目指せ!エネルギー管理士 電気分野

2019年10月24日作成,2023年12月31日更新

令和元年度 問題3 エネルギー管理技術の基礎

次の各文章は,平成31年4月1日時点で施行されている「工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準」(以下,『工場等判断基準』と略記)の内容及びそれに関連した管理技術の基礎について述べたものである。

これらの文章において,『工場等判断基準』の本文に関連する事項については,その引用部を示す上で,

「Ⅰ エネルギーの使用の合理化の基準」の部分を,『基準部分』
「Ⅱ エネルギーの使用の目標及び計画的に取り組むべき措置」の部分を,『目標及び措置部分』

と略記し,特に「工場等(専ら事務所その他これに類する用途に供する工場等を除く)」における『基準部分』を『基準部分(工場)』と略記する。

(1) 全ての事業者が取り組むべき事項

『工場等判断基準』の『基準部分』の Ⅰ-1 「全ての事業者が取り組むべき事項」では,エネルギーを使用して事業を行う全ての事業者が取り組むべき事項として,次の 8 項目が定められている。

事業者は設置している工場等全体を俯瞰し,これらの取組を行うことにより,適切なエネルギー管理を行うことが求められている。

  1. 取組方針の策定
  2. 管理体制の整備
  3. 責任者等の配置等
  4. 資金・人材の確保
  5. 従業員への周知・教育
  6. 取組方針の遵守状況の確認等
  7. 取組方針の精査等
  8. 文書管理による状況把握

(2) 低減目標

『工場等判断基準』の『目標及び措置部分』では,事業者は,その設置している工場等全体として又は工場等ごとにエネルギー消費原単位又は電気需要平準化評価原単位を中長期的にみて年平均 1 パーセント以上低減させることを目標とすること,が求められている。

(3) メタンの完全燃焼

液化天然ガス(LNG)は都市ガスの原料や火力発電用燃料などに使用されており,その主成分はメタンである。

メタン(CH4)1 m³N が完全燃料しており,供給されている燃焼用空気の空気比が 1.1 であるとき,その空気量は 10.5 [m³N] である。ただし,空気中の酸素濃度(体積割合)を 21 % とする。なお,m³N は標準状態の体積を表す。

メタン(CH4)が完全燃焼するときの,化学式は以下のとおり。

CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O

必要な空気量は,次式により求められる。

\[ \frac{2 \times 1.1}{0.21} = 10.476 \approx 10.5 \text{ [m³}_\text{N}\text{]} \]

(4) 熱通過率

平板壁の両側に温度の異なる流体が流れているときの熱通過量を求める場合には,高温流体と平板の間の熱伝達における熱抵抗,平板内の熱伝導抵抗,及び平板と低温流体の間の熱伝達における熱抵抗の合計を熱通過抵抗として求めて,その逆数を熱通過率として計算することができる。

ここで,平板の厚さを 10 mm,平板の熱伝導率を 1.75 W/(m·K) とし,高温流体と平板の間の熱伝導率を 80 W/(m²K),低温流体と平板の間の熱伝導率を 20 W/(m²·K) としたときの熱通過率は,14.7 [W/(m²·K)]

熱通過抵抗は,高温流体と平板の間の熱伝達における熱抵抗,平板内の熱伝導抵抗,及び平板と低温流体の間の熱伝達における熱抵抗の合計である。

\[ \frac{1}{80} + \frac{1}{\frac{1.75}{0.01}} + \frac{1}{20} = 0.06821 \]

熱通過率は,熱通過抵抗の逆数であり,次式で求められる。

\[ \frac{1}{0.06821} = 14.66 \approx 14.7 \text{ [W/(m²·K)]} \]

(5) 放射エネルギー

表面温度が 800 K で一定に保たれている物体の表面から放射される単位時間,単位面積当たりの放射エネルギーは,16.3 [kW/m²] である。ただし,この物体の表面の放射率を 0.7 とし,ステファン・ボルツマン定数は,5.67 × 10-8 W/(m²·K4) とする。

放射エネルギー $E$ は,次式で求められる。ただし,$e$ は物体の表面の放射率,$\sigma$ はステファン・ボルツマン定数,$T$ は物体の表面温度である。

\[ E = e \sigma T^4 = 0.7 \times 5.67 \times 10^{-8} \times 800^4 = 16257.024 \text{ [W]} \approx 16.3 \text{ [kW]} \]

(6) 水の状態変化

水は,エネルギーの移動に係る熱媒体として汎用性の高い物質である。図は,大気圧下における加熱に伴う水の固体(氷),液体(水)及び気体(水蒸気)の三態への状態変化を示したものである。ここで,縦軸は水の温度,横軸は 0 °C の水の持つ熱量を基準(0 kJ/kg)とした水の保有熱量を示すものとする。

大気圧下における加熱に伴う水の固体(氷),液体(水)及び気体(水蒸気)の三態への状態変化

1) この図で,100 °C で水が液体から気体へ状態変化しており,この状態変化をしている間は温度が一定となる。この温度を沸点という。

2) この図から,水の三態における比熱 [kJ/(kg·K)] を比較すると,液体のときに最も大きい値を示すことが分かる。

(7) 乾き飽和蒸気とするのに必要な熱量

質量 20 kg,温度 30 °C の水を圧力一定で加熱し,温度 120 °C の乾き飽和蒸気とするのに必要な熱量は,5.16 × 104 [kJ] である。

ここで,30 °C の水の比エンタルピーを 125.8 kJ/kg,120 °C における飽和水の比エンタルピーを 503.8 kJ/kg,蒸発潜熱を 2 202 kJ/kg とする。

必要な熱量は,次式により求められる。

\[ \{(503.8 - 125.8) + 2202 \} \times 20 = 5.16 \times 10^4 \text{ [kJ]} \]

(8) エクセルギー

排熱の回収や未利用エネルギーの有効活用を検討する際には,その対象とする保有熱量から,どれだけのエネルギーを取り出し得るかを評価することが重要である。評価の一手法として,対象とする熱源と周囲環境との間で可逆サイクルを利用して取り出し得る最大の動力エネルギーを,有効エネルギーとして評価する方法がある。この有効エネルギーは,エクセルギーと呼ばれる。

(9) 空気調和設備の省エネルギー

空気調和設備の省エネルギーでは,対象となる部屋の空気調和負荷の低減に加え,高効率熱源機を採用することが重要である。

1) 空気調和設備の負荷の低減に関して,『工場等判断基準』の『基準部分(工場)』は,「工場内にある事務所等の空気調和の管理は,空気調和を施す区画を限定し,ブラインドの管理等による負荷の軽減及び区画の使用状況等に応じた設備の運転時間,室内温度,換気回数,湿度,外気の有効利用等についての管理標準を設定して行うこと。」及び「冷暖房温度については,政府の推奨する設定温度を勘案した管理標準とすること。」を求めている。

2) 空気調和設備の主な冷熱源である,燃料を直焚きしてエネルギー源とする吸収冷凍機と,電気をエネルギー源とする電動チラー(蒸気圧縮冷凍機)の消費エネルギーを比較評価する。ここで,電動チラーは電気の受電端発電効率を 37 % とした 1 次エネルギー換算値で評価する。

負荷が等しい条件で運転している吸収冷凍機の COP が 1.2,電動チラーの COP が 3.6 であり,両者とも補機の消費エネルギーは COP には含まれていないものとする。

消費エネルギーを,この COP から算出される 1 次エネルギー換算値で比較すると,吸収冷凍機の電動チラーの 1.1 [倍] となる。

(10) 火力発電設備の燃料使用量

ある火力発電設備が,A 重油を燃料として電気出力 350 MW の一定出力で稼働している。A 重油の高発熱量を 39 MJ/L,この発電設備の,この出力における高発熱量基準の熱効率を 41 % とすると,1 時間当たりの燃料使用量は 78.8 [kL] である。

1 時間当たりの燃料使用量は,次式で求められる。

\[ \frac{350 \text{ [MW]} \times 3600 \text{ [MJ/MW]}}{39 \text{ [MJ/L]} \times 0.41} = 78799 \text{ [L]} \approx 78.8 \text{ [kL]} \]

(11) 電動機の力率

一定出力で稼働している三相誘導電動機について計測を行ったところ,線間電圧は 400 V,線電流は 40 A,電力は 24 kW であった。この場合,この電動機の力率は 86.6 [%] である。ここで,$\sqrt{3} = 1.732$ として計算すること。

電力を $P$,線間電圧を $V$,線電流を $I$,力率を $\cos{\theta}$ とすると,力率は次式で求められる。

\[ \cos{\theta} = \frac{P}{\sqrt{3}VI} = \frac{24000}{1.732 \times 400 \times 40} = 0.86605 \]

よって,電動機の力率は 86.6 [%] である。

(12) 誘導電動機の選定

誘導電動機の選定に当たっては,負荷に見合った適正な容量の機器を選定し,それを効率の高い出力の範囲で用いることが省エネルギーにつながる。

『工場等判断基準』の『基準部分(工場)』は,「複数の電動機を使用するときは,それぞれの電動機の部分負荷における効率を考慮して,電動機全体の効率が高くなるように管理標準を設定し,稼働台数の調整及び負荷の適正配分を行うこと。」を求めている。

(13) 最大需要電力

ある工場では,最大需要電力を 3 600 kW に抑えることにしている。この最大需要電力が大きくなることが予想される,ある日の 9 時から 9 時 30 分までの時間帯に着目する。9 時から 9 時 20 分までの使用電力量が 1 300 kW·h であった。需要電力を 3 600 kW に抑えるためには,残りの 10 分間の平均電力を 3 000 [kW] とする必要がある。ここで,需要電力は使用電力の 30 分間平均値とする。

9 時から 9 時 20 分までの平均電力は,次式で求められる。

\[ \frac{1 300 \text{ [kW·h]}}{\frac{20 \text{ [min]}}{60 \text{ [min/h]}}} = 3900 \text{ [kW]} \]

9 時 20 分から 9 時 30 分の平均電力を $P$ [kW] とすると,9 時から 9 時 30 分までの需要電力(使用電力の 30 分間平均値)を 3 600 kW に抑えるためには,次式が成り立つ必要がある。

\[ 3900 \times \frac{2}{3} + P \times \frac{1}{3} = 3600 \]

上式より,9 時 20 分から 9 時 30 分の平均電力 $P$ は,3 000 [kW] となる。

(14) 誘導電動機の回転速度

電圧及び周波数が一定の商用電源で運転されている一般動力用誘導電動機の,負荷トルクと回転速度の関係について考える。ここで,通常の負荷範囲内で運転されている電動機の負荷トルクが大きくなり,たとえば 1.2 倍になったとする。このとき,回転速度はほとんど変化しない

(15) 電動力応用の流体機械の省エネルギー

電動力応用の流体機械の省エネルギーを行うとき,電動機の負荷を低減することが重要である。この電動機の負荷の低減に関して,『工場等判断基準』の『基準部分(工場)』では,ポンプ,ファン,ブロワ,コンプレッサ等の流体機械については,使用端圧力及び吐出量の見直しを行い,負荷に応じた運転台数の選択,回転速度の変更等に関する管理標準を設定し,電動機の負荷を低減すること,を求めている。また,負荷変動幅が定常的な場合は,配管やダクトの変更,インペラーカット等の対策を検討すること,を求めている。

(16) 電気加熱

電気加熱は,燃料の燃焼による加熱にはない特徴をもっており,その一つが,被加熱物自身の発熱による内部加熱ができることである。この加熱方式として,誘電加熱,マイクロ波加熱,直接抵抗加熱,誘導加熱などがある。これらの方式のうち,導電性の金属の加熱には誘導加熱や直接抵抗加熱が用いられる。

(17) 照度

照明設備において,点光源の下に水平な被照面がある。被照面上で光源の真下にある点 P における照度は,光源と被照面上の点 P との距離の 2 乗に反比例する。ここで,点光源の光束は全方位に均等に発散されるものとし,また,壁や天井などでの反射は考えない。

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