令和3年度 第2種 電力
目次
合格基準は,90 点満点換算で 51 点以上,受験者は 3,662 人,合格者数は 1,913 人で,合格率は 52.2 % だった。
問1 フランシス水車を用いる場合の水力発電所内の機器構成
文中の に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選び,「解答と解説を表示」をクリックすると,正誤判定ができます。
水圧管路を経た水は入口弁を通って水車へと送られる。入口弁は水車に通水又は遮水する目的で設置され,その発電所の地点特性(設計諸元)に合わせて,適切なタイプの入口弁が選定される。高落差大容量の発電所には,損失落差がほとんどなく,漏水が少ない (1) が用いられる場合が多い。
入口弁を経た水は,ケーシングへ送られる。ケーシングは渦巻き状であり,(2) に溶接固定される。ケーシングを経た水は,(2) に設置された固定羽根を通り (3) により流量調整される。
反動水車であるフランシス水車は (4) を持つ流水をランナに作用させる水車である。ランナは鋳鋼製が多く,ランナと上カバー又は下カバーの間には,一般的に内外周 2 段にシールが設けられ,この部分の水圧を減ずるとともに,ランナ上面と下面を結ぶバランスパイプやバランスホールで圧力を均衡させて (5) を減少させている。
問1 解答と解説
(1)
正解は(ハ)ロータリ弁である。
ロータリ弁(rotary valve)は,損失落差がほとんどなく,漏水が少ない。
(2)
正解は(ル)スピードリングである。
スピードリングは,反動水車のケーシングとガイドベーンとの中間にあり,流水の流れ方を整え,ケーシングに加わる水車などの重量を支える構造物である。
(3)
正解は(チ)ガイドベーンである。
ガイドベーン(guide vane,案内羽根ともいう)は,反動水車のランナの流水入り口側に置かれ,羽根の角度を変えて,水車に入る流水の量と方向を調節する装置である。
(4)
正解は(ヲ)圧力水頭である。
圧力水頭(pressure head)とは,圧力 $p$ を水の密度 $\rho$ と重力加速度 $g$ で割った値である。
\[ \text{pressure head} = \frac{p}{\rho g} \](5)
正解は(リ)水スラストである。
水スラスト(hydraulic thrust)は,水車またはポンプの羽根車に働く水圧力の総和をいう。軸スラストとラジアルスラストに大別できるが,通常,軸スラストの方が値は大きく,設計上重要であるので,軸スラストと同意語で使われることが多い。(出典)機械工学辞典
参考文献
- 水力発電所の入口弁と型式と機能(目指せ!電気主任技術者~解説ノート~)
問2 地熱発電
文中の に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選び,「解答と解説を表示」をクリックすると,正誤判定ができます。
地熱発電は,地下の (1) に向けて生産井を掘削し,そこから得られる二相流体を用いて蒸気タービンを駆動し発電を行う方式である。
生産井から得られた二相流体は気水分離器で蒸気と熱水に分けられるが,熱水の割合が比較的大きい場合が多いため,(2) で圧力を下げ熱水から蒸気を得ることにより,出力増加を図る方式が広く用いられている。そこで得られた蒸気は,気水分離器から得られた蒸気とともに,蒸気タービンで膨張し発電機を回す。また,タービン排気は混合復水器を用いて凝縮され,その凝縮水は (3) で温度を下げ,その一部を復水器の冷却水として用いる方式が広く採用されている。ここに (3) を用いるのは,地熱発電所では冷却水を得ることが難しい場合が多いことによる。(2) で分離された熱水は,(4) を通して地中に戻す。
なお地熱発電では,低温の熱水が保有するエネルギーを有効に利用するため,沸点の低い作動媒体を用いてタービンを回す (5) 発電を採用している例もある。
問2 解答と解説
地熱発電(geothermal generation)は,平成24年度 問2「地熱発電の発電方式」以来の出題である。
地熱発電の仕組みは基本的には火力発電と同じであり,ボイラの代わりに,地下深部の地熱貯留層から採取される地熱流体を用いて発電する。適正な地熱貯留層が形成されるには,地層が高温であるだけでは不十分で,流体を貯める器となる割れ目,流体を地表へ移送,利用するのに不可欠な水の 3 条件が満たされる必要がある。高温であっても他の条件に恵まれない地熱地帯では,高水圧を注水して人工的に熱水系を造成する技術(高温岩体発電)が用いられる。
(1)
正解は(ル)地熱貯留層である。
(2)
正解は(リ)フラッシャである。
(3)
正解は(ヲ)冷却塔である。
(4)
正解は(ハ)還元井である。
(5)
正解は(カ)バイナリーサイクルである。
バイナリーサイクル発電(binary cycle generation)
従来の地熱発電方式は,およそ 200 °C 以上の高温の地熱流体から得られる上記のみを対象としている。このため通常,上記の数倍程度随伴する熱水は,その熱エネルギーが十分に利用されずに地下に還元されている。また自噴力が弱いか,または自噴しないため熱水資源を利用することなく放置される坑井も数多い。バイナリー発電方式は,このような未利用熱源のもつ熱エネルギーを,熱交換器を介して低沸点媒体(ペンタン等)に伝え,媒体を加熱蒸発させ,その高圧の蒸気によってタービンを駆動し発電する方式である。
加熱源としての蒸気・熱水サイクルとペンタン等を用いた媒体サイクルの二つの熱サイクルを有していることから,「二つの」という意味を持つバイナリー(Binary)発電方式と呼ばれている。
参考文献
- 地熱発電(目指せ!電気主任技術者~解説ノート~)
問3 電力系統安定化装置(PSS)
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電力系統安定化装置は,発電機の動揺を検出して,発電機 (1) への補助信号を生成し,動揺を減衰させることを目的とした装置である。
補助信号の入力としては,電力系統の特性に応じて,発電機出力変化,(2) ,周波数変化のいずれか,あるいは,これらの内の 2 種類の組み合わせが用いられている。補助信号は,フィルタと (3) 補償回路などを介して,(1) に入力される。
電力系統安定化装置は (4) の向上に寄与するため,(5) 等に採用されている。
問3 解答と解説
系統安定化装置(PSS : Power System Stabilizer)に関する問題である。
系統事故等のじょう乱時に,同期発電機の励磁を迅速かつ適切に制御することで出力電力の過渡動揺(発電機相差角の動揺)を抑制することができる。そのために AVR(自動電圧調整装置,Automatic Voltage Regulator)を含む励磁系の応答を高めた超速応励磁方式が採用されている。しかしながら,速応性を高めていくと,動揺の第一波は抑制できるものの第二波以降の減衰が悪くなって振動が長時間継続する弱制動現象が発生する傾向があり,場合によっては振動が増大して脱調に至ることもある。
この弱制動現象を抑制するために励磁を動的に調整し,電力動揺の減衰性(制動力)を高める機能を持つ PSS(電力系統安定化装置,Power System Stabilizer)を AVR に付加する方策が広く適用されている。下図に PSS 装置の概要を示す。本装置は電力動揺 $\Delta P$ を検出する代表的な $\Delta P$ 形と呼ばれるものであり,$\Delta P$ 検出装置で検出した $\Delta P$ に対して補償装置で適切な利得と位相補償を施して補助信号を作成し AVR の入力に加算して励磁を動的に制御することで,動揺を減衰させる制動トルクが発生するようにしている。

なお,検出信号として $\Delta P$ の代わりに発電機回転数偏差 $\Delta \omega$ を用いる $\Delta \omega$ 形もある。減衰効果を示す動揺周期が $\Delta P$ 形と異なることから,広範囲の動揺秋期に対応するために両方を組み合わせる $\Delta P + \Delta \omega$ 形も用いられるようになっている。
参考
- 伊藤 秀之(富士電機(株)),「用語解説 第83回テーマ : PSS (電力系統安定化装置)」
(1)
正解は(ワ)AVRである。
AVR は,Automatic Voltage Regulator の略で,自動電圧調整装置である。
(2)
正解は(リ)軸回転速度変化である。
(3)
正解は(ホ)位相である。
(4)
正解は(ニ)同期安定性である。
(5)
正解は(ヲ)火力発電機である。
参考文献
- 電力系統安定化装置(PSS)(目指せ!電気主任技術者~解説ノート~)
問4 電力系統の中性点接地による異常電圧抑制
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電力系統に 1 線地絡故障のような不平衡故障が起こると変圧器や回転機の三相巻線の (1) の中性点接地を経由して大地を帰路とする地絡電流が流れる。中性点と大地との接地インピーダンスを小さくすると,地絡電流を検出する保護リレーの動作が確実となり,(2) の電位上昇を抑えることができて,機器の絶縁レベルを軽減できる。その反面,近辺での通信線路に発生する (3) が大きくなる。
一方で,接地インピーダンスを大きくすると,1 線地絡故障の場合には,(2) の対地電圧は相電圧の (4) 倍まで上昇するとともに,長距離線路では対地静電容量が大きいために (5) が発生して機器の絶縁を脅かす過渡的異常電圧が生じることがある。
問4 解答と解説
類題は,平成18年度 問7「電力系統の中性点接地方式」である。
(1)
正解は(ヌ)Y 結線である。
選択できるのは,(リ)Δ 結線,(ヌ)Y 結線,(ヨ)V 結線である。変圧器や回転機の三相巻線に用いられ,中性点を接地できるのは(ヌ)Y 結線である。
(2)
正解は(ヘ)健全相である。
中性点と大地との接地インピーダンスを小さくすると,直接接地方式となる。直接接地方式の特徴として,地絡電流を検出する保護リレーの動作が確実となり,健全相の電位上昇を抑えることができ,機器絶縁レベルを軽減できる。
(3)
正解は(ニ)電磁誘導電圧である。
詳しくは,目指せ!電気通信主任技術者 専門的分野・通信線路 対策ノート「誘導対策」参照。
(4)
正解は(ヲ)$\sqrt{3}$である。
中性点と大地との接地インピーダンスを小さくすると,非接地方式となる。
(5)
正解は(ホ)間欠アーク地絡である。
長距離の送電線となると,1 線地絡時,故障点からみた零相回路における対地充電容量の影響によって健全相の電圧がさらに上昇し,間欠的にアーク地絡となり異常電圧を発生することがある。
参考文献
- 電力系統の中性点接地による異常電圧抑制(目指せ!電気主任技術者~解説ノート~)
問5 火力発電所に用いられる非常用電源設備
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火力発電所において外部の交流電源が喪失した場合でもユニットを (1) 停止させるための非常用電源として直流,交流電源が設置されている。
直流電源として蓄電池が使用され,その負荷としては,重要な (2) ,および必要最小限の非常用電動機負荷がある。
蓄電池の容量は停電中に供給する負荷並びに停電の (3) を想定し,更に経年変化,温度変化,電圧降下を勘案して決定される。
交流電源については,主に (4) やガスタービン発電機が設置され,その負荷としては,タービン油ポンプ,ターニングギアモータ,(5) などがある。
問5 解答と解説
(1)
正解は(ヌ)安全にである。
(2)
正解は(ホ)保護・制御回路である。
(3)
正解は(ワ)継続時間である。
(4)
正解は(リ)ディーゼル発電機である。
(5)
正解は(ヲ)密封油ポンプである。
問6 変電所の調相設備
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電力用コンデンサは (1) 相分の無効電力を供給し,(2) 相分の無効電力を消費するために使用される。その構造はアルミニウムはく電極と誘電体を交互に重ねたものである。分路リアクトルは (2) 相分の無効電力を供給し,(1) 相分の無効電力を消費するために使用される。その構造には変圧器と同様に鉄心とコイルからなるものと,空心のものがある。
分路リアクトルや電力用コンデンサは専用の開閉器により開閉するが,その開閉する頻度を変圧器用の開閉器と比べると (3) である。
同期調相機は,同期電動機を (4) 負荷で運転し,界磁電流を調整して電機子電流を (1) 相にも (2) 相にもすることができる。
これらの調相設備は送電回路に (5) に接続され,変圧器の三次側や母線に設置される。
問6 解答と解説
(1)
正解は(ヨ)遅である。
電力用コンデンサは遅相分の無効電力を供給し,進相分の無効電力を消費するために使用される。
(2)
正解は(ニ)進である。
分路リアクトルは進相分の無効電力を供給し,遅相分の無効電力を消費するために使用される。
(3)
正解は(ヲ)多頻度である。
(4)
正解は(ロ)無である。
(5)
正解は(チ)並列である。
参考文献
- 調相設備(目指せ!電気主任技術者~解説ノート~)
問7 配電線の保護
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我が国の配電線は架空線が多く,年度により若干の差異はあるものの雷,風水害,氷雪,(1) など自然災害の影響を大きく受けることが多く,約半数を占める。その他の事故の要因としては,設備不備,保守不備や自動車の衝突,クレーン車の接触などの故意過失,(2) の接触が主な原因としてあげられる。
一方で,地中線は都市の美観,(3) の観点などから都市部を中心に増加しており,主な事故の原因は道路工事における故意過失や設備不備,保守不備があげられる。
下表は,高圧配電線の事故の種類,事故時に動作する保護装置,事故の主な原因についてまとめたものである。
事故の種類 | 動作する保護装置 | 事故の内容 | 主な事故の原因 |
---|---|---|---|
短絡事故 | 過電流リレー | 線間短絡 |
|
異相地絡事故 | 過電流リレー | 線間短絡 |
|
地絡リレー | 地絡 | ||
地絡事故 | 地絡リレー | 地絡 |
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問7 解答と解説
(1)
正解は(ヌ)塩害である。
(2)
正解は(ヲ)樹木鳥獣である。
(3)
正解は(ル)防災上である。
(4)
正解は(ロ)支持物である。
(5)
正解は(ニ)雷による碍子の亀裂である。
参考文献
- 配電系統の故障と保護(目指せ!電気主任技術者~解説ノート~)