第 4 類危険物
特殊引火物
二硫化炭素,ジエチルエーテル,アセトアルデヒド,酸化プロピレン,その他の引火性液体で,1 気圧下で次のいずれかの条件をもつものをいう。
- 発火点が 100 度以下のもの
- 引火点が -20 度以下,沸点が 40 度以下のもの
特殊引火物は,第4類危険物の中でも発火点や引火点が特に低く,また,燃焼範囲も広いものが指定されている。そのため,第4類の中では最も危険性の高い危険物で,指定数量は 50 L である。
二硫化炭素
- 純粋なものは無色・無臭であるが,不純物は特有のにおいがある。
- 発火点が 90 °C と特に低く,水の沸点以下で発火してしまう。
- 水には溶けないが,アルコールやジエチルエーテルには溶ける。
- 液体の比重は 1.26 で水より重い。
- 揮発性が高く,蒸気は有毒である。また,燃焼すると有毒な二酸化硫黄を発生する。
ジエチルエーテル(エーテル,エチルエーテル)
- 無色透明で,甘い刺激臭がある。
- 引火点が -45 °C と低く,引火しやすい物質である。
- 水に少し溶け,アルコールにはよく溶ける。
- 揮発性が高く,蒸気には麻酔性がある。
- 空気と長く接触したり,日光にさらしたりすると過酸化物が発生し,過熱や衝撃で爆発の危険がある。
- 過酸化物(peroxide)は,有機化合物では官能基としてペルオキシド構造(-O-O-)または過カルボン酸構造(-C(=O)-O-O-)を共有する化合物を指し,無機化合物では過酸化物イオン(O22-)を含む化合物を指す。
アセトアルデヒド
- 無色透明で,刺激臭がある。
- 沸点が 20 °C と低く,常温で沸騰する。そのため,揮発性が非常に高く,引火しやすい物質である。
- 水に溶ける性質がある。
- 水に溶けるので,通常の泡消火剤は不適である。
酸化プロピレン(プロピレンオキサイド)
- 水に溶ける性質がある。
- 引火点や沸点は低いが,発火点は 449 °C と高めである。
- 重合する性質があり,その際に熱が発生して火災や爆発の原因になる。特に銀,銅などの金属に触れると重合が促進される。
- 水に溶けるため,通常の泡消火は適していない。
主な特殊引火物の物性
種類 | 色 | 臭い | 水溶性 | 引火点 [度] | 発火点 [度] | 沸点 [度] | 燃焼範囲 [vol%] | 比重 | 蒸気比重 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
二硫化炭素 | 無色 | 無臭*1 | × | -30 | 90 | 46 | 1.0 - 50 | 1.26 | 2.6 |
ジエチルエーテル | 無色 | あり | △*2 | -45 | 160 | 35 | 1.9 - 36 | 0.7 | 2.6 |
アセトアルデヒド | 無色 | 刺激臭 | ○ | -39 | 175 | 20 | 4.0 - 60 | 0.8 | 1.5 |
酸化プロピレン | 無色 | あり | ○ | -37 | 449 | 35 | 2.8 - 37 | 0.83 | 2.0 |
特殊引火物の演習問題
演習問題
アセトアルデヒドの性状について,次のうち誤っているものはどれか。
- 酸化されると,酢酸になる。
- 水やエタノールに任意の割合で溶解する。
- 強い還元性物質である。
- 熱または光により分解して,メタンと二酸化炭素を発生する。
- 常温(20 °C)で引火の危険性がある。
正解は,4. である。
第 1 石油類
ガソリン,アセトンのほか,引火点が 21 度未満の引火性液体をいう。第 1 石油類の一般的な性質は次のとおり。
- 非水溶性のもの(ガソリン,ベンゼン,トルエンなど)と,水溶性のもの(アセトン,ピリジンなど)がある。
- 引火点が常温より低く,引火しやすい。
- 液体の比重は水より軽く,蒸気は空気より重い。
- 非水溶性のものは静電気がたまりやすい。
- 消火剤は泡,ハロゲン化物,二酸化炭素,粉末が適している。
演習問題
アセトンの性状について,次のうち誤っているものはどれか。
- 無色無臭の液体である。
- 水と任意の割合で混ざり合う。
- 引火点は常温(20 °C)より低い。
- 水よりも軽い。
- アルコール,エーテルに溶ける。
正解は,1. である。
ガソリンの性質
ガソリンは第 1 石油類の代表的な物品である。原油を分留し,沸点が 40 ~ 220 度の範囲を取り出したもので,用途によって,自動車ガソリン,航空ガソリン,工業ガソリンに大別される。ガソリンの性質は以下のとおり。
- 無色で特有の臭いがある。(ただし自動車ガソリンはオレンジ色に着色されている。)
- 水より軽く,水に溶けない。
- 空気より重く,蒸気が低所に滞留しやすい。
- 引火点は -40 度以下で,氷点下でも引火する。
- 電気を伝えにくく,静電気が溜まりやすい。
種類 | 色 | 臭い | 水溶性 | 引火点 [度] | 発火点 [度] | 沸点 [度] | 燃焼範囲 [vol%] | 比重 | 蒸気比重 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ガソリン | 無色*1 | あり | × | -40 | 300 | 40 - 220 | 1.4 - 7.6 | 0.65 - 0.75 | 3 - 4 |
ベンゼン | 無色 | あり | × | -11 | 498 | 80 | 1.2 - 8.0 | 0.88 | 2.69 |
トルエン | 無色 | あり | × | 4 | 480 | 111 | 1.1 - 7.1 | 0.87 | 3.18 |
アセトン | 無色 | あり | ○ | -20 | 465 | 57 | 2.2 - 13.0 | 0.79 | 2.0 |
演習問題
第 1 石油類の危険物を貯蔵および取り扱う場合の火災予防について,次のうち誤っているものはどれか。
- 静電気の発生を少なくするために,危険物を取り扱う場合の流動,ろ過などは短時間に速度を上げて行う。
- 液体から発生する蒸気は,地上をはって離れた低いところにたまることがあるので,周囲の火気に気をつける。
- 取扱作業をする場合は,電気絶縁性のよい靴やナイロンその他の化学繊維などの衣類は着用しない。
- 貯蔵および取扱いは,換気を十分に行う。
- 貯蔵倉庫内の電気設備は,すべて防爆構造のものを使用する。
正解は,1. である。
演習問題
自動車ガソリンの性状について,次のうち誤っているものはどれか。
- 引火点は,-40 °C 以下である。
- 流動により静電気が発生しやすい。
- 水より軽い。
- 燃焼範囲は,おおむね 1 ~ 8 vol% である。
- 灯油と間違わないように,単青色に着色されている。
正解は,5. である。
アルコール類
飽和 1 価アルコールのうち,炭素の原子数が 1 個から 3 個までのものをいう。代表的なものに,メチルアルコール,エチルアルコール,イソプロピルアルコール,n - プロピルアルコールがある。
アルコール類はどれも無色透明で,水や有機溶剤によく溶ける。よって,消火には水溶性液体用の泡消化剤が適している。
種類 | 色 | 臭い | 水溶性 | 引火点 [度] | 発火点 [度] | 沸点 [度] | 燃焼範囲 [vol%] | 比重 | 蒸気比重 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
メチルアルコール(メタノール) | 無色 | あり | ○ | 11 | 385 | 65 | 6.0 - 36 | 0.79 | 1.11 |
エチルアルコール(エタノール) | 無色 | あり | ○ | 13 | 363 | 78 | 3.3 - 19 | 0.79 | 1.59 |
イソプロピルアルコール | 無色 | あり | ○ | 15 | 399 | 82 | 2 - 12.7 | 0.79 | 2.1 |
n - プロピルアルコール | 無色 | あり | ○ | 23 | 412 | 97.2 | 2.1 - 13.7 | 0.8 | 2.1 |
第 2 石油類
灯油,軽油のほか,引火点が 21 度以上で 70 度未満のものをいう。第 2 石油類の一般的な性質は次のとおり。
- 非水溶性のもの(灯油,軽油など)と,水溶性のもの(酢酸,アクリル酸など)がある。
- 引火点が常温より高いため,常温では引火しない。
- 比重は水より小さいものが多いが,クロロベンゼンや酢酸は水より大きい。
- 消火剤は泡,ハロゲン化物,二酸化炭素,粉末が適している。
種類 | 色 | 臭い | 水溶性 | 引火点 [度] | 発火点 [度] | 沸点 [度] | 燃焼範囲 [vol%] | 比重 | 蒸気比重 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
灯油 | 無色または淡黄色 | あり | × | > 40 | 220 | 145 - 270 | 1.1 - 6.0 | 0.8 | 4.5 |
軽油 | 淡黄色,淡褐色 | あり | × | > 45 | 220 | 170 - 370 | 1.0 -6.0 | 0.85 | 4.5 |
演習問題
灯油の性状について,次のうち誤っているものはどれか。
- 電気の不良導体である。
- 引火点は,トルエンより高い。
- 水より軽い。
- 発火点は,約 100 °C である。
- 水に溶けない。
正解は,4. である。
第 3 石油類
重油,クレオソート油のほか,引火点が 70 度以上 200 度未満のものをいう。第3石油類の一般的な性質は次のとおり。
- 非水溶性のもの(重油,クレオソート油など)と,水溶性のもの(エチレングリコール,グリセリンなど)がある。
- 引火点は高いため,常温では引火しない。
- 重油の比重は水より小さいが,重油以外の比重は水より大きい。
- 消火剤は泡,ハロゲン化物,二酸化炭素,粉末が適している。
種類 | 色 | 臭い | 水溶性 | 引火点 [度] | 発火点 [度] | 沸点 [度] | 燃焼範囲 [vol%] | 比重 | 蒸気比重 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
重油 | 褐色または暗褐色 | あり | × | 60 - 150 | 250 - 380 | > 300 | - | 0.9 - 1.0 | - |
第4石油類
ギヤー油,シリンダー油のほか,引火点が 200 度以上 250 度未満のものをいう。第 4 石油類の一般的な性質は次のとおり。
- 粘り気が大きく,揮発性は低い。
- 水に溶けず,水の比重より小さい。
- 引火点が高いため,加熱しなければ引火の危険はない。ただし,引火時は液温が高いため,消火が困難になる。
動植物油類
動物の脂肉や植物の種子・果肉などから抽出したもので,引火点が 250 度未満のものをいう。動植物油類の一般的な性質は次のとおり。
- 水より軽く,水に溶けない。
- 引火点が 200 度以上のものが多いので,加熱しなければ引火の危険はない。
- 空気中の酸素と反応して固形化し,このときの反応熱が蓄積して自然発火を起こすことがある。