平成24年度 第2種 機械

2022年2月27日更新

目次

  1. 三相誘導電動機の滑り
  2. 交流遮断器
  3. ユニット多重インバータ
  4. 電気加工
  5. 単相誘導電動機
  6. 電球形 LED ランプ
  7. 電気化学システム
  8. D-A 変換回路

問1 三相誘導電動機の滑り

0 < $s$ < 1 の領域は通常の誘導電動機動作で,回転子は回転磁界と同方向に同期速度以下で回転し,発生トルクは正である。

$s$ < 0 の領域では,回転子は回転磁界と同方向に同期速度以上で回転する。したがって,入力はであり,トルクは回転方向と反対方向となるので,電動機運転では制動トルクとなる。このため回転体の運動エネルギーを吸収して電源に電力として返還されるので,効率よく制動できる。これを回生制動という。巻上機,クレーンなどで重量物を降下させる場合に使用される。また,この領域では誘導発電機として動作するが,励磁電流を必要とするため単独では発電できない。系統と連系する場合,機械的な入力が変動しても商用周波数の電力が得られる。構造が簡単で低コストであるかご形誘導発電機が風力発電に広く用いられてきた。かご形誘導発電機は一次端子電圧が一定ならば,その滑りだけで出力が決まるため,風速の変動によって出力が変動する。

$s$ > 1 の領域では,回転子が回転磁界と反対方向に回転する。発生トルクは正であるが回転子の回転方向と反対であるため,機械的出力は負となる。これを誘導ブレーキといい,重量物の低速度巻下ろしなどに利用される。機械的出力は負であるから,動力は外部から供給され,この動力及び一次側から供給される入力は主として二次抵抗で熱として消費される。

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問2 交流遮断器

遮断器は,接触子を開極したときに極間に発生するアークを消滅させて絶縁状態に変化させることによって電流を遮断する。

遮断器は,アークを限定された領域に制限し制御するために,通常,接触子を消弧室に収納し,その内部を油,空気,六ふっ化硫黄ガスなどで満たしているか,又は高真空にしている。

ガス遮断器の場合,遮断して電流が零値となった直後の数マイクロ秒は,極間に導電性の高い高温ガスが存在しているため,急しゅんな過渡回復電圧が加わると残留電流とよばれる微小電流がアークの存在していた空間に流れる。この電流によって空間に注入されるエネルギーがガスの熱伝導などによる冷却能力を上回らないようにして,熱的再発弧が発生することがないようにしている。さらにその後も極間の絶縁耐力が過渡回復電圧を常時上回ることで遮断過程が完了する。

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  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「遮断器

問3 ユニット多重インバータ

図 1 は,ユニット $n$ 多重インバータ及びその個々のユニットの主回路構成を示す。ユニットには三相ダイオードブリッジ整流器及び単相インバータが含まれ,ユニット $n$ 多重インバータの Y 結線三相出力の各相には $n$ 段のユニットが直列接続される。直列接続されたユニットの間を絶縁するために,入力側は変圧器の別巻線に接続している。また,ダイオードブリッジ整流器が出力する直流電圧はほぼ一定であるが,スイッチング回路が最少であるパルス幅制御によって出力の交流電圧を制御することができる。

以下に $n$ = 2 の場合を考える。図 2 は,そのときの出力電圧の合成の様子を示す。PWM 制御を用いなくても,複数の電圧ステップがあるので,高調波電圧を低減することができる。例えば,5 次高調波を除去するためには,二つの電圧の位相差を $\phi$ とすると,

\[ \sin{5\omega t} + \sin(5\omega t - \phi)=0 \]

の関係があればよい。7 次高調波に対しても同様のことがいえる。したがって,それらの間の値 $\phi$ = π/6 [rad] を選ぶと,5 次及び 7 次高調波を零にはできないが,大幅に減らすことができる。一方,$n$ = 2 としたユニット 2 多重インバータのこのときの基本波電圧の大きさは,一つのユニットが出力する基本波電圧の大きさの 2 倍未満の電圧となる。

この回路構成では直列のユニット段数 $n$ を大きくすることによって出力電圧を高くすることができる。したがって,3.3 [kV], 6.6 [kV] などの高圧商用交流電源で駆動されている電動機を可変速化して省エネルギー運転する用途に使用されることが多い。

ユニット n 多重インバータ及びその個々のユニットの主回路構成
ユニット n 多重インバータ及びその個々のユニットの主回路構成
出力電圧の合成の様子
出力電圧の合成の様子

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問4 電気加工

  1. 放電加工は,水や油などの高い絶縁性をもつ加工液中で被加工物と加工電極間にパルス状のアーク放電を繰り返し発生させることによって加工するのがその原理である。放電加工には大別して二つの方式がある。一つは総型の電極を転写加工する形彫放電加工であり,もう一つはワイヤ電極を走行させながら工作物を糸のこ式に加工するワイヤ放電加工である。
  2. ビーム加工には電子ビーム加工,イオンビーム加工などがある。電子ビームの発生源には金属中の自由電子などがあり,金属が高温に加熱されるとこの電子が熱電子として外部に放出され,適当な分布をもつ電界によって一定方向に集中・加速されて指向性に優れたビームになる。飛行する電子の 1 個当たりのエネルギー $E$ は,電子の電荷を $e$,加工電圧を $V$ とすると $E=eV$ のように表わされる。このビームが電磁レンズを用いることによって収束や方向転換など空間的に制御されて被加工物に照射され,加熱加工できる。
  3. レーザ加工は使用環境を問わず,非接触で精密かつ高速の加工ができることが特徴である。産業用途によく利用されている加工用レーザは,赤外域の波長をもつ YAG レーザ,CO2 レーザなどがある。加工材料である金属にレーザビームを照射すると,一部は表面で反射され,残りは内部を透過しながら吸収される結果,光エネルギーが熱エネルギーに変換される。赤外域の光の金属への吸収率は導電率の平方根に反比例し,一般的には温度上昇によって導電率が低下するので吸収率が増加することになり,加熱が加速される。

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  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「電気加工

問5 単相誘導電動機

一般に,単相交流電源に接続して用いる誘導電動機を単相誘導電動機と呼ぶ。単相交流によって発生する交番磁界をかご形誘導電動機の回転子に印加した場合,正回転する磁界と逆回転する磁界とに分けて考えることができ,それぞれの磁界に対する滑りが異なるため,一度正方向又は逆方向に回転すると,回転方向のトルクが増加し,継続して回転を続ける。

図 1 は,くま取りコイル形誘導電動機の原理図である。集中巻された一次コイル磁極に短絡コイルをはめ込んでいる。短絡コイルの漏れ磁束を無視し,短絡コイルを通過しない磁束を $\phi_\text{A}$,通過する磁束を $\phi_\text{B}$ とすると,図 2 の励磁電流に関する等価回路を得る。ただし,$V_1$ は一次コイルの供給電圧,${r_\text{S}}'$ は短絡コイルの抵抗の一次換算値,$E_\text{A}$ 及び $E_\text{B}$ は磁束 $\phi_\text{A}$ 及び $\phi_\text{B}$ に対する起電力である。また,鉄損及び巻線抵抗は無視している。短絡コイルには起電力 $E_\text{B}$ と同位相の短絡電流 ${I_\text{S}}'$ が流れる。一方,一次コイルには,$\phi_\text{B}$ を励起する電流 $I_\text{B}$ と短絡電流 ${I_\text{S}}'$ との和が流れ,起電力 $E_\text{A}$ は $E_\text{B}$ よりも進み位相となる。したがって,磁束 $\phi_\text{B}$ は $\phi_\text{A}$ に対して遅れ位相となり,図 1 の回転子に発生するトルクは時計方向となる。

くま取りコイル形誘導電動機の原理図
図 1
励磁電流に関する等価回路
図 2

参考文献

問6 電球形 LED ランプ

電球形 LED ランプは,LED,点灯装置及び口金で構成され,安全性及び性能が損なわれないように用意に分解できない構造を採っている。また,一般白熱電球代替用の外観は,口金,光拡散用グローブ及び放熱用の筐体で構成される。

LED は,半導体であるので,その接合部の温度が特性の変化や信頼性に最も影響する。特に一般に使用される白色 LED では,消費する電力のうち可視光に変換されるものは,高いものでも三十数パーセント程度であり,その他のすべての電力は損失となる。このため筐体の放熱設計が重要になる。

一般に自然空冷の照明器具の使用環境は 35 [°C] 以下の温度であることを基本に設計されているので,電球形 LED ランプが密閉される照明器具,埋込み形照明器具などでは,その使用に制限を受けるものがある。

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問7 電気化学システム

電気エネルギーと化学エネルギーとの直接変換を行う電気化学システムは,基本構成として電子伝導体である二つの電極とイオン伝導体である電解質とから構成されている。二つの電極はアノードとカソードと呼ばれ,各々役目が異なる。アノードでは酸化反応が起こる。電池反応においては酸化剤と還元剤との反応エネルギーが電気エネルギーとして外部に取り出される。このとき,外部に取り出された電気量は,消費した酸化剤及び還元剤の物質量に比例する。これをファラデーの法則という。電池の放電において,酸化剤は極に用いられ,鉛蓄電池ではこの酸化剤として二酸化鉛が利用されている。

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問8 D-A 変換回路

計算機などの出力信号であるディジタル信号をアナログ信号に変換する回路は D-A 変換回路と呼ばれ,求められる変換の精度や変換時間などに応じて,さまざまな方式が採用される。

$R - 2R$ ラダー形は代表的な D-A 変換回路であり,二進数の各ビットに対して抵抗回路網のスイッチを切り換えて,出力電圧としてアナログ信号を得るものである。図の D-A 変換回路では,二進数 [101] は,3.125 [V] の出力を得ることになる。また,出力段の演算増幅器はボルテージホロワ回路と呼ばれ,出力側からの干渉を防ぐためのバッファである。

さらに,スイッチの切換えに伴う望ましくない過渡電圧はグリッチと呼ばれ,出力段にはローパスフィルタ回路を設ける必要があるが,そのフィルタの時定数による大きな遅れを発生させる場合がある。そのため,サンプルホールド回路を出力段に設け,D-A 変換回路の入力を切り換える際の直前の出力をサンプルホールド回路で保持し,ノイズがなくなった時点で,その保持を解除させる制御を行う構成も採用される。

D-A 変換回路
D-A 変換回路

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