目指せ!エネルギー管理士 電気分野

2019年8月31日作成,2023年12月31日更新

令和元年度 問題13 電気加熱

(1) 誘導加熱方式の加熱原理

誘導加熱方式の加熱原理について考える。

1) 誘導加熱は,導電性被加熱材の中に電磁誘導作用により交番磁束を生じさせると,この被加熱材の内部で発生する渦電流がジュール熱を引き起こし,この熱で加熱する方式である。

2) この渦電流の密度は,被加熱材の表面から内部に進むに従って指数関数的に減衰する。この密度が表面から $\displaystyle \frac{1}{e}$(= 0.368,$e$ は自然対数の底)に減衰したところまでの深さを電流浸透深さと呼ぶ。この減衰特性は,被加熱材の抵抗率の $\displaystyle \frac{1}{2}$ 乗に比例し,また,生じている交番磁束の周波数と被加熱材の比透磁率の積の $\displaystyle \frac{1}{2}$ 乗に反比例するので,加熱目的,被加熱材の材質,形状,寸法により適切な周波数を選定しなければならない。

(2) 誘導加熱方式及びマイクロ波加熱方式の加熱原理

誘導加熱方式及びマイクロ波加熱方式の加熱原理について考える。

1) 誘導加熱もマイクロ波加熱も,共に非導電性の被加熱材の加熱に用いられる加熱方式であり,被加熱材を構成している物質の電気双極子が,電磁波の交番電界によって運動することにより,誘電体損失が発生して発熱する誘電(電磁波)加熱方式である。誘電体損失による発熱量は,被加熱材の誘電損率に比例する。

2) 誘電加熱では,高周波電圧を印加する電極板間に被加熱材を挿入するが,損失係数が比較的小さいときは電極板を用いた方法での加熱は難しい。そのような被加熱材を加熱するときには,マイクロ波加熱が広く応用されている。

なお,加熱装置をはじめとする工業分野において,高周波利用設備を汎用的に使用できるようにするため,電波障害等への規制が緩やかな周波数帯として,ISM バンドが国際的に許容されている。

ISM バンドとは,無線周波数(RF)エネルギーを電気通信以外の工業,科学,医療の目的に使用するために,国際電気通信連合(ITU)によって国際的に確保されている周波数帯である。ISM は,industry science and medical の略で,この部分を日本語訳して産業科学医療用バンドということもある。

(3) 電気式加熱炉

比熱が 435 J/(kg·K) の被加熱材 400 kg を,処理時間 10 分間で 30 °C から 800 °C まで昇温している電気式加熱炉がある。この炉は,熱的定常状態で運転されており,そのときの全電気効率は加熱炉設備電源入力端において 90 %,炉からの熱損失は 50 kW で,いずれも一定であるものとする。

1) この被加熱材が加熱により得た正味の熱量は,134 × 103 [kJ] である。

2) この炉に必要となる電力は,加熱炉設備電源入力端で 304 [kW] であり,電力損失は 30.4 [kW] である。

3) 2) で求めた電源入力端での電力を 10 % 増加させて運転した場合,全電気効率及び炉からの熱損失は変わらないので,加熱処理時間が 1.1 [分] 短縮できる。その結果,加熱炉設備電源入力端での電力原単位は 2.0 [%] 低減する。

被加熱材が加熱により得た正味の熱量

被加熱材が加熱により得た正味の熱量は,次式で計算できる。

435 [J/(kg·K)] × 400 [kg] × (800 [°C] - 30 [°C]) = 133 980 000 [J] ≒ 134 × 103 [kJ]

炉に必要となる電力(加熱炉設備電源入力端)

1 kW·s = 1 kJ であるので,被加熱材が加熱により得た正味の熱量を電力に換算する。

133.98 × 103 ÷ (60 [s/min] × 10 [min]) = 223.3 [kW]

これに炉からの熱損失 50 kW を加え,全電気効率を考慮し,炉に必要となる電力(加熱炉設備電源入力端)を求める。

(223.3 [kW] + 50 [kW]) ÷ 0.9 = 303.666 ≒ 304 [kW]

電力損失

炉に必要となる電力(加熱炉設備電源入力端)のうち,全電気効率は 90 % であるので,10 % は電力損失となる。

303.666 [kW] × 0.10 ≒ 30.4 [kW]

電源入力端での電力を 10 % 増加させて運転した場合

電源入力端での電力を 10 % 増加させて運転した場合の加熱時間を $m$ [min] とする。

\[ (\frac{133.98 \times 10^3}{60 \times m} + 50) \times \frac{1}{0.9} = 303.666 \times 1.1 \] \[ m = 8.909 \text{ [min]} \]

よって,加熱処理時間は 1.1 [分] 短縮できる。

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