目指せ!エネルギー管理士 電気分野

2020年9月12日作成,2023年12月31日更新

令和2年度 問題14 電気化学

(1) 電気化学システム

電気化学システムは,基本的には二つの電極,電解質,隔膜及び外部回路からなっている。電極は金属や半導体などからなり,電子伝導体である。

1) 二本の電極は,そこを流れる電流の向きから,アノード及びカソードが特定される。アノードでは酸化反応が起こる。電池では,通常,放電状態で考え,二本の電極のうち相対的な電極電位が高い電極がカソードである。二本の電極の間に設ける隔膜の役割は二本の電極の接触や生成物の混合を防ぐことである。

2) 電気化学システムは,二つの電極反応が決まると理論電圧が求められる。電極反応の速度は電流に比例する。

(2) ソーダ電解あるいはクロロアルカリ電解と呼ばれる電解プロセス

ソーダ電解あるいはクロロアルカリ電解と呼ばれる電解プロセスでは,電解により塩素ガス,水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)及び水素ガスが得られる。国内ではイオン交換膜法が広く採用されており,電極反応は次の通りである。

アノード反応:2CL- → Cl2 + 2e-
カソード反応:2H2O + 2e- → H2 + 2OH-

1) イオン交換膜法では隔膜にナトリウムイオンの選択透過性の高い膜が用いられ,アノード室に濃厚食塩水を供給してカソード室で水酸化ナトリウムを得る。

2) 水酸化ナトリウム 1 t を製造するために必要な理論電気量は 670 kA·h であり,製造される塩素ガスと水素ガスの標準状態での体積は等しく,水酸化ナトリウムの物質量(モル量)は水素の物質量の 2 倍である。このような電気化学システムにおいて,ある物質量の反応物質を製造するために必要な理論電気量を求めるときには,流れる電気量が「反応に関与する電子量」,「アボガドロ定数」,「電子 1 個の電荷」及び「反応物質の物質量」の積で表されることを用いる。

(3) 燃料電池自動車用の固体高分子形燃料電池スタック

燃料電池自動車用の固体高分子形燃料電池スタックの出力は 100 kW を超えるものが多く用いられている。

ここで,スタックを構成するセルの電極面積が 300 cm2,最大出力のときのセル電圧が 0.65 V,電流密度が 2 A/cm2 である燃料電池について考える。なお,ファラデー定数を 96 500 C/mol,水素ガスのモル質量を 2.016 g/mol とする。

1) このスタックの最大出力のときの電流は 600 [A] である。

2) このスタックの出力が 100 kW を超えるための最小のセル数は 257 [セル] である。

3) スタックが 270 セルで構成されている燃料電池自動車について考える。実際の運転時の電流密度が 0.33 A/cm2 であるとして,それを 5 時間運転するときに必要な水素の搭載量(消費量)は 5.03 [kg] である。

1) スタックの最大出力のときの電流

スタックの最大出力のときの電流は,次式で求められる。

2 A/cm2 × 300 cm2 = 600 A

2) 最小のセル数

このスタックの出力が 100 kW を超えるための最小のセル数は,次式で求められる。

(100 × 103 [W]) / (0.65 [V] × 600 [A]) = 256.4 [セル]

3) 水素の搭載量

必要な水素の搭載量(消費量)は,次式で求められる。

2.016 [g/mol] × (0.33 [A/cm2] × 300 [cm2] × 270 [セル] × 5 [h] × 3 600 [sec/h]) / (2 × 96 500 C/mol × 1 000 [g/kg]) = 5.0257 [kg]

上式における 2 は,イオン価数である。

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