令和4年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理

2022年12月3日作成,2023年1月20日更新

目次

  1. 火力発電所におけるタービン発電機の進相運転
  2. 四端子定数を用いたフェランチ効果の検討
  3. 変電所の効率が高くなる全変圧器負荷容量
  4. 1 機無限大母線系統における過渡安定性とその向上対策
  5. 油入変圧器の絶縁劣化状態を診断するための試験
  6. 単相変圧器 2 台を用いた単相負荷及び三相負荷供給

問1 火力発電所におけるタービン発電機の進相運転

火力発電所におけるタービン発電機の進相運転に関して,次の問に答えよ。

  1. 進相運転を実施する目的を 100 字程度で答えよ。
  2. 進相運転時の留意点を三つ挙げ,合わせて 100 字程度で答えよ。
  3. 小問 2. の留意点に対する発電所における対策を二つ挙げ,合わせて 100 字程度で答えよ。

問1 解答と解説

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1. 進相運転を実施する目的

深夜や軽負荷時に過剰となる無効電力をタービン発電機で吸収させ,系統電圧の上昇を防止するため。

標準解答

深夜などの軽負荷時に系統側の進み負荷が過剰となり系統電圧が上昇する。そこで系統側で発生する過剰な無効電力を,タービン発電機の励磁電流を下げ進相運転を行うことで吸収し,系統電圧の上昇を抑制するのが目的である。

2. 進相運転時の留意点

  • 低励磁運転による進相運転を行う場合,発電機内部電圧が低くなることにより,系統の定態安定度が低下するため,安定度を維持すること。
  • 発電機の励磁電流が少ないため,漏れ磁束の増加による固定子端部の過熱現象が生ずることから,十分安全範囲を確かめたうえで進相運転を行う。
  • 所内電圧の低下に対する補機類などの運転を,十分安全範囲を確かめたうえで進相運転を行う。
標準解答
  • 内部誘導起電力が低くなるため,同期化力が減少し,定態安定度が低下する。
  • 漏れ磁束が固定子端部に通りやすくなり渦電流が増え,発電機固定子鉄心端部が過熱する。
  • 端子電圧低下により所内電圧が異常に低下する。

3. 進相運転時の留意点に対する発電所における対策

  • 即応性の AVR や不足励磁制限装置の使用によって安定度を維持する。
  • 所内電圧の低下に対する対策としては,所内変圧器のタップ調整などで対応する。
標準解答
  • 高速度 AVR を設置し端子電圧の変動を少なくさせ定態安定度を向上させるとともに,不足励磁制限装置により下限値設定を行う。
  • 所内電圧が異常に低下しないように所内変圧器に負荷時タップ切換器を設置して安全運転範囲内にする。
  • 非磁性保持環,鉄心の段落とし,磁束シャントなどの採用により,固定子鉄心端部を通る漏れ磁束を低減する。
  • 非磁性押え板,押え板の鋼板シールド,鉄心端部のスリットなどの採用により固定子鉄心端部の渦電流を低減する。

参考文献

問2 四端子定数を用いたフェランチ効果の検討

図に示す電源,変圧器,架空送電線から構成される三相が平衡した電力系統を対象として,四端子定数を用いてフェランチ効果の検討を行う。送電線は公称電圧 500 kV,こう長 200 km の二回線送電線とし,その直列リアクタンスは 0.50 Ω/km,並列サセプタンスは 2.0 μS/km(ともに正相に対する一回線値)とする。また変圧器は 500 MV·A で,漏れリアクタンスは 15 %(自己容量基準)とする。ここで,上記以外のインピーダンス等は全て無視する。

  1. 二回線送電線の π 形等価回路を示し,回路中の直列インピーダンス,並列アドミタンスを単位法で記せ。ここで,基準容量は 1 000 MV·A とし,基準電圧は線路の公称電圧とする。

小問 2. 以降の計算は全て単位法で行う。

  1. 送電線の送電端の電圧 $\dot{V}_1$,電流 $\dot{I}_1$ をそれぞれ受電端の電圧 $\dot{V}_2$,電流 $\dot{I}_2$ で表す式を導出せよ。ここに $\dot{I}_1$,$\dot{I}_2$ は二回線合計の電流であり,その向きは図示のとおりとする。
  2. 電源の端子電圧 $\dot{V}_0$,電流 $\dot{I}_0$ をそれぞれ $\dot{V}_1$,$\dot{I}_1$ で表す式を導出せよ。ここに $\text{I}_0$ の向きは図に示すとおりとする。
  3. 送電線を無負荷($\dot{I}_2 = 0$)とするとき,送電線の受電端電圧の大きさ $|\dot{V}_2|$ を求めよ。なお電源の端子電圧の大きさ $|\dot{V}_0|$ は 1.05 p.u. とする。
電源,変圧器,架空送電線から構成される三相が平衡した電力系統

問2 解答と解説

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参考文献

問3 変電所の効率が高くなる全変圧器負荷容量

図に示した変電所において効率的な運転を行いたい。3 台の変圧器は同一特性である。変圧器 1 台当たりの定格容量を $P_\text{n}$,鉄損を $P_\text{i}$,銅損を $P_\text{c}$,変圧器の負荷側の電圧を $V$,電流を $I$,力率を 1 としたとき,変圧器 1 台当たりの効率 $\eta$ は ① 式で表される。なお,変圧器は全て定格電圧で運転されており,鉄損 $P_\text{i}$ は $V$,$I$ に依存せず,銅損 $P_\text{c}$ は電流 $I^2$ に比例する。また,遮断器(CB)の開閉の前後で母線電圧は変化しないものとする。

\[ \eta = \frac{\sqrt{3}VI}{\sqrt{3}VI + P_\text{i} + P_\text{c}} \times 100 \text{ [%]} \]
・・・・・①
3 台の変圧器の並行運転

変圧器 3 台運転から,CB1・CB2 を開いて変圧器 2 台運転とした方が,変電所の効率が高くなる全変圧器負荷容量 $L$ の範囲を次の a. ~ f. に従い求めよ。ただし,変圧器 1 台当たりの定格運転時の銅損を $P_\text{c0}$ とする。

  1. 全変圧器負荷容量が $L$ のときの変圧器 $n$ 台運転時の 1 台当たりの銅損 $P_\text{c1}$ を $L$,$P_\text{c0}$,$P_\text{n}$,$n$ を用いて表せ。
  2. $n$ 台運転時の変圧器の全損失 $W_\text{n}$ を $L$,$P_\text{i}$,$P_\text{c0}$,$P_\text{n}$,$n$ を用いて表せ。
  3. $(n-1)$ 台で運転したときの変圧器の全損失 $W_\text{n-1}$ を $L$,$P_\text{i}$,$P_\text{c0}$,$P_\text{n}$,$n$ を用いて表せ。ただし,$n \ge 2$ とする。
  4. $W_\text{n-1} \lt W_\text{n}$ の関係式を用いて $W_2 \lt W_3$ となる全変圧器負荷容量 $L$ の範囲を $P_\text{i}$,$P_\text{c0}$,$P_\text{n}$ を用いて表せ。

次に,変圧器は負荷率 $\epsilon$ のときに最高効率 $k(\lt 1)$ をとるものとし,このとき ② 式が成り立つ。

鉄損 $P_\text{i}$ = 銅損 $P_\text{c}$
・・・・・②
  1. 変圧器 1 台当たりの $P_\text{i}$ と $P_\text{c0}$ を $P_\text{n}$,$k$,$\epsilon$ を用いて表せ。
  2. 前問 d. における $W_2 \lt W_3$ となる全変圧器負荷容量 $L$ の範囲を $\epsilon$,$P_\text{n}$ を用いて表せ。

問3 解答と解説

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a. 変圧器 $n$ 台運転時の 1 台当たりの銅損 $P_\text{c1}$

全変圧器負荷容量が $L$ のときの変圧器 $n$ 台運転時の 1 台当たりの銅損 $P_\text{c1}$ は,次式で求められる。

\[ P_\text{c1} = (\frac{\frac{L}{n}}{P_\text{n}})^2 \times P_\text{c0} = \frac{L^2 P_\text{c0}}{{P_\text{n}}^2 n^2} \]

b. $n$ 台運転時の変圧器の全損失 $W_\text{n}$

$n$ 台運転時の変圧器の全損失 $W_\text{n}$ は,次式で求められる。

\[ W_\text{n} = n \times (P_\text{i} + \frac{L^2 P_\text{c0}}{{P_\text{n}}^2 n^2}) = nP_\text{i} + nP_\text{c0}(\frac{L}{n P_\text{n}})^2 \]

c. $(n-1)$ 台で運転したときの変圧器の全損失 $W_\text{n-1}$

b. で求めた式の $n$ に $n-1$ を代入し,$(n-1)$ 台で運転したときの変圧器の全損失 $W_\text{n-1}$ を求める。

\[ W_\text{n-1} = (n-1) P_\text{i} + (n-1) P_\text{c0}(\frac{L}{(n-1) P_\text{n}})^2 \]

d. $W_2 \lt W_3$ となる全変圧器負荷容量 $L$ の範囲

$W_\text{n-1} \lt W_\text{n}$ の関係式を整理する。

\[ (n-1) P_\text{i} + (n-1) P_\text{c0}(\frac{L}{(n-1) P_\text{n}})^2 \lt nP_\text{i} + nP_\text{c0}(\frac{L}{n P_\text{n}})^2 \] \[ \frac{1}{(n-1)n}P_\text{c0}(\frac{L}{P_\text{n}})^2 \lt P_\text{i} \]

$n = 3$ を代入して $L$ について整理する。

\[ \frac{1}{6} P_\text{c0} (\frac{L}{P_\text{n}})^2 \lt P_\text{i} \] \[ L^2 \lt {P_\text{n}}^2 \times \frac{6P_\text{i}}{P_\text{c0}} \] \[ L \lt P_\text{n}\sqrt{\frac{6P_\text{i}}{P_\text{c0}}} \]

e. 変圧器 1 台当たりの $P_\text{i}$ と $P_\text{c0}$

変圧器の定格電流を $I_0$ とおき,① 式及び ② 式,並びに,題意より次式が成立する。

\[ k = \frac{\sqrt{3}VI_0 \epsilon}{\sqrt{3}VI_0 \epsilon + 2P_\text{i}} \] \[ k(\sqrt{3}VI_0 \epsilon + 2P_\text{i}) = \sqrt{3}VI_0 \epsilon \] \[ P_\text{i} = \frac{\sqrt{3}VI_0 \epsilon(1-k)}{2k} \]

ここで,$P_\text{n} = \sqrt{3}VI_0$ を代入する。

\[ P_\text{i} = \frac{P_\text{n} \epsilon (1-k)}{2k} \]

変圧器の銅損 $P_\text{c0}$ は,次式で求められる。

\[ P_\text{c0} = \frac{1}{\epsilon^2}P_\text{i} = \frac{P_\text{n}(1-k)}{2\epsilon k} \]

f. $W_2 \lt W_3$ となる全変圧器負荷容量 $L$ の範囲

d. で求めた式に e. で求めた式を代入する。

\[ L \lt P_\text{n} \times \sqrt{6 \times \frac{\frac{P_\text{n} \epsilon (1-k)}{2k}}{\frac{P_\text{n}(1-k)}{2 \epsilon k}}} \] \[ L \lt P_\text{n} \times \sqrt{6\epsilon^2} = \sqrt{6} P_\text{n} \epsilon \]

参考文献

問4 1 機無限大母線系統における過渡安定性とその向上対策

図 1 の 1 機無限大母線系統における過渡安定性とその向上対策について,以下の問に答えよ。慣性定数を $M$,発電機の機械的入力を $P_\text{m}$,発電機出力を $P_\text{e}$,発電機端の電圧を $V_\text{s}\angle \delta$,送電線のインピーダンスを $\text{j}X$,無限大母線の電圧を $V_\text{r}\angle 0$ とする。なお,$\delta$ は [rad],$M$ は [sec2/rad] で,その他は [p.u.] で表されている。

1 機無限大母線系統
図 1

(1) 発電機の動揺方程式の $\displaystyle M\frac{\text{d}^2 \delta}{\text{d}t^2}$ を $P_\text{m}$,$P_\text{e}$ で,$P_\text{e}$ を $V_\text{s}$,$V_\text{r}$,$X$ 及び $\delta$ で表し,送電線で地絡などの故障が起きた直後の $P_\text{m}$ と $P_\text{e}$ の変化による $\delta$ への影響を 50 字程度以内で説明せよ。また,$M$,$\delta$,$X$ の各々に関して過渡安定性が悪化する条件を,各変数について大小で簡潔に示せ。

(2) 送電線故障による電力系統の過渡安定性を向上するための具体的な方策について,故障中の $P_\text{e}$ の観点から三つ簡潔に示せ。

(3) 過渡安定性を向上するための $P_\text{m}$ に関する具体的な方策として,電源制限による過渡安定性の改善効果を,平行 2 回線送電線に地絡などの故障が発生した場合を示す図 2 の電力相差角曲線を用いて,簡潔に説明せよ。また,電源制限を実施する場合の留意事項と対策を 100 字程度以内で説明せよ。

電力相差角曲線
図 2

(4) 平行 2 回線送電線では,2 回線 × 3 相の計 6 相に発生する故障は様々な組み合わせがあるが,超高圧送電線における高速による多相再閉路方式において,同相での 2 回線地絡故障(1φG2LG)が 1 回線 3 相地絡故障(3φG3LG)よりも過渡安定性が厳しくなる理由を故障中,故障除去後の $P_\text{e}$ の観点で 200 字程度以内で説明せよ。なお,説明は,図 2 の電力相差角曲線を用いてもよい。

問4 解答と解説

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準備中

参考文献

問5 油入変圧器の絶縁劣化状態を診断するための試験

次の表は,高圧又は特別高圧油入変圧器の絶縁劣化状態を診断するための試験のうち,通常よく行われている試験について記載したものである。表中の に記入すべき用語を,答案用紙の (4) 頁にある表に記入しなさい。

劣化診断試験の目的 劣化の原因 劣化試験の種別 劣化診断の原理 劣化診断試験の実施方法例
絶縁油の劣化診断 絶縁油に空気中の水分や (1) が溶け込むと,(2) の低下,(3) の上昇などにより劣化が進行する。 (2) 試験 (4) における絶縁油の (2) を測定し,劣化度を推定する。 試料を試験容器に満たし,相対する球電極間に (4) の試験電圧を印加し,一定の割合で上昇させ (2) を測定する。
(3) 試験 絶縁油に含まれる (3) を測定し劣化度を推定する。(3) とは,絶縁油 1 g 中に含まれる全酸性成分を中和するのに要する (5) の mg 数をいう。 試料をトルエン・エタノールの混合溶剤に溶かし,アルカリブルー 6B を指示薬として (5) の標準エタノール溶液で滴定する。
絶縁油,(6),プレスボードなどの内部絶縁材料の劣化診断 内部異常時の局部的な発熱や,長期間の運転による発熱で,絶縁材料が (7) し劣化が進行する。 油中ガス分析試験 内部絶縁材料が (7) すると,絶縁材料や異常の種類によって特有のガスが発生し,一部は油中に溶解する。この発生ガスを分析し,内部異常や劣化度を推定する。 試料に溶け込んだ発生ガスをガス (8) により分析する。
(6) の劣化診断 油入変圧器の長期間の運転による発熱により (6) の平均重合度が低下すると (9) が低下し劣化が進行する。 油中 (10) 分析試験 (6) のセルロース分子が劣化分解すると,(10) などの生成物が発生する。(10) は,沸点が約 162 °C の液体であるため,常温で絶縁油に溶解する。(6) の平均重合度残率及び (9) と一定の関係がある (10) 量を測定し,劣化度を推定する。 試料に溶け込んだ (10) を液体 (8) により分析する。

問5 解答と解説

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  1. 酸素
  2. 絶縁破壊電圧
  3. 全酸価,酸価,酸価度
  4. 商用周波数
  5. 水酸化カリウム
  6. 絶縁紙
  7. 熱分解
  8. クロマトグラフ
  9. 引張り強さ
  10. フルフラール

参考文献

問6 単相変圧器 2 台を用いた単相負荷及び三相負荷供給

図は,1 次電圧 6 kV,2 次電圧 200 V の単相変圧器 2 台を用いて単相負荷及び三相負荷に電力を供給する回路である。次の問に答えよ。ただし,変圧器 1 次側電圧は平衡三相 6 kV に維持され,三相負荷は平衡であるとする。無効電力の向きは,遅れ消費側を正とする。変圧器のインピーダンスは,無視してよい。相回転の順序は a,b,c とする。

(1) 三相負荷だけに供給しているとする。三相負荷の容量が 30 kV·A であるとき,変圧器 T1,変圧器 T2 が供給する皮相電力を求めよ。

(2) 小問 (1) で三相負荷の力率角が遅れ 30° のとき,変圧器 T1 が供給する有効電力と無効電力,並びに変圧器 T2 が供給する有効電力と無効電力をそれぞれ求めよ。

(3) 小問 (2) に 8.66 kV·A,進み力率角 60° の単相負荷の需要家が追加となった。そのときの変圧器 T1 が供給する有効電力と皮相電力をそれぞれ求めよ。

1 次電圧 6 kV,2 次電圧 200 V の単相変圧器 2 台を用いて単相負荷及び三相負荷に電力を供給する回路

問6 解答と解説

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(1) 変圧器 T1,変圧器 T2 が供給する皮相電力

(2) 供給する有効電力と無効電力

変圧器 T1 が供給する有効電力と無効電力
変圧器 T2 が供給する有効電力と無効電力

(3) 変圧器 T1 が供給する有効電力と皮相電力

参考文献

  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「単巻変圧器
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