目指せ!エネルギー管理士 電気分野
令和3年度 問題7 工場配電
(1) 工場等の負荷設備
工場等の負荷設備には,変圧器や電動機など巻線を利用した負荷が多く含まれるため,負荷のインピーダンスのうちの誘導性リアクタンスによる遅れの無効電力が発生する。無効電力は力率低下の要因となるので,一般に無効電力に見合う容量の進相コンデンサを設置して力率改善が行われる。
ただし,工場等の負荷は,一般に夜間や休日などに軽負荷となると無効電力が減少するので,昼間の負荷に見合う容量の進相コンデンサを接続したまま運転すると,工場等に電力を供給する配電線の電流が電圧に対して進み位相となり,配電線路末端の電圧が高くなることがある。
この対策としては,軽負荷時には手動又は自動力率制御装置でコンデンサ容量を調整することが望ましい。なお,力率改善に自動力率制御装置を採用する場合には,コンデンサの投入と遮断が繰り返されるハンチング減少に対する配慮が必要である。
進相コンデンサ(Static Capacitor)
自家用電気設備において無効電力の制御を行うことにより力率を改善させる設備。設備容量の有効利用,配電損失の低減,電圧効果の抑制および電気料金低減などを目的に設定する。一般に負荷機器の多くは遅れ力率なので,遅れ電流に応じた容量の進相コンデンサを設置して力率改善を行う。(電気工学ハンドブック 一部改変)
フェランチ効果
軽負荷時に進相コンデンサやケーブルの静電容量により負荷電流が進みの位相となり,送電電圧より受電端電圧が上昇する現象。(電気協同研究 第60巻 第2号 一部改変)
問題文中の配電線路末端電圧が高くなる現象は,フェランチ効果である。
自動力率制御装置(Automatic Power Factor Controller)
力率を自動的に調整する装置。進相コンデンサに設置されている電磁接触器を開閉し,力率を調整する。(電気設備用語辞典 一部改変)
(2) 再生可能エネルギーを利用した太陽光発電や風力発電
再生可能エネルギーを利用した太陽光発電や風力発電は,化石燃料に代わるエネルギー資源として,国内でも大規模な設備が数多く導入されている。
1) 太陽光発電は,日照条件に依存し天候や季節などにより発電量は変動するが,昼間の電力需要のピーク負荷対応に期待することができる。太陽光発電は,太陽光が利用できる昼間だけの発電となるため,発電が行われる時間帯と電力需要の時間帯が異なる場合の対策として,二次電池と組み合わせる太陽光発電システムが用いられる場合もある。
太陽光発電システムは,太陽電池,電力変換装置,系統連系保護装置等から構成され,電力変換装置の逆変換回路には,一般に電圧形インバータが使用されている。
2) 風力発電は,風の運動エネルギーを風車が受ける回転エネルギーに変換して,発電機を駆動して電気エネルギーに変換するものであり,風車が受ける風の運動エネルギーはエネルギー密度に比例して変化する。風速を $V$ [m/s],空気密度を $\rho$ [kg/m3] とすると,単位時間に単位面積を通過する風のエネルギー密度は,原理的には $\displaystyle \frac{1}{2}\rho V^3$ [W/m2] となる。
風さえあれば夜間でも発電は可能であるが,風量は気象状況により増減するため発電電力の出力調整に留意する必要がある。
太陽光発電(photovoltaic power generation)
太陽電池(シリコン等の半導体)に光が当たると電気が発生するという現象を利用して,太陽光エネルギーを電力に直接変換する発電方式。発電システムは太陽電池のほか,必要に応じ出力を安定させるための蓄電池,電力系統と接続するための直交流変換装置等によって構成される。(電気事業講座 電気事業辞典 一部改変)
風力発電(wind power generation)
風力エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。風力エネルギーは風車の受風面積に比例し,風速の 3 乗に比例する。このため,風速が 2 倍になれば風力エネルギーは 8 バイトなるため,少しでも風況のよい地点を選定することが重要となってくる。(電気事業講座 電気事業辞典 一部改変)
(3) 負荷群への電力供給
図 1 に示すように,A,B,C の負荷群に電力を供給する工場がある。各群の合計設備容量,需要率,負荷力率は図に示すとおりであり,力率は負荷の大きさにかかわらず,いずれも図に示す力率で一定とする。

1) この工場における A 群の最大需要電力は 1 170 [kW] であり,最大無効電力は 878 [kvar] である。同様に,B 群,C 群の最大需要電力,最大無効電力も算出することができる。
2) この工場において,A 群の需要電力が 1 000 kW,B 群の需要電力が 600 kW,C 群の需要電力が 750 kW のとき,合成需要電力が最大となった。この工場の不等率を求めると 1.24 となる。
3) 合成需要電力が最大となるとき,図 1 に示すように 1 200 kvar のコンデンサを接続した。そのとき,負荷群から電源を見た力率は 97.1 [%] に改善される。
1) 最大需要電力と最大無効電力
A 群の最大需要電力は,次式で求められる。
A 群の最大無効電力は,次式で求められる。
同様に,B 群,C 群の最大需要電力,最大無効電力を算出し,次表にまとめる。
合計設備容量 [kW] | 需要率 [%] | 力率 [%] | 最大需要電力 [kW] | 最大無効電力 [kvar] | |
---|---|---|---|---|---|
A 群 | 1 800 | 65 | 80 | 1 170 | 878 |
B 群 | 1 200 | 70 | 85 | 840 | 521 |
C 群 | 1 500 | 60 | 75 | 900 | 794 |
2) 不等率
需要家群・配電変圧器群あるいは配電幹線群などの同種類の負荷群において,各個の最大需要電力は同時刻に起こるものではなく,その発生時間は時間的にずれがある。このため各負荷を総括したときの最大需要電力は各個の最大需要電力の和より小さくなる。この割合を示すものを不等率(deversity factor)といって次式によって表す。
上式に,与えられた数値を代入し,不等率を求める。
= 2 910 [kW] ÷ 2 350 [kW] = 1.238 ... ≈ 1.24
3) 負荷群から電源を見た力率
合成需要電力が最大となるとき,無効電力は次表となる。
力率 [%] | 需要電力 [kW] | 無効電力 [kvar] | |
---|---|---|---|
A 群 | 80 | 1 000 | 750 |
B 群 | 85 | 600 | 372 |
C 群 | 75 | 750 | 661 |
需要電力の合計は,次式で求められる。
1 200 kvar のコンデンサを接続すれば,無効電力の合計は,次式で求められる。
よって,負荷群から電源側を見た力率 $\cos\theta$ は,次式で求められる。
\[ \cos\theta = \frac{2350}{\sqrt{2350^2+583^2}}\times 100 = 97.1 \text{ [%]} \](4) 電力負荷変動状況を表す日負荷曲線
図 2 は,受電用変圧器を介して力率 100 % の平衡三相負荷に電力を供給する工場の三相 3 線式の配電系統である。また,図 3 は,この工場のある日の電力負荷変動状況を表す日負荷曲線である。


1) この工場では電力需要の平準化を図るため,13 時から 17 時までの電力負荷が最大需要電力 4 500 kW となるよう 17 時から 21 時までの時間帯に各時間均等に負荷移行することとした。
負荷移行したときの工場の負荷率は,58.8 [%] となる。ただし,負荷移行の前後で総消費電力量は変わらないものとする。
2) 受電用変圧器の定格容量が 7 500 kV·A,無負荷損が 11 kW,定格運転時の負荷損が 58 kW であるとき,負荷移行後の受電用変圧器の 1 日の損失電力量は,負荷移行前より 12.4 [kW·h] 低減される
1) 工場の負荷率
総消費電力量は 63 500 kW·h(平均電力は 2 646 [kW]),負荷移行前の最大電力は 5 000 [kW],負荷移行後の最大電力は 4 500 [kW] であり,工場の負荷率は,次式で求められる。
2) 受電用変圧器の負荷損失
負荷移行前後の損失電力量を比較するには,13 時 ~ 17 時の負荷損と 17 時 ~ 21 時 の負荷損による電力量の差を求められばよい。