電力系統の計画

2019年5月作成,2021年10月12日更新

電力系統の必要性

電力系統

電力系統(electric power system)とは,電力の発生から流通を経て需要にいたるまでの一貫したシステムをいい,この電力系統は発生・流通・需要を通じて有機的に密接に連系された広範囲で,かつ,大規模なシステムで,電力の貯蔵がほとんどできないため生産と消費は同時であり,年々変化・発展するという特徴を有している。

電力系統は発電設備と送電線・変電所・配電線などからなる流通設備を構成要素として,それにシステムの適正な運用を行う神経系統に相当する給電設備,通信設備,保護制御装置などを備えている。これらの構成は電源から流通設備を経て需要にいたるまで経済性と信頼性からみて,よく協調のとれたものでなければならない。

電力系統
発電所から消費者の受電設備に至る電気ネットワークの総称。火力発電所,水力発電所,原子力発電所などの大型発電設備で発電された電気は,10 万 V 以上の高い電圧の送電ネットワーク(基幹系統)によって送電され,変電設備で降圧されて,より低い電圧の送電ネットワーク(地域供給系統または 2 次系統という)を経て,需要家の受電設備に届けられる。(出典)『まるわかり 電力システム改革キーワード 360』

生産と消費の同時性

電力は大量の貯蔵が困難であることから,生産と消費が同時であるという大きな特徴をもっている。したがって,電力系統は,最大時点の電力消費量に対応した生産・輸送設備の容量を保持しなければならない。また,電力需要は,季節,曜日,時間帯,天候等さまざまな要因により時々刻々変動するので,これに合わせて瞬時瞬時に電力需給をバランスさせる必要がある。もし,負荷の急変動や電力設備の事故等によりこのバランスが大きく崩れると,発電機や負荷の脱調を生じ,これが更に連鎖的に波及することもあり得る。このため,電力系統は,種々のレベルの外乱要因に対して,速やかに機能を回復保持するための設備余力と制御システムを具備している。このバランスをみる指標となるのが周波数である。つまり,電力需要よりも発電力が少ないと周波数が下がり,多いと周波数が上がる。電力系統は,周波数を常に一定の範囲内に維持するよう,需給バランスをとりながら運用されている。

電力系統は次の 2 つの制約が常に満たされるように運用される必要がある。

  • 発電と需要が常にバランスしていること(需給バランス維持
  • 電力ネットワークに流れる潮流が,安定して運用できる限界(運用容量)を超えない(系統制約

一貫体制の下では,それぞれの地域でひとつの電力会社が,変動する需要に対して最も安いコストで供給できるよう,自社の発電・流通設備を運用してきた(※)。設備投資についても,それぞれの電力会社が地域全体の需要見通しや経済情勢を踏まえ,発電・送配電,需要設備という電力システム全体で最適化を図ってきた。

※この最適運用のやり方を「系統制約付き最適負荷配分(SCED : Security Constrained Economic Dispatch)」ということもある。

同時同量

電力消費量に対して発電電力量が多いと周波数が上昇し,少ないと下降する。周波数の変動が大きくなると,需要家に影響が生じる。周波数が変動すると需要家が使用しているモータの回転数も変動し,例えば紡績工場の糸巻では巻き取りに歪が出て,出荷できない製品ができることも考えられる。そこで,電力会社では周波数を一定の値(50 [Hz] または 60 [Hz])に維持する必要がある。すなわち,時々刻々と変化する電力消費に発電電力が合致するように発電機を動かす。このように電力消費量と発電電力量を時々刻々と一致させることを同時同量と呼ぶ。

送電部門が法的分離されたあと(2020年4月以降)の同時同量の維持は,一義的には送配電会社の役割とされている。送配電会社はネットワークの周波数を常時監視しながら,自らの指揮命令系統の下にある発電設備などを用いて,各瞬間の電気の需要と供給をバランスさせる(瞬時の同時同量)。一方,送配電ネットワークを利用する事業者(小売電気事業者と発電事業者)は,自らが小売する需要をできるだけ正確に想定し,それに合わせて電気を調達する,送配電事業者に提出した計画通りに発電するなどの役割を担う(30 分同時同量)。

電力系統の様々な捉え方

様々な文献に記載されている電力系統についての言及を抜粋した。

電力系統は,電力の発生・流通・消費を通じて,有機的・一体的に結ばれたシステムである。すなわち,発電力や需要の変動,発電機や送電線等の事故,系統からの脱調といった個々の状態変化が,程度の差はあるが,直接・間接に,全体のシステムに影響する。

電気事業講座編集幹事会 編纂「電気事業講座 電気事業辞典」

電力システム(あるいは電力系統)は精緻な人体の仕組みにたとえることができます。生命体の特徴がそっくりそのまま電力系統ネットワークの特徴に合致するのです。両者の類似点を比較してみるのも電力の本質的特徴を理解するうえで有意義かと思います。

長谷 良 著「電力技術の実用理論 第 3 版」序章 電力技術と技術者の使命

電力系統では,多くの発電所や変電所,受電設備および電気利用設備などが送電線や配電線によって結合され,有機的なシステムとして機能している。

横山 明彦・太田 宏次 監修「電力系統安定化システム工学」まえがき

電力系統技術は,電気の利用を支えてきた重要な技術である。日本におけるこの技術は,電気の需要がほとんどない約 100 年前から出発し,欧米に遅れることなく発展してきた。この間の,先人の先見性と卓越性は素晴らしいの一言に尽きる。

柳父 悟・加藤 政一 著「理工学講座 電力系統工学」まえがき

電力系統とは,発電所から需要家に至る一連の電気設備のことである。これには二つの大きな特徴がある。その一つは電力系統によって供給される電気エネルギーが社会的にきわめて重要であり,今日の文明を支える大きな柱の一つとなっていることである。もう一つの特徴は,電力系統がきわめて大規模なことである。電力供給用の電線は全国くまなく張りめぐらされており,電気回路としては,これ以上大きなものはない。

林 泉 著「電力系統」はしがき

電力系統」は "Electric Power System" の和訳であり,発電から配電までの全体をシステムとして捉えた言葉です。構成要素としては「発電設備」,送電線や変電所などの「流通設備」,そして末端で電力を消費する「負荷」から成ります。

電力系統はひとつの発電所がひとつの需要家と直結される形で運営されていれば非常にシンプルなのですが,現実的には多数の発電設備,多数の流通設備,膨大な数の負荷が接続されている巨大なネットワークとなっています。そこには自ずとシステムとしての振る舞いが現れます。

今泉 大輔 著「しくみ図解 電力供給が一番わかる」 1-3 日本の電力系統

Q 「電力システム」とは何を指すのか。

A 大きくは発電・送配電・小売という電気事業全体を構成するシステムを指す。

また,従来は「電力系統」という言葉で訳されてきた Grid(グリッド)も電力システム全体を面的に指すように使われ始めている。「電力グリッド」が指すイメージは,「電気事業におけるプラットフォーム」に近い。

岡本 浩 著「グリッドで理解する電力システム」

電力システムは人類が創造した最大級の複雑システム

(出典不明)

電力会社の神髄は系統

(出典不明)

電気の価値

自由化(規制緩和)が進み,電力システムへの参加者が増えることで,参加者の目的も多様化する。それぞれの取引における認識の違いで市場に混乱が生じないよう,あらためて電気の役割を分割して定義し直し,「電気の価値」ごとに大きく 3 つの市場が設けられることになった。これは,発電所が生み出す価値として,3 つの機能があるともいえる。

kWh 価値(キロワットアワー価値) 電力量価値

「実際に発電される電気」の価値。家電や工場設備を動かすための電力量そのものの価値で,市場としては,2005 年から日本卸電力取引所(JEPX)で始まっている取引がある。

kW 価値(キロワット価値:設備の規模) 容量価値

「発電することができる能力」の価値。2020 年現在はまだ蓄電を行う能力や規模が十分ではないため,電力需要を平均的にならすことはできない。このためパワープールの中で,需要のタイミングに備え,十分な発電所の能力(発電出力の規模)の合計値をラインアップしておく必要がある。

ΔkW 価値(デルタキロワット価値) 調整力価値

天候や気温が事前の予報とは異なったり,発電機など設備の不調で,実際には発電・需要とも計画との誤差が生じる。「需給バランスを常に維持する」という原則を守って系統を安定的に保つには,こうしたズレを補正する必要がある。予定外の出力変動に素早く対応できる能力を「調整力」として位置付けしていくことになった。

限界費用の低い再生可能エネルギーが増えることで,発電電力量に対する価値(kWh 価値)は下がるが,それらを活用し,需給バランスを取るための機能に対する価値(ΔkW 価値)は高まっていくと考えられる。

マイクログリッド

マイクログリッドは,主に米国において導入が進んでいる。DOE(Department of Energy : 米国エネルギー省)は,マイクログリッドの定義を「1 カ所にてコントロールが可能な,電力系統から独立した分散電源と需要のグループであり,電力系統と連携しているケースと連携していないケースがある。電力系統と連携しているケースは,電力系統と連携した運用も電力系統から独立した運用も実施できる」としている。

スマートグリッド

情報通信技術の活用により,電源や需要家の情報を統合・活用し,高効率,高品質,高信頼度の電力供給の実現を目指す概念。「スマートグリッド」という言葉は,風力発電の導入が進んでいた欧州の次世代電力ネットワーク構想として 2005 年に登場し,アメリカ合衆国ではバラク・オバマ大統領の 2008 年大統領選の政策として取り上げられたことから広く知られるようになった。

スマートグリッドには,以下の 3 つの基本的な特徴がある。

特徴その1 IT を使った「賢い」電力網

スマートグリッドは,いろいろな事態に対処できる賢い電力網というニュアンスがある。基本的な考え方は,「老朽化した送配電網を新しい IT を組み入れた送配電網で刷新し,いろいろな課題を解決しよう」というものである。

IT によってできることには,電力使用状況の「見える化」,需要家側の電力利用をコントロールする「デマンドレスポンス」,家庭やビルの電力と熱の利用を統合管理する「エネルギーマネジメント」,地域や家庭に設置された複数の発電設備をひとつの仮想的な発電所と見なす「仮想発電所」,多数の電気自動車の蓄電池を送電網に接続してひとつの仮想的な蓄電池と見なす「仮想蓄電池」などがある。

特徴その2 電気の流れが双方向になる

スマートグリッドが想定していることのひとつに「電力の双方向化」がある。従来のグリッドは,上流には大きな発電所があり,下流には企業や家庭などの需要家がいて,電力の流れは常に上流から下流へ向かう一方向であったを想定していた。今後,需要家にも発電設備や蓄電池があり,必要に応じて電力が需要家からグリッドに流れる。このように電力の流れが双方向になれば,電力の地産地消が進み,上流の発電所への投資が抑制できる,二酸化炭素削減に寄与する,というメリットがある。

特徴その3 ピーク電源への投資を抑制する

上記のスマートグリッドの特徴が実現すれば,ピーク電源(主に火力発電)への投資を抑制することができる。

このように再生可能エネルギーを本格電源として活用するための「ソリューション」といわれるスマートグリッドについて,国際電気標準会議(IEC)では,次のように定義している。

電力ネットワークの利用者やその他の利害関係者の様々な行動を統合し,持続可能で安価で安定な電力を効率的に供給することなどを目的として,双方向情報通信・制御技術や分散処理機能やそのためのセンサーやその機能を実現する装置を備えた電力システム

(出典)国際電気標準会議(IEC)

太陽光,風力など自然変動型電源の比率が高くなった電力系統では,電力消費量だけでなく発電量も変動するため,発電の情報と消費量の情報を統合して活用し,これまで制御してこなかった消費量の制御,すなわち需要側も制御することで効率的に電力供給の安定化に役立てる技術が狭義の「スマートグリッド」といえる。

狭義のスマートグリッド技術に,リアルタイムの電気料金の見える化により需要側で消費パターンを変化させるデマンド・レスポンスを組み合わせ,消費の決定者である「人間への働きかけ」が介在する広義の「スマートグリッド」も存在する。"需要の能動化" という新たなコンセプトが生み出す "より高度な柔軟性" が,電力系統の新時代を開拓すると期待されていたのである。

デジタルグリッド

電力系統の電気的な制約を取り払って,しがらみなしに電気を自由に取引できる仕組みとして,デジタルグリッドが提唱されている。デジタルグリッドでは,周波数や電圧といった電気的な制約を全く考慮せずに,双方向の電力を取引する。電力システムの呪縛から解き放つ,電力のインターネット化とも言われている。

デジタルグリッドの本質は,「基幹系統の信頼性に関する負担を大幅に軽減し,自立可能なセルグリッドとの共存により信頼性を大幅に高め,多様な参入者により劇的なコスト削減を実現し,化石燃料依存から再エネ依存に転換することにある」と言えます。

阿部 力也 著「デジタルグリッド」

電力系統の構成

電力系統の基本構成としては,その機能面から基幹系統,地域供給系統および配電系統に大別できる。

基幹系統 trunk network

基幹系統は,通常,系統の最上位の電圧系統を中心に構成され,機能の一つは発電所で発生した大電力の送電である。近年,発電所は需要中心から離れた遠隔地に集中的に建設される傾向にあり,かつ,送電線ルート確保が年々困難化してきているため,電源送電線は長距離の大容量送電ができるような高い送電電圧で,大きな電流容量となってきている。基幹系統のもう一つの機能は系統を一体的に連系することで,各方面から電源送電線は基幹送電線で一体的に連系され,電源からの送電電力はプールされ,地域ごとの主要な供給変電所に配分される。

地域供給系統 transmission system for regional

地域供給系統は,基幹系統からプールされた電力を,各供給地域に分布する送電用変電所を経て順次低い電圧に変換し,配電用変電所や特別高圧需要家へ分配供給する系統をいう。また,大都市部においては高密度の需要に対応して経済的な供給系統を構成するため,275 kV など高電圧の地中送電系統を複数以上のルートで需要中心に直接導入する方法がとられている。

配電系統 distribution system

配電系統は地域供給系統の最末端に位置して直接需要家に供給する系統をいい,各需要家を結ぶ高低圧の配電線,柱上変圧器,開閉器などから構成される。配電系統は網状の面的構成をなし,個々の設備単位の規模は小さいが,その数は膨大で,また,その施設場所の人間環境に密着しているなどの特徴を有する。

配電系統の構成は,構成のシンプルさ,経済性,新規供給への対応面から樹枝状方式が基本である。

表 低圧配電系統の種類
系統構成 概要
樹枝状方式 配電用変圧器ごとに低圧配電線が独立しており,他と連系していないもので,わが国では大部分がこの方式である。
バンキング方式 同一の高圧配電線に接続されている 2 台以上の配電用変圧器の低圧配電線を相互に接続するものである。電圧変動や電力損失が少なくなるが,わが国の低圧配電方式としてはほとんど使用されていない。
低圧ネットワーク方式 低圧配電線を相互に接続し,これに同一母線から出る 2 回線以上のフィーダで供給するもので,低圧需要家の無停電供給が可能である。低圧需要家の割合が高く,超過密地域の一部で使用されている。

電力系統計画の概要

電力系統計画の必要性

電力系統の計画にあたっては,電力需要の見通し,立地情勢の動向などを踏まえて,良質で安定な電力供給を確保することを目的に,地域社会の要請に的確に対応すると共に,先見的かつ合理的に,電力系統の拡充強化を進めていく必要がある。

電力系統とは主に電源開発,送変電・配電計画を含んだ設備計画をいうが,ここでは,計画を必要とする目的と,その計画の果たす役割について述べる。

電力系統計画の目的

拡充要因

拡充工事とは,新設工事,増設工事など,施設の出力・容量・面積等を増加することを目的とする工事を指す。電気事業においては,「電源開発」「需要増加」「系統増強」が拡充要因となる。

表 拡充要因
要因 説明
電源開発 電源開発とそれに伴う電力輸送線および関連系統の新増設を図るための計画
需要増加 需要増加に対応するため必要となる変電所と,それに供給する送電線の新増設,並びに関連系統の拡充を行うことを目的とした計画
系統増強 電源開発の遠隔化,集中大規模化および電力系統の巨大化,複雑化によって系統運用上の制約が生ずることを防止するため,電圧改善,安定度向上,電力損失の軽減などの系統の改善や増強を図るための計画
(参考)電灯使用電力量の推移

1975年度以降の日本における電灯使用電力量の推移を下図に示す。1975年度から2010年度まで電灯使用電力量は増加を続けていたが,それ以降は減少に転じている。

電灯使用電力量の推移
図 電灯使用電力量の推移
(参考)電源の最大出力の推移

電力会社 10 社の各種電源の最大出力の推移を下図に示す。電源の最大出力合計は,1989 年の 143 TW から 2014 年の 212 TW まで増加を続けていた。10 電力の主要電源は,汽力,水力,原子力である。なお,電源の最大出力のデータは,電気事業連合会の電力統計情報より取得した。

電源の最大出力の推移
図 電源の最大出力の推移
(参考)需要電力量の推移

電力会社 9 社の需要電力量の推移を下図に示す。需要電力量は,1963年の 120 TWh から増加を続け,2007年には 912 TWh に達した。その後は,減少に転じ,2015年は 789 TWh となっている。なお,需要電力量のデータは,電気事業連合会の電力統計情報より取得した。

需要電力量の推移
図 需要電力量の推移

改良要因

改良工事とは,既設の施設の能率または能力を高めるもの,または,機能を維持するための取替え工事等を指す。電気事業においては,「電力品質向上対策」「環境保安対策」「老朽化対策」が改良要因となる。

表 改良要因
要因 説明
電力品質向上対策 電力供給に対する社会的要請の高度化,複雑化に対応するため,事故時の供給支障の規模,時間,頻度など地域社会に与える影響,お客さまの要請を的確に把握し,必要な時期に改善することを目的とした計画
環境保安対策 都市部における構造物の建築,高負荷密度地区での地下利用,周辺地区における土地区画事業など地域社会からの要請に伴う既設設備の移転や,環境対策の必要が生じた場合には,地域特性と将来の方向性などを十分に配慮し,合理的な規模で改善を行う計画
老朽化対策 数十年にわたり長期間使用された設備を老朽設備というが,これらの更新にあたっては,現在までの故障や補修経歴を十分調査,必要に応じ余寿命診断を行った上で,改修による効率向上効果なども考慮のうえ,工事計画を決定する

先行要因

都市の過密化が進むにつれて,変電所用地の取得あるいは送電線のルート確保がますます困難化する傾向にある。このような情勢の中で,電力系統を長期にわたって合理的に構成していくためには,超長期の基本構想を策定すると共に,この高層に合致する用地の先行確保,地中管路の先行投資など,合理的な先行投資に努めなければならない。

これからの電力系統計画

これまでは,拡充要因にキャッチアップし,電力系統計画を策定することが至上命題であったが,その命題は変わりつつある。高度成長期に形成された設備を漫然と更新するのでは持続可能でないことは明らかで,じわじわと進行していく人口減少をフォローしながら,設備をスリム化していくかじ取りが求められる。一気に変化する場合よりも「じわじわ」とした変化の方が対策は難しい。

(参考)供給計画における送配電設備の増強計画の理由

供給計画における送配電設備の増強計画の理由は,次のように整理されている。

表 送配電設備の増強計画の理由
分類 理由
需要対策 電力需要の増加(減少)に伴い実施するもの
電源対応 電源設置(廃止)に伴い実施するもの
高経年化対策 設備の高経年化(劣化状況を評価して適切な時期に更新する場合も含む)に伴い実施するもの
安定供給対策 供給信頼度向上や安定供給を確保するために実施するもの
系統対策 送電ロス低減や設備スリム化等の経済性を理由とするもの
系統安定性を高めるために実施するもの等
  • 電気事業法 第 29 条の規定に基づき,電気事業者が作成する今後 10 年間の電気の供給並びに電源や送電線等の開発についての計画。
  • 国は,供給計画が広域的運営による電気の安定供給の確保その他の電気事業の総合的かつ合理的な発達を図るため適切でないと認めるときは,電気事業者に対し,その供給計画を変更すべきことを勧告することができる。
電気事業法 第29条

電気事業者は、経済産業省令で定めるところにより、毎年度、当該年度以降経済産業省令で定める期間における電気の供給並びに電気工作物の設置及び運用についての計画(以下「供給計画」という。)を作成し、当該年度の開始前に(電気事業者となつた日を含む年度にあつては、電気事業者となつた後遅滞なく)、推進機関を経由して経済産業大臣に届け出なければならない。

2 推進機関は、前項の規定により電気事業者から供給計画を受け取つたときは、経済産業省令で定めるところにより、これを取りまとめ、送配電等業務指針及びその業務の実施を通じて得られた知見に照らして検討するとともに、意見があるときは当該意見を付して、当該年度の開始前に(当該年度に電気事業者となつた者に係る供給計画にあつては、速やかに)、経済産業大臣に送付しなければならない。

3 電気事業者は、供給計画を変更したときは、遅滞なく、変更した事項を推進機関を経由して経済産業大臣に届け出なければならない。

4 第二項の規定は、前項の場合に準用する。この場合において、第二項中「これを取りまとめ、」とあるのは「これを」と、「当該年度の開始前に(当該年度に電気事業者となつた者に係る供給計画にあつては、速やかに)」とあるのは「速やかに」と読み替えるものとする。

5 経済産業大臣は、供給計画が広域的運営による電気の安定供給の確保その他の電気事業の総合的かつ合理的な発達を図るため適切でないと認めるときは、電気事業者に対し、その供給計画を変更すべきことを勧告することができる。

6 経済産業大臣は、前項の規定による勧告をした場合において特に必要があり、かつ、適切であると認めるときは、電気事業者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。ただし、第一号に掲げる事項は送電事業者に対して、第二号に掲げる事項は小売電気事業者及び発電事業者に対して、第三号に掲げる事項は送電事業者及び発電事業者に対しては、命ずることができない。

  1. 小売電気事業者、一般送配電事業者又は特定送配電事業者に電気を供給すること。
  2. 振替供給を行うこと。
  3. 電気の供給を受けること。
  4. 電気事業者に電気工作物を貸し渡し、若しくは電気事業者から電気工作物を借り受け、又は電気事業者と電気工作物を共用すること。
  5. 前各号に掲げるもののほか、広域的運営を図るために必要な措置として経済産業省令で定めるものをとること。

安定供給

日本の消費者にとって安定供給は,「されて当然のこと」になっているが,電力会社にとっては「これこそが使命」なのである。

送配電設備の増強計画の理由の一つに「安定供給対策」がある。普通の企業であれば儲かるところに投資するが,電力会社では安定供給を目的に投資判断をすることもある。総括原価方式によって,安定供給対策のコスト回収が確実にできると見込まれるので,費用対効果の分析が甘くなることも十分にありうる。安定供給という命題と総括原価方式によって高コスト体質になったことは否めない。

電力系統計画の役割

総合計画

電力系統は,機能を異にする多種類の電力設備が互いに関連をもち,有機的に結びついて構成されている。

このため電力系統の計画は,その構成区分にしたがい「電源開発計画」,「送変電計画」,「配電計画」の3つに大別できるが,それぞれを単独で検討するだけでなく,電力系統全体の立場で総合検討し,最適な計画とすることが必要である。

地域社会と電力系統計画

良質で安定な電力供給を目的とした電力設備の建設は地域社会と協調し,地域開発,環境保全などの諸問題に配慮して行わなくてはならない。したがって,地域社会の要請と長期的視野に立った合理的な電力系統計画との協調が必要で,その役割は極めて大きい。

(参考)広域系統長期方針(平成29年3月)

今後の電力流通設備の設備形成に当たっては,従来のような新たな電源連系ニーズに答えることが必要である一方,将来の需要見通しを踏まえれば,流通設備への投資の増大による電気料金の上昇をできるだけ抑制することも必要であり,その両立を図る効率的かつ合理的な設備形成が求められている。

広域連系系統の設備形成・運用において,以下の 3 点が実現されている状態を『広域連系系統のあるべき姿』と定義する。

Ⅰ. 適切な信頼度の確保

  • 系統の役割に応じた適切な供給信頼度を提供する
  • 大規模災害等の緊急時にも電力供給に対する要求を満足する

Ⅱ. 電力系統利用の円滑化・低廉化

  • エネルギーミックスに基づく電源導入等を円滑かつ低廉なコストで実現する
  • 電力市場の活性化に寄与する

Ⅲ. 電力流通設備の健全性確保

  • 老朽化が進む流通設備の確実かつ効率的な設備更新・形成を計画的に推進する。

電力系統の解析

電力系統を取り巻く環境変化への対応,設備運用の効率化等の課題解決を目指して,系統シミュレーションによる電力系統・配電系統の解析,データ分析による需給解析・需給運用の高度化が行われている。

電力系統シミュレータ

関西電力の高性能系統解析試験装置(1989~2012年)

1989年3月,当時の電力系統シミュレータとしては規模・性能面から世界最大級の高性能系統解析試験装置(ASPA : Advanced Power System Analyzer)を導入し,広域制御システムによる大規模停電防止,可変速揚水による周波数安定化,直流送電の運転継続および交流系統安定化制御等,実システム導入前のシミュレーションによる検証を長年にわたり実施し,現在の電力系統の形成に寄与してきた。

その後,デジタルシミュレーション技術の向上により,2000 年にはアナログ型をベースとする ASPA を補完するリアルタイム・デジタル・シミュレータ(RTDS : Real Times Digital Simulator)を導入した。

2012年には,ASPA の運用を終了し,現在は,デジタル演算による系統解析および系統解析ツールの高度化に取り組んでいる。

送変電計画

送変電計画の考え方

(1) 将来の電力系統の拡大に対し有効適切な計画であること

送電系統の構成のような長期にわたって逐次全体が形成されていく設備の建設は,長期的な基本計画を周到に検討し,効率的に運用できるように計画する。

(2) 高信頼度系統の構成に留意した計画であること

都市機能の高度化,社会生活の向上,産業構造の質的変化などにより供給信頼度に対する社会的要請はますます高まってきている。また一方,電力系統は複雑巨大化してきているため,部分的な事故が全系統に波及して広範囲な停電を引き起こす恐れも生じてきている。これらのことから当該設備自体の事故はもちろんのこと,他からの事故波及も極力防止できるよう,また万一事故が発生した場合でも,広範囲停電・長時間停電が生じないよう,信頼度の高い系統に留意する必要がある。

(3) 需要をはじめとする諸情勢を的確に反映した計画であること

需要動向をはじめとする諸情勢を的確に掌握,分析し,計画要因からみた最適必要時期に設備が完成できるよう,営業,用地,工事などの各関連部門との協調に十分配慮する。

また前提条件の変化,すなわち需要動向・用地事情の変化などにも弾力的に対応できる計画とする必要がある。

(4) 既設設備の有効活用を図ること

経済的投資は,送変電設備のみならず全部門に共通した重要事項であるが,とくに送変電設備の計画は,既設系統が何らかの要因で隘路を生じ,その対策として計画立案するものが多い。したがって,その計画は既設設備の有効活用を前提に検討し,新増設設備と既設設備がそれぞれ最大効果を発揮できるように努めなければならない

隘路(あいろ)
  1. 狭い道。狭く険しい道。
  2. 物事を進めるのに障害になるもの。難関。ネック。
『三省堂 大辞林』

(5) 最新技術を積極的に導入すること

耐用年数の長い設備を建設するものであるから,常に最新技術を積極的に織り込むことはもちろん,技術開発の予測を行い,将来の新しい技術導入に対しても障壁とならないよう,これらを十分考慮した計画とする必要がある。

(6) 総合的視野からみて適切な計画であること

送変電計画は,以上述べた事項を勘案して策定するが,その設備投資の規模,具体的実施方法などについては,電力系統全体からみて適切なものでなくてはならない。したがって,計画の立案にあたっては,個々の設備に対する検討はもちろんのこと,電力系統全体からみて適切であると共に総合的・長期的視野に立って計画を策定することが必要である。

信頼度の考え方

供給信頼度の向上を図るための,基本的な考え方は以下の通り。

  1. 設備事故が発生しないよう,設備自体の信頼度を極力向上させる
  2. 設備事故が発生しても,需要家が極力停電しないよう系統構成を改善する
  3. 設備事故が発生しても,系統保護,制御装置などにより事故が極力波及しないよう,また極力早く復旧できるようにする

具体的計画にあたって供給信頼度の目標をどこに設定するかということは,地域の特性,気象条件,設備実態あるいは経済性などとの関連があり,一義的に決めることは困難であるが,たとえば事故発生頻度が割合多いと考えられる発電機ユニット 1 台の停止,送電線 1 回線あるいは変圧器 1 バンクなどの単一事故(「N-1 故障」ともいう。)に対しては,次の対策などを行い,無停電もしくは系統切り替えによって迅速に供給再開ができるようにする。

  1. 送電線の 2 回線化,2 方向電源化
  2. 連系能力の増大
  3. 変圧器の多バンク化
  4. 事故復旧の自動化

基幹系統の信頼度

基幹系統において事故が発生し,停電となった場合には,広範囲停電となり,社会的影響が非常に大きい。したがって,基幹系統の計画にあたっては,万一事故が発生しても,単一事故に対しては供給支障を生じないようにし,多重事故あるいは稀頻度ではあるが,それが発生すると重大事故となると考えられる事故など,系統の最悪事態に対しても,極力供給支障が広範囲にわたらないよう局限化できる系統構成にする必要がある。

都市部供給系統の信頼度

都市部においては需要密度が高く,社会的に影響を及ぼす公共施設が多いため,一般的に高い信頼度にする必要がある。したがって,基幹系統の信頼度と同様,単一事故時において供給支障が発生しないような送変電設備および系統の構成を考慮する必要がある。

また,必要に応じ経済性を十分勘案のうえ,多重事故や災害時などにおいても供給支障を局所にとどめ,速やかに復旧できるよう考慮する必要がある。

一般地域供給系統の信頼度

一般地域は,都市部に比べ送変電設備量が少なく,また電力の供給停止による社会的影響が比較的少ないと考えられるが,電気に対する依存度が高まっており,これらを考慮すると,極力供給支障を生じないように計画する必要がある。

(参考)N-1 基準

設備の総数を N 個としたとき,1 つ欠けても(N-1 個の状態),残りの設備で電力供給を継続するための基準。基幹系統では国際的にもこの基準が広く採用されている。

具体的には,N-1 故障が発生しても,短時間熱容量を超過させないようにして,停電させない設備形成とする。ただし,停電が発生する場合であっても供給支障の社会的影響が限定的である場合は,当該性能を充足しているものとする。

例えば,送電線 1 回線,変圧器 1 台,または,発電機 1 台が故障により停止する事象をいう。送電線 2 回線故障など,2 設備を同時に喪失する故障を N-2 故障という。

電力の品質

電力系統の計画に入る前に,電力の品質について概説する。

サービスレベル

電力系統から需要家に供給される電力の質の程度は,一般的には次の三つの要素により示される。

  1. 電力を停電せずに継続し供給することができる度合い
  2. 電圧を規定値どおり維持することができる度合い
  3. 周波数を規定値どおり維持することができる度合い

電力系統の電圧

一定の距離に一定の電力を送る場合,電圧が高いほど電流が小さくなり,電力損失が少なく送電効率がよくなる。その反面,変電設備,支持物,がいしなどは高価となるから与えられた長さで一定電力を送電する場合,最経済的な電圧がある。しかし,送配電電圧をいくつかの適当な電圧に統一すれば機器,支持物,がいしなどを規格化して製作でき,ほかの送配電系統との連系が容易となり,全体的にみた場合に経済的となる。このため,わが国の送配電電圧は標準電圧(standard voltage)で統一され,機器,がいし,支持物などを規格化し,ほかの送電線路との連系を容易にし,電力系統の単純化を図っている。わが国で電線路に使用されている標準電圧は,公称電圧(nominal voltage)で代表され,電線路を代表する線間電圧で,また機器用の最高電圧が決められている。最高電圧(maximum voltage)は,電力系統の平常運転状態において発生する最高線間電圧で,公称電圧との間には 500 kV を除いて次式の関係がある。

最高電圧 = 公称電圧 × 1.15 / 1.1
表 わが国の標準電圧(公称電圧が 1 000 V を超えるもの,抜粋)
公称電圧 [V] 最高電圧 [V] 備考
6 600 6 900
22 000 23 000
66 000 69 000 一地域においては,いずれかの電圧のみを採用する
77 000 80 500
154 000 161 000
275 000 287 500
500 000 525 000 / 550 000 最高電圧は,各電線路ごとに 2 種類のうち,いずれか一方を採用する。

法的な電圧については「電気設備技術基準」では,電圧は次の区分により,低圧,高圧,特別高圧の 3 段階に分類している。

表 電圧の分類
分類 説明
低圧 直流では 750 V 以下,交流では 600 V 以下のもの
高圧 直流では 750 V を,交流では 600 V を超え,7 000 V 以下のもの
特別高圧 7 000 V を超えるもの

電力系統の電圧は,需要および供給力の変化により変動するが,この変動を一定の範囲におさめ,需要家が電気器具・電気機械を支障なく使用できるように,電圧の安定維持を図ることが必要である。

低圧における電圧の許容範囲は,電気事業法施行規則で定められており,供給地点における基準値と許容変動幅は次の通りであり,通常この値を電圧管理目標としている。

  • 100 V においては,100 V ± 6 V を超えない値
  • 200 V においては,202 V ± 20 V を超えない値

高圧以上(交流においては 600 V 以上)の電圧に関しては,とくに規定されていないが,低圧の許容電圧範囲に準じた電圧目標幅を定め,その維持に務めている。

電力系統の周波数

交流系統の周波数は,電力会社側と需要家側の使用機器の構造や定格に大きな影響を与えるとともに,送配電系統のリアクタンスを変化させるので,系統の無効電力,電圧変動率,送電安定極限電力に影響を与えることになる。また,あまり低い周波数では照明のフリッカや電動機の回転速度が所定値に達成しないなどの支障があることなどから,周波数を 50 Hz と 60 Hz の二つに世界的に統一し,標準化を図り,経済的な電力供給を行うこととなり,現在に至っている。

わが国の周波数も 50 Hz と 60 Hz の 2 種類が用いられ,静岡県富士川を境にして東半分の北海道,東北,東京の各電力で 50 Hz,西半分の中部・北陸・関西・中国・四国・九州・沖縄の各電力で 60 Hz が使用されて,ほぼ同一の系統規模(60 Hz 系がやや大きい)となっている。

電力系統の周波数は,電力の需要と供給力のバランスによって安定するが,その受給バランスが崩れ,需要より供給力が大きいと周波数は上昇し,逆の場合,周波数は低下する。その変動幅は,次の点からできる限り小さくすることが望ましい。

需要家側の必要性

  • 電動機の回転ムラを少なくすることによる製品品質の向上
  • 電気時計,電子計算機など精度の維持

電力系統側の必要性

  • 系統電圧の維持と系統安定度の向上
  • 連系線潮流の安定化など

供給信頼度

電力系統の信頼度といっても,その内容はなかなか複雑である。大局的には需要家に対してもっとも大きな影響を与える停電が発生したときに,供給支障を極力少なくするため,電力システムの機能が十分に果たされているかどうかの度合いを表すものであり,通常,電力系統の信頼度といった場合にはこの停電によって計るのが普通である。

供給信頼度は,供給の継続性(停電をしない割合)をいい,1 需要家当たりでは,次の指標で表される。

1 需要家当たりの年間停電回数 [回/(年・軒)] = ∑(停電低圧電灯需要家口数)/低圧電灯需要家口数
1 需要家当たりの年間停電時間 [分/(年・軒)] = ∑(停電時間 × 停電低圧電灯需要家口数)/低圧電灯需要家口数

信頼度を定量的に表現するのに通常用いられているのは,次の三つの方法である。いずれも完全な方法とはいえず,また実際に用いる場合に一つだけでは不便なことが多いため,場合に応じてこのうち二つもしくは三つを同時に用いるのが一般的である。三つの表現方法を次に示す。

電力不足確率(loss of load probability, LOLP)

供給力が負荷より小さくなって,供給支障を起こす時間が平均して,いま考えている時間のうち何%を占めるかを示す値が電力不足確率 $p_l$ で次式で表される。

$p_l$ = 考察期間中の総停電時間 / 考察期間中の総時間

上式は,(停電の頻度)×(持続時間)の効果は表しているが,停電の頻度・大きさ・持続時間のおのおのについては明確に表せなく,特に停電の大きさについては全く表現できないといえる。しかし,比較的計算が容易で,かつ表現がシンプルなため将来系統に対する信頼度評価に多く用いられている。

電力量不足確率(loss of energy probability)

電力不足確率 $p_l$ が停電の負荷の大きさを考慮していないのを補う表現として,停電で失われた電力量の大きさ [kWh] が,負荷の全消費電力 [kWh] の何 % を占めるかを示す値が電力量不足確率 $p_e$ で次式で表される。

$p_e$ = 停電で失われた負荷電力量 / 考察期間中の負荷電力量

上式は,(停電の頻度)×(持続曲線)×(停電電力)を表しているといえる。

頻度・持続時間曲線(frequency - duration curve)

供給力不足電力の大きさが $P$ [MW] 以上の停電をとらえ,その平均持続時間 $T_{0p}$ と,このような停電が一度起きてから次に $P$ [MW] 以上の停電が再び起きるまでの平均時間を $T_{1p}$ を計算する。この $T_{0p}$ と $T_{1p}$ から求められる考察期間中の平均頻度 $F_{p}$ を縦軸にとり,$P$ の関数として描いた曲線である。この場合の $P$ [MW] 以上の停電が起こる平均頻度 $F_{p}$ は次式で表される。

\[ F_{p} = \frac{1}{T_{0p}+T_{1p}} \]

なお,供給力不足電力 $P$ = 0 MW とすれば電力不足確率 $p_l$ に等しくなる。

\[ p_{l} = \frac{T_{0}}{T_{1}+T_{0}} \approx \frac{T_0}{T_1} \]

この表現方法は信頼度を数値ではなく曲線で表現しており,停電の頻度・大きさ・持続曲線をかなり正確に表すことができるが,算定が煩雑となる難点がある。

電力系統の短絡電流

同期発電機の増加や送電線の新増設等により,系統容量の増大や系統連系が密になることによって,系統事故発生時の短絡電流が大きくなる。短絡電流の増加により,送変電機器の損傷増大や,周辺通信線への電磁誘導障害が考えられるため,以下のような短絡電流抑制対策を施す必要がある。

  1. 現在採用されている電圧より上位の電圧の系統を作り,既設系統を分割する。
  2. 発電機や変圧器のインピーダンスを大きくする。
  3. 送電線や母線間に限流リアクトルを設置する。
  4. 系統間を直流設備で連系する。
  5. 変電所の母線分離運用を行う。

電力流通設備

電力流通設備とは,電気を生産する発電所から電気を消費する需要地(家庭,工場など)の間を結んで電気の流通機能を果たしている送電設備,変電設備,配電設備をいう。

架空送電設備

架空送電線路は,電力の輸送路としての電気的性能と,厳しい自然条件にも耐える機械的性能とを兼ね備えて,発電所で発生した電力を効率よく,確実・安全に,しかも経済的に需要地域まで輸送しなければならない。この架空送電線路は,電線・支持物・がいし・架空地線などで構成され,電力を輸送する電線は送電損失の少ないものでなければならないし,電線を支持する支持物は強固なもので危険のない状態にしておかなければならない。また,支持物と電線をつなぐ絶縁物としてのがいしは,電流が漏れないように電線を大地から絶縁しなければならないし,架空送電線が雷撃を受けても事故を起こさないように,架空地線などで雷防護が行われる。

1989 年度から 2018 年度までの架空送電線路亘長の年度推移を下図に示す。

架空送電線路亘長の年度推移
図 架空送電線路亘長の年度推移

地中送電設備

地中送電線路は架空送電線路に比べ,いくつかの長所をもっている。それは多数回線を同一ルートに布設することが可能であること,その大部分は地中に埋設されるので環境との調和が容易であり,さらに風雨や雷など天候に左右されることが少なく周辺への影響もほとんどない,など設備の安全性が高いことが挙げられる。

しかし地中送電線路は架空送電線路に比べて,同じ太さの導体では送電容量が小さく,建設費が相当高いなどの欠点がある。この点から地中送電線路の採用は,従来,法規的制限のある場合とか,保安上の制約,用地取得上架空線の建設困難の場合,あるいは海峡横断や離島への送電の場合などに限定されていた。しかし,近年,都市化の波は著しく,地中送電線路の建設区域は急速に拡大しているのが現状である。

1989 年度から 2018 年度までの地中送電線路亘長の年度推移を下図に示す。

地中送電線路亘長の年度推移
図 地中送電線路亘長の年度推移

変電設備

水力,火力および原子力などの発電所で発電した電気を効率的に送電するために電圧を昇圧して,送電線によって変電所に送り,そこで電圧を降圧(ときにはさらに昇圧)し,送電線でさらに他の変電所へ送電したり,送電線や配電線を通して需要家に送り届ける。

このように,変電所は電圧の変成(電力を経済的に輸送するために行う。主として変圧)と電力の集中,あるいは配分を主な目的として設けられる。この他変電所は電気の質を維持し,設備を保全するために,電圧調整,電力潮流制御,系統安定度の向上並びに送配電線および変電所自身の保護(関連設備の電気的あるいは機械的保護)を行っている。

1989 年度から 2018 年度までの変電所出力の年度推移を下図に示す。

変電所出力の年度推移
図 変電所出力の年度推移

配電設備

配電設備は,一般的に配電用変電所出口から需要家に至る設備を指し,需要家に直結していると共に,多種・多量の設備が面的に施設され,需要変動や社会環境などの外的要因により,常に設備が変化しているという特徴がある。

主要な設備は,配電用変電所から送電する高圧配電線,高圧電圧を低圧電圧に変成する変圧器,変圧器から送電する低圧配電線,個々の需要家に直接電気を供給する引込線および電力使用量を計量する計量装置から成り立っている。

施設形態は,大別すると架空電線路と地中電線路とに分類されるが,ほとんどが架空電線路である。地中電線路は,変電所引き出し口などの限られた場所に採用されてきたが,近年は都市景観向上などの要請などにより無電柱化が計画的に進められ,地中電線路による電力供給が増加している。

1989 年度から 2018 年度までの架空配電線路亘長と地中配電線路亘長の年度推移を下図に示す。

架空配電線路亘長の年度推移
図 架空配電線路亘長の年度推移
地中配電線路亘長の年度推移
図 地中配電線路亘長の年度推移

変電設備

変電所は電圧の変成(電力を経済的に輸送するために行う。主として変圧)と電力の集中,あるいは配分を主な目的として設けられる。

広義には電力用変電所,発電所の電力設備,自家用変電設備,電気鉄道用変電所があるが,電力用変電所は電気事業用の変電所で,送電用変電所,配電用変電所および周波数変換所,交直変換所がある。

形式別分類

変電所はその形式により屋外式,屋内式,半屋内式,地下式,半地下式,移動式などに分類される。

屋外式変電所

主要変圧器,開閉設備など主要回路機器をすべて屋外に設置し,配電盤など制御機器のみを屋内に設置したもので,用地面積を多く必要とするが,工事費は安価である。

屋内式変電所

主要変圧器,開閉設備など主要回路機器および配電盤など制御機器を屋内に設置したものであり,屋外機器に比べて用地面積は縮小するが建物工事が高価になる。

半屋内式変電所

主要設備の一部を屋外に設置し,一部を屋内に設置するものをいうが,どの部分を屋内に設置するか,どのような配置にするかにより,種々の形式が考えられる。

地下式変電所

都心部で用地取得の困難な場合,ビルの地下,公園地下,高速道路下などに変電所を設置する必要が生じる。これは主要変圧器をはじめ機器をすべて地下に設置する方式で,冷却塔だけは屋外に設置している。

都市中心部の繁華街などにおいて有効な用地が得られない場合にはビルを借室する場合もある。

半地下式変電所

住宅地などに変電所を設置する場合には,建物の高さに制限を受けることがある。そこで,建物の高さを低減するために地下室を設け,主要変圧器などの一部の機器をそこに設置し,残りの機器を地上階に設置する方式である。

移動式変電所

トレーラーまたはトラック上に移動用変圧器,ケーブル,キュービクルなどを積載したものである。

既存の変電所の機器故障時や増設工事期間中などには変電所出力が低下するため,そこに移動式変電所を運び込むことで,出力低下を補うことがある。

形態別分類

変電所は,その形態により気中絶縁形変電所,GIS 変電所およびその混合形であるハイブリッド GIS 変電所などに分類される。

気中絶縁形変電所

主要回路を大気圧空気にて絶縁(気中絶縁)する方式の変電所であり,用地面積を多く必要とするが,電気設備に要する工事費は安価である。

GIS 変電所

主要回路を SF6 ガスにて絶縁したガス絶縁開閉装置(GIS)を用いて構成した変電所であり,気中絶縁形変電所に比べ用地面積は大幅に縮小するが電気設備に要する工事費は割高である。

ハイブリッド GIS 変電所

気中絶縁形変電所と GIS 変電所の中間的形態の変電所であり,主要回路のうち母線部分を気中絶縁とし,主要な開閉設備を GIS にて構成する。用地面積は気中絶縁形変電所に比べ縮小化し,電気設備に要する工事費は GIS 変電所に比べ安価になる。

ガス絶縁開閉装置(GIS:Gas Insulated Switchgear)変電所の母線,断路器,遮断器,避雷器並びに計器用変成器といった主要な機能部を SF6 ガスが充填された金属容器内に完全密封した構造をしている。

ガス絶縁開閉装置(以降 GIS と称する)は,昭和 40 年代初めに 72/84 kV で開発・実用化されて以来急速に発展し現在では 550 kV 級まで多数設置され発電所,変電所等の開閉設備の主流にまで成長している。

この GIS は電圧,容量乃びその設備数において外国を凌ぐ勢いであり,このように国内において,急速に発展した背景としては大きく分けて次のような理由によるものと考えられる。

  1. 国土が狭隘で変電所用地面積の縮小が強く求められていること。
  2. 優れた絶縁性能,消弧性能を有しかつ密閉構造とすることにより高い信頼性,安全性が得られること。
  3. さらに保守の省力化がはかられかつ環境調和性に優れていること。
電気協同研究 第39巻 第6号『ガス絶縁開閉装置の標準化』

昭和44年ガス絶縁開閉装置(GIS)が初めて導入されて以降,我が国固有の立地条件への優れた適合性(コンパクト性,耐震・耐塩等耐環境性,安全性)から,その適用が急速に進展し,四半世紀経過した現在,変電所主力開閉設備に成長している。

電気協同研究 第52巻 第1号『ガス絶縁開閉装置仕様・保守基準』

GIS 変電所

1970 年代に入り本格導入された GIS,技術の進歩は高電圧・大容量化に始まり,高信頼度化や三相一体化に見られるような小形・縮小化,経済性の向上を重ねて今日に至っている。

変電所用地の取得難,周囲環境との調和,高信頼度設備に対する必要性の高まりなどにより,近年変電所形式によらず 500 kV 基幹系統から都市部 22 kV 系統まで GIS 変電所が広く採用されている。500 kV GISでは,大容量の一点切遮断器を適用した例も多く,基幹系統における電力の安定供給に寄与しており,72/84 kV GIS では小形化が進み,据付け面積の大幅な縮小化など変電所建設の経済性向上に大きく貢献している。

なお,GIS の採用にあたっては,単に構成機器の評価だけではなく,用地費,建物費(とくに屋内式変電所の場合),環境(環境調和地区,重塩害地区)および信頼度を含めた総合的な見地から評価する必要がある。

GIS 変電所は,従来形変電所と比較して次のような大きな特徴をもつ。

コンパクト化

絶縁性能が高くなったことにより,設備を大幅に縮小化することができる(変電所面積で 50 ~ 20 %)

安全性の向上

GIS は接地された金属タンクで充電部が覆われており,安全性が高い。

環境調和性の向上

タンク構造でコンパクトであり,高さが低いことから,環境調和性がよい。

一方,地球温暖化対策など,GIS に対しても対環境性への重要度が増してきており,SF6 ガスの取扱についての議論や,SF6 ガスに替わる絶縁・消弧媒体としての SF6 代替ガスに関する研究が国内外で盛んに行われている。

運転・保守の省力化

開閉設備をタンク内に密封化することにより,大気雰囲気に起因する障害が減少し,保守の必要性が減る。また,台風時などの汚損対策が不要となる。

建設工事の簡素化・省力化

装置がコンパクトかつシンプルとなっており,工場で一体に組み上げてから運搬でき,現地工事の簡素化と工期の短縮が可能となる。

信頼性が高い

開閉設備がタンク内に密封されているため,大気雰囲気による汚損,酸化,腐蝕などに起因する故障や,飛来物・鳥獣による故障がない。また,不燃材料のため火災の危険性がなく,がいしを使っていないため耐震性能において有利である。さらに構造が簡素であり,部品点数が少ないため機械的な故障が減少し,工場からの一体輸送により高い信頼性を確保することができる。

なお,GIS の採用にあたっては,単に構成機器の評価だけではなく,用地費,建物費(とくに屋内式変電所の場合),環境(環境調和地区,重塩害地区)および信頼度を含めた総合的な見地から評価する必要がある。

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