令和3年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理

2021年11月19日作成,2022年2月18日更新

はじめに

受験者は 899 人,合格者数は 72 人で,合格率は 8.0 % だった。

合格基準は,100 点満点換算で 51.7 点以上(実得点 180 点満点で 93 点以上),かつ,各科目ともに平均点 -5 点以上である。

目次

  1. 反動水車におけるキャビテーション
  2. 発変電所に設置された保護リレーが誤動作するおそれ
  3. 電力系統におけるニュートン・ラプソン法を用いた電力潮流計算
  4. タップ付き変圧器の並行運転
  5. 特別高圧送電線の装置
  6. 高調波を発生する負荷と力率改善用コンデンサ設備

問1 反動水車におけるキャビテーション

反動水車におけるキャビテーションに関して,次の各問に答えよ。

(1) キャビテーションの発生メカニズムについて 200 字程度で述べよ。

(2) キャビテーションが発生した場合,運転中の機器に与える影響を二つ挙げ,合わせて 30 字程度で述べよ。

(3) キャビテーションを抑制するために,発電所を設計するうえで考慮すべきこと及び水車の設計・製作上で考慮すべきことを合わせて 200 字程度で述べよ。

(4) 運転開始後に点検等でキャビテーションを確認した場合,運転上実施すべき対策を 30 字程度で述べよ。

問1 解答と解説

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(1) キャビテーションの発生メカニズム

運転中の水車の各部の流束および圧力はそれぞれ異なる。ある点の圧力が,そのときの水温の飽和蒸気圧以下に低下すると,その部分の水は蒸発して水蒸気となるので流水中に微細な気泡が発生する。この気泡が周囲の水とともに流れてて圧力の高い部分に達すると突然つぶれ,その瞬間に非常に高い圧力を生じ,近くの物体に大きな衝撃を与える。この現象をキャビテーション(cavitation)という。

(2) 運転中の機器に与える影響

以下の機器に与える影響から二つ記載する。

  • 流水に接するランナ羽根に壊食が生じる。
  • 水車効率が低下する。
  • 振動・騒音が発生する。

(3) 発電所を設計するうえで考慮すべきこと及び水車の設計・製作上で考慮すべきこと

発電所を設計するうえで考慮すべきこと

キャビテーションを抑制するため,設計上,最も重要なのは吸出し高さの選定であり,吸出し高さを低くすることが効果的である。

水車の設計・製作上で考慮すべきこと

プロファイルゲージ等を用いてランナ羽根の形状を適切に整形し,表面を平滑に仕上げることも重要で,水の流れがランナ表面から剥離しないことでのキャビテーションの抑制が期待できる。

(4) 運転上実施すべき対策

部分負荷運転の下限値を上げることでキャビテーションの抑制を図る。

参考文献

問2 発変電所に設置された保護リレーが誤動作するおそれ

発変電所に設置された保護リレーが誤動作するおそれがある場合について,その理由と,保護リレーにおける誤動作防止策を,次の各問にそれぞれ 200 字程度で簡潔に答えよ。

(1) 送電線保護に用いられる電流作動リレーが,外部事故時の大電流により誤動作するおそれがある理由と,その防止策。

(2) 変圧器保護に用いられる比率差動リレーが,変圧器の励磁突入電流により誤動作するおそれがある理由と,その防止策。

(3) 母線保護に用いられる電流作動リレーが,外部至近端事故により誤動作するおそれがある理由と,その防止策。

問2 解答と解説

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(1) 送電線保護に用いられる電流作動リレー

外部事故時の大電流により誤動作するおそれがある理由

送電線の外部事故発生時において,故障電流が大電流になると,CT にも大きな電流が流れるため比例分誤差が大きくなる。特に CT の鉄心飽和に伴い電流値の誤差が大きくなると,端子間に不要な差電流が生じて電流差動リレーが誤動作するおそれがある。

外部事故時の大電流により誤動作の防止策

電流差動リレーの比率特性を小電流域特性と大電流域特性の二つの要素から構成し,大電流域において誤差が大きくなったときに動作感度を低下させることにより,誤動作を防止する。

(2) 変圧器保護に用いられる比率差動リレー

変圧器の励磁突入電流により誤動作するおそれがある理由

変圧器を停止したときに変圧器鉄心に残留磁束が残った状態で,次に変圧器を充電すると,系統電圧の位相によっては大きな励磁突入電流が発生するため差動回路に大きな差電流が発生し,比率差動リレーが誤動作するおそれがある。

変圧器の励磁突入電流により誤動作の防止策

励磁突入電流には第二高調波が多く含まれることから,これを検出した場合は差動リレーの抑制量を増やしたり,リレーを短時間ロックすることにより,誤動作を防止する。

(3) 母線保護に用いられる電流作動リレー

外部至近端事故により誤動作するおそれがある理由

母線の外部至近端の回線で事故が発生した場合,事故回線の CT 一次側に大きな故障電流が流れる。この際,交流電流に過渡直流分が重畳するため CT 鉄心に磁気飽和が生じ誤差が生じる。一方,事故回線以外の変流器は飽和せず誤差も生じないため,母線保護リレーが不要な差電流を検出し誤動作するおそれがある。

外部至近端事故により誤動作の防止策

事故回線の CT の非飽和期間に差電流の無変化を検出した場合は外部事故と判定して,リレーを短時間ロックすることにより,誤動作を防止する。

参考文献

問3 電力系統におけるニュートン・ラプソン法を用いた電力潮流計算

図 1 の 3 母線の電力系統におけるニュートン・ラフソン法を用いた電力潮流計算に関して,次の問に答えよ。

母線 $k$ から系統に流入する複素電力を $\dot{S}_k$,母線 $k$ の電圧を $\dot{V}_k$ とする。$\dot{S}_k = P_k +\text{j}Q_k$($P_k$ は有効電力,$Q_k$ は無効電力),$\dot{V}_k = |\dot{V}_k|(\cos{\theta_k} + \text{j}\sin{\theta_k})$ である。母線 $k$ から系統に流入する電流 $\dot{I}_k$ はノードアドミタンス行列 $[\dot{Y}_{kl}]$ を用いて,$\dot{I}_k = \sum_{l=1}^{3} \dot{Y}_{kl}\dot{V}_l$ と表すことができる。($k=1, 2, 3$,$l=1, 2, 3$)

なお,数値は単位法で表し,遅れ無効電力を正とする。

図 1
図 1

(1) 全ての線路を直列リアクタンス $X_{kl}(X_{12}, X_{13}, X_{23})$ のみを考慮した等価回路で表現した場合,$[\dot{Y}_{kl}]$ を $X_{kl}$ で表せ。また,計算過程を簡潔に示せ。

(2) 図 1 において線路を $\pi$ 型等価回路で表現し,直列リアクタンス $X_{kl}$ を加えて並列キャパシタンス $C_{kl}$ を考慮する場合,$[\dot{Y}_{kl}]$ を表の値を用いて求めよ。なお,$\omega$ は系統の角周波数,$C_{kl}/2$ は線路両端の並列キャパシタンスである。

$k-l$ $\text{j}X_{kl}$ $\text{j}\omega C_{kl}/2$
1-2 j0.1 j1
1-3 j0.1 j1
2-3 j0.1 j1

(3) 各母線の有効電力,無効電力を電圧の大きさと位相で表す式を電力方程式という。ノードアドミタンス行列の要素を $\dot{Y}_{kl} = G_{kl} + \text{j}B_{kl}$ として,$P_k$,$Q_k$ を $|\dot{V}_k|$,$|\dot{V}_l|$,$\theta_k$,$\theta_l$,$G_{kl}$,$B_{kl}$ で表せ。

(4) 小問 (2) の $\pi$ 型等価回路の線路を考える場合,$P_2$ に関する電力方程式を $\theta_2$,$\theta_3$,$|\dot{V}_3|$ を用いて示せ。

なお,母線 1 では $\theta_1 = 0$,$|\dot{V}_1|=1.0$,母線 2 では $P_2 = 0.7$,$|\dot{V}_2|=1.05$ とする。

(5) ニュートン・ラプソン法による潮流計算では,図 2 のように変数 $\boldsymbol{x}_\text{e}$ の推定値を修正し,推定値 $\boldsymbol{y}_\text{s}$ と計算値 $\boldsymbol{y}(\boldsymbol{x}_\text{e})$ の誤差が十分小さくなるまで繰り返し計算を行うことで $\boldsymbol{x}_\text{e}$ を求めることができる。ここで,本問において $\boldsymbol{x}_\text{e}$ は,$\theta_2$,$\theta_3$,$|\dot{V}_3|$ のベクトル,$\boldsymbol{y}(\boldsymbol{x}_\text{e})$ は,$\boldsymbol{x}_\text{e}$ によって計算される $P_2$,$P_3$,$Q_3$ のベクトル,$\boldsymbol{y}_\text{s}$ は,$P_2$,$P_3$,$Q_3$ の与えられた値のベクトルである。$\theta_2 = 0$,$\theta_3 = 0$,$|\dot{V}_3| = 1.0$ を初期値とした場合,1 回目の収束計算における $P_2$ の指定値と計算値との誤差を小問 (4) の結果を用いて求めよ。

図 2
図 2

問3 解答と解説

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準備中

問4 タップ付き変圧器の並行運転

送電用変電所において二つのタップ付き変圧器 A,B が並行運転している。A,B は同一の変圧器で,定格電圧は 275/154 kV,2 次側換算漏れリアクタンスは 8.0 Ω であり,励磁インピーダンス,巻線抵抗は無視できるものとする。タップは 1 次側(高圧側)にあり,中間タップの 275 kV から 1 段当たり 3 kV の間隔で上下に切り替えることができる。タップ段数による 2 次側換算漏れリアクタンスの変動はないものとする。変電所 1 次側の電圧は 275 kV 一定である。次の問に答えよ。

(1) 変圧器 A,B のタップ段数が共に中間タップであり,1 次側母線から合計で 280 MV·A,遅れ力率 0.8 の電力を送電しているとき,各変圧器の 2 次側に流れる電流 $I_\text{A}$ [A],$I_\text{B}$ [A] を求めよ。

(2) 次に,変圧器 A のタップ段数のみ 3 段下げて 2 次側電圧を高くすると,両変圧器間に循環電流が流れて負荷電流に重畳する。負荷インピーダンスの大きさは変圧器の 2 次側換算漏れリアクタンスより十分に大きいとして,次の a) 及び b) について答えよ。

a) 循環電流を求めて,各変圧器の 2 次側に流れる電流値 $I'_\text{A}$ [A],$I'_\text{B}$ [A] を求めよ。

b) 前問 a) の結果を用いて,両変圧器間のタップ段差の差によって生じる二つの変圧器で消費される遅れ無効電力の和の変化 $\Delta Q_\text{L}$ [Mvar] を求めよ。

問4 解答と解説

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準備中

参考文献

問5 特別高圧送電線の装置

特別高圧送電線の装置について,次の問に答えよ。

(1) 送電線に使用されている懸垂がいしについて,送電線が課電された状態で,不良がいしを検出する方法に関し,異なる測定項目を二つ挙げ,それぞれについて具体的な検出方法について答えよ。ただし,目視点検は除くものとする。

(2) 近年,抵抗接地系の送電線にギャップ付送電用避雷装置が広く設置されてきている。

a) 図 1 に示す酸化亜鉛型の避雷要素部と直列ギャップから構成される 77 kV 用ギャップ付送電用避雷装置の Ⓐ と Ⓑ が,図 2 の 77 kV 送電線の ① ~ ④ の通常どこに接続されるか理由を含めて答えよ。

b) 落雷による送電線トリップを極力防止するために設置される,この装置の作動メカニズムを答えよ。

図 1 77 kV 用ギャップ付送電用避雷器
図 1 77 kV 用ギャップ付送電用避雷器
図 2 77 kV 送電線
図 2 77 kV 送電線

問5 解答と解説

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(1) 不良がいしを検出する方法

各がいしの分担電圧

分担電圧を測定し,その低下を検出する方法。その方式にはネオン管(ネオンランプ)式,音響(ギャップ式),音響パルス式,自走式,光パルス式などがある。

各がいしの絶縁抵抗値

静電容量の大きなコンデンサをがいしに並列に接続し,がいしの交流分担電圧を零にしてから,直流電圧を印加して絶縁抵抗値を測定し,その低下を検出する方法で,主に 275 kV・500 kV に用いられる。その方式には自走式不良がいし検出器を用いる方式がある。

各がいしからの漏れ電流

漏れ電流を測定し,送電線からの漏れ電流に対する比率から不良がいしを検出する方式で主に 33 kV 以下に用いられる。その方式には KD 式がある。

がいし近傍の電界

電界を測定し,その変化から不良がいしを検出する方法。その方式には電界測定式不良がいし検出器,MG 管式不良がいし検出器などを用いる方式がある。

各がいしの振動周波数

音波を発信してがいしを振動させた状態でこれを用いて振動周波数を測定し,その低下から不良がいしを検出する方法。その方式にはドップラー振動計を用いる方式がある。

(2) ギャップ付送電用避雷装置

a) 77 kV 用ギャップ付送電用避雷装置

Ⓐ は ④,Ⓑ は ① に接続される。その理由は,質量のある避雷要素部を常時無課電で安定的に取り付けるためである。

77 kV 用ギャップ付送電用避雷装置
図 77 kV 用ギャップ付送電用避雷装置
b) 作動メカニズム

雷サージ過電圧の侵入時にギャップ付送電用避雷装置の気中ギャップがフラッシオーバして放電電流が流れた後,系統電圧による電流(続流)を避雷要素部の酸化亜鉛素子の特性により非常に小さく抑えて,ほとんど半サイクル以内に気中ギャップで消弧することにより,送電線トリップを防止する。

参考文献

問6 高調波を発生する負荷と力率改善用コンデンサ設備

図は,6.6 kV 受電設備の単線結線図の一部である。変圧器の二次側 440 V 母線には高調波を発生する負荷が接続され,6.6 kV 母線には力率改善用コンデンサ設備が設置されている。このとき次の問に答えよ。なお,力率改善用コンデンサ設備容量は,コンデンサと直列リアクトルを組み合わせた設備の定格電圧及び定格周波数(基本波)における無効電力とする。また,回路のインピーダンスは抵抗分を無視してリアクタンス分のみで計算せよ。

(1) この負荷から発生する第 5 高調波電流の大きさを 440 V 基準で 20 A とすると,6.6 kV の電源側に流出する第 5 高調波電流は何 A か。

(2) 力率改善用コンデンサ設備を 6.6 kV 母線から切り離し,定格電圧を 440 V に変更した上で,図の点線で示すように 440 V 母線に設置した場合,6.6 kV 電源側に流出する第 5 高調波電流は何 A か。

ただし,力率改善用コンデンサ設備のコンデンサ容量及び直列リアクトル容量は変えないものとする。

6.6 kV 受電設備の単線結線図の一部

問6 解答と解説

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(1) 力率改善コンデンサ 6.6 kV 母線接続時の第 5 高調波電流

10 MV·A 基準で,回路各部の % リアクタンスを単位法 [p.u.] で表す。

電源側のリアクタンス
\[ X_\text{S}=\frac{\text{j}20}{100}=\text{j}0.2 \text{ [p.u.]} \]
力率改善用コンデンサ設備のリアクタンス
\[ X_\text{SC}=-\text{j}\frac{10 \text{ [MV·A]}}{0.2 \text{Mvar}}=-\text{j}50 \text{ [p.u.]} \]
コンデンサ単体のリアクタンス
\[ X_\text{C}=X_\text{SC}\times \frac{Q_\text{C}}{Q}=-\text{j}50\times \frac{213 \text{ [kvar]}}{200 \text{ [kvar]}} = -\text{j}53.25 \text{ [p.u.]} \]
直列リアクトル単体のリアクタンス
\[ X_\text{R}=-X_\text{SC}\times \frac{Q_\text{R}}{Q}=\text{j}50 \times \frac{13 \text{ [kvar]}}{200 \text{ [kvar]}} = \text{j}3.25 \text{ [p.u.]} \]
電源側に流出する第 5 高調波電流

よって,電源側に流出する第 5 高調波電流は,次式で求められる。

\[ I_\text{S5}=20\times \frac{0.44}{6.6} \times \frac{5X_\text{R}+\frac{X_\text{C}}{5}}{5X_\text{S}+5X_\text{R}+\frac{X_\text{C}}{5}} \] \[ = 20 \times \frac{0.44}{6.6}\times \frac{5\times\text{j}3.25-\text{j}\frac{53.25}{5}}{5\times\text{j}0.2+5\times\text{j}3.25-\text{j}\frac{53.25}{5}} \] \[ = 20 \times \frac{0.44}{6.6} \times \frac{5.6}{6.6}= 1.1313 \text{ [A]} \]

電源側に流出する第 5 高調波電流は,1.13 A である。

(2) 力率改善コンデンサ 440 V 母線接続時の第 5 高調波電流

変圧器のリアクタンス(10 MV·A 基準)
\[ X_\text{T}=\text{j}5 \text{ %} \times \frac{10 \text{ [MV·A]}}{0.5 \text{ [MV·A]}} \times \frac{1}{100} = \text{j}1 \text{ [p.u.]} \]
電源側に流出する第 5 高調波電流

電源側に流出する第 5 高調波電流は,次式で求められる。

\[ I_\text{SS5}=20\times\frac{0.44}{6.6}\times \frac{5X_\text{R}+\frac{X_\text{C}}{5}}{5X_\text{S}+5X_\text{R}+\frac{X_\text{C}}{5}+5X_\text{T}} \] \[ = 20 \times \frac{0.44}{6.6} \times \frac{5\times \text{j}3.25 - \text{j}\frac{53.25}{5}}{5\times \text{j}0.2 + 5 \times \text{j}3.25 - \text{j}\frac{53.25}{5}+5 \times \text{j}1} \] \[ = 20 \times \frac{0.44}{6.6} \times \frac{5.6}{11.6} = 0.643 68 \text{ [A]} \]

電源側に流出する第 5 高調波電流は,0.644 A である。

参考文献

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