平成25年度 第二種 電気主任技術者二次試験 電力・管理

2022年11月5日更新

目次

  1. 汽力発電所で用いられている自然循環ボイラ
  2. 三心ケーブルの金属遮へい部の接地
  3. 同期発電機を設置する構内の保護リレー
  4. 受電端電圧
  5. 高圧配電系に接続される高調波発生機器
  6. 電力の需給及び貯蔵

問1 汽力発電所で用いられている自然循環ボイラ

汽力発電所で用いられている自然循環ボイラについて,次の問に答えよ。

  1. このボイラの原理を説明し,さらに使用圧力の適正範囲と理由を説明せよ。
  2. ボイラ給水ポンプから供給される給水が蒸気としてタービンに供給されるまでの流体のフローを以下の用語を用いて説明せよ。
    (用語)ボイラ給水ポンプ,過熱器,降水管,節炭器,水管(水冷壁),汽水ドラム,蒸気タービン
  3. 貫流ボイラと比較した場合の自然循環ボイラの長所を二つ述べよ。

1. 自然循環ボイラの原理,使用圧力の適正範囲と理由

自然循環ボイラの原理

汽水ドラムを有し,高温ガスから熱を吸収した水管内の汽水混合体と,火炉外部に設置された降水管内の水の密度差から生じる循環力を利用してボイラ水を循環させながら蒸気を得るボイラ。

使用圧力の適用範囲

自然循環ボイラは臨界圧力より低い亜臨界圧での適用となる。

理由

水管内の汽水混合体と降水管内の水の密度差は圧力が高くなると減少するため,蒸気圧力を高くするほど密度差のみで充分な循環力を得ることは難しくなる。このため,自然循環式の高圧大形ボイラにおいては,ボイラ高さを高くするとともに循環経路をできるだけ直管で構成し,水管径を比較的太くして管内抵抗を減少させることで循環力を確保する必要がある。さらに,臨界圧力(22.06 [MPa])以上の圧力では水と蒸気の区別がなくなり,密度差もほとんどなくなることから循環させながら蒸気を得ることはできない。

2. 流体のフロー

ボイラ給水ポンプで供給される給水は煙道ガスの余熱を利用した節炭器で加熱され汽水ドラムに入る。火は火炉外部に設置された降水管によりボイラ下部に導かれて火炉内の水管(水冷壁)で燃焼ガスと熱交換し,水と蒸気の混合物になって汽水ドラムに戻る。汽水ドラムでは水と飽和蒸気を分離し,過熱器で飽和蒸気を過熱し蒸気タービンに供給する。分離された水は飽和蒸気になるまで循環する。

貫流ボイラと比較した場合の自然循環ボイラの長所

  • 構造が非常に単純なボイラ
  • ボイラ制御が容易
  • 起動バイパス系統が不要
  • ドラムでの給水処理(薬品注入やブロー)が可能なため,復水脱塩装置などの高度な水質管理対策が不要
  • 保有水量が多いのでボイラが万一消火しても各種パラメータに注意すれば若干の時間は低負荷による運転継続が可能
  • 保有水量が多いので負荷の急変などの変動に強い
  • 使用圧力が比較的低く,汽水の循環も自然対流によるので配管の圧力損失分の給水ポンプ動力が少なくてすむ

問2 三心ケーブルの金属遮へい部の接地

図 1 に示すように,無負荷の三心ケーブルの金属遮へい部を設置して 3 本の導体に周波数 f [Hz] の三相平衡電圧(線間電圧)$V_1$ [V] を加えたときに各導体に流れる電流を $I_1$ [A] とする。また,図 2 に示すように,全ての導体を接続して周波数 $f$ [Hz] の交流電圧 $V_2$ [V] を加えたときに各導体に流れる電流を $I_2$ [A] とする。このケーブルについて次の問に答えよ。ただし,導体相互間の静電容量は等しく,各導体と金属遮へい部間の静電容量も等しいものとする。また,各導体の抵抗,インダクタンスは無視する。

  1. 導体相互間の静電容量 $C_\text{m}$ [F],及び各導体と金属遮へい間の静電容量 $C_\text{O}$ [F] をそれぞれ求めよ。
  2. このケーブルを図 3 のように接続して周波数 $5f$ [Hz] の交流電圧 $V_3$ [V] を加えた。流れる電流 $I_3$ [A] を $I_1$ [A],$I_2$ [A],$V_1$ [V],$V_2$ [V],$V_3$ [V] を用いて求めよ。
三心ケーブルの金属遮へい部の接地
三心ケーブルの金属遮へい部の接地

問3 同期発電機を設置する構内の保護リレー

高圧配電系統に同期発電機を連系する場合に,同期発電機を設置する構内の保護リレーについて,次の問に答えよ。

  1. 構内の地絡故障保護には,受電点近くに設置した地絡過電流リレー(OCGR)などを用いるが,同期発電機を連系する場合の高圧配電系統側の地絡故障保護には,地絡過電圧リレー(OVGR)を用いる理由を説明せよ。
  2. 構内の短絡故障保護には,受電点近くに設置した過電流リレー(OCR)などを用いるが,同期発電機を連系する場合の高圧配電系統側の短絡故障保護には,短絡方向リレー(DSR)を用いる理由を説明せよ。
  3. 地絡過電圧リレー(OVGR)と短絡方向リレー(DSR)は配電用変電所の保護装置と時限協調を図って保護する理由を説明せよ。

1. 地絡過電圧リレー(OVGR)を用いる理由

配電線の地絡故障時には,地絡電流が配電用変電所側と発電機側との両方から地絡故障点へ供給されるが,高圧配電系統は非接地系統であり,同期発電機からの地絡電流は極めて小さいことから,地絡過電圧リレー(OVGR)を用いて地絡電圧を検出し保護する。

2. 短絡方向リレー(DSR)を用いる理由

配電線の短絡故障時には,短絡電流が配電用変電所側と発電機側との両方から短絡故障点へ供給されるが,同期発電機からの短絡電流が比較的小さいため過電流リレー(OCR)の整定感度では検出できない場合があり,逆に OCR の感度を高くすると負荷電流などにより誤動作の原因となる。このため,同期発電機の場合は電流の方向も判断材料となる短絡方向リレー(DSR)を用いて保護する。

3. 配電用変電所の保護装置と時限協調を図って保護する理由

地絡過電圧リレー(OVGR)と短絡方向リレー(DSR)は連系する配電線以外の配電線事故で動作しないようにする必要がある。そのため,事故配電線の遮断後に地絡過電圧リレー(OVGR)と短絡方向リレー(DSR)が動作するように時限協調を図る必要がある。

問4 受電端電圧

図に示すように電圧 $E$ の無限大母線から,リアクタンス $X$ の送電線で負荷に電力を供給している。負荷の有効電力を $P$,無効電力を $Q$(遅れ無効電力を正とする。),負荷端の複素電圧を $V_\text{e} - \text{j}\delta$ として次の問に答えよ。

なお,$X = 0.2$ [p.u.],$E = 1.0$ [p.u.] とし,送電線の抵抗と静電容量は無視できるものとする。また,負荷の $P$,$Q$ は電圧に対し定電力特性をもつものとする。

無限大母線と送電線による負荷への電力供給
無限大母線と送電線による負荷への電力供給
  1. 負荷の $P$,$Q$ を与えられた変数($E$,$V$,$X$,$\delta$)で示せ。
  2. 1. で得られた式から $\delta$ を消去し,$P$,$Q$ と $V$ の関係式,すなわち電力円線図を表す方程式を導け。
  3. 負荷の力率を 1.0 としたときの負荷端電圧 $V$ の値を求めることのできる $P$ の最大値,すなわち電圧安定性を維持できる限界点の $P$(電圧安定限界値)を与えられた数値を用いて求めよ。(2. で得られた式は $V_2$ に関する二次方程式であることを利用せよ。)
  4. 3. と同様に,負荷の力率を 0.9 (進み)としたときの $P$ の最大値(電圧安定限界値)を求めよ。
  5. 負荷の力率を一定にして $P$ を増加したとき,$V = 1.0$ [p.u.] で $P$ が最大(電圧安定限界)となった。そのときの $P$ の最大値(電圧安定限界値)を求めよ。

問5 高圧配電系に接続される高調波発生機器

図のような三相 3 線式 6 kV 高圧配電系から受電している需要家がある。負荷の一部に三相の高調波発生機器があり,高調波電流 $I_\text{n}$ を流出している。また,進相コンデンサにはそのリアクタンスの 6 [%] のリアクタンスを有する直列リアクトルが接続されている。

ただし,基準容量により換算した各部のリアクトルは,$X_\text{L0} = 0.20$ [p.u.],$X_\text{C} = 30.0$ [p.u.],$X_\text{T} = 0.05$ [p.u.] とする。このとき,次の問に答えよ。

  1. 進相コンデンサに直列リアクトルを接続する理由を二つ述べよ。
  2. 流出している高調波電流を高圧配電系に換算した第 5 調波電流 $I_5$ が 10 [A] であったとき,高圧配電系に流出する電流 $I_\text{Ln}$ のうち第 5 調波電流 $I_\text{L5}$ [A] を求めよ。
  3. 6 [%] の直列リアクトルを接続しない場合の高圧配電系に流出する第 5 調波電流を $I_\text{L5}'$ [A] とすると,$I_\text{L5}'$ は,接続時の流出電流 $I_\text{L5}$ の何 [%] となるか求めよ。
三相 3 線式 6 kV 高圧配電系から受電している需要家
三相 3 線式 6 kV 高圧配電系から受電している需要家

1. 進相コンデンサに直列リアクトルを接続する理由

  • 配電系に流出する高調波電流を抑制し,配電系の電圧ひずみ率の上昇を抑える。
  • 含有率の多い低次の高調波電流(第 5 調波等)による,コンデンサの過負荷を抑制する。
  • 進相コンデンサの投入時の突入電流を抑制する。
  • 進相コンデンサの開放時に,再点弧を発生した場合,そのサージ電圧を抑制する。

問6 電力の需給及び貯蔵

電力の需給及び貯蔵に関する次の問に答えよ。

  1. 年負荷率が向上する場合の電力供給側のメリットを挙げよ。また,広域連系した場合,年負荷率は改善するが,その理由を説明せよ。
  2. 揚水式発電所の系統運用上の特長を説明せよ。また,可変速揚水発電方式を採用する理由を説明せよ。
  3. 工場やビルの電力需要側に電力用蓄電池が設置される場合があるが,この電力用蓄電池の効果を説明せよ。

1-1. 年負荷率向上のメリット

  • 燃料費の安い電源をベース電源として活用することによるコスト低減
  • ピークカットの場合は,電力設備投資の低減と設備利用率の向上

1-2. 広域連系した場合の年負荷率改善の理由

地域の負荷特性の違いから,ピークの発生する時期が異なり,合成最大電力が抑制されるため。

2-1. 揚水式発電所の特長

夜間や休日など燃料費の安い時間帯に揚水して水を上池に汲み上げ,昼間の火力燃料費の高い時間帯に発電する。夜間に揚水することで高効率の大容量火力などのベース電源を高出力で運転し,昼間に発電して低効率火力の運転を抑制又は回避でき全体としての燃料費が節約できる。また,供給力が不足した場合,数分で全負荷運転が可能な電源であり発電調整力が高く,ピーク電源として活用できる。

2-2. 可変速揚水発電方式を採用する理由

  • 揚水時の周波数調整(出力調整)が可能
  • 発電運転時の効率向上
  • 電力動揺の抑制
  • 運転可能落差の拡大

3. 電力用蓄電池の効果

  • 非常用電源としての活用
  • 瞬時電圧低下対策
  • 電気料金の安い夜間電力の活用
  • 契約電力を下げることによるコスト削減
  • ピークカットによる電気設備の軽減
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