平成26年度 第2種 機械

2022年2月11日更新

目次

  1. 直流機の整流作用
  2. 単相誘導電動機
  3. 無停電電源システムとその信頼性向上の方法
  4. アーク溶接
  5. 電気鉄道の直流電気車
  6. 光源又は照明器具の配光
  7. 鉛蓄電池
  8. コンピュータネットワークの LAN 機器

問1 直流機の整流作用

直流機では電機子巻線によって発生する交流を整流子によって直流に変えることを整流作用という。電機子が回転すると,隣り合った二つの整流子片がブラシで短絡される状態が生じ,その都度コイルの電流 $I_\text{C}$ はその方向を反転する。いま,回転している整流子の周辺速度を $v_\text{C}$ [m/s],ブラシの幅を $b$ [m],整流子間の絶縁マイカの厚さを $\delta$ [m] とすれば,整流時間(整流周期) $T_\text{C}$ [s] は次式で与えられる。

\[ T_\text{C}=\frac{b-\delta}{v_\text{C}} \]

主にコイルの自己インダクタンスによって,整流中に電流の反転による電流変化に応じてコイルに誘導起電力が生じる。これをリアクタンス電圧という。

整流時間 $T_\text{C}$ におけるコイル内の電流変化を示した図を整流曲線といい,主な曲線例を図に示す。図中 ② は直線整流といい,ブラシと整流子片間の電流が接触面積に比例する場合で電流変化の基準となるものである。① は電流の変化が遅く整流の終わり近くで電流が急変するので,リアクタンス電圧が発生し,ブラシの後端から火花を発生しやすい。④ は電流の変化が早すぎ,過整流という。③ は整流終了時の電流変化が小さく火花の発生を防ぐことができる。

良好な整流が得られないと整流子面の火花が激しくなり,整流子面を損傷させ,ブラシの磨耗を早めることになる。その対策として,主磁極間の幾何学的中性軸の位置に補極を取り付け,リアクタンス電圧を打ち消す方向に電圧を誘導して,良好な整流を得ることができる。これを電圧整流という。

整流曲線
整流曲線

参考文献

問2 単相誘導電動機

家庭用電気機器や小形作業機械など,三相電源がない場合に使用される単相誘導電動機は,固定子に単相巻線を施し,回転子はかご形にした構造の電動機である。

この単相巻線に交流電圧を加えると,交番磁束が発生する。この交番磁束は同期角速度 $\omega_\text{s}$ で互いに反対方向に回転する二つの回転磁束 $\phi_\text{f}$ 及び $\phi_\text{b}$ に分解することができる。各回転磁束の大きさは交番磁束の最大値の 1/2 倍である。

いま,回転子が無負荷の状態において角速度 $\omega$ で正回転しているとき,正方向の回転磁束 $\phi_\text{f}$ に対する滑りを $s$ とすると,普通の多相誘導電動機の場合と同様に滑り $s$ は,$\omega_s$ 及び $\omega$ を用いて表すと次式となる。

\[ s=\frac{\omega_s - \omega}{\omega_s} \]
・・・・・①

同様にして,逆方向の回転磁束 $\phi_\text{b}$ に対する滑り $s'$ は,$\omega_s$ 及び $\omega$ を用いて表すと次式となる。

\[ s'=\frac{\omega_s + \omega}{\omega_s} \]
・・・・・②

したがって,①,② 式によって $s'$ は,$s$ を用いて表すと

\[ s'=2-s \]

となる。

$\phi_\text{f}$ によって生じるトルクを $T_\text{f}$,$\phi_\text{b}$ によって生じるトルクを $T_\text{b}$ とすれば,両トルクは図に示すように,$s=1$ の点を対称の中心として互いに点対称のトルク特性となる。単相誘導電動機のトルク特性は,両トルクを合成した $T=T_\text{f}+T_\text{b}$ となる。この図から分かるように,静止時には始動トルクを生じないが,正方向又は逆方向のいずれかの方向に何らかの方法でわずかでも回転させるとその方向にトルクを生じて同期速度付近まで加速して運転を続ける。

点対称のトルク特性
点対称のトルク特性

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問3 無停電電源システムとその信頼性向上の方法

無停電電源システム(UPS:Uninterruptible Power Supply)の一つの基本構成である常時インバータ給電方式を単線系統図に示す。この UPS は,図の破線で囲まれた部分をここでは CVCF(Constant Voltage Constant Frequency)装置と定義すると,その直流回路に蓄電池を接続して,商用電源が停電した際のエネルギー源としている。

図に示すように,蓄電池を整流器とは別の充電器で充電し,サイリスタを用いて蓄電池を CVCF 装置と接続する方法は,直流スイッチ方式と呼ばれることがある。充電器によって蓄電池に適した条件で充電できるので,この方法は大容量の蓄電池をもつシステムなどで使われる。

常時インバータ給電方式の UPS の信頼性を向上する方法には,バイパス方式,並列冗長方式などがある。前者は運転している UPS が故障した際には,切換スイッチを使用して商用電源から直接負荷に給電する方法であり,その一例が図に示されている。切換スイッチ A 及び B にサイリスタなどを用いた半導体スイッチを使用すると回路を無瞬断で切り換えることができるが,常時のインバータ運転は商用電源と同期した運転であることが必要である。また,後者は,複数台の UPS を用いる方法であり,1 台の UPS が故障した場合に速やかにそれを検出して切り離すことによって,残りの健全な UPS で負荷に給電を続ける方法である。この方式を用いると,必要な負荷容量を複数台(n 台)の UPS の合計容量で給電する際に,信頼性を向上したシステムが n + 1 台だけの UPS で実現できる特長がある。

常時インバータ給電方式の単線系統図
単線系統図

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問4 アーク溶接

アーク溶接(arc welding)は,電極間にかかる電位差によって電極間に存在する気体が絶縁破壊し,電子が放出されて電流が流れる放電現象を利用した電気溶接の一つである。

大気中でアーク溶接を行う場合,溶融している金属に大量の窒素が溶け込み,溶接部分の機械強度を著しく低下させる。これを防ぐため大気をガスで遮へいする方法があり,そのガスには主として二酸化炭素・アルゴンが使用される。

アークの電圧-電流特性は,電流が小さい場合は負特性を示し,不安定である。しかし,アーク電流が一般的な溶接に用いられる 100 A 以上になると,アーク長が一定ならばアーク電圧も一定に近い。

アークの電気的性質は,直流アークが交流アークに比べ安定している。交流アークの不安定性の原因は,交流電流は半サイクルごとに零になり,その瞬間アークが一旦消滅することにある。そのため手溶接用の電源としては,アーク発生前には溶接機の電圧をある程度高くしておき,アーク発生後は電極間隔に変化があってもアーク電流を安定に維持できるよう,電源に垂下特性をもたせることが必要である。このため,電源には漏れリアクタンスの大きい変圧器が主に使用される。

参考文献

  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「アーク溶接

問5 電気鉄道の直流電気車

直流電気車の駆動電動機には大きな始動時のトルクが要求され,長い間,直流直巻電動機が使用されてきた。この電動機の制御に古くから使われているのは抵抗制御方式であるが,その後,パワー半導体デバイスの進化によってサイリスタを使用したチョッパ制御が導入され,電動機のきめ細かい制御が可能となり,エネルギー効率も向上した。

現在では,パワー半導体デバイスとして IGBT などを使用した大容量の可変電圧可変周波数変換装置が開発され,電動機の高度な制御が可能となっている。この電動機として,主に我が国では,構造が簡単で堅ろう,保守が容易な三相かご形誘導電動機が使用されており,1 台の変換装置で複数台の制御が容易である。また,その電動機の制御方式には,可変電圧可変周波数変換装置の出力電圧を V,出力周波数を f,電動機電流を IM,滑り周波数を fs とすると,定加速域ではV/f 一定・IM 一定・fs 可変制御,定出力域では V 一定・IM 一定・fs 可変制御,更に高速の特性域では V 一定・fs一定制御が一般的に適用されている。

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問6 光源又は照明器具の配光

光源又は照明器具の配光は,照明設計の有力な情報である。それらが照らす空間内の任意の点の照度,任意の方向の光束,照明器具から放射される全光束などを,これによって求めることができる。

配光は,光源が発散する光束を光度の空間分布として表したもので,光源を中心とした極座標系(鉛直角 θ,水平角 φ)で表示される。光源が置かれた中心を光中心と呼び,光中心を通る鉛直軸を灯軸という。灯軸を通る断面配光を鉛直配光という。

ある点の照度は,配光によってある点方向の光度が分かれば,逐点法によって算出することができ,照度は光源からその点までの距離の 2 乗に反比例する。

任意の方向の光束 Φ は,光度X,立体角を ω とすれば,Φ = X·ω である。立体角は,光中心から見たある面に対する空間的広がりの度合いであり,単位はステラジアン(記号:sr)である。光中心から半径 r の球を仮定し,その球表面上にある面積を S とすれば,その面を切り取る立体角は ω = S/r2 である。もし,S が光中心を包囲した閉曲面であれば,立体角は最大の 4π sr になる。

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問7 鉛蓄電池

鉛蓄電池は 1859 年,フランスのプランテの発明による二次電池で,150 年以上の歴史をもち,自動車の始動用を始め,多くのところで利用されている。

鉛蓄電池の正極活物質としては二酸化鉛が用いられ,硫酸水溶液が電解液として用いられる。ここでの放電反応は次式で表される。

PbO2 + 2H2SO4 + Pb → PbSO4 + 2H2O + PbSO4

この電池で得られる理論電気量はファラデーの法則に従うが,ここではファラデー定数が重要な因子である。この定数として一般に 96 500 C/mol が用いられるが,二次電池の分野では電気量を [A·h] で表すことも多く,ファラデー定数をこの単位で表すと 26.8 A·h/mol となる。鉛蓄電池の電圧は水溶液を用いる電池として最も高く,公称電圧は 2.0 V である。この電圧は水の理論分解電圧よりも高く,自己放電が大きいことの一つの理由となっている。鉛蓄電池の放電の状態を知るためには電池電圧を測る方法のほかに,電解液の比重を測る方法も利用されている。この比重が小さいときには電池の放電が進んでいると判断できる。

[C/mol] → [A·h/mol] に換算するためには,1 [h] = 3 600 [sec] で割ればよい。

96 500 [C/mol] ÷ 3600 [sec] = 26.8 [A·h/mol]

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問8 コンピュータネットワークの LAN 機器

コンピュータネットワークの LAN(Local Area Network)機器は,OSI(Open Systems Interconnection)参照モデルの各層に対応させた機能で分類することができる。主要な LAN 機器として次のものがある。

リピータ

OSI 参照モデルの物理層の信号の中継を行う装置である。LAN 上の減衰した信号のレベル補正,ひずみ補正などを行う。

ブリッジ:

アクセス方式の異なる LAN 同士を接続する装置の一つであり,OSI 参照モデルの データリンク層のレベルで,データフレームを中継する。具体的には,データが送られてくると,送信先の MAC アドレス(Media Access Control address)が含まれる LAN にだけデータを送るアドレスフィルタリング機能を備えている。

ルータ:

OSI 参照モデルのネットワーク層のプロトコルに基づいて,データパケットの中継・交換を行う装置である。送られてきたデータの IP アドレス(Internet Protocol address)を読み取り,経路選択(ルーティング)を行う。

ゲートウェイ:

OSI 参照モデルの第 4 層にて,異なるプロトコルで動作している他のシステムと接続するために,プロトコル変換をする装置である。

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