平成16年度 第一種 電気主任技術者二次試験 電力・管理

2022年11月6日更新

目次

  1. 火力発電所の大容量タービン発電機と水力発電所の水車発電機の相違点
  2. 電力系統用の遮断器における電流遮断条件
  3. 反動水車の水力的振動
  4. 短絡距離リレー
  5. 変電所の接地
  6. 部分放電試験

問1 火力発電所の大容量タービン発電機と水力発電所の水車発電機の相違点

火力発電所における大容量タービン発電機に関し,次の点について,水力発電所の水車発電機との相違点を挙げ,それらを対比して説明せよ。

  1. 回転速度
  2. 主軸の設置方向と構造
  3. 回転子の構造

1. 回転速度

水車発電機の回転速度が 100 ~ 600 [min-1]程度と比較的低速であるのに対し,タービン発電機の回転速度は 3 000 [min-1](50 [Hz])または 3 600 [min-1](60 [Hz])と高速である。

2. 主軸の設置方向と構造

タービン発電機の軸の設置方向は横軸となっており,回転速度が速いことから,軸方向に細長い構造となっており,軸受にはスラスト軸受が採用される。一方,水車発電機の軸の設置方向は,立軸形と横軸形とに分けられ,一般に立軸形は大容量機に,横軸形は小容量機に用いられる。

タービン発電機の主軸の材料は,小容量機では炭素鋼,大容量機では Ni-Mo-V または Ni-Cr-Mo-V 鋼などが使用されることがある。一方,水車発電機の主軸は水車からのトルク伝達,スラスト荷重の伝達および軸剛性を確保する機能が要求され,通常は段鋼製だが,大容量低速機ではトルクが大きくなるため径を大きくする必要があり,溶接構造が採用されることもある。

3. 回転子の構造

タービン発電機には円筒形回転子が採用され,水車発電機には突極形回転子が採用される。

問2 電力系統用の遮断器における電流遮断条件

電力系統用の遮断器における代表的な次の四種の電流遮断条件のうち,三つを選んで,遮断時に発生する現象,遮断責務を説明せよ。

  1. 端子短絡故障遮断
  2. 近距離線路故障遮断
  3. 進み小電流遮断
  4. 遅れ小電流遮断

端子短絡故障遮断(BTF : Breaker Terminal Fault)

電源側遮断器につながれた負荷側送電線路の近傍で,地絡および短絡故障が発生した場合,その電源側遮断器で故障電流を遮断すると,すべての電源からの電流がその遮断器を通過するため,その電流は母線で発生した故障点での電流と同じく,変電所最大の故障電流となる。この故障電流遮断を端子短絡故障遮断(BTF : Breaker Terminal Fault)という。定格遮断電流はこのような三相短絡電流から決められ,これが動作責務となる。

近距離線路故障遮断(SLF : Short Line Fault)

線路用遮断器で,遮断器から数 km 線路上での短絡故障を遮断する場合に,遮断器至近点故障の場合より短絡電流が小さいにもかかわらず,再起電圧およびその上昇率が高いため,遮断が困難になることがある。これを近距離線路故障(SLF : Short Line Fault)という。

この短絡故障遮断の場合,遮断器の線路側端子には残留した電荷が線路の地絡点との間で往復伝搬現象を起こし,$\sqrt{2} \omega ZI$($\omega$ : 電源角周波数,$Z$ : 架空送電線の波動インピーダンスで 450 [Ω]程度,$I$ : 遮断電流実効値)で表される高い上昇率の過渡回復電圧(TRV : Transient Recovery Voltage)が発生する。遮断器極間には線路側 TRV と電源側 TRV の差が加わることとなり,遮断器にはこの責務が課せられる。

進み小電流遮断

無負荷送電線や電力用コンデンサの充電電流など進み電流を遮断するとき,再点弧すると,異常電圧が発生する。進み電流遮断時には,電流の自然零点で電流が遮断されるが,線路側に対地電圧の最大値に近い充電電圧が残る。これに対して電源側は電源電圧によって変化し,電流遮断後 1/4 サイクル以後は線路側電圧と逆極性になり,遮断器の極間電圧は遮断器両側電圧の絶対値の和で上昇する。このとき,その電圧が極間の絶縁回復の程度を上回ると極間に再びアークがつながり,振動電圧が生じ,これが常規電圧の 3 倍程度の異常電圧となる。

なお,理論上は振動の途中の零点で遮断され再点弧をする,いわゆる高周波消弧に伴う再点弧を繰り返すと,さらに高い電圧になる。つまり,遮断器には再点弧しないよう責務が課される。

遅れ小電流遮断

変圧器励磁電流の遮断時や高電圧電動機の無負荷電流を遮断するとき,電流さい断現象によって電流の自然零点をまたないで電流を遮断し,負荷側に異常電圧を生ずる。変圧器の励磁電流等の遅れ小電流を消弧力の強い遮断器で遮断すると,電流さい断によって電流変化率 $\displaystyle \frac{\text{d}I}{\text{d}t}$ に比例した異常電圧が発生する。遮断器の種類や変圧器の中性点接地方式によっても異なるが,異常電圧の大きさは最大でも常規対地電圧の 5 倍程度となり,遮断器には,この遮断責務が課せられる。

問3 反動水車の水力的振動

一般水車発電所の反動水車の水力的振動について,代表的な三つの例を挙げ,その発生原因と対策を簡潔に説明せよ。

吸出し管内旋回流による振動

フランシス水車では,軽負荷時,過大負荷時にランナから吸出し管に入る旋回流となるが,特に軽負荷では中心の空洞部が吸出し管内を揺れ動き,サージングを生じ,振動の原因となる。対策としては吸出し管上部から旋回流の低圧部に給気管により空気を送り込む方法が有効である。

カルマン渦による振動

フランシス水車やプロペラ水車のランナ羽根の出口側にカルマン渦が発生すると,その交番応力がランナを共振させ振動の原因となる。ランナ羽根出口縁の形状を修正する,あるいは,ランナ羽根の羽根の間に支柱を入れ,固有振動数を変えるなどの対策をとる。

キャビテーションによる振動

ランナやガイドベーンに発生するキャビテーションによって振動を生ずる。ランナやガイドベーンの形状を修正する。吸出し管や給気管を取り付けるなどの対策をとる。

ランナ入口の圧力変動による振動

ランナ羽根とガイドベーンの枚数の組合せが適正でなかったり,間隔が狭すぎたりすると,ランナ入口で水圧脈動が大きく現れ振動の原因となる。ランナ羽根の枚数を変更する,あるいは,ランナ羽根とガイドベーンの間隔を広げるなどの対策をとる。

問4 短絡距離リレー

図に示すような電力系統において,点 f で故障点抵抗(1 相分)を $R$ として三相短絡が発生した場合,点 a の短絡距離リレーは点 f までの実際の距離より何パーセント遠方に距離を判定するか計算せよ。ただし,図に示した電流値は,計器用変成器二次側に換算した値であり,定数は A 電源のみの場合における同リレーがみるインピーダンスとする。なお,$\sin{15^{\circ}} = 0.26$ として計算せよ。

短絡距離リレー
短絡距離リレー

距離リレーは入力電圧の入力電流に対する比,すなわち測距インピーダンスに応動し,測距インピーダンスが動作特性範囲であれば動作するものである。

問5 変電所の接地

  1. 変電所における次に示す接地について,その目的を記述例にならって簡潔に説明せよ。
    1. 避雷器(雷害防止用)接地
    2. 機器接地(金属製外箱等の接地)
    3. 雑音(ノイズ)対策用接地
    (記述例)系統接地:高圧又は特別高圧電路と低圧電路を結合する変圧器において,混触によって発生する低圧電路の災害を防止する接地である。
  2. 接地設計においては,人体にかかる歩幅電圧及び接触電圧を考慮し,接地抵抗を検討する必要がある。歩幅電圧及び接触電圧について,それぞれ簡潔に説明せよ。
  3. 次の条件における,歩幅電圧及び接触電圧の許容値を求めよ。
    (計算条件)
    • 人体に対する電流の許容値:$\displaystyle I_{K}=\frac{0.116}{\sqrt{t}}$ [A]
    • 手の接触抵抗:$R_H = 0$ [Ω]
    • 片足の接触抵抗:$R_F = 300$ [Ω]
    • 人体の抵抗:$R_K = 1000$ [Ω]
    • 故障継続時間:$t = 1$ [s]

1. 変電所における接地の目的

避雷器(雷害防止用)接地

直撃雷や誘導雷によって発生する雷電流を安全に大地へ放流するための接地である。雷電流は継続時間は短いが,接地電流としては最大級であり,雷防止用接地として架空地線の設置があり,大小各種避雷器の接地も雷害防止用接地に含まれる。

機器接地(金属製外箱等の接地)

電気機器の絶縁が何らかの原因で劣化すると,内部の充電部分から外部の露出非充電金属部分に異常電圧が発生し,感電する危険があり,感電防止を図るための接地である。

雑音(ノイズ)対策用接地

雑音の侵入によって,電子機器装置が誤動作したり通信品質が低下することを防止するため,さらに,電子機器装置から発生する高周波エネルギーが外部に漏えいして,他の機器に障害を与えぬようにするための接地である。

(参考)発変電所及び地中送電線の耐雷設計ガイド(2011年改訂版)

「発変電所及び地中送電線の耐雷設計ガイド(2011年改訂版)」において,発変電所の接地の目的は次表のように整理されている。

表 発変電所における接地の目的
No. 目的 説明
1 雷害防止の接地 雷撃電流を安全に大地へ放電させることによる,対地電位上昇による人身災害や機器事故の防止
2 機器接地 地絡電流を完全に大地へ放電させることによる,対地電位上昇による人身災害や機器事故の防止,電気回路からの誘導,混触などによる感電災害の防止
3 地絡検出用の接地 電路に地絡が生じたとき,保護継電装置の動作電流を確保し,故障箇所の切離しをはかる
4 二次低圧回路接地 高圧と低圧の混触により発生する二次側電路の災害防止
5 雑音対策用の接地 外来の雑音の侵入防止および内部雑音の外部への漏えいの防止
6 等電位化用の接地 人間が接触する可能性のある金属部分の電位差の発生の防止
7 機能用の接地 電気防食,基準点電位等,設備の機能上必要な接地
8 静電気障害防止の接地 静電気の蓄積による人体および機器障害の防止
9 作業用接地 停電作業時の充電回路からの誘導,混触等による感電災害の防止

2. 歩幅電圧及び接触電圧について

変電所では,雷撃電流や高圧電路の地絡故障電流などが原因で接地電極近傍に電位が分布する。このとき,変電所構内の大地に人が立っているときの両足にかかる電位差を歩幅電圧($E_\text{touch}$)という。一般に接触電圧は,接地系に接続された構造物とそれから 1 [m] 離れた地表面の電位差で評価される。歩幅電圧及び接触電圧ともわが国では,100 ~ 150 [V] が目安とされている。

3. 歩幅電圧及び接触電圧の許容値

条件より,人体に対する電流の許容値 $I_K$IK は,

\[ I_{K} = \frac{0.116}{\sqrt{t}} = \frac{0.116}{\sqrt{1}} = 0.116 \text{ [A]} \]

となり,歩幅電圧 Estep は,

\[ E_\text{step}=I_{K}(R_{K} + 2 \times R_{F})=0.116 \times (1000 + 2\times300)=185.6 \text{ [V]} \]

となる。一方,接触電圧 $E_\text{touch}$ は,次式で求められる。

\[ E_\text{touch} = I_{K} \times (R_{H} + R_{K} + \frac{R_{F}R_{F}}{R_{F} + R_{F}})= 0.116 \times (0 + 1000 + \frac{300}{2}) = 133.4 \text{ [V]} \]

問6 部分放電試験

高電圧機器の絶縁性能を確認するために行われる各種非破壊試験のうちの部分放電試験に関する次の事項について,簡潔に説明せよ。

  1. 部分放電現象と絶縁性能との関連
  2. 代表的な試験(測定)方法を二つ以上挙げ,その原理

複合誘電体を有する電極配置に高い電圧を印加すると,電界の強さの大きいところで局所的な放電が生じる。このような放電を総称して部分放電(partial discharge)という。最近,ボイド放電などの部分放電現象とこれによる絶縁材料の劣化が明らかにされ,また,部分放電の測定技術が向上し,さらに,電力機器や電力ケーブルなどに対する部分放電試験の有効性が認められるようになったため,この種の試験が広く行われている。

部分放電に関する一般的な測定については,すでに国内外において規格が制定されており,またそれぞれの機器,ケーブルなどについても規格が決められている。

  • JEC-0401(1990):「部分放電測定」
  • IEC 60270 (2000) : "High-voltage Test Techniques - Partical Discharge Measurements"

1. 部分放電現象と絶縁性能との関連

部分放電は電極間に電圧を加えたときに,その間の絶縁媒体中で部分的に発生する放電現象であり,電極の突起,電極と絶縁物界面におけるはく離,絶縁物内部の異物やボイド,複合絶縁構成におけるトリプルジャンクション,絶縁物表面への異物付着,金属部分の接触不良など種々の原因により発生する。

部分放電が発生すると,これが発端となって絶縁破壊や局部的な絶縁劣化を引き起こすため,絶縁材料の寿命を決める要因となる。

2. 代表的な試験(測定)方法

一定時間内に発生する部分放電パルスの電荷量,発生頻度,放電エネルギーや交流電圧位相との関係を電気信号ととして検出する方法(パルス電流検出法)と,部分放電の発生に伴って生ずる超音波や光などを高感度マイクロホンや光電子倍増管あるいは光ファイバセンサなどを用いて,音響的あるいは光学的に測定する方法がある。

inserted by FC2 system