平成15年度 第一種 電気主任技術者二次試験 電力・管理

2022年11月6日更新

目次

  1. コンバインドサイクル発電(複合サイクル発電)
  2. 避雷器の抵抗値と最大放電電流
  3. 中距離送電線の受電端開放
  4. 高調波発生機器から発生する第 5 調波電流
  5. 送配電系統の中性点接地方式
  6. 我が国におけるエネルギーセキュリティの確保と地球環境保全

問1 コンバインドサイクル発電(複合サイクル発電)

ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクル発電(複合サイクル発電)の次の方式について,システム構成の概要及びシステムの特徴をそれぞれ簡単に説明せよ。

  1. 排熱回収方式
  2. 排気再燃方式

排熱回収方式

ガスタービンの排気を排熱回収ボイラに導き,その熱回収で蒸気を発生し,蒸気タービンを駆動する方式である。コンバインドサイクル発電方式のなかでは最も簡単であるが,ガスタービンと蒸気系との整合性を最適化することによって,コンバインドサイクル発電方式のなかで最も高い熱効率を実現することができる。

システムの特徴としては,以下の通り。

  • 蒸気タービンに組み合わせるガスタービン容量が大きい。
  • 熱源の有効利用率が高く,熱効率が高い。
  • 構成がシンプルで,制御が簡単である。
  • 蒸気タービンの単独運転は不可能である。
  • ガスタービンの容量,排気温度によって蒸気タービンの出力,蒸気条件が制約される。
  • 復水器温排水が,通常の汽力プラントに比べて少ない。
  • 起動時間が短い。
  • ガスタービンの負荷変動により,蒸気タービン負荷も変動する。

排気再熱方式

ガスタービンの排気は,高温であると同時に多量の酸素も含んでいるので,ガスタービンの排気をボイラに導き,排熱回収を行うとともに,排気をボイラ燃焼用空気として利用するものである。ガスタービン排気は高温であるため,一般にボイラで設置される空気予熱器が不要となり,その代わりにボイラ排ガスの熱は給水加熱などにより回収される。

システムの特徴としては,以下の通り。

  • 給水加熱のための蒸気抽気量を減少させることができるから,プラント効率が向上する。
  • ボイラ用燃料は,ガスタービンとは無関係に選定できる。
  • 既設の汽力発電ボイラのリパワリングに適する。
  • 蒸気タービン出力は,ガスタービン出力に比べ,比較的大容量のものに適する。
  • 高温排気をボイラ燃焼用空気として利用するため,空気予熱が不要となる代わりにガスクーラを設置し,ボイラ排ガス温度を下げる。
  • 運転制御系統が複雑になる。
  • 補助の押込ファンを設置することにより,蒸気タービンの単独運転が可能となる。
  • 高温ガスタービンを採用した場合など排ガス中の残存酸素濃度が低い場合は,押込ファンの追設が必要となる。

問2 避雷器の抵抗値と最大放電電流

154 [kV] の送電線 1 回線が接続されている変電所がある。送電線から侵入する雷サージから機器を保護するため,変電所の送電線引込口に避雷器を設置することとした。このとき,変電所に侵入する電圧透過波の波高値を機器の雷インパルス耐電圧 750 [kV] の 80 [%] に抑える。この場合について,次の値を求めよ。

ただし,送電線のサージインピーダンスは 375 [Ω],変電所機器のサージインピーダンスは 1 450 [Ω],送電線のインパルスフラッシオーバ電圧は 1000 [kV],また,避雷器は一定値の抵抗で模擬するものとする。

  1. 避雷器の抵抗値 [Ω]
  2. 避雷器の最大放電電流 [A]

題意の回路を描くと図 1 のようになる。ここで,送電線のサージインピーダンスを $Z_1$,変電所のサージインピーダンスを $Z_2$,変電所に侵入する進行波,反射波および透過波の電圧,電流をそれぞれ $e_i$,$i_i$,$e_r$,$i_r$,$e_t$,$i_t$とする。

図1

また,避雷器の抵抗を $R$,避雷器に流れる電流を $I_R$とすると,キルヒホッフの第一法則により,電流について,次式が成立する。

\[ i_i-i_r=i_t+I_R \]
・・・(1)

電圧の関係は,次式となる。

\[ e_i+e_r=e_t \]
・・・(2)

(1) 式 を変形する。

\[ \frac{e_i}{Z_1} - \frac{e_r}{Z_1}=\frac{e_t}{Z_2} + \frac{e_t}{R} \]
・・・(3)

したがって,(2),(3)式より,$e_t$ を求める。

\[ e_{t} = \frac{2Z_{2}R}{(Z_{1} + Z_{2})R + Z_{1}Z_{2}}e_{i} \]
・・・(4)

つまり,(4)式の $e_t$ が避雷器の制限電圧である。

問3 中距離送電線の受電端開放

こう長 200 [km],回線数 2 回線の中距離送電線がある。周波数 50 [Hz],電線 1 条について,抵抗 0.1 [Ω/km],インダクタンス 1.3 [mH/km],静電容量 0.009 [µF/km] であるとき,受電端開放時の受電端電圧の大きさの,送電端電圧の大きさに対する比率を求めよ。

ただし,漏れコンダクタンスは無視し,送電線は T 形回路で表すものとする。

題意により,中距離送電線路の等価回路図を描くと図 1 のようになる。

図1 T 形等価回路図

問4 高調波発生機器から発生する第5調波電流

図に示すように,三相 3 線式の特別高圧送電線に,高調波を発生する 6.6 [kV] の三相機器(以下,高調波発生機器という。)を有する需要家が接続されている。この高調波発生機器の定格入力は 500 [kV·A] であり,発生する第 5 調波電流の大きさは定格入力電流に対して 19 [%] である。これについて,次の各問に答えよ。

この場合,需要家の受電用変圧器二次側の母線電圧は 6.6 [kV],受電点からみた送電系統側の短絡容量は 1 500 [MV·A],受電用三相変圧器の定格容量は 1 500 [kV·A] で短絡インピーダンスは 3 [%],力率改善用進相コンデンサの三相容量は 300 [kvar] である。

また,高調波発生機器は電流源として扱えるものとし,系統及び機器の抵抗分並びに需要家構内の線路インピーダンスは無視できるものとする。

(1) 高調波発生機器から発生する第 5 調波電流 [A] を求めよ。

(2) 受電点から送電系統に流出する第 5 調波電流 [A](6.6 [kV] 換算値,以下同じ。)を求めよ。

(3) 進相コンデンサに直列リアクトルを接続した場合,受電点から流出する第 5 調波電流が,直列リアクトルを接続していない場合に対して低減する割合 [%] を求めよ。ただし,基本波における直列リアクトルのリアクタンス値は,進相用コンデンサのリアクタンス値の 6 [%] とする。

問5 送配電系統の中性点接地方式

次の問は,送配電系統の中性点接地方式に関するものである。

(1) 次の表は,各種の中性点接地方式の特徴を記述したものである。表中の A,B,C 及び D の記号を付した空欄に記入すべき各種接地方式の長所及び短所をそれぞれ二つずつ挙げ,非接地方式の記述を参考にして,答案用紙に記入しなさい。

(2) 消弧リアクトル接地方式は,中性点に接地された消弧リアクトル(インダクタンス $L$)により 1 線地絡故障点の電流 $\dot{I}_e$ を零近くまで減少させることにより,故障点アークを自然消弧させて送電を継続させる方式である。図のような消弧リアクトル接地方式の系統で線路のキャパシタンスを $C$ としたとき,$\dot{I}_e$ が零となるような条件を,$L$ 及び $C$ と系統電圧の角周波数 $\omega$ を用いて示せ。

ただし,線路のインピーダンス,変圧器のインピーダンス及び負荷電流は無視する。(関係式を導くための計算過程も図の記号を用いて答案用紙に記入すること。)

中性点接地方式の特徴
接地方式の種類 長所 短所 我が国で適用されている主な電力系統
非接地方式
  1. 接地のための設備は不要である。
  2. 低電圧・短距離の送電系統では,1 線地絡時に永久地絡でない限りアーク地絡等は持続しないので,故障は自然に除去され,そのまま送電を続けられる機会が多い。
  1. 1 線地絡時の対地健全相電圧は線間電圧まで上昇する。
  2. 低電圧・短距離の送電系統では 1 線地絡電流が小さいため高感度の地絡継電器が必要である。
  3. 高電圧・長距離の送電系統では,1 線地絡電流が比較的大きくなり,永久事故となることが多い。特に間欠アーク地絡等が発生すると,高周波電気振動を伴う異常電圧・電流が発生することがある。
33 [kV] 以下の電力系統に適用されている。
抵抗接地方式 A B 22 [kV] から 154 [kV] の電力系統に適用されている。
直接接地方式 C D 187 [kV],275 [kV] 及び 500 [kV] の電力系統に適用されている。

(1)

A

  1. 直接接地方式と比較して 1 線地絡時の故障電流が小さく,通信線に対する誘導障害が少ない。
  2. 1 線地絡時の健全相電位上昇が非接地方式と比較して小さい。
  3. 小勢力地絡継電器により選択遮断できる。

B

  1. 接地のための抵抗器が必要となる。
  2. 直接接地方式と比較して健全相の電位上昇は高くなり,絶縁レベルを低減できない。
  3. 接地抵抗が大きくなるほど地絡電流は小さくなるので,高感度の地絡継電器が必要となる。
  4. 高周波による電磁誘導障害に対して注意が必要である。

C

  1. 1 線地絡時の健全相電位上昇が小さいので,機器の絶縁レベルを低減できる。
  2. 故障時の中性点電位がほぼ大地電位に維持されるので,段絶縁が採用できる。
  3. 1. により,定格電圧の低い避雷器で系統の保護ができる。
  4. 1線地絡電流が大きいので故障検出が容易で,高速遮断が可能である。

D

  1. 1 線地絡電流が大きいので,通信線への電磁誘導障害が著しい。
  2. 地絡故障に対する過渡安定度が低いので,高速遮断と再閉路方式の採用検討が必要である。
  3. 1 線地絡電流が大きく自然消弧しないことから,故障点の損傷被害のおそれがあるとともに,遮断器容量の選定に注意が必要である。

問6 我が国におけるエネルギーセキュリティの確保と地球環境保全

次に示す発電設備について,使用する燃料又は利用するエネルギーとしての特性を踏まえ,我が国におけるエネルギーセキュリティの確保と地球環境保全の観点から,特徴,現状及び課題について述べよ。

  1. LNG 火力発電
  2. 石炭火力発電及び関連技術
  3. 太陽光発電及び風力発電

(例)原子力発電

特徴:原子力発電は,発電過程では地球温暖化ガスである CO2 を発生しないので,環境保全に寄与するとともに,燃料であるウラン資源の供給安定性に優れ,価格も高騰する可能性は低いことなど,エネルギーセキュリティー上優れたエネルギー源である。

現状:原子力発電は,ベース供給電源の中核を担い,発電電力量も国内の全電力量の 1/3 を超えている。今後も順次開発が計画されているが,安全性,信頼性に対する種々の意見もあり,電源立地を取り巻く状況は厳しい。

課題:安全性や信頼性を確保するための技術開発や原子力発電に対する国民の理解を深める必要がある。また,核燃料リサイクルの確立によりエネルギーセキュリティの一層の向上に取り組むとともに,定格熱出力一定運転の採用など発電コストの低減に取り組んでいる。さらに,放射性廃棄物処理や使用済み燃料の中間貯蔵などのバックエンド対策への取組みも重要である。

LNG 火力発電

特徴:LNG は精製する過程でちりを除き,脱硫,脱炭酸,脱水などの前処理を行っているので,硫黄分などの含有量が少なく,大気汚染面で優れているほか,火炉内の付着物もきわめて少なく清浄である。エネルギーのベストミックスを考えると,その埋蔵量からミドル的な利用に適したエネルギー源である。

現状:LNG 火力発電は,近年においてコンバインドサイクル発電の主流となってきており,ミドル火力の中心となりつつある。LNG は,現在の我が国への供給源が比較的安定した地域であること,契約が長期であることなどから,供給の安定性は高く,CO2 の排出原単位が化石燃料のなかでは小さいことから,その導入推進が進められている。

課題:LNG 価格と原油価格の連動性,液化のための設備コストの高さ,安全性の確保,契約形態の硬直性などを考慮すると,急速あるいは大幅な導入量の増大には制約があり,これらをエネルギーセキュリティ上十分留意しなければならない。今後は,ほかの燃料とのバランス,つまり,エネルギーのベストミックスを十分考慮し導入を推進していくことが大切である。

石炭火力発電及び関連技術

特徴:石炭は,ほかの燃料と比較して価格面で優位性がある。しかし,硫黄分を多く含むためそのまま燃料として使用すると硫黄酸化物および NOx の排出が多く,さらにばいじん,CO2 などの排出が多いので,環境保全上問題が大きい。なお,賦存量の膨大さ,賦存の広さを考慮すると,供給安全性が非常に高く,また経済性の優位さからも中核的な石油代替エネルギーである。

現状:微粉炭火力など,石炭をそのまま燃料とする火力発電所はきわめて少ない。今後も石炭火力は廃止またはリフレッシュの方向性である。最近ではリフレッシュ工事を実施して,石炭と石油(COM 燃料)または石炭と水(CWM 燃料)を混合した燃料を使用する火力が主となっている。また,高性能の脱硝装置・脱硫装置・集じん装置が研究開発され,環境上においても改善がなされてきている。

課題:引き続き NOx,SOx 排出の低減,さらには CO2 の排出原単位の大きさを考慮すれば,一定量を依存するものの,中長期的にはその導入の増大にはこれらの環境面に対する技術開発が必要である。さらに,灰の処理や再利用を含めて,石炭のガス化に関する技術開発も推進していくことが大切である。

太陽光発電及び風力発電

特徴:太陽光・風力は自然エネルギーであり,ばいじん,NOx,SOxの排出,CO2 の排出がなく,環境面においては非常に優れており,また,燃料費が必要ないので,我が国のエネルギーセキュリティの向上に大いに役立つ可能性をもっている。しかし,天候に左右されエネルギー供給量が安定しない,エネルギー密度が希薄で設備コストが高く,設備の設置にも制約がある。

現状:太陽光発電及び風力発電は,環境負荷低減の観点から導入推進が進められているが,現在,エネルギーの安定性・コストの割高面・設備設置地点の条件などの制約から,小出力の設備の導入が徐々に進んできている。

課題:太陽光・風力の最大の欠点は,エネルギー供給が天候に左右され不安定,かつエネルギー密度が低いことである。したがって,この課題を克服するため,電力貯蔵技術の大容量化のための研究(ナトリウム-硫黄電池の開発・実証などの推進)と並行して,発電技術(発電効率の向上・設備の大型化)の開発および設備の集合設置などを推進していく必要がある。

inserted by FC2 system