令和4年度 第2種 機械

2022年8月20日作成,2023年9月16日更新

令和4年度第二種電気主任技術者試験一次試験 機械科目の合格基準は,90 点満点換算で 54 点以上,受験者は 4,319 人,合格者数は 3,430 人で,合格率は 79.4 % だった。

目次

  1. 三相同期発電機の並行運転
  2. インバータにより V/f 一定制御されている誘導電動機
  3. 計器用変成器
  4. スイッチングデバイスの損失
  5. 室内照明設計
  6. 電池
  7. 産業用自動機の制御機器
  8. 誘電加熱

問1 三相同期発電機の並行運転

仕様及び特性が等しい 2 台の三相同期発電機 SG1 及び SG2 を並列接続し,共通の負荷に電力を供給することを考える。速度出力特性がともに等しい垂下特性をもつ原動機で入力を等しく一定として並行運転している場合,両機の間には横流と呼ばれる循環電流が流れる。このとき,各発電機の誘導起電力の大きさ,周波数が等しく,各発電機の誘導起電力の位相がほぼ一致している。この運転状態から SG1 の界磁電流を増加すると,両機の誘導起電力に差が生じ,これによって両機の間に循環電流が流れる。この電流は SG1 の誘導起電力に対しては遅れ,SG2 に対しては進みの無効電流であり,電機子反作用によってそれぞれの磁束に作用して,両機の端子電圧が界磁電流の調整前と比べて高い電圧で平衡を保つように働く。

また,先の並行運転状態において,何らかの原因で一方の発電機の回転速度が一時的に変化し,両機の速度差により誘導起電力の間にわずかな位相差が生じて循環電流が流れたとする。この場合の循環電流は,両機の間で有効電力の授受を行って自動的に両機を同一位相に保つように働く。この場合の循環電流を同期化電流という。

問2 インバータにより V/f 一定制御されている誘導電動機

三相誘導電動機の速度制御として PMW インバータを用いた V/f 一定制御が広く用いられている。ここで,V は電動機の端子電圧,f は端子電圧の周波数である。V/f 一定制御されている誘導電動機の定常状態のトルク特性が,端子電圧の周波数 $f_1$,$f_2$ に対し,図のように与えられている。また,負荷のトルク特性は回転数 $N$ に関わらず $T_\text{L}$ 一定で図のように与えられている。このとき,電動機の回転数はそれぞれ,$N_1$,$N_2$ である。今,この電動機が周波数 $f_2$ にて運転中で,回転数が $N_2$ のときに,周波数 $f_1$ に切り換え,$N_1$ まで減速して,点 A で負荷トルクと電動機トルクがつりあう。

$N_2$ からの減速過程のうち,$N_0 \lt N \lt N_2$ では電動機は発電機動作をするので,電動機は負のトルクを発生する。これにより減速する回転系としては,軸受の摩擦などを無視すると,この発電機動作のトルクと負荷トルクの合成が減速トルクとなる。

続いて,$N=N_0$ まで減速すると,このとき,電動機は同期速度で運転しているので,負荷トルクのみが減速トルクとなる。

さらに減速して,$N_1 \lt N \lt N_0$ となると,電動機は電動機動作をするので,正のトルクを発生する。この区間では電動機の発生トルクは負荷トルクより小さいので,負荷トルクから電動機トルクを差し引いた差が減速トルクとして働く。

V/f 一定制御されている誘導電動機の定常状態のトルク特性
図 V/f 一定制御されている誘導電動機の定常状態のトルク特性

参考文献

問3 計器用変成器

交流の高電圧又は大電流を測定する場合,変圧器を用いて計器の測定範囲に適した電圧や電流に変換することがある。これらの変圧器を計器用変成器といい,電圧測定用のものを計器用変圧器(VT,PT),電流測定用のものを変流器(CT)という。計器用変成器の二次側負荷は計器や継電器などであり,線路の一般的な負荷と区別するためこれを負担という。

計器用変成器は,等価回路としては普通の電力用変圧器と同じであるが,変圧比及び変流比の精度を良くするためには,高透磁率の鉄心を使用して励磁電流を小さくするとともに,一次及び二次巻線の巻線抵抗と漏れリアクタンスを極力小さくする必要がある。実際の計器用変成器では誤差が含まれるため,公称変圧比又は公称変流比と実際の変圧比及び変流比との差を,実際の変圧比又は変流比で除して百分率で表したものを計器用変成器の比誤差という。

変流器の使用中に二次側に接続されている機器を切り離す場合には,まず,変流器の二次端子を短絡するなどの過電圧対策をしておかなければならない。

参考文献

問4 スイッチングデバイスの損失

次の文章は,パワートランジスタ,パワー MOSFET,IGBT 等のスイッチングデバイス(以下,スイッチと略す)の損失に関する記述である。

スイッチがオン状態の損失をオン損失と呼ぶ。オン状態のスイッチの端子間電圧は理想的にはゼロであるが,実際にはゼロではない。この電圧をオン電圧と呼び,この値が大きいスイッチのオン損失は大きい。一方,スイッチがオフ状態での損失をオフ損失と呼ぶ。オフ状態のスイッチに流れる電流は理想的にはゼロであるが実際にはゼロにならず,微小な漏れ電流が流れる。しかし漏れ電流は非常に小さく,オフ損失はオン損失に比べて十分に小さい。

スイッチのターンオンとターンオフは瞬時に行われることが理想的である。しかし,実際の回路では,スイッチのターンオン・ターンオフ時に,スイッチの端子間電圧とスイッチを流れる電流がともにゼロではない期間が存在し,この期間に生じる損失はスイッチング損失と呼ばれる。単位時間あたりの損失は,スイッチのターンオンとターンオフの繰返し周期が短いほど大きいスイッチング損失を低減する方法の一つがソフトスイッチングであり,ターンオン時の端子間電圧 $v_\text{sw}$ と電流 $i_\text{sw}$ の波形は,例えば,図のようになり,$v_\text{sw}$ がオン電圧になった後に $i_\text{sw}$ が上昇する。

スイッチのターンオン時の端子間電圧と電流の波形
図 スイッチのターンオン時の端子間電圧と電流の波形

問5 室内照明設計

室の天井面に複数の照明器具(同一機種のもの)を規則的に配置して,室内全体の照明を行い,所望の照度を得ることを考える。逐点法を用いて,室の作業面の平均照度(設計値)$E$ [lx] は次式によって求めることができる。

$E=$ $\displaystyle \frac{\Phi NUM}{A}$

ここで,

  • $E$ : 平均照度(設計値)[lx](室の作業面の水平面照度の室内全体の平均)
  • $\Phi$ : ランプ 1 灯の定格光速 [lm]
  • $N$ : ランプの灯数
  • $M$ : 保守率(新設時の平均照度に対する,ある一定期間使用した後の平均照度の比。ランプは使用しているうちに光束がしだいに減少し,照明器具は汚れによって器具効率が低下する。このために,設計の際に光束にあらかじめ余裕をもたせておくための係数)
  • $A$ : 室の床面積 [m2](室の間口 $X$ [m] と奥行き $Y$ [m] の積)
  • $U$ : 照明率(ランプの光束が作業面に届く割合を表し,照明器具の配光,器具効率,室の寸法($X$ と $Y$),作業面からランプまでの高さ,室内面(天井,壁,床)の反射率によって決まる係数)

である。

次に,間口 $X = $ 7 m,奥行 $Y =$ 14 m の室を考える。使用する照明器具は天井埋め込み式で,ランプ面と天井面とが一致するタイプのものである。照明器具には 1 台あたりランプ 2 灯が取りつけられており,ランプ 1 灯の定格光束は $\Phi =$ 3 500 lm である。また,この室における,この照明器具の照明率は $U =$ 0.55 と与えられ,保守率は $M =$ 0.74 とする。

以上の条件を適用すると,この室の作業面の平均照度(設計値)を 750 lx 以上に保つために最小限必要となる照明器具の台数は 26 台となる。

この室の作業面の平均照度(設計値)を 750 lx 以上に保つために最小限必要となる照明器具の台数 $N$ を求める。

\[ N=\frac{\Phi N U M}{A} \ge 750 \text{ [lx]} \] \[ \frac{2\times 3500 \times N \times 0.55 \times 0.74}{7 \times 14} \ge 750 \] \[ N \ge \frac{750 \times 7 \times 14}{2 \times 3500 \times 0.55 \times 0.74} = 25.79 \]

よって,照明器具の台数は 26 台となる。

問6 電池

一つの電解質に接した 2 種類の電極を導線で結ぶと,一方の電極で酸化,もう一方の電極で還元反応が起こる。このように酸化還元反応に伴って化学エネルギーを電気エネルギーに変える装置を電池(化学電池)という。

リチウムイオン電池は,携帯電話やノートパソコン,電気自動車などさまざまな用途に用いられる小型,軽量で起電力が高い二次電池である。代表的なものとして,負極に黒鉛 C に取り込まれたリチウム,正極にはコバルト(Ⅲ)酸リチウム LiCoO2 を用い,電解質としてはエチレンカーボネート((CH2O)2CO)などの有機化合物にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)などのを溶かしたものを用いたものがある。

放電時には負極の活物質の電子が奪われて酸化して Li+ が生じ,電解質を通り正極内の層間に入る。充放電の反応は次のとおりである。

[負極]
LiC6 ⇔ Li+ + C6 + e-
[正極]
CoO2 + Li+ + e- ⇔ LiCoO2
[全体の反応]
LiC6 + CoO2 ⇔ LiCoO2 + C6

問7 産業用自動機の制御機器

予め定められた順序又は手続きに従って,制御の各段階を逐次進めていく制御方式をシーケンス制御と言い,各種産業の自動機で用いられている。

旧来は,状態記憶を利用した順序回路である自己保持回路などで制御を実現していたが,現在では,専用の工業用制御機器であるプログラマブルロジックコントロールを用いるのが主流である。この機器はプログラムにより動作するため,複雑な論理を実現出来ることや配線の変更なしに機能変更ができる利点を持つ。

プログラマブルロジックコントロールの入力側には操作ボタンや各種センサなどが接続され,出力側には表示灯や各種アクチュエータなどが接続される。この機器は,一般的なパーソナルコンピュータよりも信頼性に優れることより,産業現場の過酷な環境においても活用されている。

プログラムは,旧来のリレー回路をはしご状に接続する表現としたラダー図の図式により記述されることもあるが,現在では,広範な用途に対応できるよう,各種プログラム記述方式が準備されている。

産業用自動機の中核として用いられるプログラマブルロジックコントロールが故障した場合でも,安全な状態に移行するようフェールセーフに配慮した装置設計が求められている。

問8 誘電加熱

誘電加熱は,被加熱物である誘電体を交番電界中に置くことによって誘電体自身が発熱する現象を利用した加熱法である。この発熱は誘電体損と呼ばれている。誘電体に電界が印加されると,誘電体内に誘電分極を生じる。交番電界の場合には,電解の交番に伴って,誘電分極の方向も変化する。交番電界の周波数を上げていくと,交番電界の時間変化に誘電分極が追いつかなくなり,遅れが生じ始める。この遅れによって誘電体損が生じ,その熱によって誘電体自身の温度が上昇する。

誘電体の電気的等価回路は抵抗 $R$ と静電容量 $C$ の並列回路で表される。$R$ 及び $C$ を流れる電流をそれぞれ $I_R$,$I_C$ とすると $\tan{\delta} = $ $\displaystyle \frac{I_R}{I_C}$ と表され,$\tan{\delta}$ は誘電正接と呼ばれる。また,誘電体の比誘電率を $\varepsilon_\text{r}$ とすると,$\varepsilon_\text{r} \tan{\delta}$ は誘電体の損失係数と呼ばれ,誘電加熱の容易さを判断する目安となる。

誘電損失係数の大きさは印加する交番磁界の周波数に大きく依存する。実際の誘電加熱では,放送などの無線業務の障害となるのを避けるため,使用可能な周波数帯が ISM 周波数帯として定められている。この周波数帯においては,誘電体損を生じる誘電分極は誘電体を構成する荷電体のうち電気双極子によるものである。

また,一般に,被加熱物である誘電体は温度上昇によってインピーダンスが変化するので,誘電加熱装置から被加熱物に電力を効率よく供給するために,高周波発振回路と被加熱物との間に整合回路が挿入されている。

参考文献

  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「電気加熱
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