平成29年度 第一種 電気主任技術者二次試験 電力・管理
目次
問1 水力発電所での 100 % 負荷遮断試験
理論水力 11 000 kW の水力発電所で 100 % 負荷遮断試験を行い,速度上昇率は 30 %,電圧変動率は 25 % であった。水車発電機の総合効率は 86 %,発電機は 18 極,定格周波数は 60 Hz である。負荷遮断試験は,定格電流 517 A,定格力率 96 %,定格回転速度の下で行った。水車の速度調定率は 5 % とし,調速機のガバナ特性は直線とする。
次の 1. から 6. の数値を求めよ。
- 水車発電機の定格回転速度 [min-1]
- 水車発電機の最大回転速度 [min-1]
- 水車発電機の無負荷安定時の回転速度 [min-1]
- 発電機の定格出力 [kW]
- 発電機の定格電圧 [kV]
- 発電機の最大電圧 [kV]
問2 油入変圧器の内部絶縁材料
油入変圧器の内部絶縁には,絶縁油と絶縁紙(クラフト紙)などのセルロース系絶縁材料が使用されている。これら絶縁材料について次の問に答えよ。
- 絶縁油には一般に鉱油が使用されているが,絶縁油が吸湿したり,空気に長時間さらされると絶縁性能が低下する。この場合の絶縁油の絶縁特性を確認する診断項目を四つ挙げ,その診断項目と絶縁性能低下との関係がどのようになるかを簡潔に述べよ。
- 不燃性・難燃性などの防災性や環境適合性の観点から,鉱油以外の絶縁媒体を使用した油入変圧器が実用化されている。鉱油以外の絶縁媒体を二つ挙げよ。
- 絶縁紙の絶縁特性を向上させる方法の一つとして,油浸して気密度を上げる方法があるが,その他の方法を一つ説明せよ。
1. 絶縁油の絶縁特性を確認する診断項目
絶縁破壊電圧
酸化や水分量の増加,油中微粒子などにより絶縁油が劣化すると絶縁破壊電圧が低下する。
全酸価
絶縁油の酸化劣化により有機酸が生成され全酸価が増加すると,絶縁性能が低下する。
体積抵抗率
絶縁油が劣化するとイオン性の物質が増加し体積抵抗率が減少し,絶縁性能が低下する。
誘電正接($\tan{\delta}$)
絶縁油が劣化するとイオン性の物質を生成するため誘電体損が増加し,絶縁性能が低下する。
水分量(油中水分量)
絶縁油中の水分量が増加すると絶縁性能が低下する。
2. 鉱油以外の絶縁媒体
- シリコーン油
- 合成エステル油
- 植物油
3. 絶縁紙の絶縁特性を向上させる方法
- 絶縁紙の密度を上げる。
- 絶縁紙の含有水分量を減らす。
問3 超高圧系統における後備保護
超高圧系統における後備保護に関して,次の問に答えよ。
(1) 自端後備保護の一種である図 1 のブスタイ分離リレーについて,その設置目的を説明せよ。また,図 1 の事故に対して,CB2 は回線 2 の主保護リレーで遮断されるが CB4 は遮断失敗した場合,ブスタイ分離リレーの有無によって停電区間がどのように違うのか説明せよ。
(2) 図 2 の遠端後備保護方式について,以下の問に答えよ。
- 設置目的と,図の F 点での事故時の動作概要を記せ。
- 一般に遠端後備保護は,当該事故区間の保護リレーの不具合だけでなくそれに関わる他の機器の不具合に対しても有効である。有効となる不具合機器を三つ挙げよ。
- 遠端後備保護に距離リレーを用いる場合の保護協調について,図 2 の電気所 A での設定方法の概要を記せ。なお,想定事故点は F 点に限るものではない。
(1) ブスタイ分離リレーの設置目的と動作概要
設置目的
主保護リレーや遮断器の不良,又は,予想以上の過酷な事故が発生した場合,ブスタイを分離して事故側母線と健全側母線を分離する。これにより,分流を減らし遠端後備保護を確実に動作させ,停電範囲を半減させる。さらに系統に対する事故の影響も軽減できるので,系統の安定性向上に役立つ。
動作概要
図 1 の例では,ブスタイ分離リレー動作により CB9 が遠端後備保護で遮断される。なお,CB2 は回線 2 の主保護リレーで遮断されている。この動作により,回線 2 と回線 4 は使用不能となるが,回線 1 と回線 3 は使用可能である。なお,ブスタイ分離リレーがなければ回線 1 ~ 4 の全てが使用不能となるので,使用不能となる回線数が半減することになる。
(2-a) 遠端後備保護方式の設置目的と動作概要
設置目的
当該事故区間の保護リレーによる遮断が失敗した場合に,事故区間の後方電気所で事故を検出し,後方電気所の遮断器を遮断し,事故の拡大を防止する。
動作概要
図 2 の例では,F 点の事故において電気所 C で遮断失敗した場合に,後方の電気所 B のリレーが事故を検出し,一定時限後に電気所 B の CB3 を遮断する。
(2-b) 有効となる不具合機器
- 遮断器故障
- VT(PT)
- CT
- 制御電源故障
(2-c) 遠端後備保護に距離リレーを用いる場合の保護協調
第 1 段の保護範囲はリレー設置点から隣接端子(電気所 B)までの電気的距離(線路インピーダンス)の 80 % 程度に整定し,これが動作した場合,主保護リレーと時間協調をとりできる限り高速度で CB1 を開放する。
第 2 段の保護範囲は自区間(リレー設置点から隣接端子までの区間)の 120 ~ 150 % 程度に整定し,自区間の第 1 段保護範囲外となる区間および隣接母線の保護を目的とする。ただし,隣接区間の第 1 段との協調を必要とするため,限時リレーにより限時動作を行う。
第 3 段の保護範囲は隣接区間の高速遮断ができなかった事故に対する後備保護を行うもので,隣接送電線の最も長いものの終端までを含めなければならない。この第 3 段は第 2 段と時間協調をとり,限時リレーにより限時し,第 2 段動作より遅らせる。
問4 高速再閉路がタービン発電機の軸に与える影響
図において,並行 2 回線送電線(周波数 50 Hz)の 1 回線故障に伴う高速再閉路がタービン発電機の軸に与える影響を検討する。昇圧変圧器の高圧側母線至近端で三相短絡故障(故障点抵抗零)が発生し,その 0.1 秒で三相遮断,故障除去,1 回線運用に瞬時に移行した状況を想定している。次の問に答えよ。
タービン発電機は過渡リアクタンス背後電圧一定のモデルで実現し,その定格容量は 1 000 MV·A,過渡リアクタンスは $x_\text{d}' = 0.3$ p.u.(自己容量基準),慣性定数 $M$ は自己容量基準で 7 秒とし,固定子抵抗,励磁制御や調速機の効果,電気的トルクの振動成分は全て無視するものとする。ここで,発電機の回転速度 $\omega$ の挙動は,機械的入力 $P_\text{m}$,電気的出力 $P_\text{e}$ を用いて,微分方程式
\[ M \frac{\text{d}\omega}{\text{d} t} = P_\text{m} - P_\text{e} \]で表現するものとする。なお,回転速度の変化は小さいため,電力とトルクは同じものと仮定する。変圧器と送電線はともにリアクタンス 0.1 p.u.(1 000 MV·A 基準。送電線は 1 回線分)とし,その他のインピーダンスは無視する。故障発生前はタービン発電機は定格端子電圧 1.0 p.u.,定格出力,定格力率 90 %(遅れ)で運転していたものとする。
- 短絡時の電気的トルクのステップ変化の大きさを p.u. 単位で求めよ。
- 故障発生後 0.1 秒間のタービン発電機の内部相差角増大量 $\Delta \delta$ を rad 単位で計算せよ。
- 故障発生前及び故障除去後(1 回線運用中)の直列合成リアクタンス(発電機内部電圧から無限大母線までの間にある全リアクタンスを合成した値)をそれぞれ求めよ。また,故障発生前の発電機の運転条件から,$x_\text{d}'$ 背後電圧 $\dot{E}_\text{q}'$ の大きさと,無限大母線電圧 $\dot{V}_\text{i}$ の大きさを求めよ。答えは全て p.u. 単位で記すこと。
- 小問 2. で求めた故障除去時までの $\Delta \delta$ [rad] について $\sin{\Delta\delta} \approx \Delta \delta$ と近時するものとして,故障除去時の電気的トルクのステップ変化の大きさを p.u. 単位で求めよ。正弦関数の加法定理 $\sin(\alpha + \beta) = \sin\alpha \cos\beta + \cos\alpha \sin\beta$ を用いてよい。
- 高速再閉路の際に故障が継続していると再び電気的トルクが大きく変化する。タービン発電機には振動数 10 Hz 程度の軸ねじれ振動を生じることを参考にして,高速再閉路のタイミングが 0.1 秒程度以下ずれるだけで軸の機械的疲労が大きく左右されることを説明せよ。
5. 高速再閉路のタイミング
再閉路時に故障点の短絡が解消されていない場合に,再閉路が行われると再び三相短絡が発生し,(1) で求めたような大きな電気的トルクが再び軸に加わることになる。このため軸は故障発生時に加速方向,故障除去時に減速方向,再閉路(失敗)時に再び加速方向の電気的トルクの急激な変化にさらされる。この大きな衝撃によって軸にはねじれ現象が発生するが,その減衰は一般に極めて悪く,固有振動数は 10 Hz 程度である。このため,再閉路失敗のタイミングが 0.1 秒程度以下の範囲で僅かに前後するだけで,その瞬間の軸のねじれ振動は様々な状態をとりうる。最悪の場合としては軸がちょうど加速しているところで再閉路失敗の加速方向のステップ変化を受けることも考えられ,この場合には軸は大きく機械的に歪むことになり,材料疲労は過酷となる。
問5 無効電力及び静止型無効電力補償装置
無効電力及び静止型無効電力補償装置に関する以下の問に答えよ。
(1) 有効消費電力が $P$ [W]($P \gt 0$),力率が $\cos\theta$($\displaystyle \frac{\pi}{2} \gt \theta \gt -\frac{\pi}{2}$)の単相負荷がある。電圧と電流は,ひずみのない正弦波とする。次の a 及び b に答えよ。
- この単相負荷が消費する無効電力 $Q$ [var] はいくらか。ただし,$Q$ は,$\theta$ が正のときに正とする。
- 静止型無効電力補償装置の運転制御において,交流電力の値を 1 サイクルでの平均値としてではなく,瞬時値で考える必要がある。無効消費電力 $Q$ がゼロでないときには,負荷であるにもかかわらず,上記負荷の消費する瞬時電力が発電側(負)となる時間が 1 サイクルの期間内に一定の割合で発生する。皮相電力が同じでも無効電力があることによって有効消費電力が低下するのは,このことが理由である。電圧を $v(t) = V\sin(\omega t)$ [V],電流を $i(t) = I\sin(\omega t - \theta)$ [A] としたとき,1 サイクル($2\pi \gt \omega t \ge 0$)の間で瞬時電力が発電側(負)となる時間を,$\theta$ に応じた $\omega t$ の範囲式として示せ。
以下の文章は,静止型無効電力補償装置の種類及び動作に関する記述である。(イ)から(へ)の記号を付した空欄に当てはまる語句又は文章を,次の解答方法に従って答案用紙に記入せよ。
- パワーエレクトロニクスを利用した静止型無効電力補償装置には,(イ),TSC,自励式 SVC がある。(イ)は,サイリスタの位相制御によってリアクトル電流を制御して無効電力を(ロ)に調整する。リアクトル電流のみでは進み無効電力を発生できないので,(ハ)又は TSC を並列に設置することがある。
- TSC は,サイリスタによってコンデンサを(ニ)して無効電力を調整する。採用に当たっては,(ロ)に調整することはできないこと及び投入位相によっては(ホ)が流れることを考慮しなければならない。
- 自励式 SVC は STATCOM とも呼ばれ,自励式電力変換装置を用いて無効電力を発生し,又は吸収する。同期調相機と比較した場合,電力系統に並列運転をして無効電力を発生し,又は吸収する点は同じであるが,電気回路要素として両者は次の点で相違している。
(へ)
(1-a) 単相負荷が消費する無効電力 $Q$
単相負荷が消費する無効電力 $Q$ [var] は,次式となる。
\[ Q = P\tan{\theta} \](1-b) 瞬時電力が発電側(負)となる時間
$\theta \ge 0$ の場合
$\theta \gt \omega t \gt 0$,及び $\pi + \theta \gt \omega t \gt \pi$
$\theta \lt 0$ の場合
$2\pi \gt \omega t \gt 2\pi + \theta$,及び $\pi \gt \omega t \gt \pi + \theta$
(2) 静止型無効電力補償装置の種類及び動作
- TCR(Thyristor Controlled Reactor : サイリスタ制御リアクトル)
- 連続的
- コンデンサ
- 開閉
- 突入電流
- 同期調相機は電圧源として動作するのに対して,自励式 SVC は電流源として動作する。
問6 電力系統における電力損失
電力系統における電力損失(発電所で発生した電力が,需要家に供給されるまでの間に発電所,変電所及び送電線や配電線でその一部が失われること)に関して,次の問に答えよ。
(1) 電力損失を発電所所内電力と送変配電設備に分け,それぞれの損失を構成する内容について簡単に述べよ。なお,発電所は汽力を原動力とする火力発電所とし,直流送電は想定しなくてよい。
(2) 近年の水力発電所所内電力の所内比率(発電電力量に対する所内電力量の割合),及び送配電設備の損失率について,全国平均実績値 [%] として最も近いものを解答群の中から選び,それぞれその記号を答えよ。
(3) 発電所を除く電力系統における電力損失軽減対策について三つ挙げ,それぞれ簡潔に説明せよ。
(1) 電力損失の構成と内容
発電所所内電力
発電のために使用する動力,照明,電熱などをいう。
火力発電所では,冷却水循環やボイラ給水,送風などのほか,排煙脱硫装置や石灰灰の処理などの動力が必要になる場合もある。
送変配電設備の電力損失
送電線路・変電所・配電線路中で消費される銅損や鉄損,その他の電力損失であり,潮流や力率などによって変動する。
電力系統の電力損失では一番大きい。
送配電線の抵抗損(オーム損)がメインで,変圧器では鉄損や銅損が発生する。
超高圧送電線ではコロナ損,地中送電線では誘電体損やシース損がある。
(2) 水力発電所所内電力の所内比率,送配電設備の損失率
- 近年の水力発電所所内電力の所内比率(発電電力量に対する所内電力量の割合)の全国平均実績値 [%]:(イ) 1 [%]
- 近年の送配電設備の損失率の全国平均実績値 [%]:5 %
(3) 発電所を除く電力系統における電力損失軽減対策
潮流改善
電力系統間をつなぐ連系送配電線路を新設するなどして各電力系統を流れる電力潮流を改善し,電力損失の軽減を図る。
過負荷解消
過負荷傾向にある送配電線路に対し新たに送配電線路を新設・増設するなどにより過負荷を解消し,電力損失の軽減を図る。
力率改善
遅れ力率で値が悪いと電流が増え電力損失が増加することから,電力コンデンサを設置して遅れの無効電力を打ち消し電力損失の軽減を図る。
電圧格上げ
電力損失は電流と抵抗によるものであり,送電線や高圧配電線の格上げ(上位電圧への移行)により電流値を抑え電力損失の軽減を図る。
損失軽減機器・機材・構造の採用
低損失変圧器・低損失電線など,高効率・低損失の電力機器・機材・構造を採用し電力損失の軽減を図る。