令和2年度 第一種 電気主任技術者二次試験 電力・管理

2021年6月26日作成,2022年11月6日更新

目次

  1. 汽力発電所の所内単独運転
  2. 送電線の抵抗とリアクタンスを考慮した送電電力
  3. 無限大母線からリアクタンスを介した抵抗負荷への電力供給
  4. 架空送電系統
  5. 発電機母線での三相短絡と完全一線地絡
  6. 屋外変電所の塩害対策

問1 汽力発電所の所内単独運転

我が国における汽力発電所の所内単独運転に関して,次の問に答えよ。

(1) 所内単独運転はどのような事態が発生した際に実施されるのか,その目的とともに 100 字程度で述べよ。

(2) 所内単独運転中のボイラ設備,タービン設備,電気設備について,各設備への影響を踏まえて制御上注意すべきことをそれぞれ 50 字程度で述べよ。

問1 解答と解説

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(1) 汽力発電所で所内単独運転が実施される事態

電力系統の事故により汽力発電ユニットが系統から分離した場合に実施される。ユニットを停止させることなく,所内負荷をもって運転を継続し,系統電圧の復帰を待って迅速に並列・出力上昇を行うことが目的である。

(2) 所内単独運転中の注意点

所内単独運転中のボイラ設備,タービン設備,電気設備について,各設備への影響を踏まえて制御上注意すべきことを以下に示す。

ボイラ設備

安定した燃焼状態を維持するために,出力に追従したバーナ本数制御,燃料,空気流量の絞り込みを行う。

タービン設備

ロータの寿命に影響を与えるような温度変化が起きないように,蒸気温度を維持する。

電気設備

所内負荷である補機電動機の運転が継続できるように,定格周波数,定格電圧を維持する。

問2 送電線の抵抗とリアクタンスを考慮した送電電力

送電線の抵抗とリアクタンスを考慮した送電電力に関して,次の問に答えよ。

ただし,送電端電圧 $\dot{V_1}$ の大きさを $V_1$,位相を $\delta$,受電端電圧 $\dot{V_2}$ の大きさを $V_2$,位相を零,送電線の抵抗を $r$,リアクタンスを $x$,送電線電流を $\dot{I}$ とし,電力や電流は送電端から受電端への向きを正,無効電力は遅れを正とする。

図 1
図 1

(1) $\dot{V_1}$ と $\dot{V_2}$ の関係を答案用紙に印刷されている図 2 のベクトル図に $\dot{V_1}$,$r\dot{I}$,$\delta$ 及び $\text{j}x\dot{I}$ を追加して示せ。

図 2
図 2

(2) 送電端から受電端への潮流の送電端側の有効電力を $P$,無効電力を $Q$ として,$\dot{I}$ を,$P$,$Q$,$\dot{V_1}$ を用いて表せ。

(3) $r$ 及び $x$ を $V_1$,$V_2$,$\delta$,$P$,$Q$ を用いて表せ。なお,$P\neq 0$ あるいは $Q\neq$ 0 とする。

(4) $r=$ 0.041 4 p.u.,$x=$ 0.245 p.u. と与えられたとき,$V_1=$ 1.08 p.u.,$V_2 =$ 1.02 p.u.,$P=$ 1.20 p.u.,$Q=$ 0.215 p.u. となった。この場合の $\sin\delta$,$\cos\delta$ の値を求めよ。

問2 解答と解説

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(1) $\dot{V_1}$ と $\dot{V_2}$ の関係

送電端電圧 $\dot{V_1}$ と受電端電圧 $\dot{V_2}$ の関係を示すベクトル図は,下図となる。

図 送電端電圧と受電端電圧の関係(ベクトル図)
図 送電端電圧と受電端電圧の関係(ベクトル図)

(2) 送電線電流

(3) 送電線の抵抗とリアクタンス

(4) $\sin\delta$,$\cos\delta$ の値

問3 無限大母線からリアクタンスを介した抵抗負荷への電力供給

図 1 に示すように無限大母線からリアクタンスを介して抵抗負荷に電力を供給している場合について考える。ただし,各変数は単位法で表されているものとする。

(1) 図 1 (a) の系統に対して,受電端母線の電圧の大きさ $V$ と受電端有効電力 $P$ の間の関係($P-V$ カーブ)の概形を図示せよ。図の縦軸・横軸が何を表すかとともに,電圧高め解,電圧低め解の範囲を図中に示せ。

(2) 図 1 (b) に示すように,電圧 $V$ の受電端母線に抵抗負荷(抵抗は $R$)がタップ切換変圧器(タップ比 $1:n$)を介して接続された場合を考える。$V$ を負荷消費電力 $P_\text{L}$ と $R$,$n$ で表す式を求めよ。ただし,変圧器は理想変圧器とする。

(3) 小問 (2) の条件のもと,$R$ が小さい場合に,さらに $R$ が小さくなった場合を考える。このとき,負荷端電圧の大きさ $V_\text{L}$ を一定に保とうとしてタップ比 $n$ を増加させると,かえって $V_\text{L}$ が低下する場合がある(変圧器タップの逆動作現象)。タップ比 $n$ を増やすと受電端電圧 $V$ と負荷消費電力 $P_\text{L}$ がどのように変化するかについて,$P-V$ カーブに負荷の $P_\text{L}-V$ 特性,又は $P-V_\text{L}$ カーブに負荷の $P_\text{L}-V_\text{L}$ 特性を重ねて図示して 300 字程度以内で説明せよ。

図 1
図 1

問3 解答と解説

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(1) 受電端母線の電圧の大きさ $V$ と受電端有効電力 $P$ の間の関係($P-V$ カーブ)の概形

受電端母線の電圧の大きさ $V$ と受電端有効電力 $P$ の間の関係($P-V$ カーブ)の概形を下図に示す。カーブの頂点(ノーズ)より電圧が高い側を電圧高め解,低い側を電圧低め解と呼ぶ。

図 受電端母線の電圧の大きさと受電端有効電力の間の関係
図 受電端母線の電圧の大きさ $V$ と受電端有効電力 $P$ の間の関係

(2) 受電端母線の電圧の大きさ $V$

負荷消費電力 $P_\text{L}$ は次式で表される。

\[ P_\text{L}=\frac{n^2 V^2}{R} \]

このため,次式が成り立つ。

\[ V=\frac{\sqrt{RP_\text{L}}}{n} \]

(3) タップ比 $n$ を増やしたときの $P-V$ カーブ

負荷消費電力と受電端電圧は,上述の $P-V$ カーブと $P_\text{L}-V$ 特性を表すカーブの交点として定まる。このため,下図に示すように,負荷が比較的小さく($R$ が比較的大きく),動作点が電圧高め解にあたる場合には,タップ比 $n$ を増加すると負荷消費電力は増大する。抵抗負荷であるため,これは負荷端電圧 $V_\text{L}$ が上昇することを表している。

しかし,図中に示すように,負荷が大きい($R$ が小さい)場合に,タップ比 $n$ が大きくなると,動作点は電圧低め解となることがある。電圧低め解では,タップ比 $n$ を増大すると受電端電圧とともに負荷消費電力が減少するが,これは負荷端電圧 $V_\text{L}$ が低下することに対応する。これが変圧器タップの逆動作現象である。

図 受電端母線の電圧の大きさと受電端有効電力の間の関係
図 受電端母線の電圧の大きさ $V$ と受電端有効電力 $P$ の間の関係

問4 架空送電系統

図に示すような架空送電系統において,母線 2 から区間 B の 40 % の距離にあたる点 F で三相地絡事故が発生した。区間 B での主保護リレーが誤不動作し,母線 2 と母線 3 の線路遮断器が閉じたままで事故が継続中である。このとき区間 A の母線 1 側に設置された後備保護リレーである地絡距離リレー RyA の動作に関して,次の問に答えよ。

架空送電系統
架空送電系統

ただし,図に示した $\dot{V_1}$ [V],$\dot{I_1}$ [A],$\dot{I_2}$ [A],$\dot{I_3}$ [A],$\dot{Z_1}$ [Ω],$\dot{Z_2}$ [Ω],$\dot{Z_\text{F}}$ [Ω] は,計器用変成器二次側に換算した相電圧値,相電流値,インピーダンス値である。RyA が測定する距離インピーダンスの大きさは $\displaystyle |\frac{\dot{V_1}}{\dot{I_1}}|$ で演算される。$\dot{Z_1}$,$\dot{Z_2}$ はそれぞれ区間 A,区間 B の送電線インピーダンス,$\dot{Z_\text{F}}$ は F 点での故障点インピーダンスで,全て 1 相あたりとする。負荷電流と充電電流は無視できるものとする。

(1) RyA が測定する $\dot{V_1}$ を,$\dot{I_1}$,$\dot{I_2}$,$\dot{I_3}$,$\dot{Z_1}$,$\dot{Z_2}$,$\dot{Z_3}$ を用いて表せ。

(2) RyA の整定値が $\dot{Z_1}$ の大きさに対するパーセント値で表される場合,RyA が動作域にあるためには,整定値は何パーセント以上であればよいか。$\displaystyle \frac{\dot{I_2}}{\dot{I_1}}$,$\displaystyle \frac{\dot{I_3}}{\dot{I_1}}$ を計算し,整定値は最小値で求めよ。

ただし,RyA が測定する距離インピーダンスの大きさが整定値以下になると RyA は動作域にあるものとし,$\dot{I_1}$,$\dot{I_2}$,$\dot{I_3}$,$\dot{Z_1}$,$\dot{Z_2}$,$\dot{Z_\text{F}}$ は次の値とする。

$\dot{I_1}$ = 30 + j0.0 A,$\dot{I_2}$ = 21 - j3.6 A,$\dot{I_3}$ = 15 - j3.9 A,$\dot{Z_1}$ = 0.35 + j2.0 Ω,$\dot{Z_2}$ = 0.22 + j1.2 Ω,$\dot{Z_\text{F}}$ = 0.10 + j0.0 Ω

問4 解答と解説

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準備中

問5 発電機母線での三相短絡と完全一線地絡

電圧 11 kV,容量 100 MV·A の三相発電機が主変圧器を介して 66 kV 送電線に接続する系統がある。主変圧器の容量は,100 MV·A であり,インピーダンスは自己容量ベースで 9 % である。66 kV 送電線系統は,無限大母線と考えてよい。発電機巻線は星形結線であり,その中性点は図のように接地変圧器及び接地抵抗によって接地されている。11 kV 発電機母線には,補機に電力を供給するための所内変圧器が接続されている。所内変圧器容量は 5 MV·A であり,所内母線電圧は 6.6 kV である。発電機の短絡比が 0.6 であるとき,次の問に答えよ。

ただし,発電機は発電機電圧 11 kV で運転中であり,送電線運転電圧は 66 kV であるとする。発電機,変圧器の巻線抵抗は,無視してよい。

(1) 発電機母線で三相短絡が生じたときの短絡電流の大きさはいくらか。主変圧器の 11 kV 端子から流れ込む電流と,発電機から供給される電流とに分けて解答せよ。なお,所内母線側からの電流供給はないものとする。

(2) 所内母線受電遮断器 CB2 の遮断電流が 12.5 kA であるとする。所内母線三相短絡時に CB2 を流れる電流を 12.5 kA 以下とするためには,所内変圧器のインピーダンスの大きさを何パーセント(自己容量ベース)以上としなければならないか。ただし,発電機の内部相差角は,無視してよい。

(3) 発電機母線が完全一線地絡したときの地絡電流の大きさは,何アンペアとなるか。ただし,発電機の正相,逆相,零相インピーダンスは,無視してよい。

三相発電機が主変圧器を介して 66 kV 送電線に接続する系統
三相発電機が主変圧器を介して 66 kV 送電線に接続する系統

問5 解答と解説

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準備中

問6 屋外変電所の塩害対策

がいし,ブッシング(以下「がいし類」という。)を有する屋外変電所(以下「変電所」という。)の塩害対策について,次の問に答えよ。

(1) 変電所のがいし類の塩害汚染の管理指標として,等価塩分付着密度 [mg/cm2] が用いられている。等価塩分の意味を含めてこの管理指標が用いられる理由を答えよ。

(2) 変電所の塩害対策は保守が容易ながいし類の過絶縁設計が基本であるが,海岸に近く,台風や季節風によりがいし類に付着する塩分が多い地域にある変電所では,電圧が高いほど,過絶縁設計だけではなく,活線洗浄などを組み合わせて対策することが多い。その理由を答えよ。

(3) 塩害対策の一つとして,絶縁性に優れたシリコンコンパウンドをがいし類に塗布する方策がある。絶縁性以外に,シリコンコンパウンドが有する塩害対策として優れた特性を答えよ。また,保守上注意すべき点を答えよ。

問6 解答と解説

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(1) 変電所のがいし類の塩害汚染の管理指標「等価塩分付着密度」

等価塩分とは,実際の汚損物による水の導電率と同一の値を示す食塩(塩化ナトリウム)の量であり,管理指標として用いられるのは,がいし類の汚損時の絶縁耐力が等価塩分付着密度ごとに決められているからである。

(2) がいし類の活線洗浄

これらの地域では,活線洗浄などを組み合わせて対策するのに比べ,過絶縁設計のみで対策すると,がいし類を長大化する必要があり,電圧が高いほど,技術的に実現が困難,又は非常に高価となり,不経済となるからである。

(3) シリコンコンパウンド

絶縁性以外に,シリコンコンパウンドが有する塩害対策として優れた特性は以下の通り。

  • がいし類の表面に降りかかる水分をはじく,優れた撥水性
  • がいし類に付着した塩分を包み込むアメーバ作用

また,保守上注意すべき点は,シリコンコンパウンドの寿命が 1 ~ 2 年と短く,通常の点検よりも多頻度で設備を停止して,清浄再塗布する必要がある。

(参考)がいし

がいしは,電線を支持物から絶縁するために十分な機械的強度を有し,しかも電気的な絶縁の任務を果たさなければならない。

がいしを構成する磁器は,粘土および陶石(石英と長石を含む)を主成分として粉砕混合し,水でこね合わせたものを成形し乾燥のうえ,その表面にうわぐすりを塗って焼成したものである。

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