燃焼の理論
燃焼
物質が熱と光を発しながら酸化することを燃焼という。燃焼が起こるためには,可燃物(Fuel)・酸素供給体(Oxygen)・点火源(Heat)の 3 つの要素が必要で,これを燃焼の三要素という。
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
燃焼の定義
燃焼は酸化の一種で,特に物質が熱と光を発生しながら酸化することをいう。
演習問題 燃焼の定義
燃焼についての説明のうち,A ~ C に当てはまる語句の組合せとして,正しいものはどれか。
「燃焼とは,物質が【A】と【B】を発生しながら【C】することである。」
No. | A | B | C |
---|---|---|---|
1 | 熱 | 光 | 酸化 |
2 | 熱 | 光 | 還元 |
3 | 熱 | 音 | 酸化 |
4 | 炎 | 光 | 中和 |
5 | 炎 | 光 | 還元 |
正解は,1. である。燃焼とは,物質が熱と光を発生しながら酸化することである。
1. 可燃物(可燃性物質)
可燃物は,有機化合物,一酸化炭素,金属など酸化しやすい物質である。
一方,不燃物は,ヘリウム,ネオンなどの酸化しにくい物質,酸素,二酸化炭素,燃焼を終えた炭などの酸化物,窒素である。
2. 酸素供給体(支燃物)
酸素供給体は,燃焼に必要な酸素を供給する。もっとも一般的な酸素供給体は空気(約 21 % の酸素と約 78 % の窒素)である。
空気以外の酸素供給体には,第 1 類・第 6 類の危険物のような酸化性物質や,第 5 類危険物のような可燃物自体が酸素を含む物質がある。
限界酸素濃度
限界酸素濃度とは,可燃物の燃焼に必要な酸素濃度のことをいう。
3. 点火源
点火源は,可燃物と酸素を活性化させるエネルギーを与えるものである。身近な例では,マッチやライターなどの炎がある。静電気の放電や衝撃による火花,摩擦熱なども点火源となる。
主な点火源
- 火気
- 火花
- 静電気
- 摩擦熱
演習問題 燃焼について
燃焼について記述した次の文章の下線部分【A】~【C】のうち,誤っているもののみをすべて掲げているものはどれか。
「燃焼とは,一般に【A】熱と光の発生を伴う,【B】分解反応のことをいう。燃焼が始まるためには,原則として可燃物,【C】酸素供給源,点火源の 3 つが同時に存在することが必要である。」
- B
- C
- A,B
- A,C
- A,B,C
正解は,1. である。正しくは「酸化すること」である。
演習問題 燃焼が起こらないもの
次の組合わせのうち,燃焼が起こらないものはどれか。
- 静電気火花,ヘリウム,酸素
- ライターの炎,水素,空気
- 酸化熱,天ぷらの揚げかす,酸素
- 電気火花,一酸化炭素,空気
- 衝撃火花,二硫化炭素,酸素
正解は,1. である。ヘリウムは酸化しにくい物質である。
演習問題 燃焼の三要素
燃焼の三要素が揃っている組合せとして,正しいのはどれか。
- ベンゼン,二酸化炭素,衝撃火花
- ガソリン,二酸化炭素,赤外線
- 灯油,空気,紫外線
- ジエチルエーテル,水素,電気火花
- メチルアルコール,空気,衝撃火花
正解は,5. である。
演習問題 燃焼の三要素
次の燃焼の三要素の例のなかで,誤った組合せはどれか。
- ガソリン・・・・可燃物
- 空気・・・・・・酸素供給体
- 静電気火花・・・点火源
- 衝撃火花・・・・点火源
- 酸素・・・・・・可燃物
正解は,5. である。酸素は,可燃物ではない。
燃焼の仕方
気体の燃焼
気体の燃焼には,定常燃焼と非定常燃焼の2種類がある。定常燃焼は,都市ガスやプロパンガスの燃焼のように,炎の状態が一定しており,制御できる燃焼をいう。一方,非定常燃焼は,ガソリンエンジンの内部で起こる燃焼のように爆発的な燃焼をいう。
液体の燃焼
液体は,液体のまま燃えるのではなく,液体の表面から蒸発した蒸気が,空気と混合して燃焼する。これを蒸発燃焼という。例として,ガソリン,灯油,アルコールなどの燃焼がある。
固体の燃焼
固体の燃焼には下表の 4 種類がある。
種類 | 説明 |
---|---|
分解燃焼 | 木材や石炭の燃焼のように,可燃物が熱によって分解し,そのときに生じる可燃性ガスが燃焼する。 |
自己燃焼 (内部燃焼) |
セルロイドのように,可燃物自体が酸素を含んでおり,自己反応によって燃焼する。 |
表面燃焼 | 木炭やコークスの燃焼のように,可燃性の固体が蒸発も分解もせずに,固体の表面で燃焼する。 |
蒸発燃焼 | 硫黄の燃焼のように,固体が熱によって融解し,さらに蒸発して気体に変わり燃焼する。 |
演習問題 可燃物の燃焼の仕方
可燃物の燃焼の仕方の組合せで,誤っているものはどれか。
- 木炭・・・・・・表面燃焼
- ガソリン・・・・蒸発燃焼
- セルロイド・・・自己燃焼
- アルコール・・・表面燃焼
- 硫黄・・・・・・蒸発燃焼
正解は,4. である。アルコールは,表面から蒸発した蒸気が,空気と混合して燃焼する,蒸発燃焼である。
演習問題 可燃物の燃焼の仕方
可燃物の燃焼の仕方の組合せで,誤っているものはどれか。
- 木炭やコークスが分解せずに表面が燃焼することを表面燃焼という。
- 石炭や木材のように物質が分解して生成される可燃性ガスが燃焼することを分解燃焼という。
- 硫黄のように物質が加熱されて液体となり,さらに蒸発して燃焼することを蒸発燃焼という。
- ガソリンや灯油のように蒸発した可燃性ガスによって液面近くで燃焼することを表面燃焼という。
- セルロイドのように物質の分子に含まれる酸素によって酸素供給源なしでも燃焼することを自己燃焼という。
正解は,4. である。表面燃焼ではなく,蒸発燃焼である。
完全燃焼と不完全燃焼
完全燃焼
炭素が燃焼すると二酸化炭素が発生し,炭化水素が燃焼すると二酸化炭素と水(水蒸気)が発生する。このような燃焼を完全燃焼(complete combustion)という。
完全燃焼の要素として,次の 3 つの「T」が挙げられる。
- 燃焼温度(Temperature)
- 滞留時間(Time)
- 空気との混合(Turbulance)
不完全燃焼
酸素の供給が不十分な状態で炭素や炭化水素を燃焼すると,有毒な一酸化炭素が発生する。この現象を不完全燃焼(incomplete combustion)という。
演習問題 炭素が燃焼したときの熱化学方程式
炭素が燃焼したときの熱化学方程式は,次のように表すことができる。
2 つの方程式からいえることとして,誤っているものは次のうちどれか。ただし,炭素の原子量は 12,酸素の原子量は 16 とする。
- 二酸化炭素 1 mol は 44 g である。
- 一酸化炭素 1 mol は 28 g である。
- 炭素 24 g が完全燃焼すると,二酸化炭素 56 g が生じる。
- 二酸化炭素は,炭素原子 1 個と酸素原子 2 個で構成される。
- 炭素 1 mol を完全燃焼すると,不完全燃焼したときより多くの熱量が生じる。
正解は,3. である。炭素 24 g(すなわち 2 mol)が完全燃焼すると,二酸化炭素 88 g(すなわち 2 mol)が生じる。
燃焼の難易・引火点・発火点・燃焼範囲
燃焼の難易
物質の難易は,次のような条件で決まる。
- 酸化されやすい
- 酸素との接触面積が大きい
- 熱伝導率が小さい
- 発熱量が大きい
- 乾燥している
- 可燃性ガスが発生しやすい
- 周囲の温度が高い
演習問題 燃焼の難易
燃焼が容易となる条件として,誤っているものはどれか。
- 酸素との接触面積が大きい。
- 水分が少なく,乾燥している。
- 周囲の温度が高い。
- 熱伝導率が大きく,熱を伝えやすい。
- 燃焼による発熱量が多い。
正解は,4. である。熱伝導率が小さいものは,加えられた熱が 1 か所にたまり,燃えやすい。
引火点
蒸気が燃焼に必要な濃度に達したときの液体の最低温度を引火点(flash point)という。引火点は物質によって異なるが,引火点が低い物質は,蒸気が燃焼に必要な濃度に達しやすいため,引火点の危険がより大きいといえる。
日本の消防法では,第 4 類危険物(引火性液体)をその引火点に応じてさらに区分して数量規制を行っている。
演習問題 引火点についての説明
引火点についての説明として,正しいものはどれか。
- 可燃性液体が蒸発しはじめる液体の温度
- 可燃性液体を加熱したとき,蒸気が燃焼可能な濃度に達する気温。
- 可燃性液体を加熱したとき,燃焼可能な濃度の蒸気が液面上に発生する液体の温度。
- 可燃性液体を加熱したとき,点火源がなくても自ら発火する温度。
- 可燃性液体を加熱したとき,燃焼可能となる熱源の温度。
正解は,3. である。
発火点
点火源がなくても自ら発火や爆発を起こすときの最低温度を発火点(Ignition Temperature)という。発火点も物質によって異なるが,発火点が低い物質ほど危険が大きい。
例えば,天ぷら油の場合,天ぷらを揚げている温度(約 180 °C)では発火することはないが,450 °C 以上に達すると,点火源がなくても自ら発火を起こす。
演習問題 発火点
ある可燃性物質の発火点が 320 °C であるとき,この物質についての説明で正しいものはどれか。
- 320 °C に加熱すると,可燃性蒸気が発生する。
- 320 °C に加熱したとき,近くに点火源があると燃えはじめる。
- 周囲の気温が 320 °C になると発火する。
- 320 °C に加熱すると自ら燃えはじめる。
- 1 気圧において 320 °C に加熱すると沸騰し,熱源に触れて爆発的に燃えはじめる。
正解は,4. である。
自然発火
空気中で常温の状態にある物質が,加熱しないのに自然に発熱し,その熱が長時間蓄積されて発火点に達し,燃焼を起こす現象を自然発火という。
発熱の原因には,分解熱(セルロイドなど),酸化熱(石炭など),微生物による発熱(堆肥など)がある。
演習問題
自然発火の機構について,次の文中の【 】内の A ~ C に当てはまる語句の組合わせとして,正しいものはどれか。
「自然発火が開始される機構について分類すると,セルロイドやニトロセルロースなどのように【A】により発火するもの,活性炭などの炭素粉末類のように【B】により発熱するもの,ゴム粉や石炭などのように【C】により発熱するもの,発酵により発熱するもの,重合反応により発熱するものなどがある。」
No. | A | B | C |
---|---|---|---|
1 | 吸着 | 酸化 | 分解 |
2 | 分解 | 酸化 | 吸着 |
3 | 酸化 | 吸着 | 分解 |
4 | 吸着 | 分解 | 酸化 |
5 | 分解 | 吸着 | 酸化 |
正解は,5. である。
燃焼範囲
ガソリンなどの可燃性の液体は,液体表面から発生する蒸気濃度が薄いと引火しないが,蒸気濃度が濃くても引火しない。このように,蒸気と空気の混合の割合が,一定の範囲にあるときだけ引火し,このときの空気中の蒸気濃度の範囲を燃焼範囲という。
例えば,ガソリンの燃焼範囲は 1.4 ~ 7.6 vol % である。蒸気濃度がそれより濃くても薄くても,ガソリンは引火しない。
空気 [L] | ガソリン蒸気 [L] | ガソリン蒸気濃度 [vol %] | 引火の有無 |
---|---|---|---|
100 | 1 | 1(=1/(1+100)) | 引火しない |
100 | 5 | 4.8(=5/(5+100)) | 引火する |
100 | 10 | 9.1(=10/(10+100)) | 引火しない |
主な第 4 種危険物の物性値を下表に示す。
引火点 [°C] | 発火点 [°C] | 沸点 [°C] | 燃焼範囲 [vol%] | 比重 | 蒸気比重 | |
---|---|---|---|---|---|---|
二硫化炭素(CS2) | -30 | 90 | 46 | 1.0 ~ 50 | 1.26 | 2.6 |
ジエチルエーテル(C4H10O) | -45 | 160 | 35 | 1.9 ~ 36 | 0.7 | 2.6 |
アセトアルデヒド(C2H4O) | -39 | 175 | 20 | 4.0 ~ 60 | 0.8 | 1.5 |
酸化プロピレン(C3H6O) | -37 | 449 | 35 | 2.8 ~ 37 | 0.83 | 2.0 |
ガソリン | -40 | 300 | 40 ~ 220 | 1.4 ~ 7.6 | 0.7 ~ 0.8 | 3 ~ 4 |
ベンゼン | -11 | 498 | 80 | 1.2 ~ 8.0 | 0.88 | 2.69 |
トルエン(C7H8) | 4 | 480 | 111 | 1.1 ~ 7.1 | 0.87 | 3.18 |
アセトン(C3H6O) | -20 | 465 | 57 | 2.2 ~ 13.0 | 0.79 | 2.0 |
メチルアルコール(CH4O) | 11 | 385 | 65 | 6.0 ~ 36 | 0.79 | 1.11 |
エチルアルコール(C2H6O) | 13 | 363 | 78 | 3.3 ~ 19 | 0.79 | 1.59 |
灯油 | 40 | 220 | 145 ~ 270 | 1.1 ~ 6.0 | 0.8 | 4.5 |
軽油 | 45 | 220 | 170 ~ 370 | 1.0 ~ 6.0 | 0.85 | 4.5 |
重油 | 60 ~ 150 | 250 ~ 380 | 300 | - | 0.9 ~ 1.0 | - |
演習問題 ベンゼンの燃焼範囲
ベンゼンを 100 L の空気と混合させた場合,燃焼可能なベンゼンの蒸気濃度はどれか。ただし,ベンゼンの燃焼範囲は 1.3 ~ 7.1 vol% とする。
- 1 L
- 5 L
- 10 L
- 15 L
- 20 L
正解は,2. である。ベンゼン蒸気濃度は,次の通りであり,燃焼範囲に含まれるのは,5 L のみである。
- 0.99 vol%
- 4.76 vol%
- 9.09 vol%
- 13.0 vol%
- 16.7 vol%
演習問題 物性値
液温 28 °C の引火性液体がある。液面近くでこの液体の蒸気濃度を測定したところ,7.0 vol% であった。また,この状態でマッチの火を近づけると引火した。以上の事実からいえることとして,正しいものはどれか。
- 燃焼範囲の下限値は 7.0 vol% 以下である。
- 引火点は 28 °C より高い。
- 発火点は 28 °C 以下である。
- 燃焼範囲の上限値は 7.0 vol% 以下である。
- 沸点は 28 °C である。
正解は,1. である。