平成22年度 第二種 電気主任技術者二次試験 電力・管理
目次
問1 火力発電所タービン発電機の進相運転
火力発電所のタービン発電機は,一般に遅れ力率で運転されることが多いが,必要に応じて進み力率で運転する「進相運転」を実施する場合もある。進相運転を実施する目的,進相運転時の留意点,その留意点に対する発電所における対策について述べよ。
進相運転を実施する目的
進相運転を実施する目的は,電力系統の軽負荷時における進相無効電力の余剰による系統電圧上昇を抑制するため。
(参考)進相運転を実施する背景
近年,高電圧架空系統の拡大,ケーブル系統の採用などにより深夜軽負荷時などに無効電力発生が過剰となり,これに伴う電圧上昇対策として発電機の進相運転(低励磁運転)を行っている。
進相運転時の留意点
- 低励磁運転による進相運転を行う場合,発電機内部電圧が低くなることにより,系統の定態安定度が低下するため,安定度を維持すること。
- 発電機の励磁電流が少ないため,漏れ磁束の増加による固定子端部の過熱現象が生ずることから,十分安全範囲を確かめたうえで進相運転を行う。
- 所内電圧の低下に対する補機類などの運転を,十分安全範囲を確かめたうえで進相運転を行う。
(参考)進相運転可能範囲
発電機の進相運転(低励磁運転)を行うと,定態安定度の低下,補機電圧の低下,タービン発電機の固定子鉄心端部の加熱があるので,あらかじめ運転可能範囲(キャパビリティカーブ)を十分検討しておく必要がある。
発電所における対策
- 即応性の AVR[1] や不足励磁制限装置の使用によって安定度を維持している。
- 所内電圧の低下に対する対策としては,所内変圧器のタップ調整などで対応している。
- Automatic Voltage Regulator. 自動電圧調整装置。
問2 特別高圧地中ケーブル設計上の留意点
特別高圧(154 [kV] ~ 66 [kV])の地中ケーブルを用いて送電を行うときの設計上の留意点を充電電流,放熱及び地中ケーブルの絶縁の観点から,架空線で同様の送電を行うときと比較して記述すると共に,その対策を述べよ。
地中電線路は架空電線路に比べ,いくつかの長所をもっている。
多数回線を同一ルートに布設することが可能であること,その大部分は地中に埋設されるので環境との調和が容易であり,さらに風雨や雷などの天候に左右されることが少なく周辺への影響もほとんどない,など設備の安全性が高いことがあげられる。
1. 充電電流
留意点
地中ケーブルでは架空送電線に比較して作用静電容量が 20 倍程度となる。このため,ケーブルが長くなると無効電力が増加し,有効電力の送電に限界が生じる。また,ケーブルの両端における軽負荷時の電圧上昇(フェランチ効果)も顕著となる。
対策
- ケーブルの両端などに必要に応じて分路リアクトルを挿入し,静電容量による無効電力を補償する。
- 絶縁に用いる誘電体に誘電率の小さいものを用いる。
ケーブルの静電容量
ケーブルは架空線に比べて静電容量が約 10 倍と大きく,地中送電の運用にあたって大きな影響を及ぼす。構造によってもその値は異なるが,0.3 ~ 0.7 μF/km(20 °C)程度の大きさである。
ケーブルの静電容量 $C$ は,次式によって求められる。
ただし,$\epsilon$ は誘電率,$N$ は心線数,$G$ は形状係数[1],$D$ は絶縁外径(金属シースの内径) [mm],$d$ は導体外径 [mm] である。
(参考)フェランチ効果
負荷が非常に非常に小さい場合,もしくは無負荷の場合には線路の充電電流の影響が大きくなり,電流は進み電流となり,受電端電圧 $E_\text{r}$ は送電端電圧 $E_\text{s}$ よりも高くなる。この現象をフェランチ効果(Ferranti effect)という。

2. 放熱
留意点
地中ケーブルでは地中に設置されることや,導体周囲を絶縁物で覆うこと等の構造上の問題から,周囲の空気が自由に対流できる架空送電線に比べ,放熱が悪くなる。このため,架空送電線に比べ,温度上昇限界による送電量の制限が厳しい。
対策
- 絶縁物の耐熱性を向上させ,最高許容温度を高くする。
- 放熱性を向上させる。(ケーブル冷却用流体による強制冷却 など)
- 絶縁物の誘電損による温度上昇を低減させる。
- 導体の抵抗を減少させる。
(参考)導体最高許容温度
電力ケーブルの許容電流は,絶縁体に影響を及ぼさない導体の最高許容温度によって定められている。すなわち,ケーブルの温度が限度を超えて高くなると,絶縁体の機械的および電気的強度が低下し,誘電体損失が急激に増加してケーブルの劣化を促し寿命を短縮するので,これを防ぐ最高許容温度が定められる。
種別 | 導体最高許容温度 [°C] | |||
---|---|---|---|---|
常時 | 短時間 | 瞬時 | ||
CV ケーブル | 90 | 105 | 230 | |
OF ケーブル POF ケーブル |
普通絶縁紙 | 80 | 90 | 150 |
低損失紙 | 85 | 95 | 150 |
許容電流とはケーブル導体温度が最高許容温度を超えない限度の電流をいう。許容電流は,連続して流してよい常時許容電流,線路事故時などの切換えの運用で数分ないし数時間を対象とした短時間許容電流,および線路事故の際に流れる 2 秒程度以下を対象とした瞬時許容電流の 3 種類に大別される。
この許容電流は,ケーブルの設置状態,すなわち周囲温度,許容電流を流しているときの全発生熱量および発熱部から周囲への熱放散によって左右される。
3. 地中ケーブルの絶縁
留意点
架空送電線の絶縁が大気によって保たれているのに対して,地中ケーブルの絶縁は絶縁物によって保たれている。このため,次のような点に留意する必要がある。
- 地中ケーブルでは絶縁破壊による放電は絶縁物の損傷を伴い,ケーブルの交換を伴う。このため,絶縁破壊による故障箇所の除去に時間がかかる。このことは空気中の放電が送電を停止することで取り除ける架空送電線との大きな違いとなる。このため,より厳密なサージ解析の実施などの厳密な過電圧対策が求められる。また,この際,ケーブルのサージインピーダンスが架空送電線に比較して小さい点を考慮する必要がある。
- 架空送電線の大気は常に入れ替わるが,地中ケーブルの絶縁物はそのようにはならない。このため,絶縁物の劣化に注意する必要がある。
対策
- 過電圧保護装置(避雷器等)の設置
- 絶縁協調における考慮
- 心線数,絶縁厚,導体径などによって決まる係数
問3 2 台の変圧器の並行運転
表 1 に示す定格をもつ 2 台の変圧器を有する変電所がある。この変電所の全負荷 $P$ [MW] が表 2 に示すとおり変化するとき,次の問に答えよ。なお,負荷の力率は 0.8 で一定とする。
項目 | 容量 [MV·A] |
電圧 [kV] |
短絡インピーダンス [%] |
無負荷損 [kW] |
定格負荷時の 負荷損 [kW] |
---|---|---|---|---|---|
変圧器 A | 45 | 77/22 | 10(定格容量ベース) | 40 | 216 |
変圧器 B | 30 | 77/22 | 10(定格容量ベース) | 30 | 144 |
No. | 時間帯 | 全負荷 $P$ [MW] |
---|---|---|
① | 0 時から 8 時 | 12 |
② | 8 時から 12 時 | 18 |
③ | 12 時から 20 時 | 25 |
④ | 20 時から 24 時 | 10 |
- 2 台の変圧器を並行運転した場合に,変圧器 A 及び変圧器 B がそれぞれ分担する負荷を $P_\text{A}$ [MW],$P_\text{B}$ [MW] とする。$P_\text{A}$,$P_\text{B}$ をそれぞれ変電所の全負荷 $P$ を用いて表せ。
- 変圧器 A を 1 台運転したときの全損失を $P_\text{LA}$ [kW],変圧器 B を 1 台運転したときの全損失を $P_\text{LB}$ [kW],2 台の変圧器を並行運転したときの全損失を $P_\text{LAB}$ [kW] とする。$P_\text{LA}$,$P_\text{LB}$,$P_\text{LAB}$ をそれぞれ変電所の全負荷 $P$ を用いて表せ。
- 表 2 の ① から ④ の各時間帯において,変電所の効率が最大となる変圧器の運転台数を求めよ。なお,1 台運転となる場合は,運転対象の変圧器(A 又は B)を示すこと。
- 上記 3. で求めた方法で運転した場合について,変電所の全日効率 $\eta_\text{d}$ [%] を求めよ。
1. 変圧器が分担する負荷
基準容量を $P_\text{S}$ = 45 [MV·A] として,各変圧器の短絡インピーダンスを基準容量ベースに換算したものを $Z_\text{A}$,$Z_\text{B}$ とする。
\[ Z_\text{A}=\frac{P_\text{S}}{45}\times10=\frac{45}{45}\times10=10 \text{ [%]} \] \[ Z_\text{B}=\frac{P_\text{S}}{30}\times10=\frac{45}{30}\times10=15 \text{ [%]} \]したがって,変圧器 A 及び変圧器 B がそれぞれ分担する負荷を $P_\text{A}$,$P_\text{B}$ は,次式で求められる。
\[ P_\text{A}=\frac{Z_\text{B}}{Z_\text{A}+Z_\text{B}}\times P = \frac{15}{10+15}\times P = 0.6 P \text{ [MW]} \] \[ P_\text{B}=\frac{Z_\text{A}}{Z_\text{A}+Z_\text{B}}\times P = \frac{10}{10+15}\times P = 0.4 P \text{ [MW]} \]2. 変圧器の全損失
2-1. 変圧器 A を 1 台運転したときの全損失 $P_\text{LA}$
変圧器 A を 1 台運転したときの全損失 $P_\text{LA}$ を求める。
\[ P_\text{LA}=40+(\frac{P\times 10^3}{45\times 10^3 \times 0.8})^2 \times 216 = 40 + \frac{P^2 \times 216}{36^2}= 40 +\frac{P^2}{6} \text{ [kW]} \]2-2. 変圧器 B を 1 台運転したときの全損失 $P_\text{LB}$
変圧器 B を 1 台運転したときの全損失 $P_\text{LB}$ を求める。
\[ P_\text{LA}=30+(\frac{P\times 10^3}{30\times 10^3 \times 0.8})^2 \times 144 = 30 + \frac{P^2 \times 144}{24^2}= 30 +\frac{P^2}{4} \text{ [kW]} \]2-3. 2 台の変圧器を並行運転したときの全損失 $P_\text{LAB}$
2 台の変圧器を並行運転したときの全損失 $P_\text{LAB}$ を求める。
\[ P_\text{LAB}=40+30+(\frac{P_\text{A} \times 10^3}{45\times 10^3 \times 0.8})^2 \times 216 + (\frac{P_\text{B} \times 10^3}{30\times 10^3 \times 0.8})^2 \times 144= 70 + \frac{(0.6P)^2}{6} + \frac{(0.4P)^2}{4}= 70 +\frac{P^2}{10} \text{ [kW]} \](参考)変電所の全負荷と変圧器の全損失との関係
変電所の全負荷 $P$ [MW] を横軸,変圧器の全損失を縦軸にしたときの関係を下図に示す。変電所の全負荷が 10.95 [MW] 未満のときは,変圧器 B の 1 台運転,変電所の全負荷が 10.95 [MW] 以上,21.21 [MW] 未満のときは 変圧器 A の 1 台運転,変電所の全負荷が 21.21 [MW] 以上のときは,変圧器 A と 変圧器 B の 2 台並行運転すると,変圧器の全損失が小さくなる。

3. 変電所の効率が最大となる変圧器の運転台数
3-1. 時間帯 ① のとき($P$ = 12 [MW])
\[ P_\text{LA}=40+\frac{12^2}{6}=64 \text{ [kW]} \] \[ P_\text{LB}=30+\frac{12^2}{4}=66 \text{ [kW]} \] \[ P_\text{LAB}=70+\frac{12^2}{10}=84.4 \text{ [kW]} \]以上より,$P_\text{LA}$ が最小となる。
3-2. 時間帯 ② のとき($P$ = 18 [MW])
\[ P_\text{LA}=40+\frac{18^2}{6}=94 \text{ [kW]} \] \[ P_\text{LB}=30+\frac{18^2}{4}=111 \text{ [kW]} \] \[ P_\text{LAB}=70+\frac{18^2}{10}=102.4 \text{ [kW]} \]以上より,$P_\text{LA}$ が最小となる。
3-3. 時間帯 ③ のとき($P$ = 25 [MW])
\[ P_\text{LA}=40+\frac{25^2}{6}=144.167 \text{ [kW]} \] \[ P_\text{LB}=30+\frac{25^2}{4}=186.25 \text{ [kW]} \] \[ P_\text{LAB}=70+\frac{25^2}{10}=132.5 \text{ [kW]} \]以上より,$P_\text{LAB}$ が最小となる。なお,この場合,変圧器 B は過負荷となるため,通常,変圧器 B を 1 台運転することはない。
3-4. 時間帯 ④ のとき($P$ = 10 [MW])
\[ P_\text{LA}=40+\frac{10^2}{6}=56.667 \text{ [kW]} \] \[ P_\text{LB}=30+\frac{10^2}{4}=55 \text{ [kW]} \] \[ P_\text{LAB}=70+\frac{10^2}{10}=80 \text{ [kW]} \]以上より,$P_\text{LB}$ が最小となる。
まとめ
変電所の効率が最大となる変圧器の運転台数をまとめると,次表となる。
No. | 時間帯 | 全負荷 $P$ [MW] | 変圧器の運転台数 |
---|---|---|---|
① | 0 時から 8 時 | 12 | 変圧器 A の 1 台運転 |
② | 8 時から 12 時 | 18 | 変圧器 A の 1 台運転 |
③ | 12 時から 20 時 | 25 | 変圧器 A と変圧器 B の 2 台並行運転 |
④ | 20 時から 24 時 | 10 | 変圧器 B の 1 台運転 |
4. 変圧器の全日効率
変圧器の全日効率 $\eta_\text{d}$ [%] は,次式で求められる。
\[ \eta_\text{d}=\frac{12000 \times 8 + 18000 \times 4 + 25000 \times 8 + 10000 \times 4}{(12000 \times 8 + 18000 \times 4 + 25000 \times 8 + 10000 \times 4)+(64\times 8 + 94 \times 4 + 132.5 \times 8 + 55 \times 4)}\times 100 =99.471 \]よって,変圧器の全日効率は 99.5 [%] である。
問4 高圧配電系統での誘導発電機の連系
図のような高圧配電系統で,誘導発電機を連系した際,次の問に答えよ。
ただし,基準容量 10 [MV·A] におけるアルミ電線 240 [mm²] の % インピーダンスは 1 [km] 当たり 2.9 + j7.1 [%/km],アルミ電線 120 [mm²] の %インピーダンスは 1 [km] 当たり 5.9 + j7.9 [%/km] とする。

- 基準容量 10 [MV·A] において,配電系統との連系点からみた系統側の %インピーダンスを $R_0 + \text{j}X_0$ [%] とした場合,$R_0$,$X_0$ の値をそれぞれ求めよ。
- 基準容量 10 [MV·A] において,誘導発電機の拘束インピーダンスはリアクタンス成分のみとし,これを $X$ [%] とした場合,$X$ の値を求めよ。
- 誘導発電機の連系によって発生する,配電系統との連系点における瞬時電圧低下率を求めよ。なお,配電系統との連系点から誘導発電機端までのインピーダンス及び誘導発電機の抵抗成分は無視する。
問5 送電線路の自動再閉路方式の概要
送電線路の再閉路方式は,その目的と無電圧時間によって,表1 のように区分される。また,遮断する相と再閉路の実施方法により,表2のように区分される。これらの各方式は送電線路の重要度,再閉路の目的,主保護方式の故障相判別性能などから最適な方式が選択適用される。
再閉路方式 | 目的 | 無電圧時間 |
---|---|---|
低速度再閉路 |
|
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中速度再閉路 |
|
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高速度再閉路 |
|
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再閉路方式 | 遮断相と再閉路実施方法 |
---|---|
三相再閉路 |
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単相再閉路 |
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多相再閉路 |
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問6 電気事業法に定める保安規程
1. 自家用電気工作物に関する保安規程が具備すべき事項
次の文章は,電気事業法及び同法施行規則に基づく自家用電気工作物に関する保安規程が具備すべき事項の一部である。
- 事業用電気工作物の工事,維持又は運用に関する業務を管理する者の職務及び組織に関すること。
- 事業用電気工作物の工事,維持又は運用に従事する者に対する保安教育に関すること。
- 事業用電気工作物の工事,維持又は運用に関する保安のための巡視,点検及び検査に関すること。
- 事業用電気工作物の運転又は操作に関すること。
- 発電所の運転を相当期間停止する場合における保全の方法に関すること。
- 災害その他非常の場合に採るべき措置に関すること。
- 事業用電気工作物の工事,維持又は運用に関する保安についての記録に関すること。
- 事業用電気工作物の法定事業者検査に係る実施体制及び記録の保存に関すること。
2. 災害その他非常の場合に採るべき措置に関すること
- 災害時の社内体制の確立(指揮命令系統・情報伝達経路の確立)
- 災害時の外部機関との協力体制の確立
- 保全要員,応急資材の調達,確保
- 事業用電気工作物の予防強化策
- 事業用電気工作物の運転又は停止手順
- 災害後の臨時点検の実施
電気事業法 第四十二条 保安規程
事業用電気工作物を設置する者は、事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安を確保するため、主務省令で定めるところにより、保安を一体的に確保することが必要な事業用電気工作物の組織ごとに保安規程を定め、当該組織における事業用電気工作物の使用(第五十一条第一項の自主検査又は第五十二条第一項の事業者検査を伴うものにあつては、その工事)の開始前に、主務大臣に届け出なければならない。
2 事業用電気工作物を設置する者は、保安規程を変更したときは、遅滞なく、変更した事項を主務大臣に届け出なければならない。
3 主務大臣は、事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安を確保するため必要があると認めるときは、事業用電気工作物を設置する者に対し、保安規程を変更すべきことを命ずることができる。
4 事業用電気工作物を設置する者及びその従業者は、保安規程を守らなければならない。