目指せ!エネルギー管理士 電気分野

2021年8月13日作成,2023年12月31日更新

令和3年度 問題8 工場配電

(1) 工場配電で使用される主な機器

工場配電の役割は,適正な電圧及び周波数の電気を高い信頼度で工場内の負荷設備へ供給することであり,使用される主な機器には次のようなものがある。

1) 変圧器

変圧器は,受電電圧又は配電電圧を構内の配電電圧又は負荷に適した電圧に変換するものである。

動力負荷に用いられる変圧器には様々な結線方法があるが,2 台の単相変圧器を用いて三相電力を供給する結線方法として V-V 結線がある。この方法で,同容量の変圧器 2 台を用いた場合に供給可能な三相電力は,変圧器 2 台分の合計定格容量に対して 86.6 [%] となる。

2) 開閉装置

開閉装置には,遮断器,負荷開閉器,電力ヒューズ,断路器などがある。

遮断器は,負荷電流の開閉や故障電流の遮断を目的として用いられ,絶縁・消弧媒体として絶縁油や圧縮空気,SF6 ガス,真空などが用いられる。また,負荷開閉器は負荷電流の開閉が目的であり,短絡電流のような大きな電流の遮断はできない。これらの開閉装置を架空電線路の支持物に設置する場合には,絶縁・消弧媒体に絶縁油を使用することが禁止されている。

電力ヒューズはリレーと遮断器の機能を併せ持つが,主に小容量変圧器や重要度の低い分岐回路用として使用される。キュービクル式高圧受電設備において,主遮断装置として電力ヒューズの一種である高圧限流ヒューズと高圧交流負荷開閉器を組み合わせて用いる形式のものは,受電設備容量が 300 [kV·A] 以下の場合に限られている。

断路器は主に設備保守時の回路の切断に用いられ,負荷電流の開閉は行わない。

3) 避雷器

避雷器は工場配電設備を雷などの過電圧から保護するためのものである。従来は,放電開始電圧の制限及び消弧機能を分担する放電ギャップと続流を制限する特性要素によって構成されていたが,近年は高性能な ZnO 素子を使用したギャップレス避雷器が使われている。

4) 計器用変圧器

計器用変圧器は電気計器や測定装置と組み合わせて電気の諸計量を行うためのものである。このうち電流を測定する場合に使用される計器用変成器は,使用中に二次側を開放すると,焼損や二次側への高電圧の誘導を引き起こし危険であるため,二次側の開放は不可である。

V-V 結線の変圧器の容量

容量が $VI$ の単相変圧器 2 台を用いて三相電力を供給する結線方法として V-V 結線があるが,バンク容量は $\sqrt{3}VI$ となる。V-V 結線で,同容量の変圧器 2 台を用いた場合に供給可能な三相電力は,変圧器 2 台分の合計定格容量に対して 86.6 [%] となる。

\[ \frac{\sqrt{3}VI}{2VI}\times100=86.6 \text{ [%]} \]
油入開閉器等の施設制限

電気設備に関する技術基準を定める省令 第2章 電気の供給のための電気設備の施設 第5節 危険な施設の禁止 第36条では,以下のように定められている。

電気設備に関する技術基準を定める省令 第36条 油入開閉器等の施設制限

絶縁油を使用する開閉器、断路器及び遮断器は、架空電線路の支持物に施設してはならない。

避雷器の変遷

電力系統の絶縁協調の要の機器である避雷器は,初期の火花ギャップから今日の酸化亜鉛形避雷器へ変遷してきた。発変電所ではギャップレス避雷器を用いることが主流であるが,配電用や直流電気鉄道の電線路のがいし保護に用いられる避雷器では,万が一,ZnO 素子が短絡状態になっても送電が可能なように,直列ギャップ付き避雷器も多く使用されている。

図 避雷器の変遷
図 避雷器の変遷

(2) 工場配電において留意すべき電力品質

1) 電力系統において,雷などに起因して地絡事故や短絡事故が発生すると,事故点が除去されるまでの短時間の間,事故点に事故電流が流れた状態となり大幅な電圧低下が発生する。これを瞬時電圧低下と呼ぶ。

瞬時電圧低下が起こると,コンピュータや通信機器といったエレクトロニクス機器の制御部の停止やメモリの消滅,高圧放電ランプの消灯,工場設備などが具備する不足電圧リレーの動作などが引き起こされる場合がある。これらへの対策としては,発生源である電力系統側の対策と,影響を受ける機器側の対策が考えられるが,電力系統側での対策によって瞬時電圧低下を完全に防ぐことは技術的・経済的に困難である。一方,コンピュータや通信機器などの機器側の対策としては,無停電電源装置を採用することが推奨されている。

2) 電力変換装置のスイッチング,変圧器の磁気飽和やアーク炉の稼働などにより,電流波形にはひずみが発生する。例えば,三相の 6 パルス整流回路のスイッチングにより発生する高周波電流は第 5 次調波が最も大きくなる。

高調波電流が工場配電系統や一般送配電事業者の電力系統に流入すると,進相コンデンサの異音・焼損や計器・リレーの誤動作,ラジオやテレビなどの AV 機器のノイズなどの障害を引き起こすことがある。

このため,「高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン」には,商用系統の総合電圧ひずみ率と高調波障害発生の関係を考慮して,高調波環境目標レベルが定められており,特別高圧系統の総合電圧ひずみ率の目標レベルは 3 [%] となっている。

無停電電源装置(UPS)を下図に示す。

図 無停電電源装置(UPS)
図 無停電電源装置(UPS)

(3) 負荷の接続状態や供給方式が異なる低圧配電系統

図 1 ~ 3 に示すように,負荷の接続状況や供給方式が異なる低圧配電系統 1 ~ 3 がある。いずれの変圧器も損失のない理想変圧器で,配電線路の単位長さ当たりの線路抵抗は 1 線当たり 0.1 Ω/km であり,線路抵抗及び負荷以外のインピーダンスは無視する。また,負荷の有効電力及び力率は一定である。

1) 単相 2 線式の低圧配電系統

図 1 は単相 2 線式の低圧配電系統である。変圧器からこう長 60 m の配電線末端に,40 kW(遅れ力率 0.95)の負荷が接続されている。

配電線末端の電圧が 100 V 一定であるとした場合,変圧器 2 次側から配電線末端までの電圧降下は 5.05 [V] である。

図 1 低圧配電系統 1
図 1 低圧配電系統 1

2) 単相 2 線式の低圧配電系統

図 2 は単相 2 線式の低圧配電系統である。変圧器からこう長 30 m の配電線の中間に 20 kW(遅れ力率 0.95)の負荷 A,こう長 60 m の配電線末端に 20 kW(遅れ力率 0.95)の負荷 B が接続されている。

配電線末端の電圧が 100 V で一定であるとした場合,変圧器からこう長 30 m の箇所に接続された負荷 A にかかる電圧 $V_1$ は 101.3 [V],負荷 A に流れる電流の大きさ $I_1$ は 208 [A] となる。また,配電線路全体で発生する線路損失は 1.32 [kW] である。

負荷 A,負荷 B にかかる電圧の位相差は無視でき,変圧器に流れる電流の大きさ $I$ は負荷 A,負荷 B に流れる電流のスカラー和($I=I_1 + I_2$)で表せるものとする。

図 2 低圧配電系統 2
図 2 低圧配電系統 2

3) 単相 3 線式の低圧配電系統

図 3 は単相 3 線式の低圧配電系統である。変圧器からのこう長 60 m の配電線末端において,線路 L1 - N 間に 20 kW(遅れ力率 0.95)の負荷 C,線路 L2 - N 間に 20 kW(遅れ力率 0.95)の負荷 D が接続されている。

負荷 C 及び負荷 D の電圧がそれぞれ 100 V 一定であるとした場合,図 1 の低圧配電系統 1 と比較すると,低圧配電系統 3 の配電線路にて発生する線路損失は,低圧配電系統 1 の線路損失の 25.0 [%] となる。

図 3 低圧配電系統 3
図 3 低圧配電系統 3

1) 単相 2 線式の低圧配電系統

負荷を $P$ [W],負荷の力率を $\cos{\theta}$,配電線末端の電圧を $V$ [V] とすると,負荷に流れる電流 $I$ [A](配電線を流れる電流)は,次式で求められる。

\[ I=\frac{P}{V\cos{\theta}}=\frac{40000}{100\times 0.95}= 421.05 \text{ [A]} \]

こう長 60 m の配電線の抵抗 $r_{60}$ は,次式で求められる。

$r_{60}$ = 0.1 [Ω/km] × 60 [m] ÷ 1 000 [m/km] = 0.006 [Ω]

変圧器 2 次側から配電線末端までの電圧降下は,次式で求められる。

$2r_{60}I$ = 2 × 0.006 × 421.05 = 5.0526... ≈ 5.05 [V]

2) 単相 2 線式の低圧配電系統

負荷 B に流れる電流の大きさ $I_2$ [A] は,次式で求められる。

\[ I_2 = \frac{P_2}{V_2 \cos{\theta_2}} = \frac{20000}{100\times 0.95}= 210.52 \text{ [A]} \]

ただし,負荷 B の大きさは $P_2$ [W],負荷 B の力率を $\cos{\theta_2}$,配電線末端の電圧(負荷 B にかかる電圧)を $V_2$ [V] とした。こう長 30 m の配電線の抵抗 $r_{30}$ に電流 $I_2$ が流れることによる電圧降下を配電線末端の電圧に加え,負荷 A にかかる電圧 $V_1$ [V] を求める。

まず,こう長 30 m の配電線の抵抗 $r_{30}$ は,次式で求められる。

$r_{30}$ = 0.1 [Ω/km] × 30 [m] ÷ 1 000 [m/km] = 0.003 [Ω]

負荷 A にかかる電圧 $V_1$ [V] を求める。

$V_1$ = 100 + $2r_{30}I_2$ = 100 + 2 × 0.003 × 201.52 = 101.263 ≈ 101.3 [V]

次に,負荷 A に流れる電流の大きさ $I_1$ [A] を求める。負荷 A の大きさは $P_1$ [W],負荷 1 の力率を $\cos{\theta_1}$ とすれば,次式で求められる。

\[ I_1 = \frac{P_1}{V_1 \cos{\theta_1}}=\frac{20000}{101.26 \times 0.95} = 207.90 \approx 208 \text{ [A]} \]

変圧器に流れる電流の大きさ $I$ は,負荷 A,負荷 B に流れる電流のスカラー和($I=I_1 + I_2$)で表せる(負荷 A,負荷 B にかかる電圧の位相差は無視)。

\[ I=I_1 + I_2 =201.5 + 207.9 = 418.4 \text{ [A]} \]

配電線路全体で発生する線路損失は,次式で求められる。

\[ 2r_{30}(I^2 + {I_2}^2)=2\times0.003\times(418.4^2+210.5^2)=1316.2 \text{ [W]}\approx1.32\text{ [kW]} \]

3) 単相 3 線式の低圧配電系統

単相 3 線式の低圧配電系統の線路 N には電流は流れない。線路 L1 と線路 L2 に流れる電流の大きさは,次式で求められる。

\[ I=\frac{P}{V\cos{\theta}}=\frac{20000}{100\times0.95}=201.52 \text{ [A]} \]

線路 L1 と線路 L2 に流れる電流の大きさは,図 1 の低圧配電系統 1 に流れる電流の大きさの半分である。配電線路にて発生する線路損失は,電流の 2 乗に比例するので,図 1 の低圧配電系統 1 と比較すると,低圧配電系統 3 の配電線路にて発生する線路損失は,低圧配電系統 1 の線路損失の 25.0 [%](50 [%] × 50 [%])となる。

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