【要点ノート】電気化学

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電気化学(electrochemistry)

物質間の電子の授受と,それに付随する諸現象を扱う化学の分野である。

電気化学の歴史

1781 年 カルヴァーニ電気の発見

電気化学の歴史は 1781 年にイタリア人化学者のルイージ・ガルヴァーニのカエルの脚(筋肉組織)に対する電気刺激の実験中に「動物電気(animal electricity)」を発見したところから始まる(カルヴァーニ電気)。

ルイージ・ガルヴァーニ
写真 ルイージ・ガルヴァーニ
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1799 年 ボルタ電池の発明

現在における化学の観点で電気発生のメカニズムを発見したのは同じくイタリア人化学者のアレッサンドロ・ボルタの功績である。1799 年,ボルタはカルヴァーニの実験を基にして史上初の化学電池であるボルタ電池を発明し,イオン化傾向の異なる二つの電極と電解質からなる電池によって,電気が生まれることを示した。

アレッサンドロ・ボルタ
写真 アレッサンドロ・ボルタ
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1801 年 水の電気分解を発見

1801 年にはウィリアム・ニコルソンとアンソニー・カーライルが水が電気分解されることを発見した。

ウィリアム・ニコルソン
写真 ウィリアム・ニコルソン
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アンソニー・カーライル
写真 アンソニー・カーライル
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電気化学の基礎

電気分解に関するファラデーの法則

化学反応を行わせる場合に,通じた電気量と反応生成物の量の関係を示すものがファラデーの電気分解の法則(Faraday's laws of electrolysis)である。反応に関与する電子の量は,外部回路を流れる電気量で表され,イオンの量は反応で生成あるいは消費される物質の量となる。

一般に $z$ 個の電子が関与する反応で,$n$ モルの物質が生成あるいは消費される場合に流れる電気量 $Q$ は,電子の単位電荷を $e$(= 1.602 × 10-19 [C]),1 モル当たりの粒子数を表すアボガドロ数(Avogadro constant)を $N_\text{A}$(= 6.023 × 1023 [個/mol])とすると,理論的に次式で表される。

\[ Q = z \times N_\text{A} \times e\times n \]

電気化学システムにおいて,ある物質量の反応物質を製造するために必要な理論電気量を求めるときには,流れる電気量が「反応に関与する電子量」,「アボガドロ定数」,「電子 1 個の電荷」及び「反応物質の物質量」の積で表されることを用いる。

アボガドロ定数(Avogadro constant)とは,物理量 1 mol を構成する粒子(分子,原子,イオンなど)の呼数を示す定数である。国際単位系(SI)における物理量の単位モル(mol)の定義に使用されており,2019年5月20日以降,その値は正確に 6.022 140 76 × 1023 mol-1 と定義されている。アボガドロ定数の記号は $N_\text{A}$ または $L$ である。

アメデオ・アヴォガドロ
写真 アメデオ・アヴォガドロ
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ここで,アボガドロ定数と電子の単位電荷の積($N_A \times e$) は反応によらない固有の定数であり,ファラデー定数と呼ばれる。このファラデー定数を $F$ とおくと,次式を得る。

\[ F = N_A \times e = 1.602 \times 10^{-19} \times 6.023 \times 10^{23} = 96488.46 \approx 9.65 \times 10^4 \text{ [C/mol]} \]

ファラデー定数の単位を[A·h/mol]に変換する。

\[ F = \frac{96,500 \text{ [C/mol]}}{60 \text{ [min/h]} \times 60 \text{ [sec/min]}} = 26.8 \text{ [A · h/mol]} \]

したがって,電気量 $Q$ は,次式となる。

\[ Q = znF \]

すなわち,電気化学反応において,流れる電気量は反応に関与する電子数と物質のモル数に比例する。これをファラデーの電気分解の法則という。

アンソニー・カーライル
写真 マイケル・ファラデー
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ファラデーの電気分解 第一法則

析出(電気分解)された物質の量は,流れた電気量に比例する。

\[ w=KIt=KQ \]

ここで,$K$ は電気化学当量(比例定数),$I$ は電流 [A],$t$ は時間 [s],$Q$ は電気量 [C] である。

ファラデーの電気分解 第二法則

電気化学当量は化学当量に等しく,同じものである。

\[ n=\frac{m}{M}=\frac{It}{zF} \]

ここで,$n$ は物理量 [mol],$m$ は質量 [g],$M$ は分子量 [g/mol],$I$ は電流 [A],$t$ は時間 [s],$z$ はイオン価数,$F$ はファラデー定数 9.6485 × 104 [C/mol] である。

ファラデーの第二法則より,同じ電気量によって析出又は溶解する化学物質の質量 $m$ は,その物質の 1 mol 当たりの質量 $M$ と反応電子数 $z$ で決まる。

\[ m=\frac{M}{z}\times\frac{It}{F} \]

電気化学システム

電気化学システムでは,電気エネルギーと化学エネルギーの相互変換が行われる。電気化学システムは自発的な反応を利用して電気エネルギーを得る電池と外部から電気エネルギーを供給して強制的に反応させる電解(電気分解)に大別される。ここで,電気分解とは,外部から電気エネルギーを与えられ,電極界面で酸化・還元の化学反応が起こる現象をいう。

電気分解は電気エネルギーを化学物質(化学エネルギー)として貯蔵していることになる。

地球レベルでの環境問題が注目される中,電気エネルギーは使いやすくクリーンな二次エネルギーである。この電気エネルギーと化学エネルギーを結びつけるものが電気化学システムである。

電気化学システムでは,下図に示すように二つの電極とイオン伝導体である電解質および隔膜から構成されている。電極のうち,脱電子反応が起こる電極をアノード電極といい,受電子反応が起こる電極をカソード電極という。

二本の電極の間に設ける隔膜の役割は二本の電極の接触や生成物の混合を防ぐことである。

電気化学システムは,二つの電極反応が決まると理論電圧が求められる。電極反応の速度は電流に比例する。

電気化学システムの電極には陽極(アノード),陰極(カソード)がある。

電気化学システムの電極
電極 説明
陽極 アノード(Anode) 外部回路から電流が流入する,すなわち外部回路に電子が流出し,酸化反応が起こる。
電池では,通常,放電状態で考え,二本の電極のうち相対的な電極電位が低い電極。
陰極 カソード(Cathode) 外部回路に電流が流出する,すなわち外部回路から電子が流入し,還元反応が起こる。
電池では,通常,放電状態で考え,二本の電極のうち相対的な電極電位が高い電極。
電気化学システム
図 電気化学システム

基準電極(reference electrode)とは,電極電位の測定時に電位の基準点を与える電極のこと。

電位の基準点を与えるという性質上,基準電極にはその電極電位の安定性と再現性が要求される。

  • 電極反応が可逆であり,電極電位がネルンストの式にしたがうこと。
  • 電極電位が測定中に変動しないこと。
  • 電極電位が測定中に変動をしないこと。

標準水素電極(SHE : Standard Hydrogen Electrode)とは,水素ガスおよび水素イオンの活量が全て 1 であるときの水素電極である。

電極電位は,標準水素電極を 0 V として定義されている。二つの電極反応を組み合わせた電気化学システムにおいて,自発的に反応が進行するのは電位の低い方の電極の反応が酸化方向に進む。電池の起電力は二つの電極の開回路における電極電位の差であり,電極電位のイオンの活量依存性はネルンストの式で求めることができる。

電極反応において,反応速度を大きくするためには過電圧の絶対値を大きくすればよい。また,触媒活性を高くすれば電極反応は速やかに進行する。この電極触媒能を表す重要な因子は交換電流密度である。

ネルンストの式(Nernst equation)とは,電気化学において,電池の電極の電位 $E$ を記述した式である。

外部から観測できる電流が零になるときは,電極の単位表面積当たりの酸化電流 $i_\text{c}$ と還元電流 $i_\text{c}$ は等しくなっており,この値を交換電流密度と呼ぶ。

過電圧(overpotential, overvoltage)は,化学用語の 1 つで,電気化学反応において,熱力学的に求められる反応の理論電位(平衡電極電位)と,実際に反応が進行するときの電極の電位との差のことである。

電気化学の膜プロセス

電気透析法 (electrodialysis)

食塩水を入れた容器中の陽極と陰極の間に陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを交互に並べて置いて仕切り,直流電流を流すと,それぞれの交換膜を陽イオンあるいは陰イオンが選択的に透過するので,食塩が凝縮される室と,脱塩される室とが交互にできる。

ここで陽イオンは陰極に向かって移動する。

この電気透析法では海水を濃縮して食用塩を製造することもできるし,また,逆に海水の淡水化もできる。

電気透析法による食塩水の脱塩・濃縮

下図のように食塩水を入れた容器中に陽極と陰極を置き,陽極と陰極との間に陽イオン交換膜 K と陰イオン交換膜 A を交互に並べて仕切り,直流電流を流すと,ナトリウムイオン(Na+)は陰極側へ,塩化物イオン(Cl-)は陽極側へ向かって移動する。

この場合,陽イオン交換膜 K は Na+ のみ,陰イオン交換膜 A は Cl- のみを透過させるので,食塩が脱塩される室と濃縮される室が交互にできることになる。

このように 2 枚の隔膜を入れて,隔膜間の溶液の電解質を隔膜の外側へ除去する方法を電気透析という。

電気透析法による食塩水の脱塩・濃縮
図 電気透析法による食塩水の脱塩・濃縮

電解工業

電解工業(electrolytic industries)を大きく分けると,水溶液の電解工業と溶融塩の電解工業に分けられる。

工業電解の分類

水溶液の電気分解工業

金属塩水溶液を分解する,電解精錬,電気鋳造,めっき等が代表的である。

電気分解の応用例には,下記のようなものがある。

  1. 食塩水の電気分解:隔膜法により食塩水を電気分解すると,陽極に塩素,陰極に水素と苛性ソーダが生成される。
  2. 水の電気分解:水を電気分解すると陽極に酸素,陰極に水素が発生する。
  3. 電解精錬:粗金属を陽極として電気分解し,陰極にその金属の高純度なものを析出させる。
  4. 電気めっき:電解液に電流を流し金属表面をめっきする。
  5. 電解研磨:電解液の中でその金属を陽極にして電気分解し,凹凸のある表面を平滑化する。

食塩の電気分解による塩素,水酸化ナトリウムの生成

化学工業の基礎材料である塩素,水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)は,次の反応式で表される食塩水の電気分解を利用して生成される。

2 NaCl + 2 H2O → Cl2 + H2 + 2 NaOH

ソーダ電解あるいはクロロアルカリ電解と呼ばれる電解プロセスでは,電解により塩素ガス,水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)及び水素ガスが得られる。国内ではイオン交換膜法が広く採用されており,電極反応は次の通りである。

アノード反応:2CL- → Cl2 + 2e-
カソード反応:2H2O + 2e- → H2 + 2OH-

1) イオン交換膜法では隔膜にナトリウムイオンの選択透過性の高い膜が用いられ,アノード室に濃厚食塩水を供給してカソード室で水酸化ナトリウムを得る。

2) 水酸化ナトリウム 1 t を製造するために必要な理論電気量は 670 kA·h であり,製造される塩素ガスと水素ガスの標準状態での体積は等しく,水酸化ナトリウムの物質量(モル量)は水素の物質量の 2 倍である。

水の電気分解

電気化学システムを利用して水を分解すると,水素と酸素が得られる。これは,電気エネルギーから化学エネルギーへの変換の一つである。これに基づく産業は古くから水電解工業として存在し,安価な電力の得られるところでは,アンモニア製造等への水素供給を担っている。

水を電気分解して水素と酸素を得る方法は水電解と呼ばれ,クリーンな二次エネルギーとして注目されている水素を得る一つの方法である。この水電解のカソードでは還元反応が起こり,水素が発生する。電解質としては固体高分子イオン交換膜を利用するものも開発されているが,古くからアルカリ水溶液を用いるものが工業的に実施されている。この理論分解電圧は 25 [°C] で約 1.2 [V] であるが,実際には電解槽電圧はこの値より高く設定される。

一般に,電気化学システムでは,反応に関与する物質の量は用いられた電気量と密接な関係がある。水電解において得られる水素の質量は,理論的にはファラデーの法則によって用いられた電気量から計算することができる。水素の生成量は,理論上流れた電気量に比例するが,この理論値よりも実際に用いられる電気量の方が大きい。

水の電気分解では,電極として鉄あるいはニッケル金属が,電解質としてはアルカリ電解質を用いるものが多く利用され,水酸化カリウムあるいは水酸化ナトリウムの水溶液が用いられる。ここでは,水を電気エネルギーにより還元して水素を得ている。

水電解反応は次式で表される。

2 H2O → 2 H2 + O2
水素社会

水素は,水や多様な一次エネルギー源から様々な方法で製造することができるエネルギー源で,気体,液体などあらゆる形態で貯蔵・輸送が可能であり,利用方法次第では高いエネルギー効率,低い環境負荷,非常時対応などの効果が期待されており,将来の二次エネルギーの中心的役割を担うことが期待されている。

このような水素を本格的に利活用する社会を水素社会という。

アルミニウムの電気分解

アルミニウムは軽金属の代表としてアルミサッシなどの構造材を始め幅広い用途で利用されている。アルミニウムは溶融塩を電解質とする約 1 000 °C の電気分解で製造される。この製造に用いられる反応式は次のとおりである。

2Al2O3 + 3C → 4Al + 3CO2

この反応に関与する電子数は,アルミニウム 1 原子当たり 3 個である。また,この反応において,アノードで消費される物質は炭素である。

溶融塩電解工業の代表が Al2O3 から Al を採取するアルミ電解である。1970 年代前半には,花形産業であったが,電気の缶詰と言われるほど電力を使用するものであり,電気料金の安い水力発電を持つ国との競争に破れ,日本では衰退した。

銅の電解精錬

電線などに使用する銅は純度が低いと抵抗が大きくなり実用に適さない。高純度の銅を得るためには電解精錬法(Electrolytic Refining Method)が用いられている。この製法では,電気分解プロセスを用いて純度の低い粗銅(純度 99 %)を高純度(純度 99.99 % 以上)にしている。

銅の電解精錬のプロセスでは,原料である純度の低い粗銅をアノード(陽極)として電気分解を行う。高純度の銅は対極に生成する。電解液は硫酸水溶液である。ここで得られる高純度の銅の質量は電気分解に用いられた電気量に比例する。

粗銅が溶解する際に,銅とともに銅よりもイオン化傾向が大きい元素(鉱石由来の不純物として鉄,ニッケル,亜鉛等)も電解液中に溶け出すが,対極である純銅には析出しない。粗銅中の溶け出さなかった元素は電気分解が進むにつれて粗銅電極の下に沈殿して残る。この沈殿物をアノード(陽極)スライムと呼び,これには銀,金,白金等の貴金属が多く含まれることがある。

銅の電気精錬においては,二つの電極で次の反応が起こっている。

カソード極 : Cu2+ + 2e-1 → Cu
アノード極 : Cu → Cu2+ + 2e-1

純度の低い粗銅中の銅は,アノード極における反応で,電解質である硫酸水溶液に溶け出す。粗銅中の不純物のうち,鉄や亜鉛などの,銅よりもイオン化傾向が大きな金属はアノード極における反応で溶け出すが,対極で析出することなく電解液中に残る。一方,白金,銀といったイオン化傾向が銅より小さい金属は,電解液に溶けずにアノード極近傍に残る。このように電解反応を利用して銅を高純度化できる。ここで,溶解あるいは析出する銅の物質量はファラデーの法則に従い,電気分解において流れた電気量に比例する。

銅の電解精錬
図 銅の電解精錬
演習 銅の電解精錬に必要な電気量

銅(Cu)元素一つ当たり,二つの電子が必要がである。ファラデー定数 26.80 A·h/mol,銅の原子量 63.55 g/mol とすると,1 t(= 1,000,000 g)の銅を精錬するために必要な電気量は,次式で求められる。

2 × 26.80 A·h/mol × 1,000,000 g ÷ 63.55 g/mol ÷ 1,000 = 834.4 [kA·h]

亜鉛の電気分解

亜鉛は電気化学的に活性であり,マンガン乾電池では負極活物質として利用されている。鉄板の表面に亜鉛を被覆したものはトタンと呼ばれ,鉄の腐食を防ぐのに用いられている。これらの用途に使われる亜鉛は,主に電気分解によって作られる。

この亜鉛電解では,電解質として硫酸水溶液が用いられ,陰極で還元反応が起こり,亜鉛が析出する。この際,陰極に析出する亜鉛の質量は電気量に比例する。

イオン化傾向

なお,イオン化傾向(ionization tendency)とは,溶液中(おもに水溶液中)における元素(主に金属)のイオンへのなりやすさを表す。

金属のイオン化傾向を大きいものから順に配列すると以下のとおりになる。

Li, Cs, Rb, K, Ba, Sr, Ca, Na, Mg, Th, Be, Al, Ti, Zr, Mn, Ta, Zn, Cr, Fe, Cd, Co, Ni, Sn, Ob, Sb, Bi, Cu, Hg, Ag, Pd, Ir, Pt, Au

電池

電池(battery)は,エネルギーによって直流の電力を生み出す電力機器である。化学反応によって電気を作る「化学電池」と,熱や光といった物理エネルギーから電気を作る「物理電池」(例えば,太陽電池)の 2 種類に大別される。ここでは,「化学電池」を対象とする。

なお,電池の構成図(電池図)において,左側に記載するのは負極とすると定められている。

一次電池(充電できない)

一次電池は,放電と呼ばれる化学エネルギーを電気エネルギーへ変換することのみが一度だけ可能な電池である。

一次電池には,マンガン乾電池やアルカリマンガン乾電池などがあるが,近年主流となっているのは,アルカリマンガン乾電池である。

一次電池の構成要素
一次電池 正極 負極 電解質
マンガン乾電池 二酸化マンガン 亜鉛 塩化亜鉛
アルカリマンガン電池 二酸化マンガン 亜鉛 水酸化カリウム

アルカリ蓄電池は質量基準の濃度 30 % 程度の水酸化カリウムなどのアルカリ性水溶液を電解質とした二次電池の総称である。

二次電池(充電可能)

二次電池は,放電過程では内部の化学エネルギーが電気エネルギーに変換されるが,放電時とは逆方向に電流を流すことで,電気エネルギーを化学エネルギーに変換して「充電」という蓄積が可能な電池であり,一般には「蓄電池」や「充電式電池」と呼ばれる。

電池の電圧は,正極と負極の電位のによって決まる。二次電池に属する鉛蓄電池,ニッケル・水素電池及びリチウムイオン電池の中で公称電圧が一番高いのは,リチウムイオン電池である。

二次電池の充電速度は,原理的には電流に比例する。

二次電池の構成要素
二次電池 正極 負極 電解質
鉛蓄電池 二酸化鉛 PbO2 鉛 Pb 希硫酸
アルカリ蓄電池(エジソン蓄電池) 水酸化ニッケル 水酸化カリウム
アルカリ蓄電池(ニッケル-カドミウム蓄電池) 水酸化ニッケル Ni(OH)2 カドミウム Cd 水酸化カリウム KOH
リチウムイオン電池 リチウム遷移金属複合酸 炭素材料 有機溶媒

下記に代表的な二次電池の放電反応を示す。

鉛蓄電池の放電反応

鉛蓄電池は 1859 年,フランス人のガストン・プランテの発明による二次電池で,150 年以上の歴史をもち,自動車の始動用を始め,多くのところで利用されている。

(参考)ガストン・プロンテ

鉛蓄電池は,1959年にフランスの科学者ガストン・プランテ(1834 - 1889 年)により発明された。その電池は 2 枚の鉛板の間に 2 本のテープを挟んで円筒状に巻き,希硫酸中で充放電を繰り返して正極が二酸化鉛,負極が鉛の活物質を持つ鉛電池であった。

ガストン・プランテ
写真 ガストン・プランテ
(出典)フリー百科事典『ウィキペディア

鉛蓄電池の正極活物質としては二酸化鉛が用いられ,硫酸水溶液が電解液として用いられる。ここでの放電反応は次式で表される。

PbO2 + 2H2SO4 + Pb → PbSO4 + 2H2O + PbSO4

この電池で得られる理論電気量はファラデーの法則に従うが,ここではファラデー定数が重要な因子である。この定数として一般に 96 500 C/mol が用いられるが,二次電池の分野では電気量を [A·h] で表すことも多く,ファラデー定数をこの単位で表すと 26.8 A·h/mol となる。鉛蓄電池の電圧は水溶液を用いる電池として最も高く,公称電圧は 2.0 V である。この電圧は水の理論分解電圧よりも高く,自己放電が大きいことの一つの理由となっている。鉛蓄電池の放電の状態を知るためには電池電圧を測る方法のほかに,電解液の比重を測る方法も利用されている。この比重が小さいときには電池の放電が進んでいると判断できる。

負極:Pb + SO4- - 2e- → PbSO4
正極:PbO2 + 4H+ + SO42- + 2e- → PbSO4 + H2O
全反応:Pb + 2H2SO4 + PbO2 → 2PbSO4 + 2H2O

ニッケル・カドミウム電池の放電反応

ニッケル・カドミウム蓄電池は,アルカリ蓄電池の代表である。

負極:Cd + 2OH- - 2e- → Cd(OH)2
正極:2NiOOH + 2H2O + 2e- → 2Ni(OH)2 + 2OH-
全反応:Cd + 2NiOOH + 2H2O → Cd(OH)2 + 2Ni(OH)2

ニッケル・水素(化物)電池の放電反応

ニッケル・金属水素化合物電池の場合,充電状態では正極の活物質はオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)であり,放電するときにそれが還元される。この電池は,ハイブリッド自動車などの用途では急速に充放電を繰り返す。急激に放電するときの電池の電圧の値は,ゆっくり放電するときの電圧の値より低い。充放電を繰り返したときの性能低下を表す指標の一つとしてサイクル寿命がある。

負極:MH + OH- - e- → M + H2O
正極:NiOOH + H2O + e- → Ni(OH)2 + OH-
全反応:MH + NiOOH + H2O → M + Ni(OH)2

リチウムイオン電池

リチウムイオン電池は充放電が可能な二次電池であり,軽くてエネルギー密度が高いことから携帯電話,パソコンなどに広く用いられている。この電池の公称電圧は,一般におよそ 3.7 [V] である。電解液には,有機電解質が用いられ,イオン伝導性を向上させるためにリチウム塩を添加している。この電池の充放電反応は,正極と負極の間のリチウムイオンの移動によって行われるが,このとき,電解液中のリチウムイオンの濃度は変化しないので,ロッキングチェア形と呼ばれる。

リチウムイオン電池として実用化されている電池の正極には,主にコバルト酸リチウムが用いられている。負極としては炭素を用いるのが主体であるが,より高機能を目指した電池に向けて,両極の新規電極活物質の開発が進められている。この電池の充放電時の反応に関与する電子数はリチウムイオン 1 個当たり 1 個である。

リチウムイオン電池(lithium-ion battery)
正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う 2 次電池。電極材料にはさまざまなものが使われるが,正極に炭素(グラファイト),負極にコバルト酸リチウムを用いることが多い。正極板と負極板をセパレータで挟んで何層も積み重ね,全体を有機溶媒の電解質で満たした構造になっている。(出典)電気事業講座 電気事業辞典

燃料電池(fuel cell)

水素」と「酸素」を化学反応させて,直接「電気」を発電する装置である。燃料電池の燃料となる「水素」は,天然ガスやメタノールを改質して作るのが一般的である。「酸素」は,大気中から取り入れる。

燃料電池は動作温度により,低・中温形,高温型,超高温形に分けられる。650 °C 付近で液体電解質を用いて作動させるものとして溶融炭酸塩形燃料電池があり,それ以上で 1 000 °C 程度までの温度で作動させるものとして,酸化ジルコニウム系の電解質を用いた固体酸化物形燃料電池がある。

燃料電池のメリットをまとめると,以下の通り。

  1. 発電と同時に熱が発生する。発電した電気と,発生した熱を利用することで,総合エネルギー効率を高くできる。
  2. 発電時には,水しか排出されない。また,振動や騒音も生じない。
  3. 都市ガス,メタノールなどの燃料や水の電気分解など,さまざまな方法で燃料となる水素を取り出すことができる。
燃料電池の原理

燃料電池は,原図的には下図に示すように電子伝導体の空気極(カソード)と燃料極(アノード)およびイオン伝導帯の電解質から構成される。カソードには酸化剤として一般に酸素が供給され,アノードには水素等の燃料が供給される。燃料電池は,電解質を介して酸化反応および還元反応を起こし,その反応過程で生じる起電力を取り出す。

燃料電池の原理図
図 燃料電池の原理図
水素・酸素燃料電池

水素・酸素燃料電池では,水素ガスを 1 モル消費すると,電子が 2 モル流れる。このとき必要な空気の体積は,水素の 2.5 倍である。家庭用燃料電池では,主に都市ガスを原燃料として水との反応で水素を含むガスを製造して燃料電池スタックの燃料とし,空気を酸化剤として運転する。このときの開回路電圧の値は,純粋な水素と酸素を燃料電池スタックに供給するときの電圧の値より低い

燃料電池の方式

燃料電池は,使用する電解質の種類によって主に 4 種類の燃料電池の方式がある。

  • 固体高分子形燃料電池(PEFC)
  • りん酸形燃料電池(PAFC)
  • 溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)
  • 固体酸化物形燃料電池(SOFC)
燃料電池の理論熱効率

燃料電池の理論熱効率は,電気エネルギーへ変換されるべき燃料の燃焼反応のギブズエネルギー($\Delta G$)とエンタルピー($\Delta H$)より,式 $\displaystyle \frac{\Delta G}{\Delta H}$ で表される。

燃料電池は小型化しても効率が良いので,分散型発電としての適用性に優れており,併せてコージェネレーションシステムとして用いれば熱利用率の向上も期待でき,総合効率の更なる向上につながる。

電池の容量と効率

二次電池において,所定の条件で充電し,次いで放電した場合,充電電気量に対する放電容量の比に 100 を乗じ,百分率で表したもののことを充放電効率という。

充放電効率 [%] = 放電容量 [A·h] / 充電電気量 [A·h] × 100

本稿の参考文献

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