【要点ノート】工場配電その2

2013年7月14日作成,2022年7月17日更新

管理運用

高調波・電圧フリッカ・瞬時電圧低下と対策

高調波(higher harmonics)

近年,需要家で使用する機器に変換装置(サイリスタ・ダイオードなど),アーク炉,サイクロコンバータ,交流電力調整機器など交流波形をひずませる高調波(higher harmonics)を多く含んでいるものが広く使用され,電力系統の高調波含有率(harmonic content)が増加する傾向にある。この高調波が電力系統および負荷機器に与える障害としては次のようなものがある。

  1. 電力系統では電力機器の損失増大による過熱,異常騒音と振動,焼損,容量性負荷での高調波電流の課題による機器の過熱,電力用コンデンサ(付属直列リアクトル)や周波数変換所フィルタの過負荷,過熱など
  2. 負荷機器では過大な高調波電流の流入による電力用コンデンサ(付属直列リアクトル)の過負荷,過熱,ラジオ・テレビの音響装置の雑音・映像のちらつきなど
  3. 共通として通信線の誘導障害,波形ひずみによる保護継電器の誤動作や制御装置の制御不安定,測定計器の指示不良など悪影響を与えるもの
高調波の例
図 高調波の例

高調波障害の対策は次のとおりである。

  1. 高調波発生源,つまり各装置から発生する高調波電流を規定値(例:総合高調波電流 5 % 程度)に抑えること。
  2. 高調波フィルタ(アクティブ・パッシブフィルタ含む)を設置する。
  3. 高調波発生負荷を専用線から供給する。
  4. コンデンサの直列リアクトル容量を共振点から外す。
  5. 短絡容量の大きな系統から受電する。
(参考)高調波含有率

高調波含有率は次式で表される。

高調波含有率(ひずみ率) = 高調波成分実効値 ÷ 基本波成分実効値

電圧フリッカ(voltage flicker)

送配電線にアーク炉,溶接機などの変動負荷が接続されると,その負荷電流による線路の電圧降下のため電圧変動が発生する。この電圧変動は頻繁に繰り返されると電灯や蛍光灯の明るさにちらつきが生じ,著しい場合は人に不快感を与え,これをフリッカ(flicker)と呼んでいる。人に最も認識が著しいのは白熱電灯であり,電圧変動の周波数成分を人間が最も感じやすい 10 Hz の成分に補正したフリッカの許容値($\Delta V_{10}$ : 最大値 0.45 %,平均値 0.32 %)が定められている。

フリッカ障害の対策には次の方法がある。

  1. アーク炉,溶接機などの運転条件を改善してフリッカの発生を軽減する。
  2. 発生源への供給を短絡容量の大きな電源系統に変更する。
  3. 発生源への供給を専用線あるいは専用変圧器で行う。
  4. 電源側に直列コンデンサを,負荷側に SVC を挿入する。
  5. アーク炉用変圧器の二次側に直列に過飽和リアクトルを挿入する。
  6. アーク炉用変圧器として三巻線補償変圧器を設置する。
(参考)フリッカの評価方法

フリッカは 60 W の白熱電球のちらつきを用いて評価している。さまざまな変動周波数について,10 Hz の正弦波によるちらつき感と同じちらつき感を与える比率を実測して求めたものをちらつき視感度係数と呼ぶ。ちらつき感は,10 Hz 近傍でピークになり,2 Hz や 25 Hz では 10 Hz の半分になる。このため,現在は $\Delta V_10$ が評価方法として推奨されている。

ちらつき視感度係数は,電圧変動の周波数によるちらつき感をウェイト付けするための係数である。この係数は,電圧変動の周波数と目の感度との関係を示しており,照明器具の特性も含まれている。

$\Delta V_10$ は「各種周波数成分にウェイト付けした後,1 分間実効値を求め,その成分を加重平均したもの」と定義されており,次式で示される。

\[ \Delta V_{10} = \sqrt{\sum_{n=1}^\infty (a_n \cdot \Delta V_n)^2} \]

ここで,$\Delta V_n$ は周波数 $f_n$ の電圧変動分の実効値 [V],$a_n$ は 10 Hz を 1.0 とした $f_n$ におけるちらつき視感度係数

瞬時電圧低下(momentary voltage drop)

電力系統において落雷などで送変電設備が故障した場合には,保護継電装置により高速で故障区間を除去するまでの短時間(0.1 秒程度,最長で 2 秒)には瞬間的な系統電圧の低下や停電,いわゆる瞬時電圧低下(momentary voltage drop)と瞬時停電(instantaneous interruption of service)が発生する。この現象は,特に 275 kV,500 kV 送電線など基幹系統で事故が発生すると広範囲となる。

この現象が発生すると需要家機器に次の悪影響を与えることとなる。

  1. 近年の生産設備や事務機器はコンピュータやサイリスタなどを中心とした高精度で高感度の電子デバイスが多く使用され,これら機器は電圧変動に敏感であり,瞬時電圧低下と瞬時停電によりメモリ消失やデータ処理が不安定となり,プログラムの誤動作や誤制御を発生させる。
  2. 工場で使用されている電動機の開閉装置として,一般に使用されている電磁開閉器は瞬時電圧低下により不完全接触を生じ,電圧が正常に復帰してもそのままとなるものがある。
  3. 水銀ランプは,安定点灯中に電圧低下によりいったん消灯すると消灯直後の内部蒸気圧が高く,放電開始時間が高くなって再点灯できなくなり,再起動可能な状態になるまで数分を要し,点灯できなくなる。

この現象は送変電設備が落雷や風雨など自然にさらされている以上,事故は避けられなく,技術的ならびに経済的な理由から電力系統側で完全な対策を施すことは不可能であり,需要家側の対策が主体となる。

電力系統側で瞬時電圧低下と瞬時停電が発生した場合,需要家のどの機器がどのような影響を受けるかをよく把握したうえで適切な対策を施すことが重要である。防止対策にはインバータを用いたバッテリ付きの静止形無停電電源装置UPS : Uninterruptible Power Supply)など設置する方法と発生時に運転継続させる方法の二つがある。

UPS の基本回路構成
図 UPS の基本回路構成

これらの具体的な防止対策を取り上げれば次のとおりである。

  1. コンピュータに代表されるエレクトロニクス機器に浮動充電方式の UPS を付加する。
  2. サイリスタなどによる可変速電動機には電圧低下時にサイリスタの動作をロックして,電圧復帰時に自動的にロックを解除して電動機を正常運転させる(ロック機能付電力変換装置)。
  3. 電動機には遅延釈放式,タイマ挿入式,コンデンサ逆励磁式などのマグネットスイッチを取り付け電動機の運転を継続させる。
  4. 高圧水銀灯はランプ消灯時に高圧パルスを発生させてランプを瞬時点灯する瞬時再点灯形などを採用したり,取り換える。
  5. 受電設備に短時間動作形不足電圧継電器(UVR)を取り付け動作時間を遅延させ,操業製品の品質面や機器保護面で許すかぎり電力の受電を継続させる。

電圧不平衡

平衡な三相交流電圧は,各相の電圧の大きさが等しく位相差が 120 ° であるが,実際には各相の電圧の大きさ・位相差にばらつきが生じることがある。これを電圧不平衡と呼ぶ。

三相の電動機の入力電力が不平衡であると,逆相電圧によって電動機に逆相電流が流れる。これによる回転磁界は回転方向と反対方向であるためブレーキとして作用し,電動機入力が増加して損失が増加すると共に,温度上昇や振動・騒音の増加を招く。

電圧不平衡が発生するのは,三相交流回路の各相に接続する単相負荷が均等でなく電流が不平衡となる場合や,配電線路のインピーダンスが相間で異なる場合などである。電圧不平衡を抑制するためには,発生要因が全社の場合,次の 1. 及び 2. のような対策などが考えられる。

  1. 単相負荷を各相にバランスするように配分する。
  2. 同等容量の二相の単相負荷に電源供給する場合は,三相を二相に変換するスコット結線の変圧器を用いる。

電力ケーブルと水トリー

電力ケーブルの種類は非常に多いが,ソリッド形ケーブルと圧力形ケーブルに大別され,その絶縁物としては,従来は油浸紙と絶縁油の組合せが用いられていたが,近年は,154 kV 以下の電圧で,ゴム,プラスチック系,特にポリエチレン系の使用割合が多くなってきた。

ポリエチレンケーブル

ポリエチレンを絶縁材としたケーブルで,絶縁上優れた長所をもっているが,熱に弱い欠点があり,この熱に弱い点を改良したものに架橋ポリエチレン絶縁ケーブルCVケーブル : cross linked polyethylene insulated vinyl sheathed cable)がある。CV ケーブルは,OF ケーブルに比べ許容温度を高くとれ,乾式であり,絶縁性能もよく,$\tan \delta$ や比誘電率が小さいため誘電体損失や充電電流が小さくなる。また,構造的には金属シースが不要のため機械的なたわみ性に富んで軽量でケーブル布設が容易である。一方,保守・点検の省力化が図れ,油抜けや火災のおそれもなく,接続部組立にモールドやプレハブ方式などが適用できるので,高低差の大きいところとか,振動の多い場所なども含めて広く使用することができる。

水トリー

ポリエチレンおよび架橋ポリエチレンケーブルの絶縁体中に侵入した水と異物やボイド,突起などに加わる局部的な高電界との相乗作用によって,樹枝(tree)状の欠陥が発生・進展し,ケーブルの絶縁寿命が著しく低下する。このトリーを電気的トリーと区別する意味で水トリーと呼んでいる。

水トリーには,内部の導体から発生する内導体トリーと外部の半導電層から発生する外導水トリー,絶縁物中に製造過程でできる微小の隙間や混入異物から発生するボウタイ状水トリーと呼ばれるものがある。

負荷管理

デマンド制御

デマンド制御とは,電気使用の便益を大きく損なうことなく最大需要電力を一定の値以下に留め,電力設備の効率運転と省エネルギーを推進する手法である。最大需要電力を低減することができれば,電力需要の平準化にも寄与できるので,負荷平準化の計画に用いる指標である負荷率が向上し,受電設備や配電設備の効率的運用が可能となる。

デマンド監視制御装置

需要電力を監視して,最大需要電力が契約電力を超過すると予測されるときは警報を出し,あらかじめ設定されている優先順位に従って負荷設備の抑制や停止などを行う機能を有している。

デマンド制御を行うメリット

デマンド制御は,最大需要電力を抑えるための対策で,省エネとして大きな期待を得ることができる。デマンド制御を行うメリットとしては,以下の 5 点が挙げられる。

  1. 平均負荷率が向上し,設備利用率が上昇する
  2. 使用電力が同じ場合,電力損失が低減する
  3. 契約電力の低減が図れる
  4. 電気設備の小型化が図れる
  5. 省エネ対策として最も簡単に実施できる

需要家の負荷特性

負荷設備の特性を表す諸係数は,一般に以下の式で示される。

需要率(demand factor)

需要家の実際に起こる最大電力は設備容量より小さいのが普通で,需要の種別・地域・期間などによって相違するが,それぞれある一定の割合となる。この最大需要電力と設備容量合計との百分率を需要率(demand factor)という。

需要率 = 最大需要電力 ÷ 設備容量 × 100 [%]

この需要率は一般電灯需要家では 50 ~ 75 % 程度である。

不等率(deversity factor)

需要家群・配電変圧器群あるいは配電幹線群などの同種類の負荷群において,各個の最大需要電力は同時刻に起こるものではなく,その発生時間は時間的にずれがある。このため各負荷を総括したときの最大需要電力は各個の最大需要電力の和より小さくなる。この割合を示すものを不等率(deversity factor)といって次式によって表す。

不等率 = 各負荷の最大需要電力の和 ÷ 総括したときの最大需要電力

負荷率(load factor)

電気の負荷の使い方は種別・地域・時刻・季節などによって違ってくる。この需要電力の変動の割合を負荷率(load factor)という。需要家・配電幹線あるいは変電所などである期間の平均需要電力と最大需要電力との割合で示す。

負荷率 = ある期間の平均需要電力 ÷ その期間の最大需要電力 × 100 [%]

負荷率を表す期間のとり方によって日負荷率・月負荷率・年負荷率がある。

損失係数(loss factor)

配電線路のように,負荷が時間的にも季節的にも変化しており,多くの需要家がある場合の線路の損失電力量は抵抗損のような単純な方法で求められない。損失のなかには $I^2 R$ で表される抵抗損のほかに,変圧器の鉄損があるので次の損失係数(loss factor)を使って求める方法が採用される。

損失係数は,ある期間(1 日,1 ヵ月,1 ヵ年)中の平均電力損失と最大電力損失(最大電力時の損失電力)の比の百分率で表す。

損失係数 $H$ = 平均電力損失 [kW] ÷ 最大電力損失 [kW] × 100 [%]

したがって,求める平均電力損失は,最大電力損失と損失係数の積となるので,この平均電力損失に期間の時間数を掛ければ,その期間中の損失電力となる。

年間損失電力量 = 最大電力受電時損失 × 8 760 × 年損失係数

なお,損失係数 $H$ と負荷率 $F$ には次式で示される関係がある。

\[ H = \alpha F + (1 - \alpha)F^2 \]

ただし,$\alpha$ は負荷の種別による定数で 0.1 ~ 0.4($\alpha = 0.3$ を用いることが多い)である。

電気設備事故

電気関係報告規則では,電気事業用又は自家用の電気工作物において,感電による死傷,電気火災,主要電気工作物の破損,広範囲にわたる停電等重大な事故が発生したとき,その施設を管理する電気事業者及び自家用電気工作物設置者から,経済産業大臣又は電気工作物の設置の場所を管轄する産業保安監督部長に電気事故に関する報告を提出させる義務を課すとともにその報告の範囲,報告の方法について定められている。

参考文献

  • 道上 勉 著,「電気学会大学講座 送配電工学[改訂版]」,社団法人 電気学会,2011年8月25日 改訂版 7 刷
  • 飯田 芳一 著,「図解 配電系統と太陽光発電-系統連系のしくみを理解する技術要件ガイド-」,株式会社オーム社,2019年5月30日 第 1 版第 3 刷
  • 「電気学会大学講座 電気機器工学 Ⅰ(改訂版)」,社団法人 電気学会,2002年1月31日 改訂版 14 刷
  • 経済産業省 資源エネルギー庁電力・ガス事業部政策課,電力市場整備課,原子力安全・保安院電力安全課 編,「電気関係報告規則の解説」,社団法人 日本電気協会,2005年11月25日 初版 第 2 刷

工場配電 第6版

電気学会・工場電気設備調査専門委員会 編 / A5 版 / 336 頁 / 定価 6,050 円(税込) / 978-4-274-22779-0

工場電気技術者必携書の改訂版。今回の改定では,若手・中堅技術者をおもな対象者として,現状の工場電気技術者の要求,ベテラン技術者の知識・経験から伝承すべき事項,最新技術・規格・基準等をまとめ,工場配電の現代的なあるべき姿を記載しました。若手エンジニアをはじめ,工場における電気を知りたい人,工場電気設備の新設および更新を計画・設計する人などに役立つようまとめています。

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