【要点ノート】電動力応用その1

2013年7月27日作成,2022年7月17日更新

電動力応用とは

電動機(motor)を動力源として用いる機器や設備で最大のパフォーマンスを発揮させるための技術。

電動機(motor)
電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換する装置
電動機の分類
図 電動機の分類

具体的には,負荷の特性を考慮した電動機を選択し,それを最適に制御することで,トルク(torque),効率あるいは応答などの諸特性で最大の性能を引き出す。

回転体の運動

円柱の慣性モーメント

半径 $R$ [m],密度 $\rho$ [kg/m³],長さ $L$ [m] である円柱の中心軸に対する慣性モーメント $J$ [kg·m²] を求める。

慣性モーメント(moment of inertia)あるいは慣性能率,イナーシャ $I$ とは,物体の角運動量 $L$ と角速度 $\omega$ との間の関係を表す量である。

\[ F =\frac{\text{d}}{\text{d}t}(mv) \]

中心から $r$ [m]のところの幅 $\text{d}r$ の部分の質量 $\text{d}m$ は,次式で表される。

\[ \text{d}m=2\pi\rho Lr \text{d}r \]

この部分の慣性モーメント $\text{d}J$ は,次式となる。

\[ \text{d}J=r^2 \text{d}m=2\pi\rho L r^3 \text{d}r \]

よって,円柱全体の中心軸に対する慣性モーメント $J$ は,次式となる。

\[ J = \int_0^R dJ = 2\pi\rho L\int_0^R r^3 dr = \frac{\pi\rho L R^4}{2} \]

ここで,全体の質量 $G$ [kg]は,次式である。

\[ G = \pi R^2 \rho L \]

したがって,慣性モーメント $J$ [kg·m²]は,次式となる。

\[ J = \frac{GR^2}{2} \]

電動機の負荷トルクと回転速度

転換電力を $P$ [W],角速度を $\omega = 2 \pi n$ [rad/s](ここで,$n$ [s-1] は回転速度)とすれば,トルク $T$ [Nm]は,次式で求められる。

\[ T = \frac{P}{\omega} \]

直流電動機の速度制御

電動機で他の機器を運転しているときの速度は,電動機と負荷になる機械との速度トルク特性の交点として定まるものである。電動機の速度を変えるには,次の三つの方法がある。

  1. 界磁制御法 磁束を変える方法で,分巻や複巻電動機ではその分巻巻線に直列に抵抗を入れて,励磁電流を調整して磁束を変える。このような目的に使用する抵抗器を速度調整器(speed regulator)という。
  2. 直列抵抗制御 電機子に直列に抵抗を挿入して抵抗の値を変え,抵抗降下を変化させる方法である。
  3. 電圧制御法電機子に加える電圧を変える方法である。

誘導電動機の始動・速度制御・制御方法

誘導電動機(induction motor)の始動・速度制御・制御方法について説明する。

誘導電動機(induction motor)
電磁誘導作用によって他方からエネルギーを受けて動作する電動機

誘導電動機の始動

三相誘導電動機に定格電圧を加えたときの始動電流(starting current)は大きく,電動機の巻線を過熱し,大きな機械的衝撃を与える。また,力率は非常に悪く,電源電圧が降下し,同じ配電線に接続されている他の負荷に悪影響を与える。したがって,適当な始動方法を用いて,始動特性を改良する必要がある。

かご形電動機の始動法

巻線形電動機では,二次回路の外部に始動抵抗を接続して始動電流を制限することができるが,かご形では不可能である。端子電圧を低下させれば,電流は小さくできるが,かご形では不可能である。端子電圧を低下させれば,電流は小さくできるが,始動トルクは電圧の二乗に比例して減少するので,大きな始動トルクを要求する負荷には不適当である。

全電圧始動(line starting)

比較的小容量かご形電動機に使用される。定格電圧をいきなり加えると,定格電流の 4 〜 6 倍の始動電流が流れるが,容量が小さいため配電線に対する影響も少ないので,直接全電圧を加えて始動することができる。このような電動機をじか入れ電動機(line-start motor)ともいう。

Y - Δ 開閉器を用いる方法

全電圧始動が許されない 5 〜 15 kW 程度の電動機では,Y - Δ 開閉器を用い,始動に際しては固定子巻線を Y 結線にして始動し,運転速度になったときに開閉器を切換えて巻線を Δ 結線にする。始動の場合には,固定子 1 相の巻線に加わる電圧は線間電圧の $1/\sqrt{3}$ となるから,線電流は最初から Δ 結線して始動した場合の 1/3 となる。しかし,始動トルクは 1/3 に減少する。

始動補償器(starting compensator)

15 kW を超える電動機に用いられる。スイッチを始動側に倒し,単巻変圧器 AT のタップ電圧を加えて始動電流を制限する。加速後,運転側へ切換えれば,全電圧が加わる。容量が大きいものには Y 結線の変圧器を用いる。始動の際,短時間に用いられる変圧器を始動補償器という。

巻線形電動機の始動法

電動機の電機子電流 $I_a$ [A] は次式で表される。

\[ I_a = \frac{V-kn\Phi}{R} \]

ここで,$V$ は端子電圧 [V],$k$ は定数,$n$ は回転速度 [s-1],$\Phi$ は毎極磁束 [Wb],$R$ は電機子回路の全抵抗 [Ω] である。

静止している電動機に直接回路の全電圧を加えて始動しようとすると,電機子回路に抵抗が挿入されていなければ,$R=R_a$(電機子抵抗)で,$R_a$ はごく小さく,しかも,$n=0$ であるから,$I_a = V/R_a$ に相当する。これは,定格電流の十数倍から数十倍にも達するから,整流子を損傷し,電機子巻線やブラシを焼損し,また,電源にも大きな衝撃を与える。

したがって,始動の際には電機子回路に直列に抵抗(始動抵抗)を入れて,始動電流を定格電流の 100 〜 150 % ぐらいにおさえる。大きな始動トルクを要するものでは,始動電流を 300 % ぐらいにする場合もある。

また,始動の際には,界磁電流は最大にして始動トルクを大きくし,速度上昇を速やかにして過電流の流れる時間を短縮する。

小形の直巻電動機では,電機子抵抗が比較的大きく,また,慣性モーメントが小さく,速やかに速度が上昇するし,電源に与える衝撃も少なくないので,始動抵抗なしに直接に全電圧を加えて始動することが多い。

始動を速やかにするために,始動抵抗は適当に区分しておき,電動機の速度上昇に応じて抵抗を漸減して所定の始動電流をあまり下回らないようにする。このように始動抵抗を区分することを始動抵抗の段付け(grading)という。

誘導電動機の速度制御

誘導電動機の速度制御には,そのトルク速度特性曲線を変える方法と電源の周波数を変える方法がある。

可変速運転

パワーエレクトロニクスの進歩により,サーボアンプやインバータで電動機を駆動すれば,どうのような電動機でも可変速運転を用意に行うことができるようになった。そこで,サーボアンプやインバータなどと電動機を合わせたものを可変速駆動システム(ASD : adjustable speed drive system)という。

ポンプやファンの高効率な流量制御法としてインバータを用いたかご形誘導電動機の可変速運転が行われている。インバータによるかご形誘導電動機の可変速運転にはベクトル制御法と $V/f$ 制御法がある。

ベクトル制御(vector control)

ベクトル制御法は,電動機入力電流を界磁電流成分トルク電流成分に分けて,それぞれ独立に制御するものであり,通常界磁電流成分は一定に制御されるが,効率を重視する場合には負荷に応じて変化させることもある。

ベクトル制御方式には磁界オリエンテーション方式と滑り周波数制御方式の 2 種類がある。いずれも速度センサが不可欠であったが,制御理論やマイクロコンピュータの進歩により速度センサを必要としない,速度センサレスベクトル制御方式が実用化されている。

英語では,磁界方向制御(field orientation control)ともいわれる。

VVVF 制御

インバータの制御方法の一つで,可変周波数可変電圧(variable votage variable frequency)制御のこと。$V/f$ 一定制御とも呼ばれる(ここで,$V$ は電圧 voltage,$f$ は周波数 frequency)。

$V/f$ 制御法は,電動機の速度を変えるために $f$(周波数)を変化させるものであるが,周波数のみを変化させるとギャップ磁束が変化してしまうため,これを一定にする $f$ の変化に比例して $V$(電圧)を変化させる制御法である。

しかし,$V/f$ を一定にすると,低速度運転領域では一次巻線のインピーダンスの電圧降下が無視できなくなり,十分なトルクが発生できない問題がある。そこで,始動時や負荷トルクの増大に応じて電圧を補償する制御を行っており,これをトルクブーストという。

正しい英語は Adjustable Voltage Adjustable Frequency となるべきである。しかし,日本国内では VVVF 制御(Variable Voltage Variable Frequency)の用語が定着している。

PWM

PWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)は,出力電圧をできるだけ正弦波に近づける制御方式の一つである。目的とする出力波形の基本波成分と搬送波とを比較することにより,パルス幅を変調するので PWM と呼ばれている。

この方式を電圧形インバータに適用した場合には,下記の特長がある。

  1. 直流電圧を制御するための主回路デバイスが不要となり,小形化,低コスト化に寄与する。
  2. 低次高調波の除去が容易である。
  3. ベクトル制御のような交流電動機の高速ドライブに不可欠な高速電流制御が可能になる。

また,変換器のブリッジを構成する上下アームの短絡を防止するために設けられているデッドタイムが搬送周波数を高周波化するときの障害になることがあり,安全性を確保するために変換器のバルブデバイスにはできるだけ高速スイッチング素子を用いるのがよい。

誘導電動機の制動方法

発電制動(dynamic braking)

三相誘導電動機固定子の一次巻線を電源から切離し,2 端子をまとめて他の 1 端子との間に直流励磁電流を流すと,固定磁界を生じて,回転電機子形の交流発電機となる。回転子二次巻線中には多相の短絡電流が流れて,回転と反対方向に制動トルクが生じ早く停止する。うず電流ブレーキと同じ原理である。

誘導ブレーキ(induction brake)

外力を加えて回転子を回転磁界と反対方向に回した場合,発生トルクは回転子回転方向と反対で,動力は外部から供給され,誘導ブレーキとなる。

逆相制動と単相制動

逆相制動

一次側の 3 線中 2 線を入れ換え,回転磁界の回転方向を反対にすると,電動機は誘導ブレーキとなり,強力な制動トルクを発生する。これを逆相制動またはプラッギング(plugging)という。

単相制動

誘導機の固定子三相巻線の 2 端子と他の 1 端子との間に単相交流を供給し,制動トルクを得る方法。

回生制動(regenerative braking)

誘導電動機を誘導発電機として,制動をしながら変換電力を電源へ変換する方法。

具体的には,エレベータの下降時,クレーンの巻おろし,または電気機関車や電車が坂道を下る場合などには,電動機が負荷によって回されるようになる。このような場合に,電動機を発電機として発生した電力を電源に変換することによって,電動機に制動をかける。これを回生制動という。

分巻発電機の場合は,電動機運転と同じ接続のままで回生制動を行っても正しい極性で発電するが,直巻および複巻電動機の場合には,直巻巻線の接続を反対にする必要がある。

参考文献

  • 電気学会,「電気学会大学講座 電気機器工学 Ⅰ (改訂版)」,社団法人 電気学会,2002年1月31日 改訂版 14 刷
  • 「電気学会大学講座 電気機器工学 Ⅱ(改訂版)」,社団法人 電気学会,1995年10月5日 5版(改訂版)
  • 広瀬 敬一 原著,炭谷 英夫 著,「電気学会大学講座 電機設計概論[4版改訂]-設計基礎から製図の基本まで-」,社団法人 電気学会,2007年11月30日 4 版改訂 1 刷
  • 宮入 庄太 著,「大学講座 電気・機械エネルギー変換工学」,丸善,2002年5月25日 第 10 刷
  • 電気学会・半導体電力変換システム調査専門委員会,「パワーエレクトロにクス回路」,オーム社,2000年11月30日 第1版 第1刷 発行
  • 電気学会,「電気学会大学講座 パワーエレクトロニクスの基礎」,社団法人 電気学会,2007年10月30日 8 刷
  • 金 東海 著,「電気学会大学講座 パワースイッチング工学――パワーエレクトロニクスの基礎理論」,社団法人 電気学会,2003年8月5日 初版 1 刷
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