平成23年度 第二種 電気主任技術者二次試験 電力・管理

2022年11月5日更新

目次

  1. 同期発電機の励磁方式
  2. 抵抗接地方式と非接地方式
  3. 受電端に並列接続する調相設備
  4. 変圧器の異容量 V 結線
  5. 電力系統の周波数変動
  6. 送電損失

問1 同期発電機の励磁方式

同期発電機の励磁方式について,次の問に答えよ。

  1. 発電機の励磁装置の基本機能について簡単に述べよ。
  2. 代表的な励磁方式として,静止形励磁方式(サイリスタ励磁方式),交流励磁機方式,直流励磁機方式があるが,これら励磁方式のうち,同期発電機の過渡安定度の向上効果を最も期待できる方式はどれか。また,その理由を述べよ。
  3. 上記 2. の同期発電機の過渡安定度の向上効果を最も期待できる方式を採用した場合に,補助励磁装置として PSS が付加されることが多い。PSS を付加する目的とその基本機能を述べよ。

1. 発電機の励磁装置の基本機能

同期機の界磁巻線に直流電流を供給し,同期機の端子電圧を一定に保持あるいは調整する機能である。

2. 同期発電機の過渡安定度の向上効果を最も期待できる方式

静止形励磁方式(サイリスタ励磁方式)である。

静止形励磁方式(サイリスタ励磁方式)は応答速度が速いことに加え,頂上電圧(界磁の印加最高電圧)を高くすることができるので,系統事故除去後の回復電圧を高くし,発電機の電気出力を大きくすることにより,過渡安定度の向上を図ることができる。

3. PSS を付加する目的とその基本機能

目的

高速高ゲインの励磁装置は過渡安定度の向上効果が高い反面,定態安定度(系統動揺の減衰)を悪くすることがあるので,これを改善するため。

基本性能

発電機出力偏差 $\Delta P$ や回転速度偏差 $\Delta \omega$ などを入力信号とし,発電機の動揺を抑制するように信号の位相と大きさを調整して,自動電圧調整装置(AVR)への信号を生成する。

電力系統安定化装置(PSS : Power System Stabilizer)
図 電力系統安定化装置(PSS : Power System Stabilizer)

参考文献

問2 抵抗接地方式と非接地方式

6.6 [kV] 以上 154 [kV] 以下の送配電系統においては中性点接地方式として,主に抵抗接地方式と非接地方式がある。一線地絡事故に対するそれぞれの方式の特徴について両者を比較し,次の点に関して延べよ。

  1. 事故点電流
  2. 事故時の健全相電圧
  3. 事故検出
  4. 誘導障害
一線地絡事故に対する抵抗接地方式と非接地方式の特徴
No. 項目 抵抗接地方式 非接地方式
1 事故点電流 事故点までの線路,中性点接地抵抗,事故点抵抗による閉回路が構成されるため,大きな電流が流れる。 中性点に電流が流れないため,事故電流は健全相と大地間の浮遊容量を介して流れる小さな電流となる。
2 事故時の健全相電圧 中性点の電圧上昇は事故電流と中性点接地抵抗の積によって与えられる値となるため,健全相の相電圧上昇は,接地抵抗値を小さくすることで抑えられる。 事故電流がほとんど流れないため,線間電圧は事故の影響を受けない。このため,事故相が大地電圧となり中性点電圧が事故相の分上昇し,健全相の相電圧は線間電圧がそのまま反映されることになる。すなわち,事故後の健全相の相電圧は電源電圧が対称三相の場合は事故前の $\sqrt{3}$ 倍となるが,更に大きな電圧が発生する場合もある。
3 事故検出 過電流リレーや方向距離リレーを含む各種のリレーが機能する。 事故電流が小さく,過電流リレーや方向距離リレーによる事故検出は不可能であり,地絡過電圧リレー,地絡方向リレーにより検出される。
4 誘導障害 大きな事故電流が大地帰路電流として流れるため,誘導障害が発生する可能性がある。 大地帰路電流が小さいため,他の通信線などへの誘導障害はほとんど起こらない。

抵抗接地方式(resistance grounded neutral system)

中性点を抵抗を通して接地する方式で,わが国では,高抵抗接地方式が 110,154 kV 系統で採用されている。

すなわち,抵抗値を大きくして地絡電流を小さくし,通信線への誘導電圧を抑えている。また,66,77 kV 系統においても消弧リアクトル接地方式の適用ができない場合において,抵抗接地方式が採用されている。

抵抗接地方式は,直接接地方式と比べて地絡故障電流が少なく,通信線に対する誘導障害は少ないが,健全相の電圧は高く,絶縁レベルを低下することはできない。

地絡継電器の動作からみると,架空線系統では故障電流の力率が 1 近くで,1 回線あたり 100 ~ 200 A 近くの電流があれば十分動作できる。しかし,同一系統にケーブル系統が接続される場合,故障電流がケーブルの対地充電電流で進相となり保護継電器の十分な動作が期待できないことがあり,かつ 1 線地絡時の健全相電圧の異常上昇を招くこともある。このため,ケーブル系統に近接する変圧器の中性点に抵抗と並列に充電電流補償用のリアクトルを設置する方式が用いられる。また,地絡瞬時には送電線の静電容量の影響を受けて大きな過渡突入電流が流れるので,地絡継電器に時間遅れをもたせる配慮が必要である。

抵抗接地方式
図 抵抗接地方式

非接地方式(non-earthed neutral system)

この方式は,33 kV 以下の系統で,長さも短い場合に採用される。下図に示すように,変圧器を Δ に結線することができることから,単相変圧器 3 台で Δ 結線にした場合,変圧器の故障とか点検修理で作業するときなどに,一時的に V 結線として電力供給ができる。

しかし,長距離の送電線になると,1 線地絡時,故障点からみた零相回路における対地充電容量の影響によって健全相の電圧がさらに上昇し,間欠的にアーク地絡となり異常電圧を発生することがある。

このため 33 kV 以下の系統でも送電線の距離が長い場合には,変圧器の結線を Y 結線とし,その中性点を抵抗接地としている。

非接地方式
図 非接地方式

問3 受電端に並列接続する調相設備

図のような三相 3 線式の 1 回線送電線路がある。変圧器の定格電圧は一次側 154 [kV],二次側 66 [kV],定格容量は 200 [MV·A] であり,一次・二次間は Y-Y で結線されている。変圧器のインピーダンスはリアクタンスのみとし,その値は自己容量ベースで 15 [%] とする。送電線路のインピーダンスは j4 [Ω] とし,その他のインピーダンスは無視できるものとする。この送電線路の受電端に有効電力が 93 [MW] (力率は不明)の負荷を接続したときに,受電端電圧が 68 [kV] となった。また,一次母線と受電端との位相差 $\delta$ ($\displaystyle 0 \lt \delta \lt \frac{\pi}{2}$)については,$\sin{\delta} = 0.15$ となった。このとき,次の問に答えよ。

  1. 変圧器のインピーダンスを変圧器二次側換算値 [Ω] で答えよ。
  2. 一次母線の電圧 [kV],及び負荷の消費する無効電力 [Mvar] を求めよ。ただし,無効電力の符号は遅れを正とする。
  3. ある容量の調相設備(分路リアクトルもしくは電力用コンデンサ)を受電端に並列接続すると,受電端電圧が 66 [kV] に低下した。受電端に接続した調相設備の種類及び容量 [MV·A] を答えよ。ただし,一次母線の電圧は一定とし,負荷は電圧によらず定電力特性を持つものとする。
三相 3 線式の 1 回線送電線路
三相 3 線式の 1 回線送電線路

1. 変圧器のインピーダンス(変圧器二次側換算値)

変圧器のインピーダンス 15 [%](自己容量ベース 200 [MV·A])を変圧器二次側(66 [kV])換算する。

\[ 0.15 \times \frac{66^2}{200} = 3.267 \]

よって,換算値は 3.27 [Ω] である。

2. 一次母線の電圧,負荷の消費する無効電力

2-1. 一次母線ので電圧

線路の抵抗分は無視できるので,受電端負荷の有効電力 $P_\text{r}$ は,一次母線の電圧(送電端電圧) $V_\text{s}$,受電端電圧 $V_\text{r}$,一次母線から受電端までのリアクタンス $X$,一次母線と受電端電圧の位相差 $\sin{\delta}$ を用いて,次式で表される。

\[ P_\text{r}=V_\text{s} \times V_\text{r} \times \frac{\sin{\delta}}{X} \]

上式より,一次母線の電圧 $V_\text{s}$ を求める。

\[ V_\text{s} = P_\text{r} \times \frac{X}{V_\text{r}\times \sin{\delta}}= 93\times 10^6 \times \frac{7.267}{68\times 10^3 \times 0.15}=66.258 \times 10^3 \]

上式において,一次母線の電圧は変圧器二次側換算値となっているため,一次側に換算する。

\[ V_\text{s}=66.258 \times 10^3 \times \frac{154}{66}=154602 \]

よって,一次母線の電圧は 155 [kV] となる。

2-2. 負荷の消費する無効電力

一方,負荷の消費する無効電力 $Q_\text{r}$ は,次式で求められる。

\[ Q_\text{r}=\frac{V_\text{s}\times V_\text{r}\times \cos{\delta}-{V_\text{r}}^2}{X} \] \[ Q_\text{r}=\frac{66.258\times 10^3 \times 68 \times 10^3 \times \sqrt{1-0.15^2}-(68\times 10^3)^2}{7.267}=-23.316 \times 10^6 \]

よって,負荷の消費する無効電力は -23.3 [Mvar] である。

3. 受電端に接続した調相設備の種類及び容量

調相設備を投入することにより,電圧が低下し,${V_\text{r}}'$ = 66 [kV] となった場合においても,題意より,一次母線の電圧 $V_\text{s}$,負荷の消費電力 $P_\text{r}$,$Q_\text{r}$ は一定である。調相設備投入後の一次母線と受電端との位相差を $\delta '$ とすると,$\sin{\delta '}$ は,次式で求められる。

\[ \sin{\delta'}=\frac{P_\text{r}\times X}{V_\text{s}\times {V_\text{r}}'}=\frac{93 \times 10^6 \times 7.267}{66.258 \times 10^3 \times 66 \times 10^3} = 0.15455 \]

ここで,$\cos{\delta'}$ は,次式で求められる。

\[ \cos{\delta'}=\sqrt{1-(\sin{\delta'})^2}=\sqrt{1-0.15455^2}=0.9880 \]

調相設備 $Q_\text{c}$ 投入後の送電線から供給される無効電力 ${Q_\text{r}}'$ は,次式で求められる。

\[ {Q_\text{r}}'=Q_\text{r}+Q_\text{c}=\frac{V_\text{s}{V_\text{r}}'\cos{\delta'}-{{V_\text{r}}'}^2}{X} \] \[ {Q_\text{r}}'=\frac{66.258 \times 10^3 \times 66 \times 10^3 \times 0.9880 - (66\times 10^3)^2}{7.267}=-4.878\times 10^6 \]

ここで,調相設備の容量 $Q_\text{c}$ を求める。

\[ Q_\text{c}={Q_\text{r}}'-Q_\text{r}=-4.878 - (-23.316) = 18.438 \]

$Q_\text{c} \gt 0$ なので,遅相設備である分路リアクトル18.4 [MV·A] 設置したことになる。

問4 変圧器の異容量 V 結線

図のように,定格容量 30 [kV·A] 及び 50 [kV·A] の変圧器を異容量 V 結線とした対称三相交流電源がある。低圧側にまず三相の最大平衡負荷を接続し,次に単相負荷を図のように接続して,変圧器の利用率(負荷の合計/変圧器の定格容量の合計)を最大とする。このとき,次の値を求めよ。ただし,変圧器及び線路のインピーダンスは無視するものとする。

  1. 三相の最大平衡負荷 [kW]
  2. 単相負荷の合計 [kW]
  3. 変圧器の利用率 [%]
変圧器を異容量 V 結線とした対称三相交流電源
変圧器を異容量 V 結線とした対称三相交流電源

準備中

問5 電力系統の周波数変動

電力系統の周波数変動に関し,次の問に答えなさい。

1. 電力系統の周波数変動は,同期発電機における回転子の速度変動によって生じるが,回転子の速度は原動機からの機械入力エネルギーと系統負荷への電気出力エネルギーとの不均衡によって変動する。例えば,入力エネルギーが出力エネルギーを上回った場合,発電機の回転子は加速され,これにより系統周波数は上昇する。

電力系統の発電機は,回転速度が変動すると,ガバナ(調速機)の働きにより原動機の機械入力を調節し,回転速度の変動を抑制しようとする機能がある。

一方,系統負荷は,周波数が上昇すると消費電力が増加する性質がある。

この,双方の作用により発電機の回転子のエネルギー不均衡は解消されて,電力系統の周波数は定常状態になる。

2. 周波数変動 $\Delta f$ に対して,系統の発電電力が $\Delta P_\text{G}$ だけ調整されて定常状態になるとすれば,$\Delta f$ と $\Delta P_\text{G}$ は①式の直線特性で表される。

\[ \Delta P_\text{G} = - K_\text{G} \cdot \Delta f \]
・・・①

ここで,$K_\text{G}$ を発電機の周波数特性定数といい,電力変化量を並列発電機の定格容量の和に対する百分率 [%] で表した $\% K_\text{G}$ の値は,わが国の電力系統では 0.7 ~ 1.2 [% MW/0.1Hz] 程度である。

周波数が $\Delta f$ 変動すると,系統負荷の消費電力が $\Delta P_\text{L}$ 変動するものとすれば,$\Delta f$ と $\Delta P_\text{L}$ は②式の直線特性で近似的に表される。

\[ \Delta P_\text{L} = K_\text{L} \cdot \Delta f \]
・・・②

ここで,$K_\text{L}$ を負荷の周波数特性定数といい,電力変化量を系統の総負荷容量に対する百分率 [%] で表した $\% K_\text{L}$ の値は,わが国の電力系統では 0.2 ~ 0.4 [% MW/0.1Hz] 程度である。

ある電力系統において,並列発電機の $\% K_\text{G}$ が 1.0 [% MW/0.1Hz] であり,系統負荷の $\% K_\text{L}$ が 0.2 [% MW/0.1Hz] であるとする。この系統の総発電容量の 5 [%] の発電機が脱落した場合,残りの発電機で出力調整し,負荷電力が変動して安定状態になったときの系統周波数 [Hz] を求めなさい。ただし,脱落前の系統周波数を 50.0 [Hz] とし,答の数値は小数点以下第 3 位まで求めることとする。

準備中

問6 送電損失

ある負荷に電力を供給している送電線の送電端電力のパターンが図のとおりであるとする(電力,時間は基準化してある)。この送電線の単位電力当たりの送電損失を $R$ とするとき,次の問に答えなさい。

ただし,送電損失は抵抗分のみとし,送電端電圧,送電端力率は一定とする。

ある負荷に電力を供給している送電線の送電端電力のパターン
ある負荷に電力を供給している送電線の送電端電力のパターン
  1. 次の各値を求めよ。
    1. 送電端負荷率
    2. 損失係数
  2. 一般に,kWh 損失率(ある期間の送電損失率)と kW 損失率(その期間の最大電力時の送電損失率)の比は,損失係数と送電端負荷率の比に等しいことを示せ。

1. 送電端負荷率と損失係数

1-a. 送電端負荷率

送電端負荷率は,平均送電端電力を最大送電端電力で除して求められる。

送電端負荷率 = 平均送電端電力 / 最大送電端電力 = {(1+3+5+4+2)/5}/5 = 0.6
1-b. 損失係数

損失係数は,平均損失電力を最大損失電力で除して求められる。

損失係数 = 平均損失電力 / 最大損失電力 = {(12+32+52+42+22)R/5}/{52 $R$} = 11R/25R = 0.44

2. kWh 損失率と kW 損失率の比

kWh 損失率は,次式で求められる。

kWh 損失率 = 損失電力量 / 送電端電力量 = 平均損失電力 / 平均送電端電力

kW 損失率は,次式で求められる。

kW 損失率 = 最大損失電力 / 最大送電端電力

kWh 損失率と kW 損失率の比をとる。

kWh 損失率 / kW 損失率 = {平均損失電力 / 平均送電端電力}/{最大損失電力 / 最大送電端電力}
kWh 損失率 / kW 損失率 = {平均損失電力 / 最大損失電力}/{平均送電端電力 / 最大送電端電力}
kWh 損失率 / kW 損失率 = 損失係数/送電端負荷率

よって,kWh 損失率(ある期間の送電損失率)と kW 損失率(その期間の最大電力時の送電損失率)の比は,損失係数と送電端負荷率の比に等しい。

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