令和3年度 第2種 電力・管理

2021年11月16日作成,2022年11月5日更新

目次

電力・管理では,問 1 ~ 問 6 の中から任意の 4 問を解答する。(配点は 1 問当たり 30 点)

  1. 大気汚染防止法にて規制される大気汚染物質
  2. 変電所の絶縁設計において支配的な要素となる雷サージ
  3. 単位法を用いた三相回路の故障電流の検討
  4. 分散形電源の系統連系
  5. 地中送電線の絶縁劣化診断法と事故点測定法
  6. 同期発電機の並列運転

受験者は 2,407 人,合格者数は 413 人で,合格率は 17.2 % だった。

合格基準は,100 点満点換算で 56.7 点以上(実得点 180 点満点で 102 点以上),かつ,各科目ともに平均点 -5 点以上である。

問1 大気汚染防止法にて規制される大気汚染物質

大気汚染防止法にて規制される以下の大気汚染物質について,その発生原因と,我が国の火力発電所での対策装置(設備),及びその原理について 1. ~ 3. それぞれ 100 字程度で述べよ。

  1. 煤じん
  2. 硫黄酸化物(SOx)
  3. 窒素酸化物(NOx)

問1 解答と解説

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大気汚染防止法において,「ばい煙」は次のように定義されている。

大気汚染防止法 第二条 定義等

この法律において「ばい煙」とは、次の各号に掲げる物質をいう。

  1. 燃料その他の物の燃焼に伴い発生するいおう酸化物
  2. 燃料その他の物の燃焼又は熱源としての電気の使用に伴い発生するばいじん
  3. 物の燃焼、合成、分解その他の処理(機械的処理を除く。)に伴い発生する物質のうち、カドミウム、塩素、弗化水素、鉛その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある物質(第一号に掲げるものを除く。)で政令で定めるもの

以下,略

1. 煤じん(soot and dust)

燃焼によって生じた “すす” と個体粒子(灰等)を総称していう。また,煙突から出た後は他の種々の煙霧質と混じり合ってしまうが,大気中にあるこのような混合物についてもばいじんといわれ,降下ばいじん,浮遊ばいじんという言葉で呼ばれている。

ばい煙発生施設の排出口から大気中に排出されるばいじんの量については,「大気汚染防止法」で施設の種類および規模ごとに許容限度が定められている。

煤じんの発生原因

燃料に含まれる灰分が燃焼することで生成される。

煤じんの対策装置(設備)

電気集じん機(煤じん除去装置)を使用する。

煤じんの対策装置(設備)の原理

煤じんを帯電させて静電気力により排ガスより分離捕集する。

2. 硫黄酸化物(SOx, sulfur oxides)

硫黄の酸化物の総称であり,SO(一酸化硫黄),SO2(二酸化硫黄),SO3(三酸化硫黄)等がある。環境問題との関係で注目されるのは,燃料を燃焼した際に発生する SO2 である。SO2 は大気中でさらに酸化されると SO3 になり,水滴に吸収されると硫酸のヒューム(微粒子)となって大気汚染や酸性雨の原因となる。SOx(硫黄酸化物)の排出抑制のためには,低硫黄燃料の使用や排煙脱硫を行っており,わが国においてはこれらの対策が進んだことから,大気中での SOx 問題は大幅に改善された。

硫黄酸化物の発生原因

燃料中に含まれる硫黄分が燃焼することで生成される。

硫黄酸化物の対策装置(設備)

脱硫装置を使用する。

脱硫装置の原理

石灰石-石膏法にて排ガス中の亜硫酸ガスを石灰(石灰スラリー)に吸収させ亜硫酸カルシウムとして除去する。これを空気で酸化することで石膏が生成される。

3. 窒素酸化物(NOx, nitrogen oxides)

窒素の酸化物の総称であり,NO(一酸化窒素),NO2(二酸化窒素),N2O(一酸化二窒素)等がある。環境問題との関係で注目されるのは,燃料が燃焼した結果発生する NO と NO2 が主なものである。燃料を消費する工場,ビル,自動車等から排出される。

NOx(窒素酸化物)は,高温燃焼の過程でまず NO の形で生成され,さらに酸素が結合して NO2 になる。この反応は,すぐには起きないので大気中には NO と NO2 が共存している。これらの NOx は大気汚染や酸性雨の原因となり,また光化学オキシダントの原因物質の一つとされている。

なお,燃焼過程において空気中の窒素と酸素が反応して生成するものを Thermal-NOx,燃料中に含有する窒素化合物に起因するものを Fuel-NOx という。また,NOx 対策として燃焼方法の改善や排煙脱硫が行われている。

窒素酸化物の発生原理

燃焼空気中の窒素が高温条件下で酸素と反応して生成される。または,燃料中に含まれる窒素分が燃焼により酸化され生成される。

窒素酸化物の対策装置(設備)

低 NOx バーナー,排ガス混合法,ボイラ二段燃焼,脱硝装置を使用する。

低 NOx バーナーの原理

燃焼方法(燃焼温度低下)の改善により生成量を減らす

排ガス混合法の原理

ガス混合機により排ガスを燃焼空気に混合して低酸素燃焼を行う。

ボイラ二段燃焼の原理

バーナー周りの空気比を下げ NOx の生成を抑制させ未燃分を後流から注入した空気で再燃焼させる。

脱硝装置の原理

アンモニア接触還元法にて還元剤としてアンモニアを加え混合したのち触媒層に通すことで NOx とアンモニアが還元反応して窒素と水蒸気に分解される。

参考文献

問2 変電所の絶縁設計において支配的な要素となる雷サージ

変電所の絶縁設計において支配的な要素となる雷サージに関して,次の問に答えよ。

  1. 変電所内への直撃雷の防止対策について 100 字程度で述べよ。
  2. 送電線からの侵入雷の発生要因を三つ挙げ,変電所内でのサージ低減対策を合わせて 100 字程度で述べよ。
  3. 低圧制御回路におけるケーブル敷設時でのサージ低減対策を二つ挙げ,合わせて 50 字程度で述べよ。

問2 解答と解説

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1. 変電所内への直撃雷の防止対策

変電所の変圧器や開閉器などの電力機器を雷の直撃雷に耐えるように絶縁することは極めて困難であるため,架空地線と避雷鉄塔による変電所内の遮へいと接地を施して,直撃雷の発生を防止する。

2. 送電線からの侵入雷の発生要因と変電所内でのサージ低減対策

送電線への直撃雷,鉄塔フラッシオーバ,誘導雷がある。いずれの場合も避雷器を変圧器付近,母線,線路引き込み口,あるいはそれらを組み合わせて設置して,雷サージの低減を行うことにより,保護する機器の絶縁レベルとの協調を行う。

3. 低圧制御回路におけるケーブル敷設時でのサージ低減対策

  • 金属シース付き低圧制御ケーブルを採用しシースを接地する。
  • 低圧制御ケーブルを高電圧ケーブルから離す。

参考文献

問3 単位法を用いた三相回路の故障電流の検討

単位法を用いた三相回路の故障電流の検討について以下の問に答えよ。

(1) 線間電圧 154 kV,三相容量 100 MV·A を基準とするとき,次を求めよ。

  1. 基準電流 $I_\text{B}$ [kA]
  2. 基準インピーダンス $Z_\text{B}$ [Ω]

(2) 図に示す無限大母線と送電線,変圧器,発電機から構成される電力系統を対象として,以下の量を,100 MV·A を基準容量とし各部の公称電圧ないしは定格電圧を基準電圧とする単位法による値に換算せよ。

  1. 公称電圧 154 kV のこう長 20 km の 1 回線送電線のインピーダンスを上記の単位法の値 [p.u.] に換算せよ。ただし,送電線(1 回線)のインピーダンスは j0.400 Ω/km とする。
  2. 容量 150 MV·A の変圧器(154/66 kV)のインピーダンスを上記の単位法の値 [p.u.] に換算せよ。ただし,同変圧器のインピーダンスは自己容量基準で j10.0 % とする。
  3. 変圧器二次側(定格電圧 66 kV)の電流 25 kA を上記の単位法の値 [p.u.] に換算せよ。

(3) 図の電力系統で,変圧器二次側(定格電圧 66 kV)の母線至近端での三相短絡時における故障電流を 25 kA 以下に抑えることができる発電機の最大容量 $S$ [MV·A] を求めよ。ここに送電線と変圧器のインピーダンスは小問 (2) に示すとおりであるが,154 kV 送電線は 2 回線とする。また発電機(昇圧変圧器を含む)は,定格電圧が 66 kV の電圧源と自己容量基準で j30.0 % のインピーダンスの直列回路で表すこととする。なお無限大母線の電圧は 154 kV,電圧源の電圧は 66 kV とする。

無限大母線と送電線,変圧器,発電機から構成される電力系統

問3 解答と解説

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(1) 基準電流と基準インピーダンス

a. 基準電流 $I_\text{B}$ [kA] は,次式で求められる。

\[ I_\text{B}=\frac{100}{\sqrt{3}\times 154}= 0.374 90 = 0.375 \text{ [kA]} \]

b. 基準インピーダンス $Z_\text{B}$ [Ω] は,次式で求められる。

\[ Z_\text{B}=\frac{154/\sqrt{3}}{0.374 90}=237.16 \approx 237 \text{ [Ω]} \]

(2) 単位法による値に換算

a. 公称電圧 154 kV のこう長 20 km の 1 回線送電線のインピーダンスを単位法の値 [p.u.] に換算する。

\[ Z=\text{j}\frac{0.40 \times 20}{237.16}=\text{j}0.0033733 \approx \text{j}0.0337 \text{ [p.u.]} \]

b. 容量 150 MV·A の変圧器(154/66 kV)のインピーダンスを単位法の値 [p.u.] に換算する。

\[ Z=\text{j}\frac{10}{100}\times \frac{100}{150}=\text{j}0.066667 \approx \text{j}0.0667 \text{ [p.u.]} \]

c. 変圧器二次側(定格電圧 66 kV)の電流 25 kA を(1) a. の基準電流値を用い,単位法の値 [p.u.] に換算する。

\[ \frac{25}{0.37490 \times \frac{154}{66}}=28.579 \approx 28.6 \text{ [p.u.]} \]

(3) 発電機の最大容量

発電機の最大容量を $S$ [MV·A] とすると,短絡電流 $I_\text{S}$ は下式で計算できる。

\[ I_\text{S}=\frac{154/154}{\text{j}\frac{0.033733}{2}+\text{j}0.066667}+\frac{66/66}{\text{j}0.30\times \frac{100}{S}} \] \[ = -\text{j}\frac{1}{0.083534}-\text{j}0.0033333 S = -\text{j}(11.971+0.033 333 S) \text{ [p.u.]} \]

この短絡電流が 25 kA(単位法では 28.6 p.u.)を上回らないためには,$S$ は次の値以下である必要がある。

\[ 11.971 + 0.033 333 S \le 28.579 \] \[ S \le 498.24 \text{ [MV·A]} \]

したがって,求める発電機の最大容量は 498 MV·A である。

問4 分散形電源の系統連系

分散形電源の系統連系に関して,次の問に答えよ。

図に示す 6.6 kV 三相 3 線式高圧配電線の末端に,分散形電源を有する需要家が連系されている。

(1) 需要家から配電線へ逆潮流(力率 1)がある場合の,需要家端の相電圧(1 線と中性点間の電圧)$\dot{E_\text{r}}$ と変電所の相電圧 $\dot{E_\text{s}}$ の関係を示すベクトル図及び関係式を $\dot{E_\text{s}}$,$\dot{E_\text{r}}$,$\dot{I}$,$R$,$X$ を用いて描け。ただし,ベクトル図は $\dot{E_\text{r}}$(位相 0)を基準とし,電流 $\dot{I}$ は図中の矢印の向きを正とする。

(2) 小問 (1) のベクトル図から需要家端の線間電圧値を求めよ。ただし,需要家端からの逆潮流は 1 000 kW,力率は 1(分散形電源,負荷設備ともに 1)であり,高圧配電線は当該需要家のみの専用線とし,1 線当たりの抵抗 $R$ 及び $X$ はそれぞれ 3 Ω 及び $3\sqrt{3}$ Ω,変電所端の線間電圧は 6.6 kV で一定とする。

分散形電源を有する需要家が連系された 6.6 kV 三相 3 線式高圧配電線

問4 解答と解説

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準備中

(1) ベクトル図及び関係式

(2) 需要家端の線間電圧値

問5 地中送電線の絶縁劣化診断法と事故点測定法

地中送電線の絶縁劣化診断法と事故点測定法について,次の問に答えよ。

(1) 表 1 は,CV ケーブルの絶縁劣化である水トリーに関する絶縁劣化診断法についての記述である。表中の (A) ~ (D) に当てはまる適切な語句についてそれぞれ答えよ。

(2) 表 2 は,地中送電線の事故点測定法である「マーレ―ループ法」と「パルスレーダー法(送信形パルス法)」の原理並びにそれぞれの長所及び短所についての記述である。表中の (E) ~ (I) に当てはまる適切な語句についてそれぞれ答えよ。

表 1
絶縁劣化診断法 原理
損失電流法 水トリー劣化ケーブルの充電電流の中に,課電電圧と同位相の損失電流成分が含まれることから,この損失分を測定し劣化の状況を把握する手法である。劣化したケーブルの測定波形には (A) 歪みが観測される。
(B) 電荷法 最初に (C) 課電によって水トリー部に電荷を蓄積させ,次に (D) 課電で蓄積した電荷を放出させる,(C) 課電と (D) 課電を組み合わせた手法である。検出された電荷の量は,水トリーの数や長さによって変化するため水トリーの発生状況を検知することが出来る。
表 2
事故点測定法 原理 長所 短所
マーレーループ法 (E) の原理により,事故点までの抵抗値を高精度に測定する方法である。
  • 導体抵抗を利用した (E) 法のため,測定精度が高く,誤差は 1 % 程度以下である。
  • ケーブル事故の多くが (F) 地絡であるため,適用範囲,使用実績が最も多い。
  • (G) 事故に適用できない。
  • (H) 同時地絡事故のような並行健全相がない場合,測定は困難である。
パルスレーダー法(送信形パルス法) 事故ケーブルにパルス電圧を加え,健全相と異なるサージインピーダンスをもつ事故点からの (I) パルスを検知して,パルスの伝搬時間を測定し,事故点までの距離を求める方法である。
  • 並行健全相が不要であるので,(H) 同時地絡事故の測定に適している。
  • 線路こう長がはっきりしていない場合でも測定できる。
  • 測定操作,パルス波形の判読に熟練を必要とする。
  • 測定精度が若干低い。(誤差は一般的に 2 ~ 5 %)

問5 解答と解説

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  1. 高調波
  2. 残留
  3. 直流
  4. 交流
  5. ホイートストンブリッジ
  6. 1 線
  7. 断線
  8. 三相
  9. 反射

参考文献

問6 同期発電機の並列運転

定格出力 120 MW,定格周波数 50 Hz の同期発電機 A と定格出力 80 MW,定格周波数 50 Hz,速度調定率 4.0 % の同期発電機 B とが並列運転可能な電力系統がある。次の問に答えよ。ただし,調速機(ガバナ)の特性は線形であるとし,負荷の周波数特性は無視する。

(1) 発電機 A のみの運転によって,系統周波数が 50.00 Hz に保たれているとする。発電機が出力 80 MW で運転しているときに系統負荷が 40 MW 減少した結果,周波数が 50.50 Hz となった。発電機 A の速度調定率 [%] を求めよ。ただし,有効数字は,小数点以下 1 桁とする。

(2) 出力 100 MW で運転中の発電機 A と出力 80 MW で運転中の発電機 B とが並列運転を行っており,系統周波数が 50.00 Hz に保たれているとする。系統負荷が 30 MW 減少したときの,系統周波数 [Hz],発電機 A の出力 [MW],及び発電機 B の出力 [MW] を求めよ。ただし,系統周波数の有効数字は,小数点以下 2 桁とする。

問6 解答と解説

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(1) 発電機 A の速度調定率

発電機 A の速度調定率を $x$ [%] とすると,次式が成り立たなければならない。

\[ 50.50 = 50.00 + 50 \times \frac{x}{100} \times \frac{40}{120} \]

これを解くと,$x=3$ となる。よって,発電機 A の速度調定率は 3.0 % である。

(2) 発電機 A と発電機 B の出力

系統負荷が 30 MW 減少したときの発電機 A の出力を $P_\text{A}$ [MW],発電機 B の出力を $P_\text{B}$ [MW],系統周波数を $f$ [Hz] とすると,次の 3 つの式が成り立たなければならない。

\[ P_\text{A} + P_\text{B} = 180 - 30 \] \[ f= 50.00 + 50 \times \frac{3}{100} \times \frac{100-P_\text{A}}{120} \] \[ f= 50.00 + 50 \times \frac{4}{100} \times \frac{80-P_\text{B}}{80} \]

3 式より,$P_\text{A}=80$,$P_\text{B}=70$,$f=50.25$ となる。よって,発電機 A の出力は 80 MW,発電機 B の出力は 70 MW,系統周波数は 50.25 Hz となる。

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