令和2年度 第2種 機械

2020年9月24日作成,2022年1月22日更新

目次

  1. 同期電動機の始動法
  2. 降圧チョッパ
  3. 誘導電動機の速度制御
  4. リチウムイオン二次電池
  5. 変圧器における誘導起電力と磁束
  6. ランベルトの余弦法則,光度と輝度との関係
  7. 誘導加熱
  8. オペレーティングシステムのタスク管理

問1 同期電動機の始動法

同期電動機には以下のような始動方法がある。

自己始動法は,回転子に施されている制動巻線を,誘導電動機の二次巻線として始動トルクを発生させ,同期速度付近に達したとき,界磁巻線に直流励磁を与えて,引入れトルクによって同期化する方法である。始動時には,回転磁束により界磁巻線に高電圧を誘導し,その絶縁破壊の恐れがあるため,適当な抵抗を通じて界磁巻線を短絡しておく必要がある。この始動法の場合,定格電圧,定格周波数の電源電圧を直接加えて始動する全電圧始動と,始動時に始動電流を抑制するために,電動機電機子電圧を低減して始動する低減電圧始動がある。

始動電動機法は,主機と同軸に設備した小形の始動電動機によって主機を同期速度まで加速してから交流電源に接続して同期化させる方法である。始動電動機として誘導機を用いる場合は,主機よりも 2 ~ 4 極程度極数が少ないものが使われる。

低周波始動法は,始動用電源として可変周波数の電源を使用し,定格周波数の 25 ~ 30 % の周波数で同期化し,その後,定格周波数まで周波数を上昇させてから主電源に同期投入する方法である。

同期電動機(synchronous motor)は,電動機として動作する同期機である。

始動電動機始動(starting-motor starting)
直結された始動電動機によって同期電動機を指導する方法。
低周波始動(low frequency starting)
同期電動機を,可変周波数電源で低周波より始動する方法で,一般につぎの方法がある。 a) 低周波自己始動法 電源を低周波状態に保ち,同期電動機を接続して自己始動し,同期化した後,電源電圧および周波数を上昇させて加速する方法。 b) 同期始動法 始動用電源発電機と同期電動機の電機子回路を接続し,両者の界磁を適当な比率で励磁しておいたのち電源発電機を徐々に始動して同期状態を保ちながら回転速度を上昇させる方法。 c) サイリスタ始動法 同期電動機の始動電源にサイリスタ周波数変換器を使用した始動法。

参考文献

問2 降圧チョッパ

図 1 は降圧チョッパの回路図である。この回路は直流電圧源 $V_\text{dc}$ を入力とし,出力電流 $I_\text{dc}$ が半導体スイッチ S とダイオードの間を転流する代表的な電力変換回路である。インダクタンスは十分に大きく,電流 $I_\text{dc}$ にリプル成分は無いものとする。また,ダイオードの順電圧降下は無視する。

図 1 の半導体スイッチ S を理想的であると仮定した場合の電流 $i_\text{s}$ と電圧 $v_\text{s}$ の波形を図 2 に示す。スイッチ S は定数 $D$($0 \le D \le 1$)とスイッチング周期 $T$ の積である $DT$ の期間に導通し,$D$ を通流率と呼ぶ。ダイオード電圧 $v$ の平均値 $V$ は $V=$ $DV_\text{dc}$ と表され,$D$ を変化させることによってダイオード電圧 $v$ の平均値を変えることができる。図 2 のどの時刻でも,理想的な半導体スイッチ S の電流 $i_\text{s}$ と電圧 $v_\text{s}$ の一方は零であることから,スイッチング損失は発生しない。

半導体スイッチ S のターンオン期間とターンオフ期間を考慮するため,図 3 に示す電流 $i_\text{s}$ と電圧 $v_\text{s}$ のモデル波形を考えてみよう。ターンオフ期間とターンオン期間には,電流 $i_\text{s}$ と電圧 $v_\text{s}$ が共に正である期間が存在する。図 3 において,ターンオフ期間では $v_\text{s} = V_\text{dc}$ となった後に電流 $i_\text{s}$ は減少し,ターンオン機関では $i_\text{s}=I_\text{dc}$ となった後に電圧 $v_\text{s}$ は低下する。そのため,半導体スイッチ S は損失を発生し,そのエネルギーは電流 $i_\text{s}$ と電圧 $v_\text{s}$ の積 $i_\text{s} v_\text{s}$ の面積によって求められる。電流 $i_\text{s}$ と電圧 $v_\text{s}$ の変化は直線的と仮定すると,1 回のターンオフ期間の損失 $W_\text{off}$ [J] は $W_\text{off}=$ $\displaystyle \frac{1}{2}V_\text{dc}I_\text{dc}T_2$ である。1 回のターンオン期間の損失 $W_\text{on}$ [J] も同様に求められる。したがって,半導体スイッチ S におけるスイッチング損失 $P_\text{s}$ [W] は $P_\text{s}=$ $\displaystyle \frac{W_\text{off}+W_\text{on}}{T}$ である。

図1
図1
図2
図2
図3
図3
降圧チョッパ(step-down converter)
入力電圧より低い出力電圧に変換する直接直流変換装置。降圧形直流直接変換装置とも呼ぶ。

問3 誘導電動機の速度制御

誘導電動機の速度を自由に,かつ広範囲に制御できれば,回転機の可変速制御を必要とする分野で広く応用できる。ここに誘導電動機の同期角速度を $\omega_\text{s}$,極数を $2p$,滑りを $s$,電源周波数を $f$ とすると,回転角速度 $\omega_{m}$ は,次のように表現される。

\[ \omega_\text{m}=\omega_\text{s}(1-s)=\frac{2\pi f}{p}(1-s) \]
・・・・・①

① 式より,極数,滑りあるいは周波数のいずれかを変化できれば,誘導電動機の速度は制御できることになる。

極数を変化させる方法はあらかじめ極数が変更できるように巻線の接続法を工夫しておき,必要に応じてスイッチで切り換えることにより変える方法であるが,段階的な制御であり連続した可変速を必要とする用途には不向きである。

滑りを変化させる方式では,誘導電動機の発生トルクが入力電圧の 2 乗に比例することを利用する一次電圧制御方がある。

本方式は滑りの増加とともに電動機の効率が悪化するので,電動機の効率を重視する用途には不向きである。

周波数を連続的に制御する方式は,近年の自励式インバータ電源(電力変換器)による駆動が可能となったことにより広く採用されるようになった。例えばオープンループ制御のインバータ電源による駆動では $V/f$ 一定制御が行われ,電動機の磁束が飽和しないようにしている。さらに精密な回転機の制御が求められる時には,ベクトル制御による高精度制御が行われる。

誘導電動機(induction motor)は,電動機として動作する誘導機である。

参考文献

  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「誘導電動機

問4 リチウムイオン二次電池

リチウムイオン二次電池は軽量,コンパクトであることからモバイル機器から電気自動車まで広く用いられている。この電池は,公称電圧が約 3.7 V の高性能電池である。正極にはコバルト酸リチウムなどのリチウム遷移金属酸化物,負極にはカーボン,電解質には高い電圧でも分解しない有機物系の材料を用いる。放電時には,正極の活物質が還元して電解質中のリチウムイオンが取り込まれ,同時に負極のカーボンにインターカレーションしているリチウムイオンが放出される。大きな出力が必要な場合,通常より大電流放電されるが,この時のセル電圧は公称電圧より低い。電池は応用システムの電流や電圧の要求に従って直並列に接続した電池システムとして用いられる。ある電池の重量エネルギー密度が 175 W·h/kg であり,平均電圧 3.5 V で 500 mA での放電を 10 h 行えるとすると,この電池の重量は約 100 g となる。

参考文献

問5 変圧器における誘導起電力と磁束

一次及び二次巻線を施した環状鉄心において,一次巻線の巻線を $N_1$ とする。二次巻線を開放したまま,一次巻線に供給電圧として角周波数 $\omega$,実効値 $V_1$ の交流電圧 $v_1 (t)=\sqrt{2} V_1 \sin{\omega t}$ を加えると,この巻線に流れる励磁電流 $i_0$ は,巻線の抵抗及び鉄損を無視すれば,次式で表される。

\[ i_0 (t)=\frac{\sqrt{2}V_1}{Z}\sin(\omega t - \frac{\pi}{2}) \]
・・・・・①

ここで,$Z$ は一次巻線のインピーダンスである。

磁気回路の長さを $l$,断面積を $A$,透磁率を $\mu$(一定)と仮定すれば,この電流 $i_0$ によって鉄心中に生じる交番磁界 $\phi$ は起磁力を磁気抵抗で除すことで求められ,

\[ \phi (t)=\frac{N_1 \mu A}{l}i_0 (t) \]
・・・・・②

① 及び ② 式から

\[ \phi (t)=\Phi_\text{m}\sin(\omega t - \frac{\pi}{2}) \]
・・・・・③

ここで,$\Phi_\text{m}$ は $\phi (t)$ の最大値であり,$\Phi_\text{m}=$ $\displaystyle \frac{\sqrt{2}V_1}{\omega N_1}$ である。

その結果,一次巻線に誘導起電力 $e_1$ が発生するが,$e_1$ は $\phi$ の変化を妨げる方向に誘導されたとすると,次の関係式が成り立つ。

\[ v_1 (t)=-e_1 (t)=N_1 \frac{\text{d}\phi (t)}{\text{d}t} \]
・・・・・④

③ 及び ④ 式から,$e_1 (t)$ は次式となる。

\[ e_1 (t)=\sqrt{2}E_1 \sin{\omega t} \]

ただし,$E_1$ は $e_1 (t)$ の実効値であり,周波数を $f$ とすると次式となる。

\[ E_1 = \sqrt{2}\pi f N_1 \Phi_\text{m} \]

実際の電力用変圧器においては,鉄心の飽和特性とヒステリシス特性が含まれるため,鉄心の磁気特性は非直線性になり,巻線に正弦波電圧を加えたとしても電流 $i_0$ は高調波成分を含んだひずみ波となる。

問6 ランベルトの余弦法則,光度と輝度との関係

面積 $\text{d}S$,反射率 $\rho$ の微小平面板があり,その片面だけが照度 $E$ で照らされ,輝度 $L$ で輝いている。この輝いている面の法線方向の光度を $\text{d}I_\text{n}$ とすれば,面の輝きを表す輝度 $L$ は $\displaystyle L=\frac{\text{d}I_\text{n}}{\text{d}S}$ で与えられる。単位はカンデラ毎平方メートル [cd/m2] である。

いま,この面を法線より斜め $\theta$ 方向から見た輝度 $L_\theta$ は,投影面積 $\text{d}S_\theta$ が $\text{d}S_\theta =$ $\text{d}S\cdot\cos{\theta}$ となり,その方向の光度を $\text{d}I_\theta$ とすれば,$\displaystyle L=\frac{\text{d}I_\text{n}}{\text{d}S}$ と同様にして求まる。もし,$L=L_\theta$ であれば,この面の鉛直配光は,$\text{d}I_\theta=\text{d}I_\text{n}\cdot\cos{\theta}$ となる関係が成立するので,$\text{d}I_\text{n}$ を直径とする円形となる。これをランベルトの余弦法則という。

どの方向から見ても輝度の等しい面を均等拡散面といい,ランベルトの余弦法則に従う面である。また,この面では,照度 $E$ と輝度 $L$ との間に $\rho E = \pi L$ なる関係がある。

参考文献

  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「放射と光

問7 誘導加熱

誘導加熱は,導電性の被加熱物を交番磁界中に置くことで生じる渦電流損によって被加熱物自体が発熱し,加熱される方式である。金属の溶解のほか,金属表面の焼入れなどに用いられている。

渦電流損として発生する熱量は,交番磁束の大きさの 2 乗に比例する。このほか,交番磁束の周波数,被加熱物の透磁率及び導電率にも依存する。また,印加する交番磁界の周波数を高くすると,発熱は被加熱物の表面近傍に集中するようになる。この現象は表皮効果によるものである。また,その指標として浸透深さがある。浸透深さは,透磁率と導電率の積の平方根に反比例する。

参考文献

  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「電気加熱

問8 オペレーティングシステムのタスク管理

オペレーティングシステムは,複数のタスクに対して,優先度に基づき CPU やメモリ,通信インターフェースなどのハードウェア資源を効率的に割り当て,システム全体の遊び時間を少なくすることでスループットを高めている。このように,タスクを管理して,ハードウェア資源を有効活用する機能をタスク管理という。

タスクは生成されると,実行可能状態となる。実行状態にあるタスクから CPU の占有が解かれると,タスクディスパッチャが実行可能状態にあるタスクの中から最も優先度の高いタスクに CPU の使用権を与え,実行状態に移行させる。

複数のタスクを切替えて実行する場合,タスクの切替えタイミングが重要となる。一例として,外部や内部の割込みにより発生する状態変化のタイミングを用いるイベントドリブン方式がある。

タスクの実行順序は,FIFO と呼ばれる構造の待ち行列にタスクを格納して処理を行う到着順方式や,処理時間の短いタスクを最初に実行する処理時間順方式がある。その他に,あらかじめタスクに優先度を付与しておき,優先順位に従って処理する方法がある。しかしこの方式では,優先度の低いタスクが実行されないスタベーションと呼ばれる現象が起こる可能性があり,動的に優先度を変更する対策などが行われる。

スループット(throughput)
機器や通信路などの性能を表す特製の一つで,単位時間あたりに処理できる量のこと。
FIFO(先入先出法 : First-In First-Out)
複数の対象を取り扱う順序を表した用語で,最初の入れたものを最初に取り出す(先に入れたものを先に出す)方式のこと。
スタベーション(starvation)
プロセス(またはスレッド)が必要なリソースをほぼ永久的に獲得できないことをいう。starvation とは,「飢餓」とも訳される。

参考文献

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