令和元年度 第二種 電気主任技術者二次試験 電力・管理

2019年11月19日作成,2022年11月5日更新

目次

  1. 火力発電所の所内交流回路
  2. 送電線を介した有効電力と無効電力の供給
  3. 電力系統の過渡安定性
  4. 配電系統の電力損失低減
  5. 電力系統における無効電力の変化による電圧変動
  6. 事業用電気工作物としての発電用風力設備

問1 火力発電所の所内交流回路

火力発電所の所内交流回路には,送電系統や所内回路の事故により電源喪失した場合でも安全面や設備保全で重要な補機電動機(負荷)が運転継続できるように,非常用ディーゼル発電機が接続できる電源系統構成となっている。この電源系統に接続されている補機電動機(負荷)のうち,蒸気タービン又はタービン発電機に関するものを二つ挙げ,停止させない理由をそれぞれ 200 字以内で述べよ。

問1 解答と解説

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ターニングギア電動機

ユニット停止後もタービン車室は高温であり,タービンロータが熱により偏心することを防止するため,一定時間はターニング装置でロータを回転させておく必要があるため。

発電機(水素)密封油ポンプ電動機

発電機の機内は冷却のために水素が封入されており,機外へ漏れ出すことがないように,機内圧を下げて水素を抜き取るまでロータ軸封部には油を供給し続ける必要がある。

問2 送電線を介した有効電力と無効電力の供給

図に示すように,発電機より直列リアクタンス $X$ をもつ送電線を介して負荷に有効電力 $P$,無効電力 $Q$ を供給している場合を考える。ここに送電端電圧を $V_\text{s} \angle \delta$,受電端(負荷端)電圧を $V_\text{r} \angle 0$ とする。また,無効電力の符号は遅れ無効電力を正とする。

(1) 負荷の有効電力 $P$ および無効電力 $Q$ を,$V_\text{s}$,$V_\text{r}$,$\delta$ 及び $X$ で表す式を導出せよ。

(2) 送電端電圧の大きさ $V_\text{s}$ を 1 p.u.,送電線から負荷に供給する有効電力 $P$ を 0.5 p.u.,無効電力 $Q$ を 0 p.u. とするとき,受電端電圧の大きさ $V_\text{r}$ 及び $\delta$(0 ° ≤ $\delta$ ≤ 45 °)を求めたい。ここに送電線のリアクタンス $X$ は 0.5 p.u. とする。

  1. 有効電力に関する式から $V_\text{r}$ を,$\delta$ を用いて表せ。
  2. 無効電力に関する式から $V_\text{r}$ を,$\delta$ を用いて表せ。
  3. a. 及び b. の結果から $\delta$ 及び $V_\text{r}$ の値を求めよ。

ただし,$\sin{2x} = 2 \sin{x}\cos{x}$,$\cos{2x} = 2 \cos^2{x} - 1$ を用いてもよい。

発電機より直列リアクタンス X をもつ送電線を介しての負荷供給
発電機より直列リアクタンス $X$ をもつ送電線を介しての負荷供給

問2 解答と解説

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準備中

問3 電力系統の過渡安定性

電力系統の過渡安定性に関して次の問に答えよ。

(1) 図 1 の 1 機無限大母線系統の過渡安定性について考える。発電機は,過渡リアクタンスを無視し,電圧 $E_1\angle \delta$ で表され,送電線路は,1 回線あたりのリアクタンスが $X_\text{t}$ の送電線が 2 回線併用されているものとする。また,発電機の機械的入力を $P_\text{m}$,無限大母線の電圧を $E_0 \angle 0$ とする。

送電端の至近で 1 回線三相地絡事故が発生し,同回線の両端の遮断器を開放することで事故を除去した場合を想定したとき,事故発生前,事故継続中,事故除去後の電力相差角曲線($P-\delta$ 曲線)は図 2 のとおり表される。ここに,事故が除去されたときの $\delta$ を $\delta_\text{a}$ とし,$\delta$ はその後,$\delta_\text{b}$ まで至ったものとするとき,図 2 の面積 abcd と面積 defg のそれぞれについて,発電機の加速エネルギー又は減速エネルギーのどちらかを表すか答えよ。

(2) 事故除去が送れ,$\delta_\text{a}$ が大きくなった場合,過渡安定性を維持できる限界について,図 2 に記載されている記号を用いて簡潔に説明せよ。

(3) 図 1 の送電線路の中間点に開閉所を設置した図 3 の系統において,小問 (1) と同じ事故が発生し,事故が発生した回線の両端の遮断器を開放することで事故を除去した場合を想定する。このとき,事故除去後の電力相差角曲線の電力の最大値は,開閉所の設置前の何倍になるか答えよ。

(4) 小問 (3) の開閉所の設置により,過渡安定性が向上するか低下するかについて,加速エネルギーと減速エネルギーの変化に触れながら 200 字程度以内で説明せよ。

(5) 図 3 の系統において,送電線路の中間点にある開閉所に無効電力を高速に補償する装置を設置し,事故除去後,位相角 $\delta$ が最大値に至るまでの間,遅れ無効電力を系統側に注入した場合,小問 (3) のときと比べ,位相角 $\delta$ の最大値はどう変化するか。加速エネルギーと減速エネルギーの変化に触れながら 200 字程度以内で説明せよ。

1 機無限大母線系統
図 1 1 機無限大母線系統
事故発生前,事故継続中,事故除去後の電力相差角曲線
図 2 事故発生前,事故継続中,事故除去後の電力相差角曲線
送電線路の中間点に開閉所を設置した系統
図 3 送電線路の中間点に開閉所を設置した系統

問3 解答と解説

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(1) 加速エネルギーと減速エネルギー

面積 abcd は加速エネルギー,面積 defg は減速エネルギーである。

(2) 過渡安定性を維持できる限界

面積 abcd と面積 deh が等しくなる場合が過渡安定性を維持できる限界となる。

(3) 開閉所の設置

電力相差角曲線の電力の最大値は,電源と無限大母線の間のリアクタンスに反比例する。開閉所設置前の事故除去後のリアクタンスは $X_\text{t}$,開閉所設置後の事故除去後のリアクタンスは $\displaystyle \frac{X_\text{t}}{2}+\frac{X_\text{t}}{2}\div 2= \frac{3X_\text{t}}{4}$ であるから,電力相差角曲線の電力の最大値は $\displaystyle \frac{4}{3}$ 倍となる。

(4) 開閉所を設置する効果

加速エネルギーは開閉所設置前と変わらないが,事故除去後に位相角がある値に至るまでの減速エネルギーは開閉所設置前より増加することから,過渡安定性が向上する。

(5) 無効電力を高速に補償する装置

遅れの無効電力を系統側に注入することで,系統の電圧が上昇することから,事故除去後の電力相差角曲線が $P$ 軸の正方向に大きくなる。加速エネルギーは変わらないが,事故除去後に位相角がある値に至るまでの減速エネルギーは小問 (3) のときより増加することから,位相角 $\delta$ の最大値は小さくなる。

問4 配電系統の電力損失低減

配電系統の電力損失を低減することはエネルギー資源の効率的な活用に有効である。次の問に答えよ。

(1) 柱上変圧器を重負荷地点近傍に設置することは,電力損失を低減する方策の一つである。これ以外の配電系統の電力損失低減策を三つ述べよ。

(2) 柱上変圧器を重負荷地点近傍に設置することによる電力損失低減効果について,a. 平等負荷分布(各地点での負荷電流が同じ)及び b. 不平等負荷分布における電力損失を求めることにより,b. が a. より小さくなることを示したい。

  1. 図 1 に示すように,平等負荷分布である単相 2 線式の低圧配電系統において,電線こう長 $L$ [m],A 点から $x$ [m] だけ離れた地点の線路電流 $I_x$ [A] を求めたうえで,低圧配電線の全区間の電力損失を $I_\text{s}$,$L$,$r$ を用いて求めよ。ただし,変圧器二次側の送電線電流 $I_\text{s}$ [A],電線単位長抵抗 $r$ [Ω/m] とし,配電線路の線路特性は均一として,電源電圧は一定であるものとする。
  2. 図 2 に示すように,末端へ行くほど直線的に減少する不平等負荷分布である単相 2 線式の低圧配電系統において,A' 点から $x'$ [m] だけ離れた地点の負荷電流密度 $i_x'$ [A/m] 及び線路電流 $I_x'$ [A] を,A’ 点の負荷電流密度 $i_0'$ [A/m] を用いて求めたうえで,低圧配電線の全区間の電力損失を $I_\text{s}$,$L$,$r$ を用いて求めよ。ただし,電流分布以外の条件は a. と同様とする。
平等負荷分布
図 1 平等負荷分布
不平等負荷分布
図 2 不平等負荷分布

問4 解答と解説

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(1) 配電系統の電力損失低減策

  • 配電電圧を格上げする(昇圧)。
  • 力率改善用コンデンサを設置する。
  • 負荷電流の不平衡を是正する。
  • 電線を太線化する。
  • 回線数を増加する。(複線化,ネットワーク化,単相 3 線式の採用など)
  • 低損失の柱上変圧器を適用

問5 電力系統における無効電力の変化による電圧変動

電力系統における無効電力の変化による電圧変動に関し,次の問に答えよ。なお,各要素と単位は次のとおりとする。

有効電力 $P$:[W],無効電力 $Q$:[var],送電端電圧 $V_\text{s}$ 及び受電端電圧 $V_\text{r}$:[V],抵抗 $r$ 及びリアクタンス $x$:[Ω]

図 1 は,電源から負荷(遅れ力率)に電力 $P + \text{j}Q$ を送電している状態を示している。次の a. 及び b. について答えよ。

  1. 受電端電圧 $V_\text{r}$ を基準として,1 相分の電圧,電流の関係をベクトル図で表せ。ただし,受電端電圧 $V_\text{r}$ 及び送電端電圧 $V_\text{s}$ は線間電圧とする。
  2. 負荷の有効電力 $P$,抵抗 $r$ 及びリアクタンス $x$ は一定とし,$V_\text{s}$ と $V_\text{r}$ の位相差は近似的に零であるとみなした場合,無効電力の変化 $\Delta Q$ と,それによる受電端電圧の変化 $\Delta v$ とは,① 式の関係があることを証明せよ。ただし,送電端電圧 $V_\text{s}$ は一定とし,受電端電圧 $V_\text{r}$ の変化は小さく,また,$r \ll x$ とする。
\[ \Delta v \propto -x \cdot \Delta Q \]
・・・・・①
電源から負荷に電力を送電している状態
図 1 電源から負荷に電力を送電している状態

(2) 図 2 は,電源 1(商用電源)に電源 2(分散電源)が接続された電力系統を介している。22 kV 母線に分路リアクトル(ShR)を投入したとき,22 kV 母線の電圧変動を 2 % 以下にするためには,投入する容量 $Q_\text{R}$ は最大何 Mvar とすべきか。1 Mvar 未満は四捨五入して答えよ。ただし,① 式が成立するものとし,22 kV 母線の電圧 $V_22$ の送電端電圧 $V_\text{s}$ に対する電圧変化を $v$ とすると,22 kV 母線の電圧変動率 $%v_{22}$ は次式で表されるものとする。

\[ %v_{22} \text{ [%]} = \frac{v}{V_{22}} \times 100 \text{ [%]} \]

また,系統各部のリアクタンスは 10 MV·A 基準の値とし,電源電圧は変化しないものとする。

電源 1(商用電源)に電源 2(分散電源)が接続された電力系統
図 1 電源 1(商用電源)に電源 2(分散電源)が接続された電力系統

問5 解答と解説

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準備中

問6 事業用電気工作物としての発電用風力設備

事業用電気工作物としての発電用風力設備に関して,次の問に答えよ。

  1. 発電用風力設備は,公衆安全と電気保安の確保のために,設置時のみならず,巡視・点検等継続的に保守管理を行うことにより,運用中も「発電用風力設備に関する技術基準を定める省令」に適合するよう維持しなければならない。発電用風力設備において維持すべき重要な技術要件を二つ答えよ。
  2. 風車が構造上安全であるために設計上考慮すべき風圧荷重を二つ答えよ。
  3. 避雷塔や避雷針を施設する方法以外に,雷撃からブレードを保護する措置を答えよ。
  4. 風力発電設備内部を雷撃から保護するために等電位ボンディングという方法が採用されている。この保護の方法について答えよ。

問6 解答と解説

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(1) 発電用風力設備において維持すべき重要な技術要件

  • 危険表示や接近する恐れがないような措置など取扱者以外の者に対する危険防止措置を維持する。
  • 風車のハブ・ナセルの落下,ブレードの飛散などが発生しないように風車の構造上の安全を維持する。
  • タワーの倒壊などが発生しないように風車を支持する工作物の構造上の安全を維持する。
  • 過回転時や制御機能喪失時の自動停止等により風車の安全な状態を確保する。
  • 雷撃防止措置等により風車の安全な状態を確保する。
  • 圧油装置等の危険の防止を図る。

(2) 風車が構造上安全であるために設計上考慮すべき風圧荷重

  • 突風や台風等の強風による風圧荷重のうち最大のもの
  • 風速及び風向の時間的変化により生じる変動荷重

(3) 雷撃からブレードを保護する措置

設置場所の落雷条件を考慮して,レセプターを風車へ取り付ける及び雷撃によって生じる電流を風車に損傷を与えることなく安全に地中に流すことができる引下げ導体等を施設する。

(4) 等電位ボンディング

風力発電設備内部の離れた導電性部分間を直接導体又はサージ保護装置で電気的に接続することで,その部分間に雷電流により発生する電位差を低減させて保護する。

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