雷撃および電力機器のモデリング

2019年1月作成,2022年7月10日

はじめに

瞬時値解析プログラムによる雷過電圧解析を実施する際に必要となる雷撃,電力機器及びフラッシオーバのモデリングについて述べる。ここでは,耐雷設計ガイドで推奨されるものを中心に説明するが,実際の耐雷設計を行う場合には,可能な限り実際の値を使用することが同ガイドで推奨されている。

雷撃条件

耐雷設計ガイドの発変電所の雷過電圧解析では,第 1 鉄塔塔頂への雷撃を想定しており,その雷撃によって上相のアークホーンが逆フラッシオーバした場合に発生する変電所構内の過電圧を解析している。雷撃は下図で示すように電流源と雷道インピーダンスを表現する抵抗(耐雷設計ガイドでは 400 Ω)とを並列に接続することで模擬する。

雷撃の模擬
雷撃の模擬

雷撃電流波高値は公称電圧ごとに設定された想定雷撃電流値を用い,その波形は 1/70 μs のランプ波(直線上昇/直線下降波)を用いることとする。

雷撃電流波形
雷撃電流波形
表 想定雷撃電流値
公称電圧 [kV] 66 77 154 275 500
想定雷撃電流値 [kA] 30, 40(注) 30, 40(注) 60 100 150
(注) 雷撃頻度の大きい地域や雷事故の多い地域では,系統の重要性を勘案した上で,40 kA の採用を推奨

1995 年の耐雷設計ガイド改定時,66,77 kV 系統については,想定雷撃電流値として 30 kA のほか,40 kA も推奨することとした。その理由は次のとおり。

  • 耐雷設計ガイド作成時よりも,現在の鉄塔高が高くなっていることから,雷撃確率が増える傾向にある。
  • 来出来電流が 30 kA 以上である確率は雷撃電流頻度分布によると,45 % 程度であり,電流値 30 kA 以上の雷は稀頻度なものとは言い難い。
  • 機器絶縁裕度の減少が予想される。
  • OA 化により瞬低も許容できない機器の普及が進んでいる。また,生活様式の変化により停電に対するクレームも多くなってきている。

(参考)雷道インピーダンス

雷撃が気中を通った経路(雷道)の特性を表す値であり,この値は測定不可能であるため仮定した値である。鉄塔塔脚等で磁鋼片による雷撃電流波高値の測定結果を塔頂に換算するためには,この値が必要である。雷撃電流波高値累積頻度分布の作成において,各国の観測結果を処理する際に 400 Ω が用いられた。

しかし,海外の耐雷設計では,高構造物などの雷観測結果から雷道インピーダンスとして 1 000 Ω 以上の値を用いるのが一般的である。2013 年に取りまとめられた CIGRE WG Report において,雷道インピーダンス 400 Ω は低めの値であると指摘されている。

送電設備

雷過電圧解析では,架空地線を零電位とみなすことができないため,電力線と架空地線をそれぞれモデリングする必要がある。さらに,雷サージ解析では,鉄塔を電流が流れるために,鉄塔モデルおよび塔脚の接地抵抗も考慮する必要がある。

送電線設備は電力線及び架空地線の全てについて第 5 鉄塔までを模擬し,それ以遠については,多相マッチング回路で置き換えて不要な反射サージが戻らないようにするのが一般的である。鉄塔は 4 段鉄塔モデルを使用し,引留鉄構については単相分布定数回路で模擬する。一方,変電所側は雷が侵入した回線のみを模擬し,それ以外の回線については引込口遮断器で開放状態とする。

送電設備のモデリング
送電設備のモデリング

架空送電線

架空送電線モデル

詳細は,「線路モデル」参照。

送電線の解析モデルを作成する際には,単相分布定数回路,CP-Line(一定パラメータ線路,Constant Parameter Line)モデル,FD-Line(周波数依存線路,Frequency Dependent Line)モデルにより,架空地線,電力線を全相模擬する。

耐雷設計ガイドの解析では,発変電所のサージ現象の周波数に基づき,FD-Line モデルの定数計算における中心周波数は 500 kHz としている。

CP-Line モデルは,単一の周波数における特性しか扱えないモデルであるが,入力データ数が少ないことから簡易計算法,あるいは長距離のケーブルの模擬などに有効なモデルである。

表 送電線モデル
モデル 多相送電線の模擬 周波数特性の模擬 備考
単相分布定数回路 完全撚架送電線のみ取扱い可能 1 つの周波数の損失のみ考慮できる
CP-Line 多相送電線の取扱いが可能 1 つの周波数の損失と伝搬特性が考慮できる K. C. Lee モデルからの改称
FD-Line 多相送電線の取扱いが可能 損失などの周波数特性を考慮できる J.Marti モデルからの改称

遠方端(多相マッチング回路)

発変電所の雷過電圧解析の場合,解析時間は通常 10 μs 程度であるため,送電線部は変電所から 5 径間まで模擬すれば十分であるが,終端は多相マッチング回路でサージの反射を防止するのが一般的である。ただし,多相マッチング回路は,FD-Line モデルとは異なり,周波数特性を考慮していないため,ひげ状の反射波が生じる場合がある。マッチング回路の抵抗値の一例として,発変電所のサージ現象の周波数に基づき,周波数は 500 kHz とした FD-Line モデルの定数計算より得られた値とする。

送電鉄塔

鉄塔は,アークホーン間の電圧が実測とよく合う 4 段鉄塔モデルを使用する。

4 段鉄塔モデルは,鉄塔を上相,中相および下相のアーム位置で 4 段に分割し,単相分布定数回路と $R-L$ の集中定数並列回路を直列に接続した線路で表現するモデルである。単相分布定数回路は鉄塔の長さ,抵抗 $R$ はサージの減衰,インダクタンス $L$ はサージ波尾における電圧低下を表す。4 段鉄塔モデルでは,以下の条件を備えることができる。

  1. 塔頂の塔頂インピーダンスが 100 ~ 200 Ω
  2. 塔脚からの反射波は見掛け上減衰
  3. 十分時間が経過した後の塔頂インピーダンスは塔脚接地抵抗に等しい
  4. 塔脚からの反射波が変歪する
  5. 瞬時値解析プログラムで計算が可能
4 段鉄塔モデル
4 段鉄塔モデル

上図の 4 段鉄塔モデルに用いられる各パラメータは,以下の通り。

1. 分布定数回路のサージインピーダンス

鉄塔上部のサージインピーダンスは 220 Ω,鉄塔下部のサージインピーダンスは 150 Ω とする。

鉄塔上部 $Z_\text{t1} = Z_\text{t2} = Z_\text{t3} = 220$ Ω
鉄塔下部 $Z_\text{t4} = 150$ Ω

2. 分布定数回路の伝搬速度

鉄塔のいずれの部位においても,伝搬速度は 300 m/μs とする。

\[ V_\text{t} = V_\text{t1} = V_\text{t2} = V_\text{t3} = V_\text{t4} = 300 \text{ [m/μs]} \]

3. $R$ と $L$ の決定

$L$ と $R$ の比は,サージが鉄塔を往復する時間 $\tau$ に等しい。

\[ \frac{L}{R} = \tau = \frac{2\times(l_1 + l_2 + l_3 + l_4)}{V_\text{t}} \]

4. 減衰定数

上部減衰定数 $\gamma_1$ と下部減衰定数 $\gamma_2$ が等しく,全体の減衰定数 $\gamma$ を 0.8 とする。

\[ \gamma = \gamma_1 \times \gamma_2 = 0.8 \] \[ \gamma_1 = \gamma_2 = \sqrt{0.8} = 0.8944 \]

5. $R$ と $L$ の算出式

上部の単位長さ当たりの抵抗を用いて,抵抗,インダクタンスを算出する。ただし,$i = 1, 2, 3$ とする。

\[ r_1 = -\frac{2 \times Z_\text{t1} \times \ln{\gamma_1}}{l_1 + l_2 + l_3} \] \[ R_i = r_1 \times l_i \] \[ L_i = R_i \times \tau \]

下部の単位長さ当たりの抵抗を用いて,抵抗,インダクタンスを算出する。

\[ r_2 = -\frac{2 \times Z_\text{t4} \times \ln{\gamma_2}}{l_4} \] \[ R_4 = r_4 \times l_4 \] \[ L_4 = R_4 \times \tau \]

塔脚接地抵抗

塔脚接地抵抗が小さいほど塔脚での負反射が大きくなるため,塔脚接地抵抗が小さくなるほど発変電所に侵入する雷サージは小さくなり,発生する過電圧も小さくなる。

塔脚接地抵抗は,既知の場合はその値を用いるが,新設発電所のため不明の場合は実用上比較的大きめの 10 Ω を用いて解析を行い,このとき発変電所の過電圧が許容できないものであった場合,過電圧が許容値以下となるような接地抵抗値が設計目標値となる。

引留鉄構

引留鉄構は鉄塔とは異なり,アーム位置などを考慮する必要がない。引留鉄構に関しては適切なモデルが提案されておらず,また,モデルを変えても解析結果に与える影響が小さいため,単相分布定数回路によって模擬することとする。

引留鉄構の接地抵抗は,変電所の接地抵抗となり,ガイドでは 1 ~ 5 Ω が用いられている。

第 1 鉄塔から引留鉄構では,送電線高さ徐々に低くなるが,不要な反射を発生させないために,引留鉄構と第 1 鉄塔間の送電線位置は,第 1 鉄塔以遠の送電線と同じ値とし,径間長のみを模擬する。

変電所設備

発変電所の雷過電圧解析では,変電所母線は分岐も全て詳細に模擬するため,分岐点ごとに実長を模擬する。

変電所母線

気中母線

母線を支持する鉄構が導体の直近にあるため,正しい定数を計算することができない。このことから,気中母線は過酷側と想定される単相分布定数回路で模擬する。気中母線のサージインピーダンス(surge impedance)は地上高が高いほど,電線サイズが細いほど大きくなるが,発生過電圧に与える影響は小さいので,公称電圧に関わらず同じ値としている。

  • サージインピーダンス:350 Ω
  • 減衰:なし
  • 伝搬速度:300 m/μs

相分離 GIS 母線

相分離 GIS 母線は,シースにより相間の結合を無視することができるため,単相分布定数回路で模擬する。その値は,公称電圧によらず同一の値とし,過酷側の評価となるように減衰は無視することとする。

  • サージインピーダンス:70 Ω
  • 減衰:なし
  • 伝搬速度:270 m/μs

三相一括 GIS 母線

三相一括 GIS 母線(Three-phase Enclosure-type Gas Insulated Bus)は,実際の形状を模擬するものとし,多相線路の現象検討が可能な CP-Line モデルを使用する。GIS 母線のサイズはメーカ,公称電圧,電流容量などによって異なるが,これらの違いが発変電所で発生する過電圧に与える影響は小さいことから,耐雷設計ガイドの解析では,国内メーカ 3 社が合議の上で提案した標準寸法が採用されている。

基本的な線路定数として,線路直列インピーダンス(series impedance)および線路並列アドミタンス(shunt admittance)があり,三つの母線が金属タンク内に一括で配置される三相一括形 GIS の場合,これらの定数は母線間の相互結合を考慮した行列で表現される。

三相一括形 GIS 母線の線路直列インピーダンス行列と線路並列アドミタンス行列を計算する手法は,EMTP の補助プログラムである Cable Constants に実装されており,広く用いられている。しかしこの手法は,母線の導体径が金属タンク内径と比較して十分に小さいという仮定を前提としており,導体同士が近接して配置されることで導体の電流および電荷分布が偏る近接効果(proximity effect)が考慮されていない。そのため,母線の導体径が大きい場合や導体間の距離が近い場合など,母線と金属タンクの位置関係によっては導体周囲の電磁界分布が近接効果の影響を受けるため,これを考慮しないと線路定数を精度よく計算することはできない。

変圧器,PD,VT,ブッシング

変圧器,PD(Potential Device:コンデンサ形計器用変圧器),VT(Voltage Transformer:計器用変圧器)はサージ侵入静電容量と呼ばれる集中静電容量で模擬できる。その値はメーカ及び形状などにより大きく変化するが,値が小さい方が発変電所で発生する過電圧は大きくなるため,実用的な範囲で小さい値を標準値としている。

変圧器などの被保護機器は,サージに対して静電容量として作用するため,直列共振により高い電圧が発生するおそれがある。避雷器により異常電圧を抑制するためには,避雷器と被保護機器の配置について十分注意する必要がある。

表 サージ侵入静電容量の標準値
公称電圧 [kV] 変圧器 [pF] VT [pF] PD [pF] ブッシング [pF]
500 3 000 200 2 000 200
275 2 500
154 1 500 100 2 000 50
77 1 000
66 1 000

(補足)変圧器モデル

通常のサージ解析では変圧器端子の発生電圧を求めることを目的としているため,電力用変圧器はサージ侵入電圧と呼ばれる単一の対地静電容量で模擬するのが一般的である。変圧器内部の発生電圧を求める詳細なモデルとして,周波数特性をカーブフィッティングしたモデルや,変圧器内部の単位コイルごとにインダクタンスと静電容量の直並列回路を構成したモデルが使われる場合がある。また,サージ移行を考慮するモデルとしては,静電移行のみを考慮したモデルや,商用周波数領域で用いられる変圧器モデルを基に,静電移行を模擬するための巻線間静電容量を付加したものなどが提案されている。

遮断器

投入状態

気中絶縁変電所のガス遮断器については,相分離 GIS 母線(サージインピーダンス 70 Ω)とその両端のブッシング(集中静電容量で模擬)で模擬することとしている。一方,ガス絶縁変電所に関しては,GIS 母線と同様に扱う。

開放状態

開放状態の遮断器は,遮断点までの回路長と極間にあるキャパシタンスで模擬する。気中絶縁変電所の場合には,ガス遮断器の両端にブッシングがあるため,その集中容量も考慮する。耐雷設計ガイドでは,500 kV の変電所の場合では 2 点切り,それ以外の変電所では 1 点切りの遮断器で模擬している。

遮断器の模擬方法
遮断器の模擬方法
表 開放時のキャパシタンス
公称電圧 [kV] C1 [pF] C2 [pF]
275 120 910
154 90 50
77 70 50
66

断路器

投入状態の断路器は母線と同様に扱う。開放状態の断路器は開放端までの線路長を考慮する。

避雷器

雷サージ解析において,避雷器は標準雷インパルス電流(8/20 μs)に対しての $V-I$ 特性を表す非線形抵抗で模擬するのが一般的である。波頭長が数 μs 以下の急峻な電流に対して制限電圧値が上昇する特性がみられる。

避雷器の $V-I$ 特性については,メーカに問い合わせて実際の特性を用いることが望ましいが,不明な場合には,JEC 規格の制限電圧を参考に決定することになる。JEC 規格の避雷器の $V-I$ 特性の制限電圧の上限を規定しているものであり,実際の避雷器は規格値よりも高性能(制限電圧が低い)。このため,避雷器の処理エネルギーなどを求める場合は規格値よりも低い制限電圧の $V-I$ 特性を用いることが望ましい。

また,避雷器の接地用 IV 線が過渡現象に大きく影響し,接地用 IV 線の取付いかんによっては避雷器の過電圧抑制効果を低下する可能性がある。接地用 IV 線の模擬は,一般にインダクタンス 1 μH/m で模擬する。

275 kV 高性能避雷器 折れ線近似モデル
275 kV 高性能避雷器 折れ線近似モデル

ケーブル

変電所構内のケーブルは単相分布定数回路で模擬する。

変電所構内ケーブルの代表値
公称電圧 [kV] 線種・サイズ 抵抗 [Ω/km] サージインピーダンス [Ω] 伝搬速度 [m/μs]
154 CV 600 3.8 37.6 187.4
CV 1500 2.8 27.7 182.6
77 CV 250 3.5 34.5 182.5
CV 600 2.7 26.0 181.2
CVT 150 4.1 40.4 181.8
66 CV 200 3.2 31.1 180.4
CV 600 2.4 23.2 178.7
CVT 200 3.4 33.4 180.2

フラッシオーバのモデリング

発変電所の雷過電圧解析では,第 1 鉄塔上相のアークホーンがフラッシオーバすることにより雷サージが発変電所に侵入すると仮定して計算を行う。また,送電線の雷過電圧解析では,各アークホーンのフラッシオーバの有無により地絡事故相を推定する。このように,アークホーンのフラッシオーバ現象を正確にモデル化することは,雷過電圧解析を精度良く行う上で極めて重要である。

ここでは,アークホーンを理想化して棒-棒電極と考え,アークホーン・フラッシオーバ現象の概略について説明する。棒-棒電極間に高電圧が印加されると,まず,電極間において電子雪崩がストリーマ放電に移行し,さらに電離波が電極間を伝搬する。ただし,ここまでの現象は電流が極めて小さく,強い発光を伴わない。次に,両電極の先端から強い発光を伴うリーダ(放電)が発生し,電極間を短絡する方向に進展を開始する。最終的には,電極間の中央付近で両ガスが結合することにより,両電極は短絡されフラッシオーバが完了する。この後,電離ガスを加熱する過程を経て,短絡したリーダはアーク放電に移行する。

以上の現象をモデル化し,雷撃時のフラッシオーバの有無やリーダ進展中に流れる電流を再現しようとするのがアークホーン・フラッシオーバ・モデルである。

短絡法

雷撃と同時に,フラッシオーバすると予想されるアークホーン間を短絡することでフラッシオーバを模擬する方法であり,アークホーン間隔を考慮していない。この方法を用いた場合,雷サージ波形が変電所内を伝搬するため,変電所内に発生する過電圧は緩やかな現象となる。キャパシタンスで模擬される変圧器はサージの初期段階で充電された状態となるため,変圧器点の過電圧は大きくなる傾向がある。

$V-t$ 交差法

アークホーンの $V-t$ 特性と計算されたアークホーン間電圧を比較してフラッシオーバのタイミングを決定する手法である。具体的には,$V-t$ 特性とアークホーン間電圧波形を同一グラフ上にプロットし,アークホーン間電圧波形が $V-t$ 特性と交差した時点でスイッチを短絡する。この手法を用いた場合,サージ電圧の急激な変化により,ヒゲ状の過電圧が発生する場合がある。また,適切な $V-t$ 特性が全ての公称電圧に対して得られていないので,耐雷設計ガイドでは,$V-t$ 交差法は採用されていない。

リーダ法

リーダ法は,アークホーン間の放電進展を考慮したモデルであり,リーダ長や放電前駆電流,アークホーン間電圧の変化などを考慮する。リーダ進展相,ファイナルジャンプ相,アーク相を 3 折れ線近似としてインダクタンスとスイッチに換算する手法である。

耐雷設計ガイドではリーダ法が用いられている。しかし,このモデルでは,アークホーンがフラッシオーバしない条件を仮定して事前に予備計算を行っておく必要があることや,実際にアークホーンに加わる電圧は短波尾波であるにもかかわらずモデル定数が標準波を用いた実験から導出されているといった点で改善が必要であった。

リーダ法によるフラッシオーバの模擬回路
リーダ法によるフラッシオーバの模擬回路

短波尾波用アークホーン・フラッシオーバ・モデル(本山モデル)

リーダ法を改善するため,本山は,雷サージ計算と同時にリーダの進展を計算することで予備計算を不要とし,また,短波尾波を用いた実験からモデル定数を導出することにより新しいアークホーン・フラッシオーバモデル(以降,本山モデルと略す)を開発した。

リーダ進展開始条件の計算

先述したようにリーダ進展開始までの現象は電流が極めて小さいため,雷サージ解析にはほとんど影響を及ぼさない。そこで,本山モデルでは,リーダが進展開始するまで電流は流れないものとする。本山モデルでは,アークホーン間電圧 $V$ について次式が成立した時刻 $T_S$ をリーダ進展開始時刻とし,その時刻からリーダ進展のシミュレーションを開始する。

正極性の場合
\[ \frac{1}{T_S} \int_0^{T_S} V(t) dt > 400 D + 50 \]
負極性の場合
\[ \frac{1}{T_S} \int_0^{T_S} V(t) dt > 460 D + 150 \]

ただし,$D$ [m] はアークホーンの電極間距離である。上式の左辺は電極に印加される平均電圧であり,これが右辺に表される $D$ により定まる一定値を超えた時点でリーダが進展開始すると仮定する。なお,瞬時の電圧値ではなく,積分により算出した平均電圧値を採用することにより,「ストリーマ放電が電極間を短絡してリーダに転換するためには,ある一定値以上のエネルギーが電極間に供給される必要がある」という物理的条件を近似的に再現している。

リーダ進展過程の計算

リーダ進展開始条件が成立すると,リーダ進展過程のシミュレーションを開始する。シミュレーションでは,まずリーダ進展速度 $v_\text{LAVE}$ [m/s] を次式により計算する。

\[ v_\text{LAVE} = K_1(\frac{V}{D-2X_{\text{LAVE}}}-E_0) \]

ただし,$K_1$ [m²/V/s] は速度比例係数,$X_\text{LAVE}$ [m] はリーダ長,$E_0$ [V/m] は最低リーダ進展電界である。リーダ長 $X_\text{LAVE}$ は,リーダ進展速度 $v_\text{LAVE}$ の積分であるから,次式で計算できる。

\[ X_{\text{LAVE}} = \int v_{\text{LAVE}} dt \]

このとき,アークホーン間に流れる電流 $I_\text{L}$ は,速度 $v_\text{LAVE}$ で進展するリーダに供給された単位時間当たりの電荷であるから,次式により計算することができる。

\[ I_L = 2K_0 v_{\text{LAVE}} \]

ただし,$K_0$ [C/m] は電荷比例係数である。

計算を進めていき,リーダ長が次式を条件を満たすとアークホーン間はリーダにより短絡されフラッシオーバが完了する。その後,リーダはアーク放電に移行する。

\[ X_{\text{LAVE}} \ge D/2 \]

また,アークホーン間電圧 $V$ が低下して次式の条件が成立すると,リーダは進展を停止するものとする。

\[ V \lt (D-2X_{\text{LAVE}})E_0 \]
本山モデルのパラメータ
  • 電荷比例係数 $K_0$ = 410 × 10-6 [C/m]
  • 速度比例係数 $K_1$ = 2.5 [m²/V/s] (0 ≤ $X_\text{LAVE}$ ≤ $D/4$)
  • 速度比例係数 $K_1$ = 0.42 [m²/V/s] ($D/4$ ≤ $X_\text{LAVE}$ ≤ $D/2$)
  • 最低リーダ進展電界 $E_0$ = 750 × 103 [V/m]

簡略化した本山モデル

本山モデルでは,電圧の瞬時値を積分して平均電圧値を求め,この値がギャップ長で決まる一定値を超えるかどうかでリーダの進展開始を判定していた。系統電圧印加の状態から,雷撃を想定するケースなど,定常交流電圧にインパルス電圧が重畳するケースでは,インパルス電圧以前の定常交流電圧により積分値が上昇してしまい,正確な平均電圧が計算できない場合がある。この問題を解決するため,「アークホーン間の平均電界の絶対値が 500 kV/m を上回れば,リーダが進展を開始する」という簡略化されたリーダ進展開始条件を採用し,定常交流電圧にインパルス電圧が重畳するケースにおいても,解析を可能にしたのが,簡略化した本山モデルである。

リーダ進展開始条件の計算

アークホーンの電極間距離を $D$ [m],アークホーン間の電圧 $V(t)$ [kV]が,次式を満たせば,リーダが進展を開始するものとする。

\[ \frac{V(t)}{D} \gt E_s = 500 \text{ [kV]} \]
簡略化した本山モデルのパラメータ
  • リーダ進展開始電界 $E_s$ = 500 × 103 [V/m]
  • 電荷比例係数 $K_0$ = 410 × 10-6 [C/m]
  • 速度比例係数 $K_1$ = 1.0 [m²/V/s] (0 ≤ $X_\text{LAVE}$ ≤ $D/4$, $D$ ≤ 1 [m])
  • 速度比例係数 $K_1$ = 2.5 [m²/V/s] (0 ≤ $X_\text{LAVE}$ ≤ $D/4$, $D$ ≥ 1 [m])
  • 速度比例係数 $K_1$ = 0.42 [m²/V/s] ($D/4$ ≤ $X_\text{LAVE}$ ≤ $D/2$)
  • 最低リーダ進展電界 $E_0$ = 750 × 103 [V/m]

本稿の参考文献

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  2. 耐雷設計委員会 発変電分科会,「発変電所及び地中送電線の耐雷設計ガイド」,電力中央研究所 総合報告 T40,1995 年
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