平成8年度 第一種 電気主任技術者二次試験 電力・管理

2022月11月6日更新

目次

  1. 送電線の単相再閉路によるタービンへの影響
  2. 変電所の絶縁協調
  3. 架空送電線路の故障点標定
  4. 一線地絡故障
  5. 高調波発生機器による電気機器に対する障害
  6. 深夜の余剰電力の抑制対策とその有効活用対策

問1 送電線の単相再閉路によるタービンへの影響

系統事故時に送電線の単相再閉路を実施した場合,以下の3点について述べよ。

  1. タービン,タービン発電機の軸系への機械的影響
  2. タービン発電機固定子巻線への電磁力の影響
  3. タービン発電機回転子表面の温度上昇

1. タービン,タービン発電機の軸系への機械的影響

タービン,タービン発電機の軸系は,各ロータ部が軸部で連結された構造となっている。単相再閉路方式を採用すると,送電線一線地絡事故→事故相遮断(1 相欠相状態,単相送電)→(事故点アーク消滅)→再閉路の過程において,機械的入力トルクは一定であるのに対して,電気的トルクが大きく変化し,この軸系には,ロータ間の相互作用によって,軸ねじれ振動が発生する。このねじれ振動は,軸部材料の疲労・蓄積を招き,トルクの大きさ,回数によってはカップリングボルトや軸の破断を引き起こす。

2. タービン発電機固定子巻線への電磁力の影響

タービン発電機の固定子巻線にかかる電磁力としては,一線地絡電流,欠相送電中の逆相成分を含む電流,再閉路時の過渡電流を考えなければならないが,短絡事故時の電磁力と比較すると,それほど問題となるレベルではない。電磁力に弱いコイル端で動揺・変形によって,コイルが損傷しないように強固に支持する必要がある。

3. タービン発電機回転子表面の温度上昇

電機子電流に逆相分が流れると回転子には 2 倍周波数の渦電流が流れるが,タービン発電機の場合は,この電流が回転子のくさび・歯部,制動巻線およびコイル保持環を環流するようになる。このため,その一部が各部の接触面を通じて流れ,電流の集中する部分で過熱が問題となる。短時間の減少で熱放散が期待できないので,短時間許容電流値は逆相電流の 2 乗とその継続時間の積で決まる。単相再閉路の場合は,逆相電流の継続時間が短いので,あまり問題にならない。

単相再閉路

電力系統事故の大部分は雷により発生する逆フラッシオーバの地絡事故であり,いったん事故相を遮断し,事故点のイオン消滅を待って再び充電すれば送電を継続できる場合が多く,電力の安定送電の維持確保に不可欠な対策である。単相再閉路は,その地絡事故の大半が一線地絡事故であることに着目して,1 回線 3 相のうちで 1 相が地絡事故になった場合に事故相だけを遮断し,残りの 2 相で送電を継続しつつ 1 秒程度の高速で再閉路するものである。

問2 変電所の絶縁協調

変電所の絶縁協調を検討するうえで,考慮すべき電力系統に発生する過電圧の主なものとして,

  1. 雷過電圧
  2. 開閉過電圧
  3. 短時間過電圧

があるが,各々の発生要因について述べよ。

1. 雷過電圧

雷過電圧には,直撃雷あるいは逆フラッシオーバによるものと誘導雷によるものとがある。直撃雷による過電圧は,送電線や機器が直接雷撃を受けたときに発生するもので,雷撃電流と雷撃点から見たサージインピーダンスの積になる。過去に磁鋼片によって実測された例では,雷撃電流の波高値の最大は 100 ~ 150 [kA] で,ほとんどが負極性であり,著しく大きな過電圧なので架空地線により遮へいして直撃を受けないようにしている。遮へい失敗あるいは架空地線や鉄塔への落雷による逆フラッシオーバがあると,送電線から変電所に雷サージ電圧が侵入する。誘導雷は雷雲が送電線路に近づいて送電線に電荷が誘導された状態で,その雷雲の電荷がほかの雷雲や大地に放電して送電線路の電荷が自由電荷となり,サージ性の過電圧を発生するもので,波高値は直撃雷より低い 100 ~ 200 [kV] 以下で正極性が多い。

  • 雷過電圧解析・開閉過電圧解析の概要と解析例「雷サージ

2. 開閉過電圧

開閉過電圧は,遮断器や断路器の開閉により発生する過電圧であり,無負荷送電線路などの充電電流遮断,故障電流の遮断,変圧器励磁電流の遮断,高速再閉路投入などがある。

無負荷送電線路などの充電電流(進み小電流)遮断

無負荷送電線の充電電流は 90 度進み電流であり,線路側に波高値に相当する電荷を残留した状態で電流遮断されるので,その半サイクル後に遮断器の極間に波高値の 2 倍近い電圧が発生し再点弧しやすい。再点弧が起こると,電源のインダクタンスとの間の高周波振動を伴い,異常に高い電圧を発生する。GIS の断路器を遮断するときも,遮断器との間の短い電路を開放するため,特に周波数の高い過電圧が発生する。

故障電流遮断

故障した送電線路を遮断する場合は,一線地絡で常時より高くなった健全相の充電電流の遮断や,異相地絡・脱調時のように極間の回復電圧が高い状態などでの遮断になり,異常電圧が発生する。また,中性点がリアクトル接地系統で零相インピーダンスの大きな系統では,故障電流が 90 度近く位相の遅れた電流となるため,これを遮断すると電源側電圧が遮断直前の最大アーク電圧より電源電圧に急変するため過渡的に異常電圧を発生する。

変圧器励磁電流など(遅れ小電流)遮断

変圧器の励磁電流などの遅れ小電流を消弧力の強い遮断器で遮断すると,電流さい断によって電流変化率 $\text{d}I/\text{d}t$ に比例した異常電圧が発生する。遮断器の種類や変圧器の中性点接地方式によっても異なるが,最大でも常規対地電圧の 5 倍程度である。

高速再閉路投入

高速再閉路方式では事故遮断後 1 秒程度の線路側にかなりの残留電荷が残った状態で再閉路され,再点弧に相当する投入サージを発生する。

  • 雷過電圧解析・開閉過電圧解析の概要と解析例「開閉サージ

3. 短時間過電圧

一線・二線地絡時の健全相電圧上昇

非接地系統や高インピーダンス接地系統では,一線・二線地絡時に中性点の電位が上昇して健全相対地電圧が上昇する。

負荷遮断時の電圧上昇

負荷遮断が起こると,送電線充電電流によるフェランチ現象,発電機の負荷遮断による回転数上昇に伴い発電機端子電圧の上昇により,過電圧が発生する。

問3 架空送電線路の故障点標定

架空送電線路の故障点標定が,地中送電線路の場合に比べて,技術的に困難である理由を述べよ。

地中送電線路の故障は永久地絡がほとんどなので保護リレーの動作状況や線路の絶縁抵抗,心線の導通状態から事故種別を把握し,マーレーループ法,静電容量法,パルスレーダ法など適切な方法により故障点を見つければよい。これに対して架空送電線路の場合は,大半がフラッシオーバによる地絡や短絡故障であり,遮断器がトリップして無電圧になれば,フラッシオーバしたがいしの 80 [%] は絶縁を回復し,がいし連の一部が損傷しても相当の絶縁をもつので,遮断器がトリップするまでの短時間に標定する必要があり,また,そのため,故障サージを受信するにしても,パルスを印加するにしても,結合コンデンサなどが必要になる。

地中送電線路のほとんどが 2 端子であるが,架空送電線路は多くの分岐線を有する場合が多く,故障点からの故障サージや印加パルスの反射,透過現象が複雑になる。

故障継続中に標定するので,故障中のアーク電流や故障遮断時のサージなど大きな妨害ノイズの影響を受けやすく,標定信号を十分大きくするなどの考慮が必要である。また,電力線搬送装置との相互干渉,送電線のコロナなど,その他のさまざまな妨害ノイズの影響も受けやすい。

事故様相が永久金属地絡だけでなく,故障点アーク抵抗の影響や,多重故障,多地点同時故障など多種多様の故障モードを考える必要がある。

問4 一線地絡故障

図に示す送電系統の送電線路の送電端側(F 点)で一線地絡故障が発生した。一線地絡電流を求めよ。ただし,リアクタンスの値は,基準容量 1 000 [MV·A],基準線路電圧 500 [kV] としたときの単位法で図に示すとおりであり,添え字の 1 は正相,2 は逆相,0 は零相を意味するものとする。

機器及び線路の抵抗分,静電容量は無視し,正相リアクタンスと逆相リアクタンスは等しいと仮定する。

また,故障点の故障前における電圧は 1.0 [p.u] であった。

準備中

問5 高調波発生機器による電気機器に対する障害

近年,電力系統においては,多くの高調波発生機器が使用されるようになり,このため電力系統の電力波形にひずみを生じ,電力機器に対する障害が増加している。下記の項目について述べよ。

  1. 高調波の発生源
  2. 高調波による障害
  3. 高調波対策
    1. 発生源側における対策
    2. 直列リアクトル付き力率改善用コンデンサにおける障害防止対策
    3. 配電系統における対策

1. 高調波の発生源

  • 半導体のスイッチングを用いた機器(AC-DC 変換装置,交流電力調整装置,サイクロコンバータなど)
  • アーク炉・圧延機・溶接機などの変動負荷
  • 変圧器・回転機などの鉄心の磁気飽和した励磁電流など

2. 高調波による障害

  • コンデンサ,直列リアクトルの振動,うなり,過熱,焼損
  • 蛍光灯のチョークコイル・力率改善用コンデンサの過熱・焼損
  • 電子計算機,OA 機器の停止,動作不安定
  • 各種制御装置の誤制御
  • ノーヒューズブレーカの誤動作
  • 回転機の振動,異常音,回転数変動,効率低下
  • 変圧器の騒音増加,効率低下
  • AV 機器の雑音,映像のひずみ,過熱ほかの故障

3. 高調波対策

a. 発生源側における対策

  • LC 共振回路を組み合わせて,ある特定の次数の高調波を吸収する受動フィルタまたは正弦波とひずみ波の差分の電流を注入する能動フィルタの設置
  • 半導体のスイッチングを利用した電力変換機器の多パルス化

b. 直列リアクトル付き力率改善用コンデンサにおける障害防止対策

  • 軽負荷時の開放運用
  • 受電用変圧器の低圧側への設置
  • コンデンサの 8 ~ 13 [%] 容量の直列リアクトルの適用
  • 直列リアクトルの耐量の増大
  • 高調波,過電流,温度などを検出する装置を設置して異常時に自動遮断

c. 配電系統における対策

  • 電源送電線あるいは配電線系統の切換え,一部変圧器の停止などによる高調波共振状態のシフト
  • 線間電圧の不平衡の低減
  • 短絡容量の増大
  • 供給配電線の専用化

問6 深夜の余剰電力の抑制対策とその有効活用対策

深夜の余剰電力の抑制対策とその有効活用対策についてそれぞれ述べよ。

深夜の余剰電力の抑制対策

  • 貯水池式発電所や調整池式発電所の深夜停止
  • 揚水発電所の開発促進と深夜揚水の実施
  • 火力発電所の日間起動停止(DSS : Daily Start Stop)の実施
  • 電力会社間の系統連系を強化し,積極的な経済融通を実施する広域融通の拡大
  • 電力貯蔵用電池などの電力貯蔵設備の適用により深夜蓄電・昼間放電
  • 年負荷曲線,年間を通した河川の流量・ダム貯水量を考慮に入れた発電所定期点検の計画

深夜の余剰電力の有効活用対策

  • 電気温水器や蓄熱ヒートポンプ・エアコンなど,深夜電力消費機器の開発・普及
  • 電解炉,電気炉など大量に電気を使用する需要家に対する業務用夜間率調整契約,小口電力需要,一般家庭に対する時間帯別料金制,業務用蓄熱調整契約など電気料金制度面から深夜電力の料金の割引
  • 需要家の需要設備の保守・点検を渇水期に行うよう推奨
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