平成18年度 第2種 電力

2022年1月10日更新

目次

  1. 汽力発電所の運転時における熱効率の維持向上対策
  2. 保護リレーの自動監視
  3. 電力系統の安定度
  4. 配電自動化システム
  5. 風力発電
  6. 変電所のがいし(がいし管なども含む)の塩害対策
  7. 電力系統の中性点接地方式に関する記述

問1 汽力発電所の運転時における熱効率の維持向上対策

  1. 燃料が完全燃焼するためには,ある程度過剰空気を供給しなければならないが,必要以上に多いと排ガス量の増加,燃焼温度の低下などによって熱効率が低下する。
  2. タービン入口エンタルピーは,蒸気温度と蒸気圧力によりほぼ決定されるため,熱効率維持のためには,これらの基準値運転に努める必要がある。
  3. 復水器の真空度の低下は,熱効率を大幅に低下させるため,細管の定期的な逆洗及び清掃によって状態の回復を図ることが肝要である。
  4. 送電端効率の向上のためには,所内率の低下が必要であるが,このためにはユニット低負荷運転時における給水ポンプ,冷却水ポンプ,通風機などの補機の運転台数の検討を行うとともに,運転中における不要な所内雑電力の節減を図る必要がある。
  5. 部分負荷運転時での主蒸気圧力を低くすることにより,給水ポンプ軸動力の軽減やタービン効率の向上など,プラント効率の向上とタービン熱応力の軽減を図る運転方式を,ボイラの変圧運転という。

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問2 保護リレーの自動監視

保護リレーにはその責務から高い信頼度が要求される。このため機器そのものの信頼度を向上させるとともに,自動監視機能が備えられ,稼動信頼度の向上と保守の省力化が図られている。自動監視は常時監視と自動点検に大別されるが,アナログリレーでは,常時監視は動作となる不良の発見を目的にしており,自動点検は誤不動作となる不良の発見を目的としている。

ディジタルリレーの場合,ほとんどの不良は常時監視で発見が可能である。大部分の自動監視機能はソフトウェアによる診断機能により実施され,ハードウェアのブロック単位に高精度な検出が可能である。常時監視では保護リレーの一過性故障に不要応動しないよう,故障の頻度監視を行う。アナログ入力部や出力回路などで常時監視により十分なチェックができない部分については,保護リレー機能を中断して自動点検を行う。点検処理としては模擬信号を印加し,その結果を確認することで短時間に健全か否かをチェックする方法が採られている。

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問3 電力系統の安定度

電力系統の安定度を一機無限大母線系統の動揺方程式である次式で考える。

\[ M\frac{d^{2}\delta}{dt^{2}} = P_{M} - \frac{V_{0}V_{G}}{X}\sin\delta \]

上式の $V_0$,$V_G$ はそれぞれ無限大母線電圧及び発電機内部電圧の大きさ,$\delta$ は両者の相差角,$M$ は発電機の慣性定数であり,右辺第1項の $P_M$ は発電機への機械入力,第2項は電気出力である。過渡安定度解析で用いられる最も簡単な発電機モデルは過渡リアクタンス背後電圧一定モデルであるが,その場合,上式の $X$ は送電線,変圧器などのリアクタンスと発電機の過渡リアクタンスの和である。

上式で考えると,定態安定極限電力は $\displaystyle \frac{V_0 V_G}{X}$ であり,そのとき $\displaystyle \delta = \frac{\pi}{2}$ [rad] である。機械入力 $P_M$ が定態安定極限電力より小さいとき,発電機の入出力が等しくなる $\delta$ は 2 点あり,$\displaystyle \delta \lt \frac{\pi}{2}$ [rad] の点は電気出力を $\delta$ で微分した同期化力係数が正で安定平衡点,$\displaystyle \delta \gt \frac{\pi}{2}$ [rad] の点は同期化力係数が負で不安定平衡点と呼ばれる。後者の運転状態では定態安定度が不安定となる。安定平衡点にあった発電機が何らかの外乱で加速され,$\delta$ が不安定平衡点より少しでも大きくなると発電機は脱調する。

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問4 配電自動化システム

配電線事故発生時に,配電自動化システムにより事故発生箇所を含む区間を自動的に区分する方式として,事故発生時に,配電線停止によりいったん無電圧開放された自動開閉器を,変電所の配電用遮断器の再閉路と協調して,一定の時間間隔で順次投入する時限順送方式が一般的に採用されている。この方式においては,事故発生箇所を含まない区間においても, 2 回の送電停止が発生してしまう。これを軽減するため,開閉器本体で検出した事故電流の情報を収集し,事故区間を直ちに判別すれば,当該事故区間よりも電源側区間の1回分の送電停止が回避可能となる。

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問5 風力発電

風力発電に用いられる風車のエネルギー変換効率(軸出力エネルギーと風車ロータを通過する空気エネルギーの比)はパワー係数と呼ばれ,理論的には 0.593 (ベッツの限界値)であるが,実際には最適設計されたプロペラ形風車で最大 0.45 程度の値となる。一般に風力発電システムの運転では有効な出力が得られるカットイン風速,定格風速,強風を避けるために停止するカットアウト風速が設定されている。カットイン風速はおおよそ 2 ~ 4 [m/s] であり,カットアウト風速は 25 [m/s] 前後が多い。

風力エネルギーは不規則かつ間欠的であることから,風力発電システムの設備利用率は,特殊な場合を除き 20 ~ 30 [%] 台の値となる。また,風力エネルギーの変動はそのまま発電機出力の変動となるため,接続される送電系統の短絡容量が小さい場合には電圧変動が大きくなるおそれがあり,その対策が必要となる。ウインドファームでは数多くの風力発電機を集合設置しており,出力変動の平滑化が期待されているが,長周期変動に対しては平滑化が困難なため,さまざまな対策が検討されている。

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問6 変電所のがいし(がいし管なども含む)の塩害対策

塩分ががいし表面に付着すると,霧や小雨により湿潤して溶解し,導電性があがり,がいし表面の漏れ電流が増加する。これにより,がいし表面が乾燥して部分放電が発生したり,さらに,フラッシオーバーに移行して事故にいたる懸念があることから,塩害対策を行っている。

塩害対策として,隠ぺい化などもあるが,屋外変電所では汚損マップやパイロットがいしによる実測等をもとに,がいしの塩分付着密度を決定し,これとは別に耐塩対策設計の重要な項目であるがいしの耐電圧の目標値を決定しておく。これらとがいし表面の漏れ距離を考慮して,使用するがいしを選定することになる。このほか,がいしを洗浄するのも対策の一つであるが,この場合,洗浄水の圧力や洗浄水の抵抗率とがいし洗浄耐電圧の関係をよく把握しておく必要がある。

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問7 電力系統の中性点接地方式に関する記述

中性点接地の目的は,以下の 4 点が挙げられるが,系統設計の基本方針に応じて,これらの優先順位は異なってくるため,具体的な条件に基づいて,方式の選定と詳細設計を決定する必要がある。

  1. 送配電変電設備における地絡事故発生時の健全相電位上昇の抑制
  2. 地絡保護リレーの所要性能の確保
  3. 地絡事故時の故障電流の抑制と電磁誘導障害対策の確立
  4. 地絡過渡電圧電流の抑制,鉄共振・アーク間欠などの不安定現象の抑制

直接接地方式は,わが国の 187 [kV] 以上の系統に適用されているが,1 線地絡事故時の健全相電位上昇を小さく抑制することができ,絶縁設計,設備形成の合理化に優れている。ただし,地絡事故時の故障電流が三相短絡電流と同様に非常に大きくなる場合があるため電磁誘導障害の検討が必要である。

抵抗接地方式は,中性点を百アンペアから数百アンペアの電流が流れる抵抗器で系統の要所で接地し,地絡事故時の故障電流を抑制しつつ保護リレーの動作を確実にするとともに,事故時の健全相電位上昇を通常時の 1.73 倍程度以下に抑える方法である。

非接地方式は,地絡事故時の故障電流が小さいなどの利点があるが,保護リレーの事故点選別能力が低く,また,健全相電位上昇も大きくなりやすいことから, 30 [kV] 程度以下の小規模系統に適している。

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