平成21年度 第1種 法規

2021年12月27日作成,2022年8月14日更新

  1. 問題文中に「電気設備技術基準」とあるのは,「電気設備に関する技術基準を定める省令」の略である。
  2. 問題文中に「電気設備技術基準の解釈」とあるのは,「電気設備の技術基準の解釈における第1章~第6章及び第8章」をいう。なお,「第7章 国際規格の取り入れ」の各規定について問う出題にあっては,問題文中にその旨を明示する。
  3. 問題は,平成21年4月1日現在,効力のある法令(電気設備の技術基準の解釈を含む。)に基づいて作成している。

問1 A 種および B 種接地工事

  1. A 種接地工事は,特別高圧計器用変成器の二次側電路,高圧又は特別高圧用機器の鉄台等の接地等,高電圧の侵入のおそれがあり,かつ,危険度の大きい場合に要求されるもので,接地抵抗値は,10 [Ω] 以下としている。

  2. B 種接地工事は,高圧電路又は特別高圧電路と低圧電路の混触による危険を防止するため,高圧電路又は特別高圧電路と低圧電路とを結合する変圧器の低圧側の電路の保護のために施設されるものである。

    B 種接地工事の接地抵抗値は混触の際に B 種接地工事の接地線に高圧電路又は特別高圧電路の地絡電流が流れた場合の電位上昇による低圧側電路の絶縁破壊を防止するため,接地点の電位が 150 [V](一次側が高圧又は35 [kV] 以下の特別高圧電路であって,150 [V] を超えたとき 1 秒を超え 2 秒以内に自動的に当該電路を遮断する装置を設けるときは 300 [V],1 秒以内に自動的に当該電路を遮断する装置を設けるときは 600 [V])を超えないようにしたものである。

  3. A 種接地工事又は B 種接地工事は,発電所又は変電所,開閉所若しくはこれらに準ずる場所において,故障の際に,その近傍の大地との電位差により,人若しくは家畜又は他の工作物に危険を及ぼさないように施設するときを除いて,接地線を人が触れるおそれがある場所に施設する場合,次のように施設しなければならない。

    1. 接地極は,地下 75 [cm] 以上の深さに埋設すること。
    2. 接地線の地下 75 [cm] から地表上 2.0 [m] までの部分は,電気用品安全法の適用を受ける合成樹脂管(厚さ 2 [mm] 未満の合成樹脂製電線管及び CD 管を除く。)又はこれと同等以上の絶縁効力及び強さのあるもので覆うこと。

問2 電気工作物の定義

  1. 電気工作物とは,発電,変電,送電若しくは配電又は電気の使用のために設置する機械,器具,ダム,水路,貯水池,電線路その他の工作物をいう。ただし,船舶,車両又は航空機に設置されるものなどのほか,電圧 30 [V] 未満の電気的設備であって,電圧 30 [V] 以上の電気的設備と電気的に接続されていないものを除く。
  2. 自家用電気工作物とは,電気事業の用に供する電気工作物及び一般用電気工作物以外の電気工作物をいう。
  3. 小出力発電設備とは,電圧 600 [V] 以下の電気の発電用の電気工作物であって,次のとおりとする。ただし,次の各号に定める設備であって,同一の構内に設置する次の各号に定める他の設備と電気的に接続され,それらの設備の出力の合計が 20 [kW] 以上となるものを除く。
    1. 太陽電池発電設備であって出力 20 [kW] 未満のもの
    2. 風力発電設備であって出力 20 [kW] 未満のもの
    3. 水力発電設備であって出力 10 [kW] 未満のもの(ダムを伴うものを除く)
    4. 内燃力を原動力とする火力発電設備であって出力 10 [kW] 未満のもの
    5. 燃料電池発電設備(固体高分子型又は固体酸化物型のものであって,燃料・改質系統設備の最高使用圧力が 0.1 [MPa](液体燃料を通ずる部分であっては,1.0 [MPa] 未満のものに限る)であって出力 10 [kW] 未満のもの

問3 自家用電気工作物を設置する者の事故報告

  1. 自家用電気工作物を設置する者は,自家用電気工作物に関して,次のような事故が発生したときは,電気工作物の設置の場所を管轄する産業保安監督部長(産業保安監督部の支部長,中部近畿産業保安監督部北陸産業保安監督署長及び那覇産業保安監督事務所長を含む。)に報告しなければならない。
    1. 感電又は破損事故若しくは電気工作物の誤操作若しくは電気工作物を操作しないことにより人が死傷した事故(死亡又は病院若しくは診療所に治療のために入院した場合に限る。)
    2. 電気火災事故(工作物にあっては,その半焼以上の場合に限る。)
    3. 破損事故又は電気工作物の誤操作若しくは電気工作物を操作しないことにより,公共の財産に損害を与え,道路,公園,学校その他の公共の用に供する施設若しくは工作物の使用を不可能にさせた事故又は社会的に影響を及ぼした事故
    4. 電圧10 000[V]以上の需要設備に属する主要電気工作物の破損事故
  2. 上記 a. の規定による報告は,事故の発生を知った時から 48 時間以内可能な限り速やかに事故の発生の日時及び場所,事故が発生した電気工作物並びに事故の概要について,電話等の方法により行うとともに,事故の発生を知った日から起算して 30 日以内に一定の様式の報告書を提出して行わなければならない。

問4 20 000 [V] を超える配電線路に適用される異常の予防及び保護対策

  1. 変圧器によって特別高圧の電路に結合される高圧の電路には,特別高圧の電圧の侵入による高圧側の電気設備の損傷,感電又は火災のおそれがないよう,接地を施した放電装置の施設その他の適切な措置を講じなければならない。
  2. 変圧器によって特別高圧電路に結合される高圧電路には,使用電圧の 3 倍以下の電圧が加わったときに放電する装置をその変圧器の端子に近い 1 極に設けること。ただし,使用電圧の 3 倍以下の電圧が加わったときに放電する避雷器を高圧電路の母線に施設する場合は,この限りではない。
  3. 上記 b. 項の装置の接地は,A 種接地工事によること。

電気設備に関する技術基準を定める省令第12条「特別高圧電路等と結合する変圧器の火災等の防止」および電気設備技術基準の解釈第26条「特別高圧と高圧の混触等による危険防止施設」からの出題である。

問5 ガス絶縁開閉装置の診断技術

ガス絶縁開閉装置(以下,GIS という。)の診断技術に関する記述である。

  1. GIS は遮断器,断路器,接地開閉器,母線,ケーブル接続部などから構成されたコンパクトな開閉装置で,高電圧部を金属容器内に収納し,主絶縁として圧力の高い SF6 ガスを充填した構造を有している。
  2. GIS の主要な故障は,絶縁故障,通電に伴う熱的故障及び機械的故障の三つに大別できる。これら故障のうち劣化や経時変化を伴う故障については,異常の初期状態で兆候を検出して事故を未然に防止する診断技術の活用が,設備の保守効率化に有効である。
    1. 絶縁故障に関わる重要な検出技術として部分放電検出技術があり,電流パルスや電磁波などを検出する電気的な方法,振動や超音波を検出する機械的な方法,分解ガスを検出する化学的な方法などがある。
      1. 電気的な検出法としては,絶縁スペーサに埋め込まれた電極を利用し部分放電パルスを検出する絶縁スペーサ法や外部ノイズの影響の少ない周波数帯での電磁波を監視し,部分放電を検出する UHF 法などがある。
      2. 機械的な検出法としては,部分放電により発生した圧力波が,タンクを励振することにより発生する振動や GIS 内異物が静電気力で生じるタンクとの衝突振動を AE センサなどにより検出する方法がある。
      3. 化学的な検出法としては,放電や局部過熱に伴い発生する分解ガスをイオン化して検出する方法や,検知管に分解ガスを導入し呈色反応を診断に利用するガス検知管検出法などがある。
    2. 通電に伴う熱的故障としては,内部導体の局部過熱や,がいし表面の温度変化を赤外線放射温度計などにより過熱位置と温度を推定する方法や,通電異常部での微小振動を検出する方法などがある。
    3. 開閉器の機械的な診断技術としては,開閉特性に着目し開閉器操作時の動作時間や,累積遮断電流と接点消耗量の関係から診断を行う方法がある。

GIS は,絶縁および消弧媒体の SF6 ガスの圧力を高くして金属製容器に封入し,遮断器,断路器,母線,変流器,避雷器等の機器を収納した開閉器の集合体である。この装置は,充電部分がすべて金属製容器内に収められているため,信頼性が高く安全であり,かつ,保守点検に省力化が図れる。

問6 増分燃料費

水力発電所と二つの火力発電所 G1,G2 からなる電源から供給している系統がある。水力発電所を昼間・夜間一定運転した場合の,火力発電所の需要分担は下表のとおりであり,火力発電所の $P$ [MW] に対する増分燃料費 $\lambda$ は,下式のとおりとする。

発電所 運転時間帯 発電出力 [MW]
水力発電所 昼間・夜間一定運転 15
火力発電所 2 か所合計 昼間時間帯(8 時から 22 時) 250
夜間時間帯(0 時から 8 時,及び 22 時から 24 時) 50
火力発電所 G1 : $\lambda_1(P_1) = 1000 + 12P_1$
火力発電所 G2 : $\lambda_2(P_2) = 650 + 20P_2$

これから,水力発電所を夜間時間帯に停止し,停止中に調整池に貯留した分の水を昼間時間帯に出力増加して使い切ることで,火力発電所の出力を平準化するものとして,次の (1) から (5) に当てはまる数値を求め,記述用紙の解答欄に記入しなさい(答の有効数字は 3 けたとする)。

なお,調整池への河川流入量 [m3/s] は常に一定で,水力発電所の出力と使用流量 [m3/s] とは比例関係にあるものとする。また,系統の送電損失は無視するものとする。

水力発電所による調整前,火力発電所 G1,G2 の $\lambda$ 特性から経済的に出力配分すると,G1 の発電出力は昼間時間帯が (1) [MW],夜間時間帯が (2) [MW] となる。

水力発電所で夜間時間帯に停止した分に相当する電力量と同じ分の電力量を,昼間時間帯に均等に水力発電所の出力増に充てるものとすると,水力発電所の昼間時間帯の発電出力は (3) [MW] になる。

水力発電所による調整後,火力発電所 G1,G2 を経済的に出力配分すると,G1 の発電出力は昼間時間帯が (4) [MW],夜間時間帯が (5) [MW] となる。

本問は,燃料増分費(incremental fuel cost)に関する問題である。需給バランスを満足しつつ,燃料増分費が等しくなる出力で運転することで燃料費を最小とできる。(Lagrange の未定乗数法を適用し,Lagrange 関数を最小化するという最適化問題である。)

これを等増分燃料費則とよび,火力ユニットの経済運用の基礎となる考え方である。

1. 水力発電所による調整前

(1) G1 の発電出力(昼間時間帯)

昼間時間帯,火力発電機の出力は次式となる(昼間時間帯の制約条件)。

$P_1 + P_2 = 250$

等増分燃料費法の考え方[1]より,$\lambda_1 = \lambda_2$ のとき,最も経済的となる。

$1000 + 12P_1 = 650 + 20 P_2$

上記の 2 式より,$P_1 =$ 145 [MW] となる。

水力発電所による調整前,昼間時間帯の火力発電所 G1 の出力 $P_1$ と燃料費の関係を下図に示す(火力発電所 G1 の燃料費は $F_1$,火力発電所 G2 の燃料費は $F_2$)。

火力発電所の燃料費(昼間時間帯,水力発電所による調整前)
図 火力発電所の燃料費(昼間時間帯,水力発電所による調整前)

(2) G1 の発電出力(夜間時間帯)

夜間時間帯,火力発電機の出力は次式となる(夜間時間帯の制約条件)。

$P_1 + P_2 = 50$

等増分燃料費法の考え方より,$\lambda_1 = \lambda_2$ のとき,最も経済的となる。

$1000 + 12P_1 = 650 + 20 P_2$

上記の 2 式より,$P_1 =$ 20.3 [MW] となる。

水力発電所による調整前,夜間時間帯の火力発電所 G1 の出力 $P_1$ と燃料費の関係を下図に示す(火力発電所 G1 の燃料費は $F_1$,火力発電所 G2 の燃料費は $F_2$)。

火力発電所の燃料費(夜間時間帯,水力発電所による調整前)
図 火力発電所の燃料費(夜間時間帯,水力発電所による調整前)

2. 水力発電所による調整後

(3) 水力発電所の昼間時間帯の発電出力

水力発電所を夜間時間帯(10 時間)停止し,昼間時間帯(14 時間)に均等に水力発電所の出力発電所の出力増に充てる。よって,水力発電所の昼間時間帯の発電出力は,次式で求められる。

15 + 15 × 10 ÷ 14 = 25.714 ≈ 25.7 [MW]

(4) G1 の発電出力(昼間時間帯)

昼間時間帯,水力発電所の出力は増加しているため,火力発電機の出力は次式となる(昼間時間帯の制約条件)。

$\displaystyle P_1 + P_2 = 250 - \frac{15\times 10}{14} = 239.29$

等増分燃料費法の考え方より,$\lambda_1 = \lambda_2$ のとき,最も経済的となる。

$1000 + 12P_1 = 650 + 20 P_2$

上記の 2 式より,$P_1 =$ 139 [MW] となる。

水力発電所による調整後,昼間時間帯の火力発電所 G1 の出力 $P_1$ と燃料費の関係を下図に示す(火力発電所 G1 の燃料費は $F_1$,火力発電所 G2 の燃料費は $F_2$)。

火力発電所の燃料費(昼間時間帯,水力発電所による調整後)
図 火力発電所の燃料費(昼間時間帯,水力発電所による調整後)

(5) G1 の発電出力(夜間時間帯)

夜間時間帯,水力発電所は停止しているため,火力発電機の出力は次式となる(夜間時間帯の制約条件)。

$P_1 + P_2 = 50 + 15 = 65$

等増分燃料費法の考え方より,$\lambda_1 = \lambda_2$ のとき,最も経済的となる。

$1000 + 12P_1 = 650 + 20 P_2$

上記の 2 式より,$P_1 =$ 29.7 [MW] となる。

水力発電所による調整後,夜間時間帯の火力発電所 G1 の出力 $P_1$ と燃料費の関係を下図に示す(火力発電所 G1 の燃料費は $F_1$,火力発電所 G2 の燃料費は $F_2$)。

火力発電所の燃料費(夜間時間帯,水力発電所による調整後)
図 火力発電所の燃料費(夜間時間帯,水力発電所による調整後)

(参考)火力発電所の燃料費

火力発電所の $P$ [MW] に対する増分燃料費 $\lambda$ を $P$ で積分して,火力発電所の燃料費 $F$ は,次式で表される。

火力発電所 G1 : $F_1(P_1) = C_1 + 1000 P_1 + 6{P_1}^2$
火力発電所 G2 : $F_2(P_2) = C_2 + 650 P_2 + 10{P_2}^2$

ここで,$C_1$ は火力発電所 G1の固定費,$C_2$ は火力発電所 G2 の固定費である。本問では燃料増分費に着目しているため,いずれも 0 円として扱う。(火力発電所の出力と燃料費の関係のグラフも固定費は 0 円であると仮定して描画している。)

参考文献


  1. 全火力発電機の総発電量を一定にする条件のもとで,総燃料費を最小とする出力配分は,理想条件下ではラグランジュの未定乗数法によって求めることができる。その結果として,各発電機の増分燃料費が一致する出力配分のときであることが示される。これを等増分燃料費法(または等 λ 法)と呼ぶ。
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