平成27年度 第二種 電気主任技術者二次試験 機械・制御

2020年11月22日作成,2021年12月19日更新

目次

  1. 同期発電機の三相交流系統への接続
  2. 変圧器の特性
  3. サイクロコンバータ
  4. フィードバック制御系

問1 同期発電機の三相交流系統への接続

同期リアクタンス $X_\text{S}$ [Ω] の同期発電機をインピーダンスが十分に小さい相電圧 $V_0$ [V] の三相交流系統に接続し,発電機に $P_0$ [W] の機械的入力を加えたとき,内部相差角は $\delta_0 = 45$ ° で動作した。界磁電流及び回転速度は一定で,発電機の突極性及び損失は無視できるものとする。

(1) 同期発電機を相電圧 $V_0$ の三相交流系統に接続した場合について,以下の a. 及び b. に答えよ。

  1. 発電機に加える機械的入力を $P_1$ [W] にすると,内部相差角は $\delta_1=30$ ° となった。機械的入力の比 $\displaystyle \frac{P_1}{P_0}$ を求めよ。
  2. 発電機と交流系統の間に $X_2=X_\text{S}$ のリアクトルを挿入した。$P_2$ [W] の機械的入力を加えると,交流系統電圧と無負荷誘導起電力の間の位相角が $\delta_2=45$ ° に増加した。このときの機械的入力の比 $\displaystyle \frac{P_2}{P_0}$ を求めよ。

(2) 同期発電機を三相交流系統から切り離して $R$ [Ω] の抵抗器を Y 結線して接続し,抵抗器だけに電力を供給する。ここで,$P_3=P_0$ [W] の機械的入力を加えたところ,発電機端子の相電圧 $V_3$ [V],内部相差角は $\delta_3=60$ ° となった。抵抗器だけを接続した場合について,以下の a. 及び b. に答えよ。

  1. 発電機端子の相電圧の比 $\displaystyle \frac{V_3}{V_0}$ を求めよ。
  2. 同期リアクタンス $X_\text{S}$ に対する抵抗 $R$ の比 $\displaystyle \frac{R}{X_\text{S}}$ を求めよ。

同期発電機の損失を無視すれば,機械的入力は電気的出力に等しいので,無負荷誘導起電力を $E$ とすると,次式が成り立つ。

\[ P=3\frac{VE}{X_\text{S}}\sin\delta \]

$V=V_0$,$\delta_0=45$ ° のときの出力電力 $P_0$ は,次式となる。

\[ P_0=3\frac{V_0 E}{X_\text{S}}\sin45^\circ=3\times\frac{V_0 E}{X_\text{S}}\times\frac{1}{\sqrt{2}}=\frac{3V_0 E}{\sqrt{2}X_\text{S}} \]

よって,このときの発電機端子の相電圧 $V_0$ は,次式で求められる。

\[ V_0=\frac{\sqrt{2}X_\text{S}}{3E}P_0 \]
(1) a. 機械的入力の比

$\delta_1=30$ ° のときの機械的入力電力 $P_1$ は,次式となる。

\[ P_1 = 3\frac{V_0 E}{X_\text{S}}\sin30^\circ=3\times\frac{V_0 E}{X_\text{S}}\times\frac{1}{2}=\frac{3V_0 E}{2X_\text{S}} \]

したがって,機械的入力の比は,次式で求められる。

\[ \frac{P_1}{P_0}=\frac{\frac{3V_0 E}{2X_\text{S}}}{\frac{3V_0 E}{\sqrt{2}X_\text{S}}}=\frac{\sqrt{2}}{2}=0.70710 \]

よって,機械的入力の比は 0.707 である。

(1) b. 機械的入力の比(発電機と交流系統の間にリアクトルを挿入した場合)

発電機と交流系統の間に $X_2=X_\text{S}$ のリアクトルを挿入し,交流系統電圧と無負荷誘導起電力の間の位相角 $\delta_2=45$ ° で動作したときの機械的入力 $P_2$ は,次式となる。

\[ P_2=3\frac{V_0 E}{X_2+X_\text{S}}\sin45^\circ=3\times\frac{V_0 E}{2 X_\text{S}}\times\frac{1}{\sqrt{2}}=\frac{3V_0 E}{2\sqrt{2}X_\text{S}} \]

したがって,機械的入力の比は,次式で求められる。

\[ \frac{P_2}{P_0}=\frac{\frac{3V_0 E}{2\sqrt{2}X_\text{S}}}{\frac{3V_0 E}{\sqrt{2}X_\text{S}}}=\frac{1}{2}=0.500 \]

よって,このときの機械的入力の比は 0.500 である。

(2) a. 発電機端子の相電圧の比

機械的入力が $P_3=P_0$ で,$\delta_3 = 60$ ° のとき,次式が成り立つ。

\[ P_3=P_0=3\frac{V_3 E}{X_\text{S}}\sin60^\circ=3\times\frac{V_3 E}{X_\text{S}}\times\frac{\sqrt{3}}{2}=\frac{3\sqrt{3}V_3 E}{2X_\text{S}} \]

発電機端子の相電圧 $V_3$ は,次式となる。

\[ V_3=\frac{2X_\text{S}}{3\sqrt{3}E}P_0 \]

したがって,発電機端子の相電圧の比は,次式で求められる。

\[ \frac{V_3}{V_0}=\frac{\frac{2X_\text{S}}{3\sqrt{3}E}P_0}{\frac{\sqrt{2}X_\text{S}}{3E}P_0}=\frac{\sqrt{2}}{\sqrt{3}}=\frac{1.4142}{1.7321}=0.81647 \]

よって,発電機端子の相電圧の比は 0.816 である。

(2) b. 同期リアクタンスに対する抵抗の比

抵抗器だけを接続した場合,力率は 1 であるので,発電機電流を $I_3$ とすれば,発電機端子の相電圧 $V_3$ は,次式で求められる。

\[ V_3=RI_3=E\cos\delta_3=E\cos60^\circ=\frac{E}{2} \] \[ X_\text{S}I_3=E\sin60^\circ=\frac{\sqrt{3}}{2}E \]

したがって,同期リアクタンスに対する抵抗の比は,次式で求められる。

\[ \frac{R}{X_\text{S}}=\frac{\frac{E}{2}}{\frac{\sqrt{3}}{2}E}=\frac{1}{\sqrt{3}}=\frac{1}{1.7321}=0.57733 \]

よって,同期リアクタンスに対する抵抗の比は 0.577 である。

問2 変圧器の特性

変圧器の特性に関して,次の問に答えよ。

(1) 定格容量 $S_\text{n} = 100$ kV·A,定格一次電圧 $V_\text{1n}=6600$ V,定格二次電圧 $V_\text{2n}=210$ V,定格周波数 60 Hz の単相変圧器がある。巻数比 $a$,定格一次電流 $I_\text{1n}$ [A] を求めよ。

(2) この変圧器の二次巻線端子を短絡し,一次巻線端子に定格周波数の電圧 $V_\text{1s}=218$ V を印加したところ,二次側電流が定格電流となり,入力電力は,$P_\text{1s}=1200$ W であった。短絡インピーダンスの大きさ [%] を求めよ。

(3) 図 1 は二次側の諸量を一次側に換算した変圧器の簡易等価回路である。上記 (2) の条件から,図中の巻線の抵抗 $r=r_1+a^2r_2$ [Ω] 及び漏れリアクタンス $x=x_1+a^2 x_2$ [Ω] を求めよ。ただし,励磁アドミタンスは無視する。

二次側の諸量を一次側に換算した変圧器の簡易等価回路
図 1 二次側の諸量を一次側に換算した変圧器の簡易等価回路

(4) 図 1 に示すように,二次巻線端子に力率 $\cos\theta$ の負荷($\dot{Z_\text{L}}=|\dot{Z_\text{L}}|\angle\theta$)を接続して一次巻線電圧 $V_{10}$ としたとき,負荷に定格電圧 $V_\text{2n}$ が印加され定格電流 $I_\text{2n}$ が流れた。図 2 は,このときの電圧電流ベクトル概略図の一部である。図 2 が答案用紙に印刷されているので,電圧 $\dot{V_{20}'}(=\dot{V_{10}})$ 及び電流 $\dot{I_1}$,$\dot{I_\text{g0}}$,$\dot{I_\text{b0}}$ のベクトルを書き足して,ベクトル図を完成させよ。巻線抵抗 $r$ 及び漏れリアクタンス $x$ による電圧降下の成分も図中に図示せよ。

電圧電流ベクトル概略図の一部
図 2 電圧電流ベクトル概略図の一部

(5) 一次端子電圧を $V_{10}$ のままにして,無負荷としたときの二次端子電圧を $V_{20}$ とする。このとき,この変圧器の電圧の変動率を $\epsilon$ を,次式で表す。

\[ \epsilon=\frac{V_{20}-V_\text{2n}}{V_\text{2n}}\times100\text{ [%]} \]

これは,次式で近似できることを示せ。

\[ \epsilon\approx(q_\text{R}\cos\theta+q_\text{X}\sin\theta)\times100 \text{ [%]} \]

ただし,$\displaystyle R=\frac{r}{a^2}$,$\displaystyle X=\frac{x}{a^2}$,$\displaystyle q_\text{R}=\frac{RI_\text{2n}}{V_\text{2n}}\lt\lt 1$,$\displaystyle q_\text{X}=\frac{XI_\text{2n}}{V_\text{2n}}\lt\lt 1$ とする。また,必要に応じて,展開式 $\displaystyle \sqrt{1+\delta}=1+\frac{1}{2}-\frac{1}{8}\delta^2+...$,($|\delta|\lt 1$)を用いよ。

(1) 巻数比 $a$,定格一次電流 $I_\text{1n}$ [A]

巻数比 $a$ は次式で求められる。

\[ a=\frac{V_\text{1n}}{V_\text{2n}}=\frac{6600}{210}=31.429 \]

定格一次電流 $I_\text{1n}$ は,次式で求められる。

\[ I_\text{1n}=\frac{S_\text{n}}{V_\text{1n}}=\frac{100000}{6600}=15.152 \]

よって,巻数比 $a$ は31.4,定格一次電流 $I_\text{1n}$ は 15.2 [A] である。

(2) 短絡インピーダンスの大きさ [%]

短絡インピーダンスの大きさは,次式で求められる。

\[ \%Z_\text{S}=\frac{V_\text{1S}}{V_\text{1n}}\times100=\frac{218}{6600}\times100=3.3030 \]

よって,短絡インピーダンスの大きさは 3.30 [%] である。

(3) 巻線抵抗及び漏れリアクタンス

全交流抵抗 $r$ は,次式で求められる。

\[ r=r_1+a^2 r_2=\frac{P_\text{1S}}{{I_\text{1n}}^2}=\frac{1200}{15.152^2}=5.2269 \]

漏れリアクタンス $x$ は,次式で求められる。

\[ x=x_1+a^2 x_2=\sqrt{(\frac{V_\text{1S}}{I_\text{1n}})^2-(\frac{P_\text{1S}}{{I_\text{1n}}^2})^2} \] \[ x=\sqrt{(\frac{218}{15.152})^2-(\frac{1200}{15.152^2})^2}=13.405 \]

よって,巻線抵抗は 5.23 Ω,漏れリアクタンスは 13.4 Ω である。

(4) 電圧電流ベクトル

電圧電流ベクトルの概略図は,次のようになる。

電圧電流ベクトルの概略図
図 電圧電流ベクトルの概略図
(5) 変圧器の電圧の変動率の近似式

二次側に換算した諸量のベクトル図より,電圧成分を抜き出す。

二次側に換算した諸量のベクトル図
図 二次側に換算した諸量のベクトル図
電圧成分(二次側に換算した諸量のベクトル図)
図 電圧成分(二次側に換算した諸量のベクトル図)

ベクトル図より,次式が成り立つ。

\[ V_{20}=\sqrt{(V_\text{2n}+RI_\text{2n}\cos\theta+XI_\text{2n}\sin\theta)^2+(XI_\text{2n}\cos\theta-RI_\text{2n}\sin\theta)^2} \]

上式より,次式に変形する。

\[ \frac{V_{20}}{V_\text{2n}}=\sqrt{1+2(q_\text{R}\cos\theta+q_\text{X}\sin\theta)+{q_\text{R}}^2+{q_\text{X}}^2} \]

ここで,$q_\text{R} \lt\le 1$,$q_\text{X} \lt\lt 1$ なので,

\[ |\delta|=|2(q_\text{R}\cos\theta+q_\text{X}\sin\theta)+{q_\text{R}}^2+{q_\text{X}}^2| \lt 1 \]

とし,二項定理を用いて展開する。

\[ \frac{V_{20}}{V_\text{2n}}=\sqrt{1+\delta}=1+\frac{1}{2}\delta-\frac{1}{8}\delta^2+... \]

$q_\text{R}$,$q_\text{X}$ の 2 次以上の項を省略すれば,次式のように変形できる。

\[ \frac{V_{20}}{V_\text{2n}}\approx1+q_\text{R}\cos\theta+q_\text{X}\sin\theta \]

したがって,変圧器の電圧の変動率 $\epsilon$ は,次式で近似できる。

\[ \epsilon=\frac{V_{20}-V_\text{2n}}{V_\text{2n}}\times100\approx(q_\text{R}\cos\theta+q_\text{X}\sin\theta)\times100 \text{ [%]} \]

問3 サイクロコンバータ

図 1 は,三相交流電源から単相交流を出力するサイクロコンバータである。このサイクロコンバータに関する次の問に答えよ。ただし,交流電源のインピーダンス,及びコンバータでの電圧降下は無視する。また,負荷は誘導性である。

単相交流電源から単相交流を出力するサイクロコンバータ
図 1 単相交流電源から単相交流を出力するサイクロコンバータ

(1) (a) このサイクロコンバータの実用的な出力周波数の上限は電源周波数に対して何分の 1 程度であるか,また,(b) どのような要因で上限が決まるかを全体で 100 字程度で説明せよ。

(2) 正群コンバータが,入力交流線間電圧実効値 $E$ 及び制御遅れ角 $\alpha$ が一定で,連続した出力電流 $i$ で定常的に動作しているときの出力電圧 $v$ の平均値(直流電圧)$V_\text{d}$ を求める式を示せ。

(3) サイクロコンバータから交流電圧を出力するには,制御遅れ角を時間関数 $\alpha(t)$ として変化させる必要がある。出力電圧 $v$ の基本波電圧 $v_1$ を

\[ v_1(t)=\sqrt{2}\times0.8E\sin{(2\pi f_1 t)} \]

とするには,正群コンバータに対しては $\alpha(t)$ をどのように与えればよいかを数式で示せ。ここで,出力周波数 $f_1$ は電源周波数に比べて十分に低い値とする。また,電流の正負切換時の動作は考慮しない。

(4) 正群コンバータは,サイリスタが TP1,TP2,・・・,TP6,TP1・・・と順番にオンされて動作する。TP1 がオンした直後に出力される電圧は,図 2 に示す $v_\text{UV}$,$v_\text{UW}$,$v_\text{VW}$,$v_\text{VU}$,$v_\text{WU}$,$v_\text{WV}$ の 6 種類の交流線間電圧のうち,どの電圧となるか。なお,交流線間電圧の記号は,例えば $v_\text{UV}$ は三相交流電源の V 相を基準とした U 相の電圧 $v_\text{UV}=v_\text{U}-v_\text{V}$ を表す。また,$v$ は出力電圧,$v_1$ はその基本波電圧である。

(5) サイクロコンバータの出力には図 2 に示す電流 $i$ が流れているものとする。図 2 が答案用紙に印刷されているので,このときの正群コンバータのサイリスタ TP1 に流れる電流 $i_\text{TP1}$ の波形を太い線で明確に描け。

サイクロコンバータの出力
図 2 サイクロコンバータの出力
(1) (a) サイクロコンバータの実用的な出力周波数の上限と (b) 上限が決まる要因

(a) 実用的な出力周波数の上限は,電源周波数の 1/2 ~ 1/3 程度である。

(b) 出力交流電流の方向が切り換わるときに電源を短絡しないように電流を零にしておく期間が必要である。このため,出力周波数が高くなると波形のひずみが大きくなるので出力周波数に上限がある。

(2) 出力電圧 $v$ の平均値(直流電圧)$V_\text{d}$

正群コンバータの出力電圧 $v$ は,制御遅れ角 $\alpha$ が 0 の時点を基準にした電気角 $\theta$ で表すと,$\theta$ が $\alpha$ から $\displaystyle \alpha+\frac{\pi}{3}$ の期間,$\displaystyle v=\sqrt{2}E\cos(\theta-\frac{\pi}{6})$ となるので,平均電圧 $V_\text{d}$ はそれを平均して,次式で求められる。

\[ V_\text{d}=\frac{3}{\pi}\int_{\alpha}^{\alpha+\frac{\pi}{3}}\sqrt{2}E\cos(\theta-\frac{\pi}{6})\text{d}\theta=\frac{3\sqrt{2}}{\pi}E\cos\alpha \]
(3) 制御遅れ角を時間関数 $\alpha(t)$

出力基本波電圧を $\displaystyle v_1=\sqrt{2}\times0.8 E \sin(2\pi f_1 t)$ とするには,正群コンバータでは制御遅れ角 $\alpha(t)$ を次のようにすればよい。

\[ \frac{3\sqrt{2}}{\pi}E\cos{\alpha(t)}=\sqrt{2}\times0.8 E\sin(2\pi f_1 t) \] \[ \cos{\alpha(t)}=\frac{\pi}{3}\times 0.8\sin(2\pi f_1 t) \]

よって,制御遅れ角を時間関数 $\alpha(t)$ は,次式となる。

\[ \alpha(t)=\cos^{-1}[\frac{4}{15}\pi\sin(2\pi f_1 t)] \]
(4) 交流線間電圧

TP1 がオンすると,TP5 に流れていた電流が TP1 に転流し,TP6 → V 相 → U 相 → TP1 を通電して出力されるので,$v_\text{UV}$ の電圧が出力される。

(5) 正群コンバータのサイリスタ TP1 に流れる電流 $i_\text{TP1}$ の波形

TP1 がオンすると $v_\text{UV}$ の電圧が出力され,それから TP3 がオンするまで通電するので,次の図となる。

正群コンバータのサイリスタに流れる電流波形
図 正群コンバータのサイリスタに流れる電流波形

問4 フィードバック制御系

図に示すフィードバック制御系において,$R(s)$,$E(s)$,$U(s)$,$Y(s)$ はそれぞれ,目標値 $r(t)$,制御偏差 $e(t)$,操作入力 $u(t)$,制御量 $y(t)$ のラプラス変換を表している。また,$G(s)$ は制御対象の伝達関数,$\displaystyle \frac{k}{s}$ は積分動作の直列補償要素,$F(s)$ はフィードバック補償要素を表している。

以下において,$\displaystyle \frac{k}{s}$ と $F(s)$ とに含まれる制御定数を調整することで,フィードバック制御系の目標値 $R(s)$ から制御量 $Y(s)$ までの伝達関数を,望ましい動特性を実現する参照モデルの伝達関数に一致させることを考える。次の問に答えよ。

(1) 制御対象は零点をもたない遅れ系であって,多項式 $h(s)$ を用いて次のように表されている。

\[ G(s)=\frac{1}{h(s)} \]

フィードバック制御系の目標値 $R(s)$ から制御量 $Y(s)$ までの伝達関数 $W(s)$ を $s$,$k$,$F(s)$,$h(s)$ を用いて表せ。

(2) 制御対象は 2 次遅れ系

\[ G(s)=\frac{1}{h(s)}=\frac{1}{h_0+h_1 s+h_2 s^2} \]

であるとする。また,フィードバック補償要素 $f(s)$ は定数であるとし,

\[ F(s)=f_0 \]

とおく。

次の参照モデルを導入する。

\[ W_\text{d}(s)=\frac{1}{1+\sigma s +\alpha_2 \sigma^2 s^2 +\alpha_3 \sigma^3 s^3} \]

ここで,$\alpha_2$ 及び $\alpha_3$ は時間応答の形を規定する係数であり,$\sigma$ は,その時数を $s$ の次数と合わせているので,時間スケールのパラメータである。しかも,1 次のモーメントに一致するので,立ち上がりの一つの特性値でもある。この $\sigma$ も設計時の計算において決定する。

フィードバック制御系の目標値から制御量までの伝達関数 $W(s)$ と参照モデル $W_\text{d}(s)$ を一致させるために,パラメータ $\sigma$ と制御定数 $k$,$f_0$ が満たさなくてはならない連立方程式を求めよ。

(3) 連立方程式を解いてパラメータ $\sigma$ を $\alpha_2$,$\alpha_3$,$h_1$,$h_2$ を用いて表せ。

(4) 制御定数 $k$ を求める式を $\alpha_2$,$h_1$,$\sigma$ を用いて表せ。

(5) 制御定数 $f_0$ を求める式を $k$,$h_0$,$\sigma$ を用いて表せ。

フィードバック制御系
図 フィードバック制御系
(1) フィードバック制御系の目標値 $R(s)$ から制御量 $Y(s)$ までの伝達関数 $W(s)$

内側のフィードバックループを一つのブロックで表すと,次式となる。

\[ \frac{G(s)}{1+G(s)F(s)}=\frac{\frac{1}{h(s)}}{1+\frac{1}{h(s)}F(s)}=\frac{1}{h(s)+F(s)} \]

よって,フィードバック制御系の目標値 $R(s)$ から制御量 $Y(s)$ までの伝達関数 $W(s)$ は,次式となる。

\[ W(s)=\frac{\frac{k}{s[h(s)+F(s)]}}{1+\frac{k}{s[h(s)+F(s)]}}=\frac{1}{1+\frac{s}{k}[h(s)+F(s)]} \]
(2) パラメータ $\sigma$ と制御定数 $k$,$f_0$ が満たさなくてはならない連立方程式

(1) で求めた伝達関数と参照モデルを等しいとおくことで,次の関係式が得られる。

\[ 1+\frac{s}{k}[h(s)+F(s)]=1+\sigma s +\alpha_2 \sigma^2 s^2 +\alpha_3 \sigma^3 s^3 \]

上式は $s$ に関する恒等式であるから,パラメータ $\sigma$ と制御定数 $k$,$f_0$ が満たさなくてはならない連立方程式は係数比較法によって次となる。

\[ \frac{h_0+f_0}{k}=\sigma \] \[ \frac{h_1}{k}=\alpha_2 \sigma^2 \] \[ \frac{h_2}{k}=\alpha_3 \sigma^3 \]
(3) パラメータ $\sigma$

(2) で求めた連立方程式より,パラメータ $\sigma$ は,次式となる。

\[ \sigma=\frac{\alpha_2 h_2}{\alpha_3 h_1} \]
(4) 制御定数 $k$ を求める式

(2) で求めた連立方程式より,制御定数 $k$ は,次式となる。

\[ k=\frac{h_1}{\alpha_2 \sigma^2} \]
(5) 制御定数 $f_0$ を求める式

(2) で求めた連立方程式より,制御定数 $f_0$ は,次式となる。

\[ f_0=k\sigma-h_0 \]
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