【要点ノート】空気調和

2021年4月6日作成,2023年12月16日更新

はじめに

エネルギー管理士試験 電気分野 課目Ⅳ:電力応用の空気調和の解説ノートである。

目次

空調の基礎

空調は空気調和の略称である。建築物衛生法(通称「ビル管理法」,正式名称は「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」)では,「外から取り入れた空気等を浄化し,その温度,湿度,及び流量を調節して供給することができる機器及び附属設備」を空調設備として定義している。空調設備が備える機能としては,主に以下の四つがある。

  • 冷暖房のような温度管理機能
  • 加湿・除湿器のような湿度管理機能
  • 空気の流れを作る換気機能
  • 空気を濾過する浄化機能

現在,建築物の管理者は建築物衛生法で規定される建築物衛生管理基準に従って建築物を管理することが義務付けられており,空調設備についても,上記の四つの機能が一定の基準を満たすように維持管理しなければならない。

人体と熱および空気環境

室内の環境基準

事務所ビルなどの室内環境基準としては,「建築基準法」や「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(略称:建築物衛生法)において,気温 17 ~ 28 [°C],相対湿度 40 ~ 70 [%],CO 濃度 10 [ppm] 以下,CO2 濃度 1 000 [ppm] 以下,などと定められている。

実際の空調設計用室内温湿度としては,一般に夏季は気温 25 ~ 27 [°C] 前後,相対湿度 50 ~ 60 [%] 前後,冬季は気温 20 ~ 22 [°C] 前後,相対湿度 40 ~ 50 [%] 前後が用いられる。

夏季の冷房運用時,政府が提唱するクールビズでは,室温 28 [°C] が推奨値となっている。高い気温で快適性を維持するには,ある程度湿度を低く保つことが求められ,特に放射冷房を行う場合は,結露を生じさせないという観点からも,低湿に保つ必要があるが,過度な除湿はエネルギー消費量を増大させる。

除湿方法のうち,除湿剤を用いたデシカント方式は,除湿剤の再生に廃熱が利用できるという省エネルギー上の利点を持つことで近年注目されている。

冬季の暖房運用時,全空気式の空調方式に放射暖房を併用すれば,室温は少し低めでも放射効果により快適な温熱感を得ることができる。放射効果に相当する分の循環風量を減らせばドラフト感も低減されることで快適性はより向上することが期待できる。

一方,室内の相対湿度は,主に外気導入により低くなるため加湿が必要となる。全空気式の空調方式の場合,より効果的な加湿場所は,一般に外気と還気の混合部以降である。

近年,大気中の CO2 濃度が高まっているため,室内 CO2 濃度の基準達成のために外気を導入する場合には,従来に増してきめ細かな配慮が必要である。

空気調和設備を設けている場合の空気環境の基準

空気調和設備を設けている場合は、居室において、下表の基準におおむね適合するように、厚生労働大臣が定める「空気調和設備等の維持管理及び清掃等に係る技術上の基準」に従い、空気調和設備の維持管理に努めなくてはなりません。

表 空気調和設備を設けている場合の空気環境の基準
浮遊粉じんの量 0.15 mg/m3
一酸化炭素の含有率 100 万分の 10 以下(= 10 ppm 以下)
※特例として外気がすでに 10 ppm 以上ある場合には 20 ppm 以下
二酸化炭素の含有率 100 万分の 1 000 以下(= 1 000 ppm 以下)
温度 (1) 17 °C 以上 28 °C 以下
(2) 居室における温度を外気の温度より低くする場合は,その差を著しくしないこと。
相対湿度 40 % 以上 70 % 以下
気流 0.5 m/秒 以下
ホルムアルデヒドの量 0.1 mg/m3 以下(= 0.08 ppm 以下)

換気の種類

換気とは,工場や業務施設等の室内環境を居住や生産等に適した状態に保つため,室内の空気を外気などの正常な空気に入れ替えることである。

換気方式

換気方式には強制換気方式と自然換気方式がある。

強制換気方式

このうち強制換気方式は大きく 3 種類に分類でき,給気を機械的に行い排気は自然排気によるものを第二種換気,排気を機械的に行い給気は自然吸気によるものを第三種換気,給気と排気ともに機械的に行うものを第一種換気と呼んでいる。

表 強制換気方式の分類
種別 説明
第一種換気 給気と排気ともに機械的に行うもの
第二種換気 給気を機械的に行い排気は自然排気によるもの
第三種換気 排気を機械的に行い給気は自然吸気によるもの

強制換気に使用されるファンの所要軸動力は,送風量,吐出圧及びファン効率から算出できる。例えば,ファンの送風量を 7 200 m3/h,ファンから得た空気の全圧を 500 Pa,ファンの効率を 80 % とすると,所要軸動力は 1.25 [kW] となる。

自然換気方式

自然換気には,風の有する動圧を利用する風力換気と,建物内外の空気の密度差を利用する温度差換気とがある。

自然換気方式は,ファン動力が不要であり,風力や温度差によって生じる室内外の差圧を駆動力として換気を行うもので,換気量は,この差圧 $\Delta p$ を使って次式で求めることができる。

換気量 = 開口部の流量特性に係る係数 × 開口面積 × $\sqrt{\Delta p}$

また,風力によって生じる差圧は風速の 2 乗に比例する。

風力換気と温度差換気

風力換気に関しては,動圧は外壁に風が当たって生じる内外の差圧 $\Delta p_1$ によって生じ,その差圧は次式で表される。

\[ \Delta p_1 = C\frac{\rho w^2}{2} \text{ [Pa]} \]

ここで,$w$ [m/s] は風速,$\rho$ [kg/m3] は空気の密度,$C$ は風圧係数と呼ばれ,風の動圧が静圧に変換される割合を示す。

温度差換気が生じるのは,建物内外の温度差がもたらす内外の空気の密度差によって生じる外壁での内外の圧力差のためである。通常,建物内には階段やエレベータがあり各階間の気密度は高くないため,この圧力差 $\Delta p_2$ は建物全体に対して次式で表される。

\[ \Delta p_2 = \Delta p \cdot g(z - z_\text{n}) \text{ [Pa]} \]

ここで,$\Delta \rho$ [kg/m3] は内外の空気の密度差,$g$ [m/s2] は重力の加速度,$z_\text{n}$ [m] は中性帯高さと呼ばれ内外の圧力差がなく換気が生じない高さ,$z$ [m] は任意の位置の高さを示す。式から分かるように,高層の建物では $\Delta p_2$ が大きくなり,これによって生じる換気量も大きく省エネルギー上好ましくない。

室内の気温が室外より高い冬季には,空気密度が室外より室内の方が小さく,建物の下部では,圧力は室外より室内の方が低い。したがって,外壁の気密度を高くすることや,安全性に配慮した上で玄関に回転ドアを設けるなどという工夫が必要である。

ハイブリット換気

最近(平成21年度試験時),省エネルギーの面から自然換気と強制換気を組み合わせた換気方式が注目されている。これはハイブリット還気と呼ばれる。

室内における適正な換気量

空気調和において,新鮮な外気の取り入れによる換気は,室内の良好な空気質の維持のためには必要不可欠であるが,一方で,外気の導入は大きな空調負荷となることから,空気質の維持と省エネルギーの両立を図るためには,適切な換気量を維持することが極めて重要である。

ここで,室内における適正な換気量について考える。

室内に汚染質の発生があり,換気のために導入している外気中にも一定の汚染質が含まれているとき,定常状態における室内の汚染質の濃度 $\sigma$ は,拡散を完全拡散と仮定すると,次の式で表される。ただし,単位は汚染質が気体の場合の例とする。

\[ \sigma = \sigma_0 + \frac{q}{Q} \]

ここで,$\sigma_0$ [m3/m3] は外気汚染質濃度,$q$ [m3/h] は汚染質発生量,$Q$ [m3/h] は換気量を表す。

一般に,事務所ビルなどの居室の室内換気量は,居住者からの呼吸により排出される CO2 を汚染質の対象として,その濃度が法で定める基準値以下となるように決められる。CO2 濃度に関する居室の室内環境基準値は,「建築基準法」や「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」によって,1 000 [ppm] 以下と定められている。

CO2 濃度

室内換気量は,環境基準値を満たす室内 CO2 濃度の許容値,室内の CO2 発生量,及び外気の CO2 濃度を設定することにより算出できる。ここで,外気の CO2 濃度については,従来は,一般に 300 ppm 程度として算出していた。しかしながら,近年,大気中の CO2 濃度は世界平均で 400 [ppm] にまで上昇しているのが実態である。

CO2の許容値を法的な環境基準値 1 000 [ppm] とし,外気の CO2 の現状 400 [ppm] を考慮すると,室内換気量は,外気の CO2 濃度が 300 ppm のときと比べて,外気の濃度変化だけの単純計算では,約 1.2 倍に増加させる必要があることが分かる。

また,換気量を 2 倍にするか,あるいは汚染質の発生量を 0.5 倍にすることで,汚染物質による外気濃度から濃度の増加分を半分に抑えられることがわかる。

居室の室内環境基準の一つに CO2 濃度がある。CO2 濃度を法律で定める許容値以下に保つためには,外気導入による換気が必要不可欠であり,必要な外気導入量は次式で求められる。

1 人当たりの外気導入量 [m3/(h·人)] = 1 人当たりの CO2 発生量 [m3/(h·人)] / (室内の CO2 濃度許容値 [%] - 外気中の CO2 濃度 [%]) × 100

換気量は換気回数でも表され,例えば天井高さ 3 m で在室者密度が 0.2 人/m2 の居室において,30 m3/(h·人) の外気を導入しているときの外気量は,換気回数 2 [回/h] に相当する。

室内で粉塵が発生する室

室内で粉塵が発生する室を考える。粉塵の室内発生量を 50 mg/h,外気粉塵濃度を 0.1 mg/m3 とした場合,この室に外気を取り入れて,すなわち換気して,室内粉塵濃度を 0.15 mg/m3 以下に抑えるために最低限必要な空気取入量は 1 000 [m3/h] である。

この室を,空気調和により室温の維持なども行いたい場合,省エネルギーのためには換気のための外気取入量を最小限にする必要がある。そのためには,直接外気を取り入れる換気方式ではなく,室の空気の一部を循環して外気と混合し,その空気をエアフィルタを用いて処理して室に給気する方式が適切である。一般の建物の空気調和に用いるエアフィルタの粒子捕集率試験方法としては,やや微細な粉塵用には比色法又は光散乱積算法,やや粗粒な粉塵用には質量法が用いられる。

機械換気設備を設けている場合の空気環境の基準

建築物衛生法において、機械換気設備とは、「外から取り入れた空気等を浄化し、その流量を調節して供給することができる設備」をいう。すなわち、空気調和設備のもつ機能のうち、温度調節及び湿度調節の機能を欠く設備のことである。

機械換気設備を設けている場合は、居室において、下表の基準におおむね適合するように、厚生労働大臣が定める「空気調和設備等の維持管理及び清掃等に係る技術上の基準」に従い、機械換気設備の維持管理に努めなくてはならない。

表 機械換気設備を設けている場合の空気環境の基準
浮遊粉じんの量 0.15 mg/m3 以下
一酸化炭素の含有率 100 万分の 10 以下(= 10 ppm 以下)
※特例として外気がすでに 10 ppm 以上ある場合には 20 ppm 以下
二酸化炭素の含有率 100 万分の 1 000 以下(= 1 000 ppm 以下)
気流 0.5 m/秒 以下
ホルムアルデヒドの量 0.1 mg/m3 以下(= 0.08 ppm 以下)

空気調和の熱負荷

一般的なオフィスの空調機の熱負荷は,室負荷とその他の負荷に分類され,室負荷は更に外からの侵入熱あるいは外への放出熱と室内発生熱に分けられる。また,負荷の性質としては大きく,顕熱負荷と潜熱負荷に分けられる。ここで,冷房時における空調機の熱負荷について考える。

例えば,日射熱負荷,人体発熱負荷,取入れ外気負荷のうち,顕熱負荷と潜熱負荷の両方を持つ負荷は日射熱負荷と取入れ外気負荷である。

外部から侵入する室顕熱負荷

冷房時において外部から侵入する単位時間当たりの主な顕熱負荷とその算定式は次表のように示すことができる。

表 外部からの顕熱負荷と算定式
負荷 負荷算定式
窓の貫流熱 窓の熱貫流(通過)率 × 窓の面積 × (外気温 - 室温)
外壁の貫流熱
(日射等影響含む)
外壁の熱貫流(通過)率 × 外壁面積 × 実行温度差
窓から入る日射熱 日射熱取得率 × 窓面積 × 窓に入射する単位面積当たり日射量
侵入外気の熱負荷 空気の比熱 × 侵入外気量 × 室内外温度差

ここで,熱貫流(通過)率については断熱材の使用によって,日射熱取得率については,ブラインドやカーテン,熱線反射フィルムなどを用いることによって低く抑えることができ,結果として大幅な負荷の低減が可能となる。

貫流熱負荷

冷暖房時の負荷となる外壁,窓などからの貫流熱負荷について考える。

貫流熱負荷の大きさは外壁や窓の断熱性能によるところが大きく,その断熱性能の指標としては,一般に $U$ 値と呼ばれる熱貫流率(熱透過率)が用いられ,次式で表される。

$U$ = 1 / 熱貫流抵抗 = 1 / (屋外側表面熱伝達抵抗 + 外壁又は窓の熱抵抗 + 屋内側表面熱伝達抵抗)

例えば,最も簡単な単板ガラス窓における $U$ 値を求めてみる。屋外側表面熱伝達率 $\alpha_\text{o}$ が 23 W/(m2·K),屋内側表面熱伝達率 $\alpha_\text{i}$ が 9 W/(m2·K),ガラスの熱抵抗が 0.01 m2·K/W であるとすると,$U =$ 6 [W/(m2·K)] が得られる。

\[ U = \frac{1}{1/23 + 0.01 + 1/9} = 6.075 \]

貫流熱負荷は,この $U$ 値に内外の温度差と対象面積を乗じて求められる。ただし,外壁は日射の影響及び壁体の熱容量の影響があることを考慮し,外壁貫流負荷の計算では,実効温度差と呼ばれる値が用いられることが多い。

ガラス窓は,ⅰ) における $U$ の試算値が一般の外壁よりはるかに大きいことから分かるように,単板ガラスを用いた場合,断熱性能が外壁より大きく劣る。窓の断熱性向上のためには,ガラスを二重にして中空層を設けるなどの方法があり,例えば,中空層を真空にすることで,理論的には対流成分を皆無にすることが可能となる。

窓ガラスの日射熱取得性の指標 : 日射熱取得率 $\eta$

窓ガラスの日射熱取得性の指標としては,日射熱取得率 $\eta$ が用いられる。

単板ガラスの場合には,ガラスの透過率を $\tau$,吸収率を $a$,反射率を $\rho$ とすると,$\eta$ は屋外側表面熱伝達率 $\alpha_\text{o}$ 及び屋内側表面熱伝達率 $\alpha_\text{i}$ を用いて次式で表される。

\[ \eta = \tau + \frac{a \alpha_\text{i}}{\alpha_\text{i} + \alpha_\text{o}} \]

ⅱ) 近年,可視域での日射を透過させつつ近赤外域の透過を抑えることで,窓に求められる採光性,開放感,眺望性を確保しながら日射熱負荷を抑制するガラスも開発されている。その中で,夏季の日射熱取得率が 0.5 未満のものを日射遮断型 Low - Eガラスと呼んでいる。

室内で発生する室顕熱負荷

冷房時において室内で発生する単位時間当たりの主な顕熱負荷とその算定式は次表のように示すことができる。

表 室内で発生する顕熱負荷と算定式
負荷 負荷算定式
照明発熱 床面積当たり照明用電力消費量 × 床面積
人体発熱 一人当たりの顕熱 × 在室人数

ここで,床面積当たりの照明用電力消費量については,LED の使用,設定照度の抑制,昼光利用などにより低く抑えることができ,負荷の低減が可能となる。また,床面積当たりの照明用電力消費量はすべてが室負荷とならない場合もある。

室潜熱負荷

外部から侵入する室顕熱負荷,室内で発生する室顕熱負荷で顕熱負荷として示した負荷の中で,更に潜熱負荷としても考慮する必要があるものは,侵入外気の熱負荷及び人体発熱である。

建物外皮

熱負荷の大きさや室内温熱環境は建物外皮を通しての負荷に左右され,特にペリメータゾーンにおいてその影響は大きくなる。

ペリメータとは,オフィスや家庭内の窓際など外気や日光の影響を受けやすい壁際の部分を指すもので,ペリメータゾーンとも呼ばれる。

建物外皮を通しての負荷と室内発生負荷とは,相反する負荷となることもある。例えば,冬期に貫流熱が暖房負荷,室内の発生熱が冷房負荷として同時発生したときなどであるが,その処理をそれぞれ個別に処理するシステムとした場合には,いわゆる共用損失が生じないような配慮が必要となる。

その他の空調機負荷

空調機で処理する熱負荷は,室負荷だけでなくその他の負荷として,顕熱負荷と潜熱負荷の双方を持つ取入れ外気負荷や顕熱負荷のみの送風機発熱負荷などを加えたものになる。

冷媒

蒸気圧縮ヒートポンプの冷媒

蒸気圧縮ヒートポンプの冷媒として用いられるフロンには,オゾン層破壊や地球温暖化などの環境上の課題がある。フロンの中でも CFC は,成層圏でのオゾン層で太陽光によって分解されてオゾン層を破壊する力が大きいので,すでに全廃されてから 10 年以上が経過している。オゾン破壊係数が 0 であるいわゆる代替フロンといわれている HFC も,地球温暖化係数が大きいため,今後の仕様の大幅削減に向けて取組み中であり,代替冷媒の普及が待たれる。

吸収冷凍機の冷媒

一方,一般の吸収冷凍機の冷媒はであり,環境上の問題はない。しかし,成績係数については,蒸気圧縮式の消費電力を一次エネルギー換算して比較すると,一般に吸収式の方が低くなる。

空気調和システム

空調設備は,大きく熱源設備,空気調和機設備,熱搬送設備及び自動制御設備で構成されている。空調設備の省エネルギーでは,これら個々の設備ごとの効率向上だけでなく,総合的なエネルギー効率の向上が求められる。

空調設備の方式と配管設備の設計

全熱交換器

全熱交換器は,空調している室内からの排気と取り入れ外気との間で顕熱と潜熱の熱交換を行う空気対空気の熱交換器で,回転式や固定式の吸放熱・湿材を使用して,取り入れ外気と排出空気との間で熱交換を行うことで全熱を回収するものである。

全熱交換器は,外気負荷の低減を目的としたものであり,取り入れ外気量と排出空気量が等しい場合には,通常 40 [%] 前後の全熱交換効率が期待できる。

全熱交換器の使用上の留意点として次のようなことが挙げられる。

  • 一般に,冷房時において排出空気の非エンタルピーが外気より高い場合には,運転を停止し外気をバイパスするように制御すると省エネルギーになる。
  • 回転するタイプを使用するときは漏気の恐れがあるので,排気ファンは全熱交換器に対して吸い込み側に設置する。
  • 通過する空気の質があまり良くないと,経年とともに効率が低下するので,全熱交換器の上流側にエアフィルタを設け,またその保守を十分に行う必要がある。

空調設備の搬送システム

空調設備の搬送システムにおいて,搬送される流体は主として水や空気などであるが,次に示す式は,それらの配管系やダクト系を流れる非圧縮性の流体のエネルギーの保存則を示すもので,ベルヌーイの方程式と呼ばれる。

\[ P + \frac{\rho v^2}{2} + \rho gz = \text{const} \]

上式において,$v$ は系のある場所の流体の管路断面平均流束,$z$ は基準面からの高さであり,$\rho$ は流体の密度,$g$ は重力の加速度である。

上式における第一項 $P$ は静圧,第二項 $\displaystyle \frac{\rho v^2}{2}$ は動圧,第三項 $\rho gz$ は位置圧を意味し,第一項と第二項の合計を全圧という。

流体を扱う場合は配管系及びダクト系ともにこの上式を用いるが,そのうちダクト系については,第三項の影響が非常に小さいため,通常はその分は考慮しなくてもよい。

実際の系における流体では,上式に対して摩擦抵抗による圧力損失を考慮する必要がある。例えば,円形ダクトによる空気搬送の場合では,直管部の圧力損失 $\Delta P$ は次の式で与えられる。

\[ \Delta P = \lambda \frac{l}{d}\times(\frac{\rho}{2}\times v^2) \]

ここで,$\lambda$ は摩擦抵抗係数,$l$ はダクトの長さ,$d$ はダクトの直径である。

水搬送系

空調設備の水搬送系では,全揚程(圧力)は 50 ~ 500 [kPa] の範囲であることが多い。また,流速は 0.5 ~ 3 m/s の範囲であることが多く,この値を用いて,水の密度を 1 000 kg/m3 とすると動圧は概ね 0.13 ~ 5 [kPa] の範囲となり,動圧は全揚程(圧力)に対する比率が小さいので無視して考えてよい。

また,省エネルギーの計画に当たっては,管路中の静圧が,管路での圧力損失や動圧との変換によって絶えず変化することと,管路での圧力損失が最終端末器具の圧力損失に対してはるかに大きいことに留意する必要がある。

変流量方式

空気調和設備の搬送系の省エネルギーには変流量方式の採用が効果的であり,近年ではインバータを用いて電動機に供給する電気の周波数を制御してファンやポンプの回転速度を変え,変流量とする方式が普及してきている。ファンや閉回路で運転するポンプの回転速度を変えて変流量制御を行う場合,理論上は回転速度が 1/2 になると,流量は 1/2 に,圧力は 1/4 に,軸動力は 1/8 になる。

回転速度を変えて変流量制御を行う場合であっても,実際の搬送システムでは,系内に多数のサブシステムがあり,この中には定格値に近い流量を必要とする系統もあるため,システム全体の流量が少なくなっても圧力を下げられないことがある。この場合,吐出し圧力を一定に維持する制御方法が採用されることが多いが,より省エネルギーを図るためには,回転速度制御を活用して,末端の制御弁の解度をできるだけ大きくする制御方法が好ましい。

搬送エネルギーの削減

搬送エネルギーの削減のためには,冷水や温水の流量を減らすのが効果的であるが,そのためには,負荷が同じでも冷温水の往き温度と還り温度の差を大きくする方法がある。また,空調負荷は外気温度や日射の有無によって時間的に大きく変動するので,インバータを用いて空調負荷に合わせて流量を変化させる方法も多く用いられている。

ちなみに,ポンプ特性として理論上では,回転速度制御方式を用いてポンプの回転速度を 1/2 にすると,流量は 1/2 になり,外圧は 1/4 になり,軸動力はさらに小さくなるため,大きな省エネルギー化を図れることになるが,実用する系においては,実揚程の有無などを考慮した効果の検証が必要である。

全空気式セントラル方式の省エネルギーを目的とした改修

既存の全空気式セントラル方式の空調システムを,省エネルギーを目的に改修することを考える。1 台の空調機で,類似した負荷を持つ複数の室の空調を行う場合には,代表室の温度又は還気の温度を用いて温度制御を行うのが一般的である。しかし,室の負荷が異なる場合,この方式では,室による温度のばらつき,すなわち過冷や加熱が生じやすい。これは環境衛生的にも不都合であり,エネルギーの無駄である。

これを改善するためには,次のような方法でゾーニングを行うのが良い。

  1. 室あるいは小ゾーンごとに変風量方式とする。室の二酸化炭素濃度が上昇するなどの換気上の制約がある場合は,そのゾーンの下限風量を設定する。
  2. 著しく負荷変動の異なる室にはファンコイルユニットを設けて個室制御を行い,ほかは,セントラル方式で,あるいは,適当なゾーンに分けて 1. の方式を適用する。
  3. ダクト系統がほぼ負荷ゾーンごとに分けられている場合,ゾーンごとに変風量方式とするか,又はブースタコイルを用いてゾーン制御を行い,空調機主コイルは給気温度で制御し,さらにこれを外気温度に連動させて簡易に最適化設定を行うのが良い。

湿り空気線図

湿り空気線図(Psychrometric Chart)は,線図上に,乾球/湿球温度/露点温度,絶対/相対温度,エンタルピーなどを記入し,その中から 2 つの値を求めることにより,湿り空気の状態が分かるようにした線図のことである。空気線図湿度線図ともいう。

湿り空気の熱的性質を標準大気圧(= 101.325 kPa)を基本として,比エンタルピー $h$ と絶対温度 $x$ を座標軸にとって斜交座標系とし,線図化したものを湿り空気 $h-x$ 線図という。

単一ダクト空気調和システム

図は,単室に設けられた単一ダクト空気調和システムに関して,冷房時の状態変化を湿り空気線図上に描いたものであり,状態点を A ~ E で示す。

冷房時の状態変化(単一ダクト空気調和システム)
図 冷房時の状態変化(単一ダクト空気調和システム)

1) 取入れ外気は室内からの還気と混合され冷却・除湿されて室に供給される。室内は気温 26 °C,相対湿度 50 % であり,この状態を維持することを考える。外気の状態は気温 35 °C,相対湿度 50 % であり,混合される還気量を取入れ外気量の 2 倍とすると,混合空気の温度は 28 [°C] で,その相対湿度は 50 % より高くなる。このとき,冷水コイル入口の冷水温度は少なくとも混合空気の露点温度以下でなければならない。

2) 図で取入れ外気の状態を示すのは状態点 E である。室に供給される空気の状態は状態点 B で表され,これと室の状態点 C とを結ぶ直線の傾きは顕熱比を表す。例えば,室の全熱負荷が 10 kW,顕熱負荷が 8 kW のとき,この比の値は 0.8 である。この比が小さい運転条件では,室の設計温湿度条件を維持するために,室に供給される空気を再熱する必要が生じることもあるが,これはエネルギー使用量が増加するため,空調対象の負荷と温湿度条件の要求精度を考慮して決定する。なお,図では送風ファンやダクトでの加熱による状態変化を無視している。

空調用の送風機

空調用の送風機(ファン)は,空調機,冷却塔,ファンコイルユニット,一般の換気など多くの用途に用いられ,求められる運転特性に応じて機種が選択される。

送風機の機種としては,空調機の送風用などとしてシロッコファンが最も汎用的に用いられ,その他効率の良い翼型断面羽根を持つターボファンなども用いられる。

送風機の回転速度と特性値

省エネルギー管理

エネルギー効率利用の指標

空調設備に関しては,種々のエネルギー評価指標を用いて,工場等のエネルギーの使用状況やエネルギー性能等の評価を行うことができる。次の表は,それらのエネルギー評価指標の例を示したものである。

表 エネルギー評価指標の例
性能評価指標の例
指標($X$)
性能評価指数 $\displaystyle X=\frac{B}{A}$
分母($A$) 分子($B$)
原単位評価 単位面積当たり年間熱負荷 延床面積
空調面積 他
年間熱負荷
単位面積当たり時間最大熱負荷 時間最大熱負荷
PAL 室内周囲空間の床面積 [m2] 室内周囲空間の年間熱負荷 [MJ/年]
効率評価 効率 ボイラ効率 燃料の熱量 発生熱量
全熱交換器効率 排熱量 回収熱量
成績係数 COP 入力エネルギー 出力エネルギー
APF(エアコンディショナ) 期間入力エネルギー 期間出力エネルギー
IPLV(主に中大型冷凍庫)
環境効率 BEE(環境性能効率) 建築物の環境負荷($L$) 建築物の環境品質($Q$)
IPLV (Integrated Part Load Value)

IPLV (Integrated Part Load Value) の計算式を次式に示す。

IPLV = 0.01 × A + 0.42 × B + 0.45 × C + 0.12 × D

ただし,A は 100 % 負荷時の COP,B は 75 % 負荷時の COP,C は 50 % 負荷時の COP,D は 25 % 負荷時の COP である。意味としては、冷却運転時で 100 % 負荷時は年間の運転時間の 1 %,75 % 負荷時は年間の運転時間の 42 %,50 % 負荷時は年間の運転時間の 45 %,25 % 負荷時は年間の運転時間の 12 % となり、その合計を表している。この運転時間の率は米国の 29 都市のチラーが採用されている建物のデータから決められたものである。この期間成績係数により、年間での冷却運転効率が良いかどうかの指標となる。

原単位評価と相対評価

空気調和システムのエネルギー性能評価方法には,原単位で評価する方法と相対的に評価を行う方法とがある。

原単位評価

原単位評価として一般的なものは,床面積 1 m2 当たりの年間の一次エネルギー消費量で評価するものである。一般の事務所ビルの場合,そのビルの全エネルギー消費原単位は 1 000 ~ 2 000 [MJ/(m2·年)] 程度であり,空調用エネルギー消費量はこのうちの 45 [%] 程度を占める。この空調用エネルギー消費量のうち,熱源用と搬送用との比は,空調方式によっても異なるが,中央熱源方式では 3 : 2 程度の場合が多い。

相対的な評価

相対的な評価としては,機器の冷房(又は暖房)能力 / 機器の入力エネルギー で表す成績係数があり,熱源機のこの値を二次エネルギー基準で表すと 6 を超えるものがある。また,「建築物に係るエネルギーの使用の合理化に関する建築主等及び特定建築物の所有者の判断の基準(最終改正平成21年1月30日)」において,建築物の空調用エネルギーの効率的利用の指標は,空調システムの 一次エネルギー消費量 [MJ/年] / 仮想空気調和負荷 [MJ/年] で示され,事務所ビルに対する基準値は 1.5 以下と定められている。この効率的利用の指標は,一般に CEC/AC と呼ばれている。

空気調和設備の省エネルギー

設計における考慮事項

1) 熱源の選定時には,成績係数が大きく,部分負荷効率も高く,年間を通して高効率を維持する機器を選定するのが基本である。例えば,ターボ冷凍機などでは,機関の成績係数を示す指標に IPLV があり,この指標を参考に選択することも考えられる。

2) 立地や負荷条件等に応じて,最適な機器やシステムを選択することも肝要である。例えば,冷暖房負荷が同時発生する頻度が高ければ,その条件を生かして成績係数の向上が期待できる熱回収ヒートポンプを熱源機器として採用することが考えられる。

3) 部分負荷時の効率低下を抑える対策としては,機器の台数分割によって部分負荷運転を極力少なくするのが効果的であり,同時に補機動力の削減効果も期待できる。蓄熱空調方式の採用により,熱源の部分負荷運転を少なくすることも考えられる。

日常の管理

空気調和設備の省エネルギーでは,次のような日常の管理が重要である。

1) 冷温水の温度の管理は,本来,負荷側の要求によって定まるものであるが,設備の制約の範囲内で,冷水温度はできるだけ高く,温水温度はできるだけ低く設定するのが望ましい。冷温水の温度設定が適切であるか否かは室内温湿度状態の監視により判断する。

2) 水質管理も重要であり,特に,冷熱源の冷却塔,冷却水配管,蓄熱槽においては,よりきめ細かなスケール防止,腐食防止の管理を行わねばならない。

3) 空気ろ過器の清掃,取替えも必要である。空気ろ過器を取り外して運転すると空気清浄化に支障があるばかりでなく,過風量を生じエネルギー損失を招くことがある。

建築の省エネルギー

建築の省エネルギーにおいて,近年,ヒートポンプによる自然エネルギーの利用や排熱の有効活用が重要性を増している。自然エネルギーのうち,大気や太陽熱利用のエネルギーは,両者共時間による変動が大きいこと,広く希薄に分布することなどが挙げられるが,地下水はこれらが比較的少なく安定した熱源としてりようされている。ただし,地盤沈下の防止や地下水の保全のために,利用後の排水を放流する方式ではなく還元井戸方式が望ましい。

大気は無尽蔵にある熱源であり,放熱源としては大半の冷房に利用されているが,暖房の熱源としての利用は,冬季の低温期に昇温を生じるので,補助熱源が必要となる場合もあり,総合的な COP が低下する点に注意が必要である。太陽熱を 15 ~ 25 °C の低温で集熱し,これをヒートポンプで適切な温度に昇温すれば太陽熱の利用効率が高くなる。

外気量の制御

コージェネレーション(熱電併給)

コージェネレーション(コージェネ)は「熱電供給」とも呼ばれ,発電を行う一方で,熱の有効活用も行う形態一般を指す。

冷凍機

冷凍機の成績係数は,冷媒の蒸発温度が高いほど大きくなり,一方,凝縮温度が低いほど大きくなる。したがって,冷凍機の冷水出口温度を上げれば省エネルギーになるので,例えば,軽負荷期間にそれを実施すれば,冷房環境に支障を与えることなく省エネルギーが可能となる。

冷凍機の冷水出口温度を上げると,配管や,蓄熱槽がある場合は蓄熱槽からの熱取得が減少することにより,更に省エネルギー上は優位に働く。

冷凍機の二次側システムを併せて考えると,二次側が定流量方式の場合は,冷水温度を上げることによって,システム全体としても省エネルギーになるが,一方,変流量方式の場合は,送水量が増大するためにポンプ用エネルギーが増大し,システム全体としてのエネルギー消費量が大きくなる場合がある。

このように,省エネルギーを考えるときは,単に熱源の効率化だけではなく,空調システム全体としての総合的なエネルギー効率の向上を図ることが必要である。

冷凍機の熱交換器部分の管の汚れは,成績係数の低下やサージングが起こる原因になるので,管の汚れが考えられるときには,冷凍機の凝縮器,蒸発器,その他の熱交換器の清掃を行うと良い。

冷凍機の種類

蒸気圧縮式冷凍機

蒸気圧縮式冷凍機は,圧縮機,蒸発器,凝縮器などで構成され,冷房運転時には,蒸発器で冷媒を蒸発させて水や空気を冷却する。冷却水温度の低い中間期などには圧縮機の回転速度を制御して,高い成績係数(COP)を確保することができるものもあり,冷水温度 7 °C 仕様で最高 COP は 18 前後に達する。COP の値は運転条件によって変わり,蒸発温度が等しい場合,凝縮温度が低いほど大きくなる。

吸収式冷凍機

吸収式冷凍機は,冷媒と吸収液を使用する冷凍機で,蒸発器で蒸発した冷媒を吸収液に吸収させ,これを再生器で加熱して冷媒を凝縮させて分離する。加熱にはボイラなどからの蒸気や温水を用いるものと,燃料を機内で燃焼させるものがある。また,機器の構成により一重効用式,二重効用式などがある。そのうち二重効用式は,成績係数は大きいが高温の熱源が必要であり,高温蒸気や高温水を利用したり直焚式として用いられる。

主要なエネルギー源としては燃料を使用し,補機用に電力を使用する。このため,成績係数としては一次エネルギー基準のものが用いられる。

一般には吸収材として臭化リチウム水溶液,冷媒としてを使用するものが多い。

吸収冷凍サイクル

吸収冷凍サイクルとは,蒸気圧縮冷凍サイクルでは圧縮機が受け持つ働きを,吸収器と再生器で行うものである。吸収剤によって冷媒を吸収し,続いてその吸収剤の溶液を濃縮させることによってその働きを受け持つ。

蓄熱式ヒートポンプシステム

蓄熱槽

蓄熱槽の構造は大別すると,連結完全混合槽形と温度成層形に分けられる。

業務用高層建物では,蓄熱槽を設置する場合,一般に最下部の地中梁二重床構造を利用するため多くの槽で構成することとなる。この場合,蓄熱槽効率を高めるために,水位差も考慮しながら,槽の数は 15 ~ 50 の範囲でできるだけ多くし,1 層内部は完全混合とみなして計画する。

工場などで,地下部分の構造に制約がない場合は,蓄熱槽を単独あるいは複数槽を連結して構成する温度成層形が適している。温度差は大きい方が安定するので 10 K 以上あることが望ましい。蓄熱槽効率は,槽容積の蓄熱有効度をいうものであり,槽内の死水域や混合特性,システムの制御方式などによって決まり,構造形式によって 0.2 ~ 1.2 の値となる。

氷蓄熱システムは製氷の仕方によって,スタティック式とダイナミック式に分かれる。氷蓄熱の最大の利点は水蓄熱に対する体積減少である。しかし,製氷時に,冷凍機の蒸発温度は水蓄熱に比べて 5 ~ 10 K 低下するので,COP は悪くなる。

蓄熱運転と追従運転

熱機関とヒートポンプの違い

空調用の熱源機器としてヒートポンプを用いる意義は,そのままでは利用しにくい自然エネルギーや低温の排熱などを,冷熱源あるいは温熱源として有効利用できるという点にある。

一般に利用されるヒートポンプの熱源としては,大気,井水,河川水,太陽熱,地熱などの自然エネルギーと,工場の生産工程で発生する低温の排熱,冷暖房により生じる排熱などのいわゆる排熱がある。

ヒートポンプを用いる例として,低温熱源から温熱を汲み上げて有効利用する場合の熱の流れを,下図の概念図のように考える。ここで,$Q_1$ [W] を高温熱源に汲み上げられる熱量,$Q_2$ [W] を低温熱源から汲み上げられる熱量,$W$ [W] をヒートポンプの入力仕事率(動力)とすると,理論的には式 $Q_1 = W + Q_2$ が成り立つ。

低温熱源から温熱を汲み上げて有効利用する場合の熱の流れ
図 低温熱源から温熱を汲み上げて有効利用する場合の熱の流れ

井水は自然エネルギー熱源として最も安定しており,一年中ほぼ一定温度で冷熱源や温熱源として利用できるが,オープンループで使用する場合,たとえば,下水道等への放流式などでは地盤沈下の問題があり,それを回避するために還元式としても,地下水環境に影響を与えないよう配慮することが必要である。

自然エネルギーの太陽熱を集熱して暖房に利用するとき,ヒートポンプを用いて太陽熱の利用効率の向上を図ることができる。太陽熱は,直接集熱器で暖房に必要な温度まで昇温して使う方法が一般的であるが,集熱器の効率は集熱温度に大きく依存し,温度が高いほど集熱効率は低下する。したがって,低温で集熱することで集熱効率を極力高め,ヒートポンプで暖房に必要な温度まで昇温して使えば利用効率は高くできる。

例えば,集熱温度を 15 ~ 25 °C 程度として集熱効率を最大限に高め,さらにヒートポンプの出口温度を暖房に支障のない範囲でできるだけ低温にすれば,ヒートポンプの成績係数も相対的に高く保つことが可能となる。

熱源機器の効率向上

熱源機器の効率向上のためには,高効率の熱源を選択するのはもちろんであるが,熱源運用方法としては,例えば冷熱源の場合には,支障のない範囲で冷水温度はできるだけ高くし,冷却水温度はできるだけ低くすることが冷凍機の COP の向上につながる。冷水温度を比較的高くしても機能しやすい二次側の方式として,放射熱房方式を取り入れることで省エネルギー化を図る方法などが考えられる。

立地条件にもよるが,可能な場合には未利用エネルギーをシステムとして有効に活用することも重要である。例えば,地中熱を使う方法がある。地中の温度は,一般に大気の温度と比べて夏は低く冬は高いので,条件的に可能であれば,夏には地中熱で冷却された冷水をそのまま冷水コイルに送って冷房することや,前述の放射熱房方式の熱源として利用することも考えられる。また,冷凍機の冷却水として利用して,冷凍機の COP の向上を図ることもできる。

総合エネルギー管理システム

空調のコンピュータ制御

ビル環境エネルギー管理システム(BEMS)

BEMS は Building Energy Management System の略で「ベムス」と呼ぶ。先端技術を活用してビル分野のエネルギー活用の最適化を図る方策の総称である。

  • 電気使用状況の「見える化」し,電力使用にムダが見られるときには自動制御でセーブをかけたり,担当者が関係部署に警告を発して節電を促す。
  • 屋上に設置した太陽光パネルによる発電,蓄電池による蓄電,電力会社から供給される電気をうまく組み合わせて,電力消費のもっとも経済的なパターンを作り出す。
  • コージェネレーションで熱電供給
  • ビル内にセンサーを設置し,空調や照明を自動制御

付録

空気調和や環境に関する略語

次表は空気調和や環境に関する略語に対して,該当する名称及び算定式を表したものである。

表 空気調和や環境に関する略語
略語 名称 算定式
COP 成績係数 COP = 機器からの出力エネルギー / 機器への入力エネルギー
MRT 平均放射温度
ODP オゾン破壊係数
PAL 建築外皮の年間負荷係数 PAL = 屋内周囲空間の年間冷暖房負荷 / 屋内周囲空間の床面積
PMV 温冷感の予想平均申告
VAV 可変風量(方式)
VOC 揮発性有機化合物
SHF 顕熱比 SHF = 顕熱負荷 / (顕熱負荷 + 潜熱負荷)

略語一覧

APT
Annual Performance Factor. 通年エネルギー消費効率
BEE
Built Environment Efficiency
BEMS
Building Energy Management System
COP
Coefficient Of Performance
IPLV
Integrated Part Load Value
MRT
Mean Radiant Temperature
ODP
Ozone Depletion Potential
PMV
Predicted Mean Vote
VAV
Variable Air Volume
VOC
Volatile Organic Compounds
SHF
Sensible Heat Factor

参考文献

空気調和ハンドブック 改訂5版

空気調和設備の計画や設計に必要な知識を網羅した書として,長年高い評価を得ている。改訂5版では,空調設備がヒートアイランド現象などの都市環境問題に大きな影響を及ぼしていることを強く意識し,省エネルギーの視点から書き改められた。(491ページ,丸善出版,2008年2月1日発売)

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