目指せ!エネルギー管理士 電気分野

2021年8月13日作成,2023年12月31日更新

令和3年度 問題3 エネルギー管理技術の基礎

次の各文章は,「工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準」(以下,『工場等判断基準』と略記)の内容及びそれに関連した管理技術の基礎について述べたものである。ここで,『工場等判断基準』は令和3年4月1日時点で施行されているものである。

これらの文章において,『工場等判断基準』の本文に関連する事項については,その引用部を示す上で,

「Ⅰ エネルギーの使用の合理化の基準」の部分を,『基準部分』,
「Ⅱ エネルギーの使用の目標及び計画的に取り組むべき措置」の部分を,『目標及び措置部分』

と略記し,特に「工場等(専ら事務所その他これに類する用途に供する工場等を除く)」における『基準部分』を『基準部分(工場)』,同じく『目標及び措置部分』を『目標及び措置部分(工場)』と略記する。

(1) 目標及び措置部分

『工場等判断基準』のうちの『目標及び措置部分』では,事業者はエネルギーの使用の合理化の目標及び計画的に取り組むべき措置を最大限より効果的に講じていくことを目指して中長期的視野に立った計画的な取組に努めなければならない,と定められている。

『目標及び措置部分(工場)』においては,この措置を講ずべき対象としているエネルギー消費設備等は,「燃焼設備,熱利用設備,廃熱回収設備,コージェネレーション設備,電気使用設備,空気調和設備・給湯設備・換気設備・昇降機等,照明設備及び FEMS」としている。

これらの中で,FEMS は「工場エネルギー管理システム」のことであり,措置を講ずべき対象のエネルギー消費設備等に関して,総合的な制御について検討すること,が求められている。

(2) カルノーサイクル

カルノーサイクルを,127 °C の高温熱源と 27 °C の低温熱源との間で作動させたときの熱効率は,25 [%] である。ここで,0 °C の熱力学温度を 273 K とする。

高温熱源の温度を $T_1$ [K],低温熱源の温度を $T_2$ [K] とすると,カルノーサイクルの熱効率 $\eta$ [%] は,次式で求められる。

\[ \eta = (1 - \frac{T_2}{T_1})\times 100 = (1 - \frac{300}{400}) \times 100 = 25 \text{ [%]} \]

(3) アセチレンの完全燃焼

1 m3N のアセチレン(C2H2)を完全燃焼させるのに必要な理論酸素量は,2.5 [m3N] である。

アセチレンを完全燃焼させるときの化学式は,次式となる。

C2H2 + 2.5 O2 → 2CO2 + H2O

アセチレンの 2.5 倍の酸素が必要となる。

(4) 熱抵抗

50 °C の温水と 20 °C の空気が,平板を隔てて熱交換している。このときの熱通過における熱流束が 400 W/m2 であれば,平板単位面積当たりの熱抵抗は 7.5 × 10-2 [K/W] である。

平板間の温度を $\theta_1$,$\theta_2$ [°C]($\theta_1 \gt \theta_2$),平板の厚さ方向に伝わる単位面積当たりの熱流 $q$ [W/m²] ,熱抵抗 $R_\text{th}$ [K/W] とすると,次式が成り立ち,与えられた数値を代入し,熱抵抗の値を求める。

\[ q = 400 = \frac{\theta_1 - \theta_2}{R_\text{th}} = \frac{50 - 20}{R_\text{th}} \] \[ R_\text{th}=\frac{30}{400}=7.5 \times 10^{-2} \text{ [K/W]} \]

(5) 放射熱エネルギー

表面の放射率が温度によらず一定の物体から放散される放射エネルギーは,物体の表面温度が 600 K のとき,表面温度が 400 K のときと比べ約 5.1 倍となる。

熱放射は絶対温度の 4 乗に比例する。よって,物体の表面温度が 600 K のとき,表面温度が 400 K のときとは,次式で比べる。

\[ (\frac{600}{400})^4 = 5.0625 \approx 5.1 \]

(6) 潜熱

圧力 0.2 MPa における飽和水の比エンタルピーは 505 kJ/kg,乾き飽和蒸気の比エンタルピーは 2 706 kJ/kg である。同温同圧で,乾き度 0.9 の湿り蒸気が保有する潜熱は 1.98 × 103 [kJ/kg] である。

同温同圧で,乾き度 0.9 の湿り蒸気が保有する潜熱は,次式で求められる。

(2 706 [kJ/kg] - 505 [kJ/kg]) × 0.9 = 1980.9 [kJ/kg]

(7) 燃料の燃焼の管理

燃料の燃焼の管理では,燃料の性状に応じた燃焼方法により,燃焼効率を高めることが求められる。この燃焼効率は,実際に燃焼過程で得られた熱量と,燃焼の低発熱量との比で示されるのが一般的である。

(8) 『工場等判断基準』の『基準部分(工場)』

『工場等判断基準』の『基準部分(工場)』は,廃熱の回収利用の基準の一つとして,「加熱された固体若しくは流体が有する顕熱,潜熱,圧力,可燃性成分等の回収利用は,回収を行う範囲について管理標準を設定して行うこと。」を求めている。

(9) 空気調和設備の省エネルギー

空気調和設備の省エネルギーでは,空調負荷の低減と効率の高い空調設備の採用の両面で行うことが重要である。

1) 空調負荷の低減について,『工場等判断基準』の『基準部分(工場)』は,「工場内にある事務所等の空気調和の管理は,空気調和を施す区画を限定し,ブラインドの管理等による負荷の軽減及び区画の使用状況等に応じた設備の運転時間,室内温度,換気回数,湿度,外気の有効利用等についての管理標準を設定して行うこと。」を求めている。

2) 効率の高い空調設備の採用について,『工場等判断基準』の『基準部分(工場)』は,「特定エネルギー消費機器に該当する空気調和設備,給湯設備に係る木木を新設・更新する場合には,当該機器に関する性能の向上に関する製造事業者等の判断の基準に規定する基準エネルギー消費効率以上の効率のものを採用すること。」を求めている。

(10) 火力発電設備の天然ガス使用量

ある火力発電設備は,高発熱量 45 MJ/m3N の天然ガスを燃料として発電しており,高発熱量基準の平均発電端熱効率は 39 % である。この発電設備において,毎時 10 万 kW·h の発電をしようとするとき,1 時間当たりの天然ガス使用量は 2.1 × 104 [m3N] である。

1 時間当たりの天然ガス使用量は,次式で求められる。

\[ \frac{100 000 \times 3600}{4.5 \times 10^3 \times 0.39}=20512\approx 2.1 \times 10^4 \]

(11) 工場配電設備の受電端における力率

工場配電設備では,受電端における力率を高く保つことが求められている。『工場等判断基準』の『基準部分(工場)』及び『目標及び措置部分(工場)』では,受電端における力率については,基準を 95 % 以上,目標を 98 % 以上とすることを求めている。ただし,発電所の所内補機を対象とする場合はこの限りでない。

(12) 工場配電設備の最大需要電力

ある事業所の工場配電設備では,最大需要電力を使用電力の 30 分ごとの平均値で管理しており,その値を 5 000 kW 以下に抑えることにしている。ある日の 9 時から 9 時 30 分までの 30 分間で,9 時から 9 時 15 分までの電力使用量が 1 400 kW·h であるとすると,9 時 15 分から 9 時 30 分までの残り 15 分間の平均電力を 4 400 [kW] 以下とする必要がある。

9 時から 9 時 15 分までの使用電力は,次式で求められる。

1 400 kW·h ÷ 0.25 [h] = 5 600 [kW]

最大需要電力を使用電力の 30 分ごとの平均値で管理しており,その値を 5 000 kW 以下に抑えることにしているため,9 時 15 分から 9 時 30 分までの残り 15 分間の平均電力は,9 時から 9 時 15 分で超過した 600 [kW] 分を抑制する必要があり,4 400 [kW] 以下とする必要がある。

(13) 三相誘導電動機の力率

一定出力で稼働している三相誘導電動機の,線間電圧は 200 V,線電流は 45 A,使用電力は 12 kW であった。この場合,この電動機の力率は 77 [%] である。ここで,$\sqrt{3} = 1.73$ とする。

三相誘導電動機の線間電圧を $V_l$ [V],線電流を $I_l$ [A],使用電力を $P$ [W],力率を $\cos{\theta}$ とすると,次式が成り立つ。

\[ P =\sqrt{3}V_l I_l \cos{\theta} \]

よって,電動機の力率は,次式で求められる。

\[ \cos{\theta} = \frac{P}{\sqrt{3}V_l I_l} = \frac{12000}{1.73 \times 200 \times 45} = 0.7707 \]

(14) 三相かご形誘導電動機の回転速度

汎用の三相かご形誘導電動機が,電圧及び周波数が一定の交流電源に接続され,所定の負荷範囲内で稼働している。ここで,負荷が 50 % から 100 % に増加したときの電動機の回転速度はほぼ一定である

(15) 送風機

送風機について,JIS では,「羽根車の回転運動によって期待にエネルギーを与える機械で,単位質量当たりのエネルギーが 25 kN·m/kg 未満のもの」と定義している。この単位質量当たりのエネルギー 25 kN·m/kg は,気体が標準空気(密度が 1.2 kg/m3)の場合,送風機の全圧 30 [kPa] に相当する。

送風機の全圧は,次式で求められる。

25 [kN·m/kg] × 1.2 [1.2 kg/m3] = 30 [kN/m2] = 30 [kPa]

(16) ファラデーの法則

電気化学反応では電極界面においてイオンと電子の間で電気のやり取りが行われる。ファラデーの法則によれば,電流が通過することにより電極上において析出又は溶解する化学物質の質量は通過する電気量に比例する。また,同じ電気量によって析出又は溶解する化学物質の質量は,その物質の 1 mol 当たりの質量 $M$ と反応電子数 $z$ で決まり,$\displaystyle \frac{M}{z}$ に比例する。

ファラデーの第二法則

電気化学当量は化学当量に等しく,同じものである。

\[ n=\frac{m}{M}=\frac{It}{zF} \]

ここで,$n$ は物理量 [mol],$m$ は質量 [g],$M$ は分子量 [g/mol],$I$ は電流 [A],$t$ は時間 [s],$z$ はイオン価数,$F$ はファラデー定数 9.6485 × 104 [C/mol] である。

ファラデーの第二法則より,同じ電気量によって析出又は溶解する化学物質の質量 $m$ は,その物質の 1 mol 当たりの質量 $M$ と反応電子数 $z$ で決まる。

\[ m=\frac{M}{z}\times\frac{It}{F} \]

(17) LED ランプのランプ総合効率

LED ランプは,ランプ効率が年々向上して省エネルギーに大きく寄与している。40 W の直管形蛍光ランプに相当する光束を発する LED ランプ(大きさの区分 40 相当)で,光源色が昼光色,昼白色のランプ総合効率は,現状で概ね 100 ~ 200 [lm/W] の範囲にある。

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