実習 過渡現象の簡単な例

2019年1月作成,2022年12月11日更新

目標

  • 単相解析実習を通じて,EMTP(Electro Magnetic Transients Program)や XTAP(eXpandable Transient Analysis Program)などの瞬時値解析プログラムの使い方に慣れる
  • インダクタンスやキャパシタンスの過渡的なふるまいを理解する
  • 解析結果として得られる電圧・電流波形(過渡現象)の妥当性を評価する

目次

過渡現象の例として,RL 直列回路の過渡現象,RC 直列回路の過渡現象,RLC 直列回路の過渡現象について説明する。それぞれの現象において電圧,電流の初期値,過渡値,そして収束値の求め方や計算時間刻みの考え方についても解説する。

定常状態と過渡現象

電気回路において一定の直流電源が印加されていれば,回路の各素子には一定値の電流が流れている。また,一定の正弦波が印加されていれば,各素子には一定の正弦波電流が流れている。このように,十分長い時間,回路に一定の電源が加えられている状態を定常状態(steady state)という。

ところが,電源を印加したり,取り去ったりした直後の電圧や電流の波形は定常状態と異なった複雑なものとなる。

一般に,回路がある定常状態から他の定常状態に移る過程における電流や電圧の変化を過渡現象(transient phenomena)という。過渡現象を実際に解析することは,キルヒホッフの法則とオームの法則に基づいて瞬時電圧・電流について微分方程式を作ってその一般解を求め,与えられた初期条件(initial condition)のもとに一般解(genenal solution)に含まれている積分定数(integral constant)を決定することである。

微分方程式が二階以上になると一般に煩雑な手続を経なければならないが,EMTP や XTAP などの瞬時値解析プログラムを用いれば,回路の過渡現象を容易に解析することができる。

演習1 RL 直列回路の過渡現象

下図に示す $RL$ 直列回路において,時刻 $t=0$ [s] でスイッチを投入したとき,インダクタンス両端の電圧 $v_\text{L}$ と,インダクタンスに流れる電流 $i$ を求めよ。

ただし,直流電源電圧 $V$ の大きさは 1 [V],抵抗 $R$ の大きさは 2 [Ω],インダクタンス $L$ の大きさは 10 [μH] とする。

RL 直列回路
図 RL 直列回路

考えるポイント

  • スイッチ投入直後,インダクタンス両端の電圧 $v_\text{L}$ とインダクタンスに流れる電流 $i$ は,どう変化するか。
  • スイッチ投入から十分に時間が経過すると,インダクタンス両端の電圧 $v_\text{L}$ とインダクタンスに流れる電流 $i$ は,どのように収束するか。
  • $RL$ 直列回路の過渡現象を解析する瞬時値解析プログラムの計算時間刻み $\Delta t$ の大きさは,どのように決めればよいか。

解答

$RL$ 直列回路のスイッチ投入直後のインダクタンス両端の電圧 $v_\text{L}$ とインダクタンスに流れる電流 $i$ の波形を下図に示す。

直流 RL 回路スイッチ投入後の電圧・電流波形
図 直流 RL 回路スイッチ投入後の電圧・電流波形

解説

直流電源電圧の大きさを $V$ [V],抵抗の大きさを $R$ [Ω],インダクタンスの大きさを $L$ [H] とすると,$RL$ 直列回路スイッチ投入後,インダクタンスに流れる電流 $i$ は次式で与えられる。

\[ i = \frac{V}{R}\{1-\exp(-\frac{R}{L}t)\} = \frac{V}{R}\{1-\exp(-\frac{t}{\tau})\} \]

上式より,$RL$ 直列回路のスイッチ投入直後($t=0$)の電流の大きさは 0 [A],スイッチ投入から十分に時間が経過したとき($t$ → $\infty$)の電流の大きさ(定常電流 $I$)は $\displaystyle \frac{V}{R} = 0.5$ [A] となる。

一方,$RL$ 直列回路のスイッチ投入直後における,インダクタンス両端の電圧 $v_\text{L}$は次式で与えられる。

\[ v_\text{L}=L\frac{\text{d}i}{\text{d}t}=L\cdot\frac{V}{R}\cdot\frac{R}{L}\exp(-\frac{R}{L}t)=V\exp(-\frac{R}{L}t) \]

上式より,$RL$ 直列回路のスイッチ投入直後のインダクタンス両端の電圧 $v_\text{L}$ は,直流電源電圧の大きさ $V$ と等しい 1 [V],スイッチ投入から十分に時間が経過したときの電圧の大きさは 0 [V] となる。

また,$RL$ 直列回路の時定数(time constant) $\tau$ は,$\displaystyle \tau = \frac{L}{R}$ となる。演習で与えられた抵抗の大きさと,インダクタンスの大きさより,時定数 $\tau$ は次式で求められる。

\[ \tau=\frac{L}{R}=\frac{10 \times 10^{-6}}{2}=5\times 10^{-6} \text{ [s]} \]

時定数の大きさより十分短い計算時間刻み $\Delta t$ とする必要があり,一つの目安として,計算時間刻み $\Delta t$ は次式で求められる。

\[ \Delta t = \frac{\tau}{20}=2.5 \times 10^{-7} \text{ [s]} \]

時定数

電流 $i$ の曲線に $t=0$ で接線を引き,これが定常電流 $i=I$ の漸近線と交わる時刻を $\tau$ とし,この $\tau$ を回路の時定数(time constant)という。

RL 直列回路の漸増電流
図 $RL$ 直列回路の漸増電流

$\tau$ の小さいものは大きいものに比べて,定常電流 $I$ のある割合 [%] に達するまでの時間,すなわち過渡状態と考えられる時間が短いことを意味する。逆に $\tau$ が大きいと長い時間を必要とする。

(参考)$RL$ 直列回路に流れる電流の厳密解

$RL$ 直列回路に流れる電流 $i$ の厳密解を求める。$RL$ 直列回路では,次式が成り立つ。次式は,自己インダクタンス $L$ と抵抗 $R$ との直列回路に直流電源電圧 $V$ が印加されているときに回路に流れる電流 $i$ の時間的変化を,定数係数の線形一階常微分方程式で記述したものである。

\[ Ri+L\frac{\text{d}i}{\text{d}t}=V \]

両辺をラプラス変換(Laplace transform)する。

\[ (R+sL)I(s)=\frac{V}{s} \]

$I(s)$ で整理する。

\[ I(s)=\frac{V}{s}\cdot\frac{1}{sL+R} \] \[ I(s)=\frac{V}{R}\cdot\frac{1}{s}-\frac{VL}{R}\cdot\frac{1}{sL+R} \] \[ I(s)=\frac{V}{R}(\frac{1}{s}-\frac{1}{s+\frac{R}{L}}) \]

両辺をラプラス逆変換(inverse Laplace transform)すれば,$RL$ 直列回路に流れる電流 $i$ の厳密解が求められる。

\[ i(t)=\frac{V}{R}\{1-\exp(-\frac{R}{L}t)\} \]

演習2 RC 直列回路の過渡現象

下図に示す$RC$ 直列回路において,時刻 $t=0$ [s] でスイッチを投入したとき,キャパシタンス両端の電圧 $v_\text{C}$ と,キャパシタンスに流れる電流 $i$ を求めよ。

ただし,直流電源電圧 $V$ の大きさは 1 [V],抵抗 $R$ の大きさは 500 [Ω],キャパシタンス $C$ の大きさは 1,000 [pF] とする。

RC 直列回路
図 RC 直列回路

考えるポイント

  • スイッチ投入直後,コンデンサ両端の電圧 $v_\text{C}$ とコンデンサに流れる電流 $i$ は,どう変化するか。
  • スイッチ投入から十分に時間が経過すると,コンデンサ両端の電圧 $v_\text{C}$ とコンデンサに流れる電流 $i$ は,どのように収束するか。
  • $RC$ 直列回路の過渡現象を解析する瞬時値解析プログラムの計算時間刻み $\Delta t$ の大きさは,どのように決めればよいか。

解答

$RC$ 直列回路のスイッチ投入直後のコンデンサ両端の電圧 $v_\text{C}$ とコンデンサに流れる電流 $i$ を下図に示す。

RC 直列回路スイッチ投入後の電圧・電流波形
図 RC 直列回路スイッチ投入後の電圧・電流波形

解説

直流電源電圧の大きさを $V$ [V],抵抗の大きさを $R$ [Ω],キャパシタンスの大きさを $C$ [F] とすると,$RC$ 直列回路スイッチ投入後のコンデンサに流れる電流 $i$ は次式で与えられる。

\[ i = \frac{V}{R}\exp(-\frac{1}{RC}t) = \frac{V}{R}\exp(-\frac{t}{\tau}) \]

よって,$RC$ 直列回路スイッチ投入後のコンデンサに流れる電流 $i$ は次式で求められる。

\[ i=\frac{V}{R}=\frac{1}{500}=0.002 \text{ [A]} = 2 \text{ [mA]} \]

スイッチ投入から十分に時間が経過すると電流は 0 [A] となる。

一方,$RC$ 直列回路スイッチ投入後のキャパシタンス両端の電圧 $v_\text{C}$ は,次式で求められる。

\[ v_\text{C}=\frac{1}{C}\int i(t) \text{d}t \] \[ v_\text{C}=V\{1-\exp(-\frac{1}{RC}t)\} \]

よって,$RC$ 直列回路スイッチ投入後のキャパシタンス両端の電圧 $v_\text{C}$ は 0 [V],スイッチ投入から十分に時間が経過すると直流電圧源 $V$ の大きさと等しい 1 [V] となる。

また,$RC$ 直列回路の時定数 $\tau$ は,$\tau = RC$ となる。演習で与えられた抵抗の大きさと,キャパシタンスの大きさより,時定数は次式で求められる。

\[ \tau = RC = 500 \times 1000\times 10^{-12}=5 \times 10^{-7} \text{ [s]} \]

時定数の大きさより十分短い計算時間刻み $\Delta t$ とする必要があり,一つの目安として,計算時間刻みは次式で求められる。

\[ \Delta t = \frac{\tau}{20} = \frac{5 \times 10^{-7}}{20}=2.5 \times 10^{-8} \text{ [s]} \]

(参考)$RC$ 直列回路に流れる電流の厳密解

$RC$ 直列回路に流れる電流 $i$ の厳密解を求める。$RC$ 直列回路では,次式が成り立つ。

\[ Ri+\frac{1}{C}\int{i}\text{d}t=V \]

両辺をラプラス変換する。

\[ RI(s)+\frac{1}{sC}I(s)=\frac{V}{s} \]

I(s)について整理する。

\[ I(s)=\frac{VC}{sRC+1} \] \[ I(s)=\frac{V}{R}\cdot\frac{1}{s+\frac{1}{RC}} \]

両辺を逆ラプラス変換し,$RC$ 直列回路に流れる電流 $i$ の厳密解を求める。

\[ i(t)=\frac{V}{R}\exp(-\frac{1}{RC}t) \]

演習3 RLC 直列回路の過渡現象

下図に示す$RLC$ 直列回路において,時刻 $t=0$ [s] でスイッチを投入したとき,回路に流れる電流 $i$ を求めよ。

ただし,直流電源電圧 $V$ の大きさは 1 [V],抵抗 $R$ の大きさは 2 [Ω],インダクタンスの大きさは 10 [μH],キャパシタンス $C$ の大きさは 1,000 [pF] とする。

RLC 直列回路
図 RLC 直列回路

考えるポイント

  • スイッチ投入直後,回路に流れる電流 $i$ は,どう変化するか。
  • スイッチ投入から十分に時間が経過すると,回路に流れる電流 $i$ は,どのように収束するか。
  • $RLC$ 直列回路の過渡現象を解析する瞬時値解析プログラムの計算時間刻み $\Delta t$ の大きさは,どのように決めればよいか。

解答

$RLC$ 直列回路のスイッチ投入直後,回路に流れる電流 $i$ を下図に示す。

RLC 直列回路スイッチ投入後の電流波形
図 RLC 直列回路スイッチ投入後の電流波形

解説

直流電源電圧の大きさを $V$ [V],抵抗の大きさを $R$ [Ω],インダクタンスの大きさを $L$ [H],キャパシタンスの大きさを $C$ [F] とすると,$RLC$ 直列回路スイッチ投入後の電流は次式で与えられる。

\[ i = \frac{V}{L}\exp(-\frac{R}{2L}t) \sin(\sqrt{\frac{1}{LC}-\frac{R^2}{4L^2}}t) = \frac{V}{L} \exp(-\frac{t}{\tau}) \sin(\frac{2\pi}{T}t) \]

また,$RLC$ 直列回路の時定数 $\tau$ は,$\displaystyle \frac{2L}{R}$ となる。演習で与えられた抵抗の大きさとインダクタンスの大きさより,時定数 $\tau$ は,10 μs となる。時定数の大きさより十分短い計算時間刻み $\Delta t$ とする必要があり,一つの目安として,計算時間刻み $\Delta t = \tau/20 = 0.5$ μs となる。

一方,$RLC$ 直列回路では,インダクタンスとキャパシタンスによる振動成分を考慮する必要がある。振動の周期は,次式で与えられ,大きさは 0.628 μs となる。振動周期より十分短い計算時間刻み $\Delta t$ とする必要があり,一つの目安として,計算時間刻み $\Delta t = T/20 = 31.4$ ns となる。

\[ T = \frac{2\pi}{\sqrt{\frac{1}{LC}-\frac{R^2}{4L^2}}} \]

また,振動周波数 $f$ は,振動周期の逆数で与えられ,$f = 1.59$ MHz となる。

瞬時値解析プログラムの周波数特性計算機能を用い,電圧源から回路を見たときの周波数特性を計算する。例えば,1 V の正弦波電圧源を 1 MHz から 2 MHz まで変化させたとき,抵抗に流れる電流の周波数特性を下図に示す。ピーク周波数は,振動周波数 1.59 MHz となっており,ピーク周波数での抵抗に流れる電流は,$V/R = 0.5$ A となる。

RLC 直列回路の周波数特性
図 RLC 直列回路の周波数特性

(参考)$RLC$ 直列回路に流れる電流の厳密解

$RLC$ 直列回路に流れる電流 $i$ の厳密解を求める。$RLC$ 直列回路では,次式が成り立つ。

\[ Ri+L\frac{\text{d}i}{\text{d}t}+\frac{1}{C}\int{i}\text{d}t=V \]

両辺をラプラス変換する。

\[ RI(s)+L\cdot sI(s)+\frac{1}{C}\cdot\frac{I(s)}{s}=\frac{V}{s} \] \[ \frac{s^2 LC + sRC + 1}{sC}\cdot I(s)=\frac{V}{s} \]

$I(s)$ について整理する。

\[ I(s)=\frac{VC}{s^2 LC + sRC +1} \] \[ I(s)=\frac{V}{L}\cdot\frac{1}{s^2+\frac{R}{L}s+\frac{1}{LC}} \] \[ I(s)=\frac{V}{L}\cdot\frac{1}{(s+\frac{R}{2L})^2+\frac{1}{LC}-\frac{R^2}{4L^2}} \]

両辺を逆ラプラス変換し,$RLC$ 直列回路に流れる電流 $i$ の厳密解を求める。

\[ i(t)=\frac{V}{L}\exp(-\frac{R}{2L}t)\sin(\sqrt{\frac{1}{LC}-\frac{R^2}{4L^2}}t) \]

本稿の参考文献

  1. 平山 博,大附 辰夫,「電気回路論[2 版改訂]」,電気学会,2002年12月25日
  2. 馬場 吉弘,「過渡現象論 理論と計算方法を学ぶ」,数理工学社,2022年2月25日
  3. 水本 哲弥,「TokyoTech Be-TEXT フーリエ級数・変換/ラプラス変換」,オーム社,2010年5月10日
  4. Masassiah Blog,「RL 直列回路の過渡現象
[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

電気回路論3版改訂 (電気学会大学講座) [ 平山博 ]
価格:2860円(税込、送料無料) (2021/6/26時点)


inserted by FC2 system