた他励式無効電力補償装置に比べて,高調波発生量は少ない。

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(1)

正解は(ヨ)電圧形変換器である。

(2)

正解は(ワ)振幅を大きくである。

(3)

正解は(ハ)位相を遅れにである。

(4)

正解は(カ)11.0 kV である。

(5)

正解は(ト)17.3 % である。

参考文献

問4 アーク加熱

アーク加熱はアーク放電によって生じるアークプラズマの熱によって被加熱物を加熱する方式である。燃焼によって得られる温度は高くても 3 000 °C 程度であるが,アーク加熱ではこの温度よりも数倍高い高温が得られる。

アーク放電において,放電電極間の距離(アーク長)を一定とすると,アーク放電路(アーク陽光柱)の電圧(アーク電圧)は,電流が小さい領域では,電流が増えるにつれて低下する特性をもつ。さらに電流が増えて大電流の領域になると,アーク電圧は,電流に依存せず,ほぼ一定となる。この領域では,アーク電圧はアーク長にほぼ比例する

このような大電流アークを用いた代表的な電炉として,鉄鋼スクラップを溶融する製鋼用アーク炉がある。電極には黒鉛を用い,被加熱物の鉄鋼スクラップが通電経路の一部となっている。電極は可動式でアーク長を調整する。アーク長とアーク電流を制御することで,鉄鋼スクラップへの投入熱量を制御している。

また,アーク炉に電力を供給する電力系統の短絡容量が比較的小さい場合には,電圧フリッカを生じやすい。そのための対策には無効電力補償装置が広く用いられている。

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(1)

正解は(ル)よりも数倍高いである。

(2)

正解は(ト)低下である。

(3)

正解は(カ)ほぼ比例するである。

(4)

正解は(チ)黒鉛である。

(5)

正解は(ヌ)電圧フリッカである。

問5 電動機の可変速ドライブシステム

電力変換器と電動機及びその制御装置で構成される可変速ドライブシステムは,省エネルギー性が高く低速から高速まで高精度に電動機の速度(回転数)やトルクの制御が可能であることから,さまざまな用途に用いられている。

サイリスタレオナード法は,直流電動機を低損失で可変速制御するもので,制御電圧源による開ループの速度制御ドライブとして用いられる。この制御の動作は,一般に電動機の端子電圧と速度の比例性がよい定格電圧以下の低トルク駆動範囲に限られている。さらに電動機の高回転が必要な場合には,弱め界磁制御を用いて電動機の電機子電圧を一定とする定出力運転領域で高速回転を得る。

交流電動機を対象とした可変速ドライブでは,原則として周波数と電圧の制御により電動機の速度制御を行う。実際の制御は,可変電圧・可変周波数の電力変換器を用いて駆動する。この場合,開ループ制御又は電動機速度等をフィードバックして指令値に一致させるよう制御する閉ループ制御のいずれかが選ばれる。特に同期機を開ループ制御で速度制御する場合には急加減速や負荷急変による過渡時に脱調するおそれがあり,このようなとき,高精度な制御が要求される場合には回転子位置検出を行い,この信号を電力変換器制御ループに取り込むなどの方法が採用される。

近年は,ディジタル技術の制御精度が向上する一方で,低価格・低損失半導体デバイスとして GCT や IGBT などの自己消弧形の半導体素子が採用されたことにより,高キャリア周波数による低騒音化や高効率化による装置の小形化が進み,可変速ドライブシステムは,家電から,風力発電装置まで多様な領域で利用されている。

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(1)

正解は(ヨ)直流電動機である。

(2)

正解は(ヘ)弱め界磁である。

(3)

正解は(ワ)電機子電圧である。

(4)

正解は(ヲ)開ループ制御である。

(5)

正解は(ル)回転子位置である。

(6)

正解は(ネ)IGBT である。

(7)

正解は(カ)自己消弧形である。

問6 発光ダイオードの発光原理と発光波長

問6及び問7は選択問題であり,問6又は問7のどちらかを選んで解答すること。

両方解答すると採点されません。

半導体を pn 接合すると,電子で満たされた価電子帯と電子の満たされていない伝導帯との間に,電子が存在できない禁制帯が形成される。LED は,半導体の pn 接合に順方向電流を流すと,n 形領域の電子と p 形領域の正孔とが禁制帯を越えて再結合するときに,禁制帯の幅に応じた波長の光を発生する。LED の発光波長 $\lambda$ [nm] は,禁制帯幅 $E_\text{g}$ [eV],プランクの定数 $h$ [eV·s],光速 $c$ [m/s] が関係し,① 式で求めることができる。

\[ \lambda = \frac{hc}{E_\text{g}}\times 10^{9} \approx \frac{1240}{E_\text{g}} \]
・・・・・①

これによれば,可視領域に対応した発光を得るには,禁制帯幅 $E_\text{g}$ を 1.59 eV ~ 3.26 eV とすることが必要になる。LED の開発は,周期律表の主に Ⅲ 族と Ⅴ 族の化合物半導体が用いられ,可視領域に対応した発光の実用化は,赤,黄など比較的小さい禁制帯幅をもつ材料から始まり,実用化が困難であるとされた青色光は,GaN 系材料によって得られるようになった。

解答と解説を表示

発光ダイオード(Light Emitting Diode : 以下 LED とする)の発光原理と発光波長に関する記述である。

(1)

正解は(ル)n 形領域の電子と p 形領域の正孔である。

(2)

正解は(イ)1.59 eV ~ 3.26 eV である。

(3)

正解は(ヘ)Ⅲ 族と Ⅴ 族である。

(4)

正解は(ホ)比較的小さいである。

(5)

正解は(ト)GaN である。

問7 銅の電解精錬

問6及び問7は選択問題であり,問6又は問7のどちらかを選んで解答すること。

両方解答すると採点されません。

銅鉱石を乾式精錬で純度 99 % 程度にした粗銅には亜鉛,鉄,銀,金などの不純物が含まれている。粗銅をアノード,純銅をカソード,電解液に酸を加えた硫酸銅水溶液を用いて電気分解すると金や銀アノードの下に沈殿し,その他の金属はイオンとして溶出する。溶出した金属のうち,銅だけがカソードに析出して純度が 99.99 % 以上になる。

この銅の電気精錬の主反応の理論電圧は 0 V である。精錬できる銅の量は電解時の通電電気量に比例する。精錬可能な銅の量はファラデーの法則で推算することができる。電子の物質量当たりの電荷の絶対値をファラデー定数といい,96 485 C/mol である。電気分解では電気量の単位を A·h で表すと便利であり,その値は 26.80 A·h/mol である。ファラデーの法則を用いて 1 t の銅を精錬するために必要な電気量を求めると,843.4 kA·h となる。なお,銅の原子量を 63.55 とする。

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電気化学システムでは,下図に示すように二つの電極とイオン伝導帯である電解質及び隔膜から構成されている。

電気化学システム
図 電気化学システム

(1)

正解は(タ)アノードである。

アノード(陽極)では,外部回路から電流が流入する,すなわち外部回路に電子が流出し,酸化反応が起こる。

Cu → Cu2+ + 2e-

(2)

正解は(リ)カソードである。

カソード(陰極)では,外部回路に電流が流出する,すなわち外部回路から電子が流入し,還元反応が起こる。

Cu2+ + 2e- → Cu

(3)

正解は(ソ)硫酸銅である。

(4)

正解は(ル)金や銀である。

アノードの下に沈殿する沈殿物は,アノード(陽極)スライムと呼ばれる。

(5)

正解は(ヲ)陽である。

(6)

正解は(ロ)0 である。

(7)

正解は(イ)26.80 である。

ファラデー定数の単位を [A·h/mol] に変換する。

\[ F=\frac{96485 \text{ [C/mol]}}{60 \text{ [min/h]} \times 60 \text{ [sec/min]}} = 26.801 \text{ [A·h/mol]} \]

(8)

正解は(ネ)843.4 である。

純銅 Cu 一元素を生成するために二つの電子が必要である。1 t の銅を生成するために必要な電気量は,次式で求められる。

2 × 26.80 [A·h/mol] × 1 [t] × 106 [g/t] ÷ 63.55 [g/mol] ÷ 1 000 = 834.43 [kA·h]

参考文献

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