平成28年度 第二種 電気主任技術者二次試験 機械・制御

2020年11月21日作成,2021年12月19日更新

目次

  1. 三相かご形誘導電動機の L 形等価回路
  2. 単相変圧器の無負荷試験と短絡試験
  3. 三相インバータ
  4. 状態方程式で記述される制御系

問1 三相かご形誘導電動機の L 形等価回路

定格線間電圧 200 V,定格周波数 50 Hz,4 極の星形結線の三相かご形誘導電動機があり,L 形等価回路において 1 相一次換算の抵抗値及びリアクタンス値は次の通りである。

一次抵抗 $r_1=0.707$ Ω,リアクタンス $x_1+x_2'=0.439$ Ω
二次抵抗 $r_2'=0.710$ Ω

この電動機が回転速度 1 470 min-1 で運転しているとき,次の値を求めよ。ただし,鉄損,機械損,励磁電流は無視する。

  1. 一次電流
  2. 二次入力
  3. 電動機の軸出力
  4. 二次銅損
  5. 電動機の効率
1. 一次電流

滑りを $s$,極数を $p$,定格周波数を $f$,回転速度を $N$ とする。

\[ s=1-\frac{p}{120f}\times N=1-\frac{4}{120\times50}\times 1470=0.02 \]

一次電流を $I_1$,定格線間電圧を $V_\text{n}$ とする。

\[ I_1=\frac{V_\text{n}/\sqrt{3}}{\sqrt{(r_1+\frac{{r_2}'}{s})^2+(x_1+{x_2}')^2}}=\frac{200/\sqrt{3}}{\sqrt{(0.707+\frac{0.710}{0.02})^2+0.439^2}}=3.1889\approx3.19 \]

よって,一次電流は 3.19 [A] である。

2. 二次入力

一次換算の二次電流を ${I_2}'$ とすると,$I_1={I_2}'=3.1889$ である。したがって,二次入力 $P_2$ は,次式で求められる。

\[ P_2=3\times\frac{{r_2}'}{s}\times{I_2}'^2=3\times\frac{0.710}{0.02}\times3.1889=1083.0\approx1.08\times10^3 \]

よって,二次入力は 1.08 [kW] である。

3. 電動機の軸出力

電動機の軸出力 $P_\text{M}$ は,次式で求められる。

\[ P_\text{M}=(1-s)P_2=(1-0.02)\times1.083.0=1061.3\approx1.06\times10^3 \]

よって,電動機の軸出力は 1.06 [kW] である。

4. 二次銅損

二次銅損 $P_\text{c2}$ は,次式で求められる。

\[ P_\text{c2}=sP_2=0.02\times1083.0=21.66\approx21.7 \]

よって,二次銅損は 21.7 [W] である。

5. 電動機の効率

電動機の効率を $\eta$,一次入力を $P_1$ とすると,電動機の効率は次式で求められる。

\[ \eta=\frac{P_\text{M}}{P}\times100=\frac{P_\text{M}}{3r_1 {I_1}^2+P_2}\times100=\frac{1061.3}{3\times0.707\times3.1889^2+1083.0}\times100 \] \[ \eta=\frac{1061.3}{1104.6}\times100=96.08\approx96.1 \]

よって,電動機の効率は 96.1 [%] である。

問2 単相変圧器の無負荷試験と短絡試験

定格容量 50 kV·A,定格一次電圧 11 000 V,定格二次電圧 3 300 V,定格周波数 50 Hz の単相変圧器があり,高圧側からの試験結果は次のとおりであった。

無負荷試験

無負荷損:$P_0=290$ W,無負荷電流:$I_0=0.221 A$

短絡試験

インピーダンス電圧:$V_\text{1S}=550$ V,一次電流:$I_\text{1S}=4.55$ A,インピーダンスワット:$P_\text{S}=740$ W

次の問に答えよ。

ただし,定格負荷時の力率 $\cos\phi$ における電圧変動率 $\epsilon$ [%] は,百分率抵抗降下を $p$ [%],百分率リアクタンス降下を $q$ [%] とすれば,次式で表せるものとする。

\[ \epsilon=p\cos\phi+q\sin\phi+\frac{1}{200}(q\cos\phi-p\sin\phi)^2 \text{ [%]} \]
  1. 図に示す簡易等価回路の回路定数(一次側換算値)をそれぞれ求めよ。
  2. 遅れ力率 80 %,全負荷における電圧の変動率を求めよ。
  3. 遅れ力率 80 %,$\displaystyle \frac{1}{2}$ 負荷における効率を求めよ。
  4. 遅れ力率 80 %,$\displaystyle \frac{1}{2}$ 負荷における電圧の変動率を求めよ。
単相変圧器の簡易等価回路
図 単相変圧器の簡易等価回路
1. 簡易等価回路の回路定数(一次側換算値)

定格一次電圧を $V_\text{1n}$ とする。

励磁コンダクタンス $g_0$ は,次式で求められる。

\[ g_0=\frac{P_0}{{V_\text{1N}}^2}=\frac{290}{11000^2}=2.3967\times10^{-6} \]

励磁アドミタンス $Y_0$ は,次式で求められる。

\[ Y_0=\frac{I_0}{V_\text{1n}}=\frac{0.221}{11000}=20.091\times10^{-6} \]

励磁サセプタンス $b_0$ は,次式で求められる。

\[ b_0=\sqrt{Y_0^2-g_0^2}=\sqrt{(20.091\times10^{-6})^2-(2.3967\times10^{-6})^2}=19.948\times10^{-6} \]

一次換算全巻線抵抗 $R$ は,次式で求められる。

\[ R=\frac{P_\text{S}}{{I_\text{1S}}^2}=\frac{740}{4.55^2}=35.744 \]

一次換算全インピーダンス $Z$ は,次式で求められる。

\[ Z=\frac{V_\text{1S}}{I_\text{1S}}=\frac{550}{4.55}=120.88 \]

一次換算全漏れリアクタンス $X$ は,次式で求められる。

\[ X=\sqrt{Z^2-R^2}=\sqrt{120.88^2-35.744^2}=115.47 \]

以上,簡易等価回路の回路定数をまとめると次表となる。

簡易等価回路の回路定数(一次側換算値)
一次換算全巻線抵抗 $R$ 35.7 [Ω]
一次換算全漏れリアクタンス $X$ 115 [Ω]
励磁コンダクタンス $g_0$ 2.40 × 10-6 [S]
励磁サセプタンス $b_0$ 19.9 × 10-6 [S]
2. 遅れ力率 80 %,全負荷における電圧の変動率

短絡試験の結果から,定格容量を $S_\text{n}$ とすると,定格一次電流 $I_\text{1n}$ は,次式で求められる。

\[ I_\text{1n}=\frac{S_\text{n}}{V_\text{1n}}=\frac{50\times10^3}{11000}=4.5455 \approx 4.55 \]

短絡試験時の一次電流 $I_\text{1S}$ は,定格一次電流である。

百分率インピーダンス降下 $%z$ を次式で求める。

\[ $z=\frac{V_\text{1S}}{V_\text{1n}}\times100=\frac{550}{11000}\times100=5.00 \]

百分率抵抗降下 $p$ を次式で求める。

\[ p=\frac{P_\text{S}}{S_\text{n}}\times100=\frac{740}{50\times10^3}\times100=1.48 \]

百分率リアクタンス降下 $q$ を次式で求める。

\[ q=\sqrt{(%z)^2-p^2}=\sqrt{5.00^2-1.48^2}=4.7759 \]

遅れ力率 80 %,全負荷における電圧の変動率 $\epsilon$ は,次式で求められる。

\[ \epsilon=p\cos\phi+q\sin\phi+\frac{1}{200}(q\cos\phi-p\sin\phi)^2 \] \[ \epsilon=1.48 \times 0.8 + 4.7759 \times \sqrt{1-0.8^2}+\frac{1}{200}(4.7759\times0.8-1.48\times0.6)^2=4.0925 \]

よって,遅れ力率 80 %,全負荷における電圧の変動率は 4.09 % である。

3. 遅れ力率 80 %,1/2 負荷における効率

全負荷に対して,$k$ 倍負荷(負荷率 $k$)時の有効出力は $k S_\text{n}\cos\phi$,銅損は $k^2 P_\text{S}$,鉄損は $P_0$ でそれぞれ表されるので,$k$ 倍負荷時の効率の式 $\eta_\text{k}$ は次式となる。

\[ \eta_\text{k}=\frac{kS_\text{n}\cos\phi}{kS_\text{n}\cos\phi+k^2 P_\text{S}+P_0}\times100=\frac{1/2\times50\times10^3\times0.8}{1/2\times50\times10^3\times0.8+(1/2)^2\times740+290}\times100=97.680 \]

よって,遅れ力率 80 %,1/2 負荷における効率は 97.7 % である。

4. 遅れ力率 80 %,1/2 負荷における電圧の変動率

上記 2. における全負荷の百分率抵抗降下 $p$ 及び百分率リアクタンス降下 $q$ が,1/2 負荷時に $p'$ 及び $q'$ に変化したとすれば,定格一次電流 $I_\text{1n}$ が $1/2 I_\text{1n}$ になる。

\[ p'=\frac{R\times 1/2I_\text{1n}}{V_\text{1n}}\times100=\frac{1}{2}p \] \[ q'=\frac{X\times 1/2I_\text{1n}}{V_\text{1n}}\times100=\frac{1}{2}q \]

遅れ力率 80 %,1/2 負荷における電圧の変動率 $\epsilon'$ は,次式で求められる。

\[ \epsilon=p'\cos\phi+q'\sin\phi+\frac{1}{200}(q'\cos\phi-p'\sin\phi)^2=\frac{1}{2}(p\cos\phi+q\sin\phi)+\frac{1}{800}(q\cos\phi-p\sin\phi)^2 \] \[ \epsilon=\frac{1}{2}(1.48\times0.8+4.7759\times\sqrt{1-0.8^2})+\frac{1}{800}(4.7759\times0.8-1.48\times0.6)^2=2.0355 \]

よって,遅れ力率 80 %,1/2 負荷における電圧の変動率は 2.04 % である。

問3 三相インバータ

図 1 には,R 相 → S 相 → T 相の相順で,180 ° 通電モードで運転する三相インバータとその三相負荷の回路を示す。直流電圧を $E_\text{d}$ 一定,三相インバータ内には損失がないものとして,次の問に答えよ。

  1. 図 2 は三相インバータの動作を説明する図であり,波形 $n_\text{R}$ は R 相のノッチ波である。ノッチ波は 1 のときにプラス側のパワーデバイスをオンし,0 のときにマイナス側のパワーデバイスをオンにすることを意味している。図 2 の位相 $\theta_0$ において,オン信号を与えているパワーデバイスは,R 相では $Q_1$ であるが,S 相及び T 相ではどのパワーデバイスであるかを答えよ。
  2. 答案用紙に図 2 と同じ図が印刷されているので,図 1 の R 相電圧 $v_\text{RO}$,R-S 相線間電圧 $v_\text{RS}$ の波形を,波形の大きさとスイッチングの位相が明確に分かるように,太線で明確に描け。ただし,$v_\text{RO}$ の基準電位点は,直流電源の中間電位点 O とする。
  3. 上記小問 2. において,二つの電圧波形 $v_\text{RO}$,$v_\text{RS}$ のうち,出力周波数に対して 3 の整数倍次数の高調波が含まれている波形はどちらの波形であるかを答えよ。
  4. 上記小問 2. において,線間電圧 $v_\text{RS}$ の実効値 $E_0$ を表す式を,$E_\text{d}$ を用いて示せ。
  5. 負荷電流が正弦波であるとみなせるとき,ある遅れの力率の場合の直流電流 $i_\text{d}$ の波形を図 2 の最下段に示している。負荷に供給される有効電力が $P=50$ kW,力率が $\displaystyle \cos\phi=\frac{\sqrt{3}}{2}$ であり,$E_\text{d}=200$ V であった場合の直流電流の平均値 $I_\text{d}$ [A] を求めよ。
三相インバータとその三相負荷の回路
図 1 三相インバータとその三相負荷の回路
三相インバータの動作を説明する図
図 2 三相インバータの動作を説明する図
1.

三相インバータは,R 相 → S 相 → T 相の相順で出力し,180 ° 通電モードで運転している。図 2 の位相 $\theta_0$ は 60 ° ~ 120 ° の間にあるので,R 相のノッチ波は 1,S 相のノッチ波は 0,T 相のノッチ波は 0 となる。したがって,このときオン信号が与えられているパワーデバイスは,S 相では $Q_5$,T 相では $Q_6$ である。

2.

準備中

3.

二つの電圧波形 $v_\text{R0}$,$v_\text{RS}$ のうち,出力周波数に対して $3n$ 次高調波が含まれている波形は 180 ° 通電モードである $v_\text{R0}$ である。$v_\text{RS}$ は三相線間電圧であるので,$3n$ 次高調波が打ち消されて含まれない。

4.

実効値 $E_0$ を表す式は次式となる。

\[ E_0=\sqrt{\frac{1}{\pi}\int_0^{2\pi/3}{{E_\text{d}}^2}\text{d}\theta}=\sqrt{\frac{2}{3}}E_\text{d} \]
5.

三相インバータ内には損失がないとしているので,出力の三相交流の有効電力は,直流電力と等しい。直流電圧は $E_\text{d}=200$ V 一定であるので,直流電力は一定の直流電圧と脈動する直流電流の平均値 $I_\text{d}$ の積となる。したがって,$I_\text{d}$ は次式で求まる。

\[ I_\text{d}=\frac{P}{E_\text{d}}=\frac{50\times10^3}{200}=250 \text{ [A]} \]

問4 状態方程式で記述される制御系

図に示す構造の制御系を考える。ここで $r(t)$ は目標値,$e(t)$ は制御偏差,$u(t)$ は入力,$x(t)$ は状態,$y(t)$ は出力を表し,制御対象は次の状態方程式で記述される。

\[ \dot{x}(t)=Ax(t)+bu(t) \] \[ y(t)=cx(t) \] \[ A= \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 0 & -1 \end{pmatrix} \] \[ b= \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \end{pmatrix} \] \[ c= \begin{pmatrix} 2 & 1 \end{pmatrix} \]

次の問に答えよ。

  1. 図中の直列補償器のゲイン $k$ を零として,状態フィードバック係数ベクトル $f=\begin{pmatrix} f_1 & f_2\end{pmatrix}$ を用いて見掛け上の制御対象の特性改善を図る。行列 $A-bf$ の固有値を -3,-4 に配置する $f$ を計算せよ。
  2. 上記小問 1. で求めた $f$ を用いて特性改善をした見掛け上の制御対象に対して,目標値 $r(t)$ に出力 $y(t)$ が追従することを目的に,図に示すフィードバック制御系を構成した。閉ループ系が安定になるように直列補償器のゲイン $k$ を設計できたとするとき,入力 $u(t)$ を $x(t)$,$r(t)$,$c$,$f$,$k$ を用いて表せ。
  3. 上記小問 2. の入力 $u(t)$ を制御対象に加える。閉ループ系の状態方程式を $\dot{x}(t)$,$x(t)$,$r(t)$,$A$,$b$,$c$,$f$,$k$ を用いて表せ。
  4. 上記小問 3. で求めた状態方程式の中の $A$,$b$,$c$,$f$ に,与えられた数値及び上記小問 1. で求めた数値を代入して整理せよ。ただし,$k$ は変数のままとする。
  5. 目標値を大きさ $r_0$ のステップ状に変化させる場合を考える。上記小問 2. の仮定より閉ループ系は安定なので,状態 $x(t)$ は定常,すなわち $\displaystyle \dot{x}(\infty) = \begin{pmatrix}0 \\ 0 \end{pmatrix}$ となる。このときの定常値 $x(\infty)$ を $k$ と $r_0$ を用いて表せ。
  6. 関係式 $e(\infty)=r_0-y(\infty)=r_0-cx(\infty)$ を使って,定常偏差 $e(\infty)$ を $k$ と $r_0$ を用いて表せ。
制御系
図 制御系
1.

まず,$A-bf$ を計算する。

\[ A-bf= \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 0 & -1 \end{pmatrix} - \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} f_1 & f_2 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -f_1 & -1-f_2 \end{pmatrix} \]

この行列の特性多項式は,次式で求められる。

\[ s(s+1+f_2)+f_1=s^2+(1+f_2)s+f_1 \]

一方,固有値が -3,-4 となる特性多項式は次式となる。

\[ (s+3)(s+4)=s^2+7s+12 \]

係数比較により,$f=\begin{pmatrix} 12 & 6\end{pmatrix}$ である。

2.

図に示す制御系の構造より,次式が成り立つ。

\[ u(t)=-fx(t)+ke(t) \] \[ e(t)=r(t)-y(t)=r(t)-cx(t) \]

上の 2 式より,次式が求められる。

\[ u(t)=-fx(t)+ke(t)=-(f+kc)x(t)+kr(t) \]
3.

上記の制御を施すと閉ループ系の状態方程式は,次式となる。

\[ \dot{x}(t)=Ax(t)-b(f+kc)x(t)+bkr(t)=(A-bf-bkc)x(t)+bkr(t) \]
4.
5.
6.
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