令和4年度 第2種 電力・管理

2022年11月19日作成,2023年1月13日更新

目次

電力・管理では,問 1 ~ 問 6 の中から任意の 4 問を解答する。(配点は 1 問当たり 30 点)

  1. 調整池式の水力発電所の運用
  2. 変電所に設置される酸化亜鉛形避雷器
  3. 調相設備のサセプタンス
  4. 高圧受電設備の保護
  5. 再生可能エネルギー
  6. 需要設備への電力供給

問1 調整池式の水力発電所の運用

調整池式の水力発電所の運用に関して,次の問に答えよ。

有効貯水量 180 × 103 m3 の調整値を有する有効落差 60 m の水力発電所がある。自然流量が 20 m3/s であるとき,図に示す負荷曲線で運転した場合のピーク負荷時の出力 [kW] 及びオフピーク負荷時の出力 [kW] を求めよ。ただし,年間を通して毎日同様の運転を繰り返すものとし,調整池は最大限活用し,オフピーク時には越流させないこととする。

なお,水車と発電機の合成効率は,ピーク負荷時出力で 85 %,オフピーク負荷時出力で 80 % とする。

また,発電機の定格出力はピーク負荷を十分供給できるものとする。

負荷曲線(運転パターン)
図 負荷曲線(運転パターン)

問1 解答と解説

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調整池は日間の負荷変動に応じて,河川の自然流量を時間的に調整するもので,普通,深夜の余剰水量を貯水し,昼間のピーク負荷時に放電する。本問のピーク負荷時は 16 時から 22 時の 6 時間である。

流入量(自然流量)を $Q$ [m3/s],ピーク負荷時の使用水量および継続時間をそれぞれ $Q_\text{p}$ [m3/m],$T$ [h] とすれば必要な調整容量 $V$ [m3] は次式となる。

\[ V=(Q_\text{p}-Q)T \times 3600 \]

一方,貯水はピーク負荷時以外のときであるから,そのときの使用水量 $Q_0$ [m3/s] と流量 $Q$ [m3/s] の関係は次式で表される。

\[ (Q-Q_0)(24-T)\times 3600 = V \]

これらの 2 式が基本式である。

有効貯水量 $V$ は 180 × 103 m3 と自然流量 $Q$ は 20 m3/s およびピーク負荷時継続時間 $T$ は 6 時間が与えられているので,$Q_\text{p}$ [m3/m],$Q_0$ [m3/m] は次式で求められる。

\[ Q_\text{p}=Q+\frac{V}{3600 T} = 20 + \frac{180 \times 10^3}{3600 \times 6} = 28.33 \] \[ Q_0 = Q-\frac{V}{3600(24-T)}=20 - \frac{180 \times 10^3}{3600 \times (24-6)}= 17.22 \]

ピーク負荷時の出力 $P_\text{p}$ は次式で求められる。ただし,ピーク負荷時の水量と発電機の合成効率は $\eta_\text{p}$ とする。

\[ P_\text{p} = 9.8 Q_\text{p} H \eta_\text{p}=9.8 \times 28.33 \times 60 \times 0.85 = 14159.334 \]

オフピーク負荷時の出力 $P_\text{0}$ は次式で求められる。ただし,オフピーク負荷時の水量と発電機の合成効率は $\eta_0$ とする。

\[ P_\text{0} = 9.8 Q_\text{0} H \eta_\text{0}=9.8 \times 17.22 \times 60 \times 0.80 = 8100.288 \]

よって,ピーク負荷時の出力は 1.42 × 104 [kW],オフピーク負荷時の出力は 8.10 × 103 [kW] である。

参考文献

  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「水力供給力

問2 変電所に設置される酸化亜鉛形避雷器

電力系統には雷撃や系統運用における過渡現象などにより異常電圧が発生することがあり,電気施設の絶縁保護を目的に,変電所等に避雷器が設置される。近年は,特に,保護特性の優れた,直列ギャップを使用しない酸化亜鉛(ZnO)を主成分とした酸化亜鉛形(ギャップレス避雷器)が多く使用されている。変電所に設置される参加亜鉛形避雷器(ギャップレス避雷器)について,次の問に答えよ。

(1) 変電所における避雷器の設置上の留意点及びその理由を 100 字程度以内で述べよ。

(2) 酸化亜鉛形避雷器(ギャップレス避雷器)の特徴を三つ挙げ,それによるメリットも含めてそれぞれ 50 字程度以内で述べよ。

(3) 酸化亜鉛形避雷器(ギャップレス避雷器)では,保護レベルと機器寿命の関係を定量的に表すのに,常時連続的に印加される電圧ストレスの大きさを示す課電率(通常,連続使用電圧/動作開始電圧)を用いる。そこで,課電率による保護レベル設定と機器寿命の関係について 80 字程度以内で述べよ。

問2 解答と解説

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(1) 変電所における避雷器の設置上の留意点及びその理由

解答例 1

避雷器は線路引込口や極力被保護機器(例えば,変圧器)に近く設置する(約 50 m 以下)ことが望ましく,距離があまり遠くなると被保護機器の端子に加わる異常電圧の値は避雷器の制限電圧に比べて高くなり,避雷器を設置した効果が十分に発揮できない。

解答例 2

避雷器と大地間の接地線は極力接地抵抗(インピーダンス)を小さくし,高周波サージに対するインダクタンスを抑えることで,避雷器-大地間の電圧上昇により保護レベルに影響を及ぼさないようにする。

(2) 酸化亜鉛形避雷器(ギャップレス避雷器)の特徴

以下に酸化亜鉛形避雷器の特徴を記載する。

  • 直列ギャップがないため放電電圧-時間特性に関係する課題がなく,機器絶縁に対する保護レベルが向上する。
  • 微小電流から大電流サージ領域まで高い非直線抵抗特性を有することで過電圧を抑制することができる。
  • 素子の単位体積当たりの処理エネルギーが大きいので,従来に比べ寸法の小型化と構造の簡素化が実現できる。
  • 並列素子数を増加することにより,許容される吸収エネルギーの増加が図れ,サージに対する耐量が向上する。
  • 無続流のため,多重雷などに対する動作責務に余裕があり,温度上昇が少なく,機器の長寿命化が期待できる。
  • 降雨等による汚損及び洗浄時の不均一電位分布などの問題がなく,局部アークの発生を抑制することができる。

(3) 課電率による保護レベル設定と機器寿命の関係

課電率を高くすることで,保護レベルを低く設定でき,絶縁設計の合理化が実現できるが,機器寿命が短くなるため,この経済バランスを考慮した仕様検討が必要となる。

参考文献

問3 調相設備のサセプタンス

送電線により受電する下図の負荷母線 d の受電電圧 $V_\text{d}$ を 1.05 p.u. に維持するために必要な調相設備(コンデンサあるいはリアクトル)のサセプタンス $Y_\text{d}$ を,単位法を用いて,以下の手順で求める。それぞれの問に答えよ。なお,遅れ無効電力を正とする。

(1) 負荷母線 d に到達する有効電力 $P$ に関する数式を用いて,$\sin{\theta_\text{d}}$ の値を求めよ。

(2) 負荷母線 d に到達する遅れ無効電力 $Q$ を $\cos{\theta_\text{d}}$ の関数で表せ。

(3) 上記小問 (2) の解を用いて必要調相設備サセプタンス $Y_\text{d}$ を $\cos{\theta_\text{d}}$ の関数で表せ。

(4) 上記の各小問の解を用いて必要調相設備サセプタンス $Y_\text{d}$ を求めよ。ただし,$\displaystyle |\theta_\text{d} \lt \frac{\pi}{2}|$ とする。

送電線により受電する負荷母線
注)数値は全て p.u. 値(ただし,位相は rad)

問3 解答と解説

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負荷端における電力の平衡式は,次式で表される。

$P + \text{j}Q$ = 負荷電力 (0.5 + j0.2) + 調相設備電力

左辺を各電圧変数で表すと,線路電流を $\dot{I}$,無限大母線から負荷母線に至る全体のリアクタンスを $X_\text{total}$ とすると,次式が成り立つ。

\[ P+\text{j}Q=\dot{V}_\text{d}\dot{I}^{*}=\dot{V}_\text{d}[\frac{\dot{V}_0 - \dot{V}_\text{d}}{\text{j}X_\text{total}}]^{*} \] \[ = \text{j}\frac{V_0 \dot{V}_0 - {V_\text{d}}^2}{X_\text{total}} = \text{j}\frac{V_0 {V_d}^{\text{j}\theta_\text{d}} - {V_\text{d}}^2}{X_\text{total}} \] \[ = \text{j}\frac{V_0 V_d(\cos\theta_\text{d} + \text{j}\sin\theta_{d}) - {V_\text{d}}^2}{X_\text{total}} \] \[ = -\frac{V_0 V_d \sin\theta_{d}}{X_\text{total}} + \text{j}\frac{V_0 V_d \cos\theta_\text{d} - {V_\text{d}}^2}{X_\text{total}} \]

一方,右辺は次式が成り立つ。

\[ 0.5 + \text{j}0.2 + \dot{V}_\text{d}(\text{j}Y_\text{d}\dot{V}_\text{d})^{*} = 0.5 + \text{j}(0.2 - Y_\text{d}{V_\text{d}}^2) \]

それぞれの式の実部,虚部を比較すると,次式が成り立つ。

\[ -\frac{V_0 V_d \sin\theta_{d}}{X_\text{total}} = 0.5 \] \[ \text{j}\frac{V_0 V_d \cos\theta_\text{d} - {V_\text{d}}^2}{X_\text{total}} = 0.2 - Y_\text{d}{V_\text{d}}^2 \]

参考文献

問4 高圧受電設備の保護

高圧受電設備の保護について,次の問に答えよ。

(1) 高圧受電設備の主遮断装置と保護の方式について,受電設備容量 300 kV·A 以下とそれ以上に分けて,それぞれ 130 字程度以内で記載せよ。

(2) 地絡方向リレー(DGR)と地絡リレー(GR)の地絡事故に対する動作原理の違いを,150 字程度以内で記載せよ。

問4 解答と解説

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高圧受電設備の主遮断装置と保護の方式

受電設備容量 300 kV·A 以下の主遮断装置には,高圧限流ヒューズ(PF)と負荷開閉器(LBS 又は S)を組み合わせた方式が主に用いられる。

地絡事故が発生したときは地絡リレー(GR)又は地絡方向リレー(DGR)で検出し開閉器をトリップさせ,短絡事故のときは,短絡電流が大電流であるため PF で遮断する。

300 kV·A 以上の主遮断装置には,真空遮断器(VCB)などの遮断器(CB)と地絡・短絡などのリレーを組み合わせた方式が主に用いられる。

地絡,短絡などの事故,あるいは過負荷が発生したときは,GR 又は DGR,過電流リレー(OCR)などで検出し CB を遮断させ設備を保護する。

地絡方向リレー(DGR)と地絡リレー(GR)の地絡事故に対する動作原理の違い

DGR は,零相電圧検出器(ZPD)で零相電圧($V_0$),零相変流器(ZCT)で零相電流($I_0$)を同時に検出する。また,$V_0$ と $I_0$ の位相から地絡電流の方向を判別することで,地絡事故が自家用構内側か構外側かを区別している。

GR は,ZCT のみしか使用していないため,一定以上の $I_0$ が流れた場合に地絡事故の判定をする。零相電流の値のみのため,誤作動の可能性がある。

参考文献

問5 再生可能エネルギー

再生可能エネルギーに関して,次の問に答えよ。

(1) 総合エネルギー統計によれば,令和2年度(2020年度)の日本の総発電電力量は約 1 兆 kW·h である。このうち,再生可能エネルギーの発電電力量の占める割合は約何割であるか,有効数字一桁で答えよ。

(2) 温室効果ガスの排出削減のため,今後も再生可能エネルギーを最大限導入する必要がある。この場合において,太陽光発電及び風力発電の導入拡大を図っていくに当たって,電力系統に生じる技術的課題を電力需給,送配電設備容量及び安定度の三つの観点から,それぞれについて 70 字程度で述べよ。

問5 解答と解説

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(1)

総合エネルギー統計によれば,令和2年度(2020年度)の日本の総発電電力量の内訳は次表のとおり。水力,太陽光,風力,地熱,バイオマスの比率は 19.8 % である。よって,再生可能エネルギーの発電電力量に占める割合は約 2 割である。

表 令和2年度(2020年度)の日本の総発電電力量の内訳
電源種別 発電電力量 [億kWh] 比率 [%]
原子力 388 3.9
石炭 3 102 31.0
天然ガス 3 899 39.0
石油等 636 6.4
水力 784 7.8
太陽光 791 7.9
風力 90 0.9
地熱 30 0.3
バイオマス 288 2.9
令和2年度(2020年度)の日本の総発電電力量の内訳
図 令和2年度(2020年度)の日本の総発電電力量の内訳

(2)

電力需給の観点

天候等の自然条件によって再生可能エネルギーの出力が変動するため,電力需給の調整が難しい。

(標準解答)再生可能エネルギーの発電量は,天候や季節によって変動してコントロールが難しいため,調整力が不足すると需給バランスに問題が生じる。

送配電設備容量の観点

日射量や風況などの適地と電力の需要地が必ずしも一致しておらず,送電網の整備が必要である。

(標準解答)電力需要が少ないエリアなどで再生可能エネルギーが大量に導入されると,既存の一部の送電線や連系線の設備容量が不足し,送電に問題が生じる。

安定度

災害等により電源が脱落した際の系統の安定性を保つ機能(慣性力等)を有していない。

(標準解答)非同期電源である太陽光発電などが大量に導入され,火力発電等の同期電源の割合が減少すると,系統全体の慣性力・同期化力が減少し,事故時の安定度に問題が生じる。

参考文献

問6 需要設備への電力供給

ある変電所から,配電線 A,B により,下表に示す需要設備 a,b,c に電力を供給しているとき,次の問に答えよ。配電線は A,B 以外にはないものとし,需要設備 a,b,c の力率は全て 90 %(遅れ一定)とする。

(1) 需要設備 a,b,c の最大電力 [kW] をそれぞれ求めよ。

(2) 変電所の総合最大電力 [kW] を求めよ。

(3) 需要設備 a,b,c の平均電力 [kW] をそれぞれ求めよ。

(4) 変電所の総合負荷率 [%] を求めよ。

配電線 需要設備 設備容量 [kV·A] 需要率 負荷率 [%] 需要設備間の不等率 配電線間の不等率
A a 9 000 0.6 70 - 1.1
B b 5 000 0.7 80 1.25
c 3 000 0.8 60

問6 解答と解説

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(1) 需要設備 a,b,c の最大電力

需要設備 a,b,c の最大電力 [kW] を,それぞれ $P_\text{a}$,$P_\text{b}$,$P_\text{c}$ とすると,最大電力 = 設備容量 × 力率 × 需要率 の関係があるので,次式で求められる。

\[ P_\text{a} = 9000 \times 0.9 \times 0.6 = 4 860 \text{ [kW]} \] \[ P_\text{b} = 5000 \times 0.9 \times 0.7 = 3 150 \text{ [kW]} \] \[ P_\text{a} = 3000 \times 0.9 \times 0.8 = 2 160 \text{ [kW]} \]

(2) 変電所の総合最大電力

配電線 A,B の最大電力を,それぞれ $P_\text{A}$,$P_\text{B}$ とすると,総合最大電力 = 合計最大電力 / 不等率 の関係があるので,次式で求められる。

\[ P_\text{A} = 4 860 \text{ [kW]} \] \[ P_\text{B} = \frac{3150+2160}{1.25} = 4 248 \text{ [kW]} \]

同様にして,変電所の総合最大電力 $P_\text{S}$ を求める。

\[ P_\text{S} = \frac{P_\text{A} + P_\text{B}}{1.1} = \frac{4860 + 4248}{1.1} = 8280 \text{ [kW]} \]

(3) 需要設備 a,b,c の平均電力

需要設備 a,b,c の平均電力 [kW] を,それぞれ $\bar{P_\text{a}}$,$\bar{P_\text{b}}$,$\bar{P_\text{c}}$ とすると,平均電力 = 最大電力 × 負荷率 の関係があるので,次式で求められる。

\[ \bar{P_\text{a}} = 4860 \times 0.7 = 3402 \approx 3400 \text{ [kW]} \] \[ \bar{P_\text{b}} = 3150 \times 0.8 = 2520 \approx 2520 \text{ [kW]} \] \[ \bar{P_\text{c}} = 2160 \times 0.6 = 1296 \approx 1300 \text{ [kW]} \]

(4) 変電所の総合負荷率

変電所の平均電力 $\bar{P_\text{S}}$ は,次式で求められる。

\[ \bar{P_\text{S}} = \bar{P_\text{a}} + \bar{P_\text{b}} + \bar{P_\text{c}} = 3402 + 2520 + 1296 = 7218 \text{ [kW]} \]

負荷率 = 平均電力 / 最大電力 の関係があるので,変電所の総合負荷率 LF は,次式で求められる。

\[ \text{LF} = \frac{\bar{P_\text{S}}}{P_\text{S}} \times 100 = \frac{7218}{8280} \times 100 = 87.17 \approx 87.2 \text{ [%]} \]

参考文献

  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「配電計画
  • 目指せ!電気主任技術者~解説ノート~「配電系統構成
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