実習 避雷器による過電圧抑制

2019年1月作成,2022年7月10日更新

目標

  • 単相解析実習を通じて,EMTP や XTAP などの瞬時値解析プログラムの使い方に慣れる
  • 避雷器による過電圧抑制を説明できる

基本ケース 避雷器による過電圧抑制

線路 1 から線路 2 へ波頭峻度 s [kV/μs] の直線上昇波電圧が進行してきたとき,線路 1 と線路 2 の間に設置されている避雷器の効果を考える。避雷器設置点 A と開放端 P の電圧はどのように変化するか。

表 解析条件
パラメータ 解析で用いる値
雷サージ電圧波高値 10 000 kV または 2 000 kV
雷サージ電圧波形 直線上昇波(1/70 μs ランプ波)
線路 1 一定パラメータ分布定数線路モデル,長さ 300 m
サージインピーダンス 350 Ω,伝搬速度 300 m/μs,単位長当たりの抵抗 0 Ω/m
線路 2 一定パラメータ分布定数線路モデル,長さ 30 m
サージインピーダンス 350 Ω,伝搬速度 300 m/μs,単位長当たりの抵抗 0 Ω/m
避雷器 制限電圧 600 kV の理想避雷器
避雷器による過電圧抑制
図 避雷器による過電圧抑制

考えるポイント

  • 瞬時値解析プログラムの計算時間刻み Δt の大きさの決め方はどうすればよいか。
  • 瞬時値解析プログラムで理想避雷器を取り扱うにはどうすればよいか。

解答

避雷器設置点 A の電圧 Va(青線)と開放端 P の電圧 Vp(赤線) の時間波形は次のようになる。

避雷器設置点 A と開放端 P の電圧時間波形(s=10 000 kV/μs)
図 避雷器設置点 A と開放端 P の電圧時間波形(s = 10 000 kV/μs)
避雷器設置点 A と開放端 P の電圧時間波形(s=2 000 kV/μs)
図 避雷器設置点 A と開放端 P の電圧時間波形(s = 2 000 kV/μs)

解説

瞬時値解析プログラムの計算時間刻み Δt の大きさは,最も短い一定パラメータ線路モデルの長さの伝搬時間 τ よりも短くなければならない。基本ケースにおいて,最も短い一定パラメータ線路モデルは,線路 2 の 30 m であり,その伝搬時間 τ は,0.1 μs(= 30 m ÷ 300 m/μs)である。一つの目安として,計算時間刻み Δt = τ/20 = 0.005 μs = 5 ns となる。

瞬時値解析プログラムで理想避雷器は厳密には取り扱うことができないため,制限電圧 600 kV の理想避雷器の場合,以下のような V-I 特性を持つ非線形抵抗で模擬する。

V-I 特性
V [kV] I [kA]
-600 -50
-599 -0.001
0 0
599 0.001
600 50
理想的な避雷器と現実的な避雷器のV-I特性(制限電圧 600 kV)
図 理想的な避雷器と現実的な避雷器の V-I特性(制限電圧 600 kV)

電圧の時間波形の変化については,サージ概論避雷器による過電圧抑制」を参照されたい。

演習1 避雷器と開放端との間の距離

避雷器と開放端との間の距離を 10 m,30 m(基本ケース),60 m と変えたとき,開放端電圧はどのように変化するか。

解答

波頭長を変えたときの,開放端 P の電圧時間波形は次のようになる。避雷器と開放端との間の距離 10 m を青線,30 m を赤線,60 m を緑線で示す。

開放端 P の電圧時間波形(s = 10 000 kV/μs)
図 開放端 P の電圧時間波形(s = 10 000 kV/μs)
開放端 P の電圧時間波形(s = 2 000 kV/μs)
図 開放端 P の電圧時間波形(s = 2 000 kV/μs)

解説

避雷器と開放端との間の距離が長くなると,避雷器設置点 A を通過してから開放端 P に到達する時間 τ は長くなる。よって,開放端電圧の立ち上がり開始時間は距離 10 m で 1.033 μs,距離 30 m で 1.1 μs,距離 60 m で 1.2 μs と避雷器と開放端の距離が長いほうが遅くなる。

波頭峻度が大きいとき(本ケースの設定では 10 000 kV/μs),点 A では避雷器の制限電圧に抑制されていることから,開放端 P では避雷器制限電圧 2 倍となるが,避雷器制限電圧の 2 倍が開放端に現れる時間は,避雷器と開放端との間の距離が長いほうが長くなる。なお,避雷器と開放端の距離が 9 m 以下になると時刻 2 τ 以前に A 点電圧が 避雷器の制限電圧 Ea に達せず,開放端 P の電圧は避雷器制限電圧の 2 倍まで上昇しない。

波頭峻度が小さいとき(本ケースの設定では 2 000 kV/μs),避雷器と開放端との間の距離が長くなると開放端 P の電圧は大きくなる。避雷器と開放端の距離が 45 m 以上になると時刻 2 τ 以前に A 点電圧が 避雷器の制限電圧 Ea に達し,開放端 P の電圧は避雷器制限電圧の 2 倍となる。

演習2 キャパシタンス端とした場合

開放端(基本ケース)ではなく,キャパシタンス 1 000 pF,3 000 pF が存在していた場合,P 点の電圧はどのように変化するか。

解答

開放端ではなくキャパシタンスが存在していたときの,開放端 P の電圧時間波形は次のようになる。開放端 を青線,キャパシタンス 1 000 pF を赤線,3 000 pF を緑線で示す。

開放端 P の電圧時間波形(s = 10 000 kV/μs)
図 開放端 P の電圧時間波形(s = 10 000 kV/μs)
開放端 P の電圧時間波形(s = 2 000 kV/μs)
図 開放端 P の電圧時間波形(s = 2 000 kV/μs)

解説

電圧サージが点 P に到達する時刻はキャパシタンスの有無や容量によらず,1.1 μs で等しい。開放端の場合,点 P の電圧は直線上昇するが,キャパシタンスがあるとそうならない。

点 A に避雷器がなければ電圧サージが到達する時刻を t = 0 μs とすれば,点 P の電圧は次式で表せる。(Z は線路 2 のインピーダンス)

\[ e_p = 2s[t-ZC\{1-\exp(-\frac{t}{ZC})\}] \]

開放端の場合,C = 0 であり,点 P の電圧は電圧サージの峻度に比例して直線上昇する。一方,キャパシタンスが存在する場合,線路 2 のインピーダンスとキャパシタンス容量の積で決まる大きさの分だけ,電圧の上昇速度が遅れる。本ケースでは,点 A に避雷器がなければ十分に時間が経過したとき,開放端 P の電圧サージがある電圧となる時刻は,開放端の場合に比べて 0.35 μs(ZC = 350 Ω × 1 000 pF)だけ遅れる。避雷器が無い場合の点 P の電圧上昇を開放端とキャパシタンス設置の場合で比較すると,次図のようになる。1 000 pF のキャパシタンス設置したときの電圧上昇の曲線を,十分時間が経過したときの接線と時間軸の交点は,0.35 μs となる。

開放端とキャパシタンスの点 P の電圧比較
図 開放端とキャパシタンスの点 P の電圧比較

波頭峻度が小さいとき(本ケースの設定では 2 000 kV/μs),開放端の場合は点 P の電圧は三角波となっている。そこにキャパシタンスを設置すれば,三角波が平滑化され,正弦波になると捉えることができる。一方,波頭峻度が大きいとき(本ケースの設定では 10 000 kV/μs),開放端の場合は点 P の電圧は矩形波となっている。そこにキャパシタンスを設置すれば,平滑化されるが,矩形波であるため歪んだ正弦波となる。

演習3 線路 2 の特性を変えたとき

線路 2 をケーブル(サージインピーダンス 30 Ω,伝搬速度 180 m/μs,単位長当たりの抵抗 0 Ω/m)とした場合,開放端 P の電圧波形はどのように変化するか。

解答

線路 2 をケーブル(サージインピーダンス 30 Ω,伝搬速度 180 m/μs,単位長当たりの抵抗 0 Ω/m)とした場合の,開放端 P の電圧時間波形は次のようになる。基本ケース を青線,ケーブルとした場合を赤線で示す。

開放端 P の電圧時間波形(s = 10 000 kV/μs)
図 開放端 P の電圧時間波形(s = 10 000 kV/μs)
開放端 P の電圧時間波形(s = 2 000 kV/μs)
図 開放端 P の電圧時間波形(s = 2 000 kV/μs)

解説

線路 1 と線路 2 のサージインピーダンスは異なるため,電圧サージが点 A に到達すると,反射・透過が生じる。反射係数,透過係数はそれぞれ次式で表される。

\[ \frac{2Z_2}{Z_2+Z_1}=\frac{2\times30}{30+350}=0.158 \] \[ \frac{Z_2-Z_1}{Z_2+Z_1}=\frac{30-350}{30+350}=-0.842 \]

また,線路 2 がケーブルの場合,伝搬速度は 180 m/μs であり,点 A を通過した電圧サージが点 P に到達するまで 0.167 μs(30 m ÷ 180 m/μs)要する。

波頭峻度が大きいとき(本ケースの設定では 10 000 kV/μs)も,点 P の電圧は,528 kV(2 × 10 000 × 0.167 μs × 0.158)と避雷器の制限電圧に達しない。

演習4 理想的な避雷器と現実的な避雷器

理想的な避雷器を現実的な避雷器とした場合,開放端 P の電圧波形はどのように変化するか。

解答

理想的な避雷器を現実的な避雷器とした場合の,開放端 P の電圧時間波形は次のようになる。理想的な避雷器を青線,現実的な避雷器を赤線で示す。

開放端 P の電圧時間波形(s = 10 000 kV/μs)
図 避雷器設置点 A と開放端 P の電圧時間波形(s = 10 000 kV/μs)
開放端 P の電圧時間波形(s = 2 000 kV/μs)
図 避雷器設置点 A と開放端 P の電圧時間波形(s = 2 000 kV/μs)

解説

現実的な避雷器は,制限電圧未満であっても大地へ電流が流れ始める。初期の段階においては,理想避雷器が点 A に設置されているときよりも,点 P の電圧が抑制される。

波頭峻度が大きいとき(本ケースの設定では 10 000 kV/μs),理想的な避雷器の場合,点 P からの正反射と理想避雷器での負反射により点 P の電圧が 0 kV となるが,現実的な避雷器では 0 kV とならないため,点 P の電圧は徐々に上昇していく。

参考文献

  1. 雷リスク調査研究委員会 発変電雷リスク分科会,「発変電所及び地中送電線の耐雷設計ガイド」,電力中央研究所 総合報告 H06,2012 年 9 月
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