目指せ!エネルギー管理士 電気分野

2020年7月12日作成,2020年7月12日更新

平成30年度 問題9 電気機器

(1) かご形誘導電動機の運転特性

1) 普通かご形誘導電動機を全電圧始動すると,電源電圧を印加された瞬時には回転子が停止状態なので,二次側(回転子)では抵抗に比べて相対的に漏れリアクタンスが大きくなる。このため,力率が悪く,大電流の割にはトルクを発生させる有効電流成分が少ない。

このかご形誘導電動機の始動特性を改良するために考案された特殊かご形誘導電動機は,二次導体の交流実効抵抗が始動時には自動的に大きくなり,定格運転時には小さくなるような構造となっており,定格出力 5.5 kW 以上の誘導電動機に採用されている。

2) 特殊かご形誘導電動機は,始動電流を制限し,始動を確実にするために,二次巻線を特殊構造としたものである。二次巻線の構造から,次の代表的な二つの方式がある。

ⅰ) 二重かご形誘導電動機の回転子は,表面に近い外側導体に高抵抗材料を用い,中心に近い内側導体に低抵抗材料を用いている。漏れリアクタンスは外側のかご形導体に比べて,内側のかご形導体の方がはるかに大きいため,始動時の二次周波数が高い間は,大部分の二次電流は高抵抗の外側導体を流れる。速度が上昇し,二次周波数が低くなると,大部分の二次電流は低抵抗の内側導体を流れるようになる。

ⅱ) もう一つの方式である深みぞかご形誘導電動機の回転子は,スロットの形が半径方向に細長い構造となっている。このため,始動時の二次周波数が高い間は,表皮効果により導体内の電流密度分布が回転子表面に近いほど大きくなって不均一となり,あたかも導体の断面積が小さくなったのと同様の作用をして,始動電流が制限される。しかし,速度が上昇するにしたがって,二次周波数は低くなり,電流分布は次第に底部へ広がる。

一次回路の電源周波数を $f$ とすると,運転速度上昇にしたがって,滑り $s$ が小さくなる。したがって,式 $sf$ で表される二次回路の周波数も低くなることで,導体内での電流分布も均一となり,二次導体は低抵抗導体として作用するので損失の増大が抑制される。

(2) 複数台の単相変圧器を用いた電力供給

同一定格の複数台の単相変圧器を用いて,平衡三相負荷に電力を供給することを考える。

ここで,図 1 のように 3 台の単相変圧器を Δ - Δ 接続として用いる場合と,図 2 のように 2 台の単相変圧器を V - V 接続として用いる場合との三相変圧器としての全損失を比較してみる。

複数台の単相変圧器は同じ仕様であり,1 台当たりについて定格二次電圧が $V_2$ [V],定格二次電流が $I_\text{r}$ [A],無負荷損が $P_\text{i}$ [W],定格容量時の負荷損が $P_\text{c}$ [W] であるものとする。

また,三相回路に構成された変圧器に接続される負荷の大きさは,Δ - Δ 接続及び V - V 接続の両者共に $S_\text{L}$ [V·A] とする。

Δ - Δ 接続
図 1 Δ - Δ 接続
Y - Y 接続
図 2 Y - Y 接続

1) Δ - Δ 接続の場合,負荷 $S_\text{L}$ を接続したときに 1 台の変圧器に流れる電流を $I_\text{d}$ とすると,$I_\text{d} =$ $\displaystyle \frac{S_\text{L}}{3V_2}$ [A] となり,このとき三相接続での変圧器の全損失 $W_\text{d}$ は $\displaystyle 3P_\text{i}+3P_\text{c}\times (\frac{I_\text{d}}{I_\text{r}})^2$ [W] となる。

他方,V - V 結線では,負荷 $S_\text{L}$ を接続したときに 1 台の変圧器に流れる電流 $I_\text{v}$ は,負荷への線路電流と同じになるので,$I_\text{v}=$ $\displaystyle \frac{S_\text{L}}{\sqrt{3}V_2}$ [A] となり,V - V 接続での変圧器の全損失 $W_\text{V}$ は $\displaystyle 2P_\text{i}+2P_\text{c}\times (\frac{I_\text{v}}{I_\text{r}})^2$ [W] となる。

ここで,Δ - Δ 接続時の全損失 $W_\text{d}$ と V - V 接続時の全損失 $W_\text{v}$ が等しくなる負荷容量 $S$ を求めると,$\displaystyle S=\sqrt{\frac{P_\text{i}}{P_\text{c}}}\times \sqrt{3}I_\text{r} V_2$ [V·A] となり,この負荷容量より小さい負荷では,変圧器の全損失は V - V 接続の方が小さくなる。ただし,各変圧器を定格容量以内で使用する場合,V - V 接続では最大でも Δ - Δ 接続時の 57.7 [%] の負荷容量までしか接続できない。

(3) 変圧器の並行運転

表に示すような 500 kVA の変圧器 A と 300 kVA の変圧器 B を並行運転して負荷へ電力を供給する場合と,変圧器 A のみを単独運転して負荷へ電力を供給する場合の損失を比較する。

ここで,電力負荷は 300 kW で力率が 87 %(遅れ)であるものとする。

変圧器 A 変圧器 B
定格容量 500 kVA 300 kVA
無負荷損 700 W 400 W
負荷損(定格出力における値) 4 000 W 2 500 W
短絡インピーダンス 5.0 % 6.0 %

1) 2 台の変圧器が供給する負荷の皮相電力 $S_\text{L}$ は 345 [kVA] であり,2 台の変圧器の容量比を $K$ とすると,$\displaystyle K=\frac{300}{500}=0.6$ なので,基準容量を 300 kVA としたときの変圧器 A の短絡インピーダンスは 3.0 % となる。したがって,変圧器 A が分担する負荷の皮相電力 $S_\text{A}$ は 230 [kVA],変圧器 B が分担する負荷の皮相電力 $S_\text{B}$ は 115 [kVA] となる。なお,短絡インピーダンスのうち抵抗分は無視するものとする。

2) 2 台の変圧器が,各々 1) で求めた $S_\text{A}$ 及び $S_\text{B}$ の負荷を負って運転しているとき,変圧器 A の全損失は 1 546 [W],変圧器 B の全損失は 767 [W] となる。

3) 一方,全負荷を変圧器 A のみで供給した場合の変圧器 A の全損失は 2 602 [W] となる。したがって,2 台の変圧器を並行運転した方が効率的となる。

1) 皮相電力

2 台の変圧器が供給する負荷の皮相電力 $S_\text{L}$
\[ S_\text{L}=\frac{P_\text{L}}{\cos\theta}=\frac{300}{0.87}=344.83\approx 345 \text{ [kW]} \]
変圧器 A が分担する負荷の皮相電力 $S_\text{A}$
\[ S_\text{A}=S_\text{L}\times\frac{6.0}{3.0+6.0}=230 \text{ [kW]} \]
変圧器 B が分担する負荷の皮相電力 $S_\text{B}$
\[ S_\text{A}=S_\text{L}\times\frac{3.0}{3.0+6.0}=115 \text{ [kW]} \]

2) 変圧器の全損失

変圧器 A の全損失(並行運転時)
\[ 700 + 4000\times(\frac{230}{500})^2=1546.4 \text{ [kW]} \]
変圧器 B の全損失(並行運転時)
\[ 400 + 2500\times(\frac{115}{300})^2=767.36 \text{ [kW]} \]
変圧器 A の全損失(単独運転時)
\[ 700 + 4000\times(\frac{345}{500})^2=2604.4 \text{ [kW]} \]
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