目指せ!エネルギー管理士 電気分野

2020年7月14日作成,2020年7月23日更新

平成29年度 問題9 電気機器

(1) 単相二巻線変圧器

図は単相二巻線変圧器の簡略図であり,(a) は負荷を接続しない状態,(b) は負荷を接続した状態について示したものである。

単相二巻線変圧器
図 単相二巻線変圧器

1) 図 (a) に示すように,二次巻線に負荷を接続しない状態で,一次巻線に周波数 $f$ [Hz] の交流電圧 $\dot{V}_1$ [V] を印加すると,一次巻線に励磁電流 $\dot{I}_0$ [A] が流れる。ここで,銅損,鉄損及び磁器飽和はなく,電流 $\dot{I}_0$ によって発生した交番磁束 $\dot{\Phi}$ [Wb] は全て鉄心中を通るものとする。交番磁束 $\dot{\Phi}$ によって一次巻線に $\dot{E}_1$ [V] 及び二次巻線 $\dot{E}_2$ [V] の誘導起電力が発生する。磁束の最大値を $\Phi_\text{m}$ [Wb],一次巻線の巻数を $N_1$,二次巻線の巻数を $N_2$ とすると,$\dot{E}_1$ の大きさ $E_1$ 及び $\dot{E}_2$ の大きさについて,次式が成立する。

\[ E_1 = \frac{2\pi}{\sqrt{2}}\times f N_1 \Phi_\text{m} \text{ [V] (RMS)} \] \[ E_2 = \frac{2\pi}{\sqrt{2}}\times f N_2 \Phi_\text{m} \text{ [V] (RMS)} \]

次に図 (b) のように,二次端子に負荷 $\dot{Z}$ [Ω] を接続すると二次電流 $\dot{I}_2$ [A] が流れる。これにより,$N_2 \dot{I}_2$ [A] の起磁力が生じ交番磁束 $\dot{\Phi}$ を減少させようとする。これに対し,最大磁束 $\Phi_\text{m}$ を一定に保つように,一次側に補償電流 $\dot{I}_1 '$ [A] が新たに流入し,前述の $N_2 \dot{I}_2$ [A] を打ち消す。ここで,一次電流 $\dot{I}_1$ [A] は $\dot{I}_0$ と $\dot{I}_1 '$ [A] を加えたものである。

3) 1) 及び 2) が変圧器の基本的な動作原理である。

しかし,実際の変圧器では銅損,鉄損及び磁器飽和がある。また,一次巻線あるいは二次巻線の電流による磁束のすべてが二次巻線又は一次巻線と鎖交するわけではない。これら,ほかの巻線と鎖交しない磁束を漏れ磁束と称し,これは短絡インピーダンス値を決定する主要な因子である。

(2) 電力用コンデンサ設備

電力用コンデンサ設備は,負荷力率の改善や適性電圧の維持などを主な目的として,電力系統に多く用いられる。

1) 我が国の電力用コンデンサ設備では,一般にリアクトルをコンデンサと直列に接続して使用している。直列リアクトルの使用目的は,電力系統に存在する高調波に対し,コンデンサ設備の合成リアクトルが常に誘導性となるようにして回路電圧波形のひずみの軽減を図り,併せてコンデンサ投入時の突入電流の抑制を図ることである。

2) 系統の高調波電流はコンデンサ設備に流入し易く,コンデンサ設備を構成する機器の過熱や焼損の原因となる。コンデンサ自体が発生する損失のほとんどは誘電損で,その値が小さいために問題とはならず,過熱や焼損等の障害の多くは直列リアクトルで発生する。このため,JIS 規格(JIS C 4902-2 : 2010)では,% リアクタンスが 6 % の直列リアクトルについて,最大許容電流は,第 5 調波含有率 35 % 以内のときは定格電流の 120 %(許容電流種別 Ⅰ),第 5 調波含有率 55 % 以内のときは定格電流の 130 %(許容電流種別 Ⅱ)の 2 種類を規定しており,電力会社の高圧配電系統に直接接続されるコンデンサ設備には,許容電流種別 Ⅱ の適用を推奨している。

3) 三相回路の線間電圧 6 600 V,直列リアクトルのリアクタンスがコンデンサリアクタンスの 6 % のとき,コンデンサの定格設備容量を 300 kvar とするために必要な三相コンデンサの定格電圧は 7 020 [V],定格容量は 319 [kvar] である。

三相コンデンサの定格電圧を $V_\text{n}$ [V] とすると,$V_\text{n}$ は次式で求められる。

\[ V_\text{n}=\frac{6600}{1-0.06}=7021.27\approx7020 \text{ [V]} \]

三相コンデンサの定格容量を $X_\text{C}$,直列リアクトルの定格容量を $X_\text{L}$ とすると,次式が成り立つ。

\[ X_\text{C}-X\text{L}=X_\text{C}-0.06X_\text{C}=300 \] \[ X_\text{C}=\frac{300}{1-0.06}=319.148\approx319\text{ [kvar]} \]

(3) 変圧器の損失,効率

定格容量 300 kVA,定格一次電圧 6 600 V,定格二次電圧 210 V,定格周波数 60 Hz の単相変圧器があり,定格容量で力率 100 % の負荷を接続したとき効率が 98.98 % であった。また,定格容量で力率 100 % における電圧変動率 $\epsilon$ が 0.931 % であった。ここで,電圧変動率 $\epsilon$ は,百分率抵抗降下を $p$ [%],百分率リアクタンス降下を $q$ [%],負荷の力率を $\cos\phi$ としたとき,簡略式 $\epsilon=p\cos\phi+q\sin\phi$ [%] で表すことができるものとする。

1) この変圧器が定格容量で力率 100 % の負荷のとき,効率が 98.98 % なので,この運転条件での全損失(無負荷損($P_\text{i}$)+ 負荷損($P_\text{cr}$))は,3.092 [kW] となる。

2) 電圧変動率 $\epsilon$ が 0.931 % であるとの条件より,定格容量で力率 100 % の負荷が接続されたときの負荷損 $P_\text{cr}$ は,2.793 [kW] となる。

3) したがって,この変圧器の無負荷損 $P_\text{i}$ は 299 [W] と計算されるので,この変圧器が最大効率となるのは,定格容量の 32.7 [%] 負荷で運転したときである。

この変圧器が定格容量で力率 100 % の負荷のとき,効率が 98.98 % なので,この運転条件での全損失(無負荷損($P_\text{i}$)+ 負荷損($P_\text{cr}$))は,次式で求められる。

\[ \frac{300}{300+(P_\text{i}+P_\text{cr})}\times100=98.98 \] \[ P_\text{i}+P_\text{cr}=\frac{300}{0.9898}-300=3.09153\approx3.092\text{ [kW]} \]

電圧変動率 $\epsilon$ が 0.931 % であるとの条件より,定格容量で力率 100 % の負荷が接続されたとき,次式が成り立つ。

\[ 0.931=p\cos\phi+q\sin\phi=p \] \[ P_\text{cr}=300\times\frac{p}{100}=300\times\frac{0.931}{100}=2.793 \text{ [kW]} \]

この変圧器の無負荷損 $P_\text{i}$ は,次式で求められる。

\[ P_\text{i}=3.09153 - 2.793=0.29853 \text{ [kW]}\approx 299\text{ [W]} \]

この変圧器が最大効率となる負荷率 $\alpha$ [%] は次式で求められる。

\[ \alpha=\sqrt{\frac{P_\text{i}}{P_\text{cr}}}\times100=32.693\approx32.7 \text{ [%]} \]
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