平成13年度 第一種 電気主任技術者二次試験 電力・管理

2022年11月6日更新

目次

  1. 火力発電所に設置されるディーゼル発電機及び蓄電池
  2. 電圧不安定現象の発生メカニズムと防止対策
  3. 超高圧大容量油入変圧器の重大事故防止対策
  4. 非接地方式の平衡三相配電線
  5. 石炭火力発電所における大気汚染物質の低減技術
  6. 高調波抑制対策及び高調波抑制設備

問1 火力発電所に設置されるディーゼル発電機及び蓄電池

火力発電所では一般に,所内電源が停電した場合に備えて,次の設備が設けられるが,これらの設置目的について述べるとともに,それぞれに接続される負荷となる機械器具を三つずつ挙げ説明せよ。

  1. ディーゼル発電機
  2. 蓄電池

1. ディーゼル発電機

運転中の火力発電所が外的事故などにより送電系統から解列し,しかも発電所単独で運転を継続できなくなった場合の系統復旧後の早期再起動のため,無電源にはなってはならない所内補機類への非常用電源として,ディーゼル発電機の設備が設けられる。

自所のみで始動する場合にはディーゼル発電機により次の補機類に電源を供給する。

  • 給水ポンプ関係:ボイラに給水するための給水ポンプ,復水器冷却のための冷却水ポンプ,復水をボイラに送るための復水ポンプなど。
  • 油ポンプ関係:軸受のための潤滑ポンプ,水素封入のための密封油ポンプ,大型補機のための循環油ポンプなど。
  • 通風機関係:燃焼のための押込通風機,排煙のための誘引通風機および微粉炭装置や油燃焼装置の電源など。
  • 充電器:長期間停止の場合は,制御用の電源である蓄電池に充電するための電下も必要になる。

2.蓄電池

発電機を安全に停止するために無電源になってはいけない補機,制御装置については解列と同時に蓄電池より所要電源を供給する。

  • ポンプ関係:タービンや発電機が回転を停止するまで圧油を供給する軸受用補助油ポンプ,水素の漏れを防ぐための密封油ポンプ,運転休止中ターニングまでのターニングモータおよびターニング油ポンプなど。
  • 油タンクおよび油清浄器ガス抽出器:密封油から放出される水素ガスを安全に大気中に放出させる装置。
  • 真空破壊弁:低速で長時間回転することを避けるために,復水器の真空を破壊するための装置。
  • 監視・制御装置:停止プロセス中ボイラ炉内の監視のための火災検出器およびテレビと付属装置,ボイラタービンの電気式制御器および状態監視用の計器類,コンピュータのためのCVCF電源など。
  • ボイラ給水ポンプ用補機
  • 所内の非常灯類

問2 電圧不安定現象の発生メカニズムと防止対策

電力系統において電力需要の増大あるいは系統事故により発生することがある電圧不安定現象について,その発生メカニズムと防止対策を説明せよ。

発生メカニズム

電力需要が増大し,系統電圧特性の限界電圧を超えることにより,電圧低め解領域に移る場合,原因が需要増加であるので,電圧が徐々に低下する。

送電線事故などにより系統のリアクタンスが増大する場合,または需要地近傍の大容量発電機の停止により無効電力損失が増加し,限界電力が擾乱前の運転需要を下回る場合は,事故時に電圧が大幅に低下する。

防止対策

電力系統設備の計画において,電源-需要地点との電気的短縮を図る。具体的には,需要地点に近いところに発電設備を建設する。具体的には送電線の太線化,直列コンデンサの設置,送電電圧の昇圧が挙げられる。また調相設備の充実として,電力用コンデンサ増設,VQ 制御装置の改善,静止形無効電力補償装置(SVC)の設置,同期調相機の設置が挙げられる。

設備の運用面において,需要地点に近い発電機の停止を極力少なくする。急激な負荷変化が予想される時間帯では,コンデンサの使用など調相設備の運転を先行的に行う。電圧を許容される範囲内で高めにして運用する。事故による電源や送電線の遮断があっても,電圧低下が局限できるような系統構成で運用する。万一,電圧不安定のため電圧が低下する事態を生じたときは,遅滞なく適切な負荷遮断を行う。

問3 超高圧大容量油入変圧器の重大事故防止対策

超高圧大容量油入変圧器の重大事故防止対策について,流動帯電,雷サージ,地震に着目して,設計上配慮すべき事項について説明せよ。

流動帯電

流動帯電現象は,大容量の送油式変圧器において,絶縁油が変圧器内を循環することによって,固体(絶縁紙)の表面に負,絶縁油中に正の電荷が蓄積されることにより生じる現象で,これがあるレベルを超えると,局部的に絶縁油の耐圧値を超え,部分放電が発生し,重大事故に至る。

流動帯電の現象は,変圧器内部で油が流動することにより固体絶縁物の界面で電荷の分離を生じ,巻線内部や油道周辺の絶縁物に電荷が蓄積され,その部位の直流電位が上昇して静電気放電が発生する現象であり,この静電気放電が進展すると絶縁破壊を起こす。この流動帯電は,近年の変圧器の高電圧化・大容量化に伴い輸送限界容量を増大するため,油流量増大による冷却効率の向上や絶縁性能の向上を目的に絶縁物の乾燥処理など新しい技術が導入されたことにより,これまで変圧器では問題とされなかった油流による帯電がクローズアップされてきた。

電気協同研究 第54巻 第5号(その1)「油入変圧器の保守管理」

雷サージ

雷サージは変圧器に対してその絶縁を脅かす脅威であり,系統の絶縁協調を考慮して巻線端子に加わる雷サージ電圧を想定し,一定の波形と波高値の雷インパルス耐電圧試験に耐えることを目標にして絶縁設計しなければならない。

詳しくは「雷過電圧解析・開閉過電圧解析の概要と解析例」参照

地震

設計にあたって基準とする地震は,地表面水平加速度 0.3 [G],卓越振動数の範囲を 0.5 ~ 10 [Hz] とする。また,S 波速度 150 [m/s] 以上,または,N 値が 5 以上の地盤を選定する。

問4 非接地方式の平衡三相配電線

図のような非接地方式の 6.6 [kV] 平衡三相配電線(50 [Hz])の b,c 相で地絡故障(地絡抵抗の大きさは b,c 相とも同じ)が発生した。

このとき,健全相の対地電位の大きさが線間電圧の $1/\sqrt{2}$ 以下におさまるための地絡抵抗値の下限値を求めよ。

ただし,変圧器及び線路の直列インピーダンスは無視するものとする。

準備中

問5 石炭火力発電所における大気汚染物質の低減技術

次の表は石炭火力発電機における環境対策のうち,大気汚染物質の低減技術についての概要を記述したものである。

石炭火力発電所における大気汚染物質の低減技術
大気汚染物質 発生原因(発生過程) 大気汚染物質の低減技術
ばいじん(ばい煙) 燃焼中の灰分から発生する。
  • 防止設備の設置:電気式集じん装置や機械式(遠心式)集じん装置を設置して排煙から汚染物質を除去する。
  • 燃焼方法の改善:自動燃焼制御システムを採用し,出力変動時の汚染物質の発生量を低減する。
硫黄酸化物(SOx 燃焼中の硫黄分が燃焼により空気中の酸素と反応して発生する。
  • 排煙脱硫装置の設置:排煙脱硫装置は大別して,活性炭・活性二酸化マンガンなどの固定吸着剤にSO2を吸収する乾式法と,アンモニア・石灰石などの溶液またはスラリー液で SO2 を吸収除去する湿式法に分けられる。
  • その他の対策:硫黄分が少ない低硫黄石炭を使用する。
窒素酸化物(NOx 燃料の燃料に伴い燃料中の窒素が酸素と反応して生成される(fuel NOx : フューエルノックス)。また,燃焼空気中の窒素と酸素が反応して生成される(Thermal NOx : サーマルノックス)。
  • 排煙脱硝装置の設置:乾式法には,代表的な方法として排ガス中にアンモニアを注入して触媒により NOx を窒素と酸素に分解する接触還元法があり,他に無触媒還元法,乾式活性炭法,電子線法などがある。湿式法には,アルカリ吸収液に NOx を吸収して除去するアルカリ吸収法の他,酸化還元法,酸化吸収法などがあるが,全般的に開発段階のものが多い。
  • その他の対策:燃焼温度の低減,高温域での燃焼ガスの滞留時間の短縮,酸素濃度の低減などの燃焼方法の改善がある。具体的には二段燃焼法,排ガス混合燃焼法,低 NOx バーナーの採用などがある。

問6 高調波抑制対策及び高調波抑制設備

各種の電気機器から発生する高調波電流により電力系統の電圧波形がひずみ,他の電力設備に障害を与える事例が発生している。このような事態に対応して主として大口の需要家で行われている次の高調波抑制対策及び高調波抑制設備について,その原理と特徴の概要を述べよ。

  1. 電力変換装置の多パルス化(多相化)
  2. 受動フィルタ(パッシブフィルタ)
  3. 能動フィルタ(アクティブフィルタ)

1. 電力変換装置の多パルス化(多相化)

電力変換装置のパルス数をベースとなる 6 パルスの整数倍にし,入力電流の波形をより正弦波に近づける方式である。

電力変換装置の多パルス化(多相化)の特徴は,次のとおり。

  • 等価 12 パルス接続では,特別な機器を追加する必要がなく,技術的な課題も少ない。さらに変圧器本体は本来設備として必要なものであるため,コストアップにつながらないというメリットがある。
  • 系統で障害となっている第 5,第 7 調波の発生が理論的にない。
  • 種類の異なる三相ブリッジ接続(コンデンサ平滑)変換器を組み合わせても効果が得られる。
  • Y-Y 結線変圧器を用いると中性点の電圧が不安定となったり,各相の誘起電圧に大きな第 3 次高調波を含む可能性があるので,変圧器巻線には Δ 結線であることが必要である。
  • 一次側が高圧または特別高圧で,二次側が 400 [V] 級 Δ 結線変圧器を使用する場合には,電技の規定により混触防止板付きとしなければならない。
  • 電力変換装置のみで多パルス化することが理想であるが,装置が高価となる。

2. 受動フィルタ(パッシブフィルタ)

特定の次数に対して低インピーダンスになるような分路を,コンデンサ,リアクトルを組み合わせて実現し,高調波電流を吸収する方式である。

一般的に低次の高調波を吸収する同調フィルタを用いる場合には,複数次数の高調波を対象とするため,複数の同調フィルタが用いられる。また,高次の高調波を吸収するためには広い周波数に対して低インピーダンスとなる高次フィルタが用いられる。

受動フィルタ(パッシブフィルタ)の特徴は,次のとおり。

  • 構成が簡単であり,特定次数の高調波吸収を目的とする場合には有効である。
  • 受動フィルタ接続位置から系統側を見た場合,系統のインピーダンスしかない場合(受電用のトランスなどがない場合)には,系統のインピーダンスとの兼合いで十分小さな受動フィルタのインピーダンスが要求される。また,ほかの需要家から発生する高調波電流を吸収することになりかねないので,限流リアクトルの設置が必要である。
  • 基本波に対しては進相作用があるため,高調波発生機器停止時の過進相に注意が必要である。
  • 当該需要家からの発生高調波,系統に存在する高調波を事前に十分把握し,過負荷とならないよう設計を行う必要がある。

3. 能動フィルタ(アクティブフィルタ)

図に示すように,負荷から発生する高調波電流を検出し,これを打ち消す位相をもった高調波電流を発生して重畳することにより,系統へ流出する高調波電流を抑制するものである。

負荷電流から高調波成分を検出し,この量に応じて発生すべき高調波を演算,発生装置への出力指令を出す。高調波の抑制手法としては理想的である。

能動(アクティブ)フィルタ
図 能動(アクティブ)フィルタ

能動フィルタ(アクティブフィルタ)の特徴は,次のとおり。

  • 任意の次数の高調波に対応できる。しかし,現実には追従性能などの点からすべての高調波次数について完全な補償効果があるわけでなく,指針では補償率として,5 次,7 次が 80 [%],11 次,13 次が 60 [%] とされている。
  • 複数調波の同時抑制が 1 台でできる。
  • 設置後に高調波の次数や発生量が変化しても対応できる。
  • 運転時の損失が大きい。
  • 比較的高価である。
  • 高速のスイッチング素子を用いて電流波形をつくるため,適切なフィルタを用いないと数 [kHz] ~ 数十 [kHz] の高調波成分が接続点に流出するおそれがある。
  • 系統へ流出する高調波電流が抑制されるよう,検出箇所を十分に検討する必要がある。特に高調波を吸収する設備が併設される場合には,注意しなければならない。
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