中継系光ファイバケーブルの伝送技術

2019年6月17日作成,2023年7月1日更新

はじめに

中継系光ファイバとは,NTT ビルと NTT ビル間でそれぞれに成端された区間において提供する芯線等をいう。コアネットワークにおける有線通信システムには,以前は同軸ケーブルや平衡対ケーブルのメタリックケーブルが用いられていたが,情報社会の発展に伴う伝送容量の増大に対して経済的に対応するため,今日では光ファイバケーブルが主流となっている。

コアネットワークに導入される光ファイバ通信システムの歴史においては,大容量化・長距離化による経済性が追求されてきた。

目次

中継系光ファイバの伝送システムの基本構成

現在主に用いられているディジタル光伝送システムは,下図に示すとおり,端局送信機,再生中継器,線形中継器,端局受信機及び伝送路から構成される。伝送路としては,伝送損失が小さく細径などの特長を持つ光ファイバが用いられる。光伝送システム構成の主な特徴としては,光伝送路を用いるため,送信側で電気信号 → 光信号への変換器及び受信側で光信号 → 電気信号への変換器が必要なことが挙げられる。

ディジタル光伝送システムの構成例
図 ディジタル光伝送システムの構成例

中継系光ファイバケーブルは,1.3 μm 帯および 1.5 μm 帯で使用する光ファイバテープを集合し,電磁誘導を受けない材料により構成されている光ケーブルである。

多重化技術

光ファイバ通信では,一つの波長だけでなく多くの異なる波長の光を 1 本の光ファイバで同時に多重伝送すること(波長多重)もできる。

複数のアクセス回線からの信号(チャネル)を 1 本の回線で送信する技術を多重化技術という。多重伝送技術は、通信資源の有効利用によりコストダウンを図る、通信管理を容易にするなどの目的で開発された通信技術である。

多重化
図 多重化のイメージ
(出典)フリー百科事典『ウィキペディア』

時分割多重 TDM(Time Division Multiplex)

一つの波長で複数のデジタル信号を時間的に少しずつずらして規則的に配列し多重化する技術。

TCM 方式(時間多重,Time Compression Multiplexing)は、上りと下り方向のそれぞれの情報に対して時間差を設けて伝送することにより、光ファイバ 1 心で双方向伝送を実現している。いわゆる「ピンポン伝送」である。

この方式は、光ファイバが 1 心で済むため伝送路のコストを抑えることができるが、双方向伝送のために時間差を設けていることから伝送できる距離が制限される。

時分割多重(TDM)方式は、伝送路を時間領域で分割し、各チャネルの光パルス信号が互いに重ならないように配列して多重伝送する方式で、PON 方式の下り信号の多重化などに用いられている。

PON (Passive Optical Network) とは,光ファイバを用いた公衆網において,受動素子により光信号を分岐・合流させ,一本の光ファイバ回線を複数の加入者で共有する方式。

時分割多重化
図 時分割多重化のイメージ
(出典)フリー百科事典『ウィキペディア』

波長分割多重 WDM(Wavelength Division Multiplexing)

伝送路を波長帯毎,換言すれば周波数毎に分割使用する方式。単に波長多重といわれることも多い。なお,異なる周波数帯の電気信号を多重する場合は,周波数分割多重(FDM : Frequency Division Multiplexing)といわれる。光ファイバ通信システムに用いられている本方式は二つに分類できる。

一つは,各チャンネルの信号を異なる波長の光に重畳する方式で,ディジタル伝送で用いられている。

もう一つは,各チャンネルの信号を電気段で周波数分割多重した後光信号に変換するもので,主にアナログの映像伝送に用いられている。

異なった波長の送信装置から出力された光が MUX(Multiplexer : 合波器)で合波され,合波された光が伝送路である光ファイバを伝搬し,光信号が弱くなったところで,光ファイバ増幅器により信号を増幅する。増幅を繰り返した後,DEMUX(Demlutiplexer : 分波器)で光信号を分波し受信装置で受信する。波数チャネル数倍に伝送容量が増加できる。

WDM 方式は、異なる複数の波長の光を 1 心の光ファイバで多重伝送することができる。この方式の利点は、各波長ごとの伝搬速度を低く設定できるため光ファイバの非線形性や分散特性による波形劣化が小さいこと、光クロスコネクト装置や光分岐・挿入装置などを用いることにより信号の分岐・挿入を O/E 変換することなく大容量の信号処理が可能であることなどである。

WDM
図 WDM

波長分割多重(WDM)方式は、伝送路を波長帯ごとに分割使用する方式で、複数のチャネルの信号を異なる波長の光に重畳し、同一の伝送路を用いて多重伝送する方式で、基幹系伝送システムなどに広く用いられている。

ITU-T 勧告では、光アンプを用いたマルチチャネルインタフェースの中で WDM の周波数グリッドが規定され、193.10 [THz] を基準光周波数としている。

なお,WDM システムは,一般に,ポイント・ツー・ポイント型を基本構成とするが,波長単位での光信号のクロスコネクトアドドロップの機能などを組み合わせることにより,メッシュ型やリング型のネットワークを構成することが可能である。

クロスコネクト(XC : cross-connect)
多重化されたディジタル信号において,特定のパスの分岐・挿入をしたり,一度で多数の異なる方面の宛先別に接続替えをしたりする回線編集機能を持つ装置である。
アドドロップ(ADM : add-drop)
特定のパスだけを付加したり切り離したりして各方面に振り分ける装置である。

また,線形中継器を多段につないで中継する WDM システムでは,光ファイバの非線形光学効果に起因する四光波混合による SN 比劣化と,相互位相変調及び波長分散による波形劣化を生ずる場合がある。四光波混合による SN 比劣化を緩和するために,信号波長としてゼロ分散波長と一致しない波長帯を利用するなどの方法が採られている。

波長分割多重 WDM には,数百の波を多重化できる DWDM(Dense WDM),数波から数十波を多重化できる WWDM(Wide WDM)などの種類がある。

DWDM

DWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing : 密な波長多重)では,光周波数の有効利用を図るため,基準光周波数を 193.10 [THz](1552.52 [nm])に定め,光周波数間隔が 12.5 [GHz],25 [GHz],50 [GHz],100 [GHz] 及び 100 [GHz] の整数倍となるように規程されている。現在の実用化システムでは 0.2 b/Hz 程度の周波数利用効率を得ている。

将来的には 1 b/Hz 程度の実現可能性もあり,上記の 25 THz 帯域の光増幅器と併用することで数十 Tb/s 程度の光増幅中継伝送も可能となるであろう。

このように魅力的な DWDM であるが,0.1 ~ 0.4 nm 程度の高密度波長間隔で,光源を配置する必要がある。このため高精度な波長安定化回路が必要となり,光源価格が高止まりしやすい。

CWDM

CWDM(Coarse Wavelength Division Multiplexing)では,波長安定化の要求条件を緩和するため,波長間隔は 20 [nm] とされている。なお,"Coarse" は「粗い」という意味である。

符号分割多重(CDM : Code Division Multiplexing)方式

符号分割多重装置を用いてチャンネル毎に異なる特有の符号で演算処理した信号を伝送し,受信側で逆の演算を行うことによりそれぞれ希望のチャンネルの信号を取り出す方式。

空間分割多重(SDM : Supace-division Multiplexing)方式

上り・下り信号用にそれぞれ別の光ファイバを用い、上り・下り信号で同じ波長を用いることができる技術。

空間分割多重(SDM)方式は、例えば、上り方向と下り方向とで、それぞれ別々の光ファイバ心線を用いることにより双方向の伝送を行うなど物理的に異なる伝送路を用いて多重伝送する方式で、他の多重化方式と複合的に用いられることがある。

空間分割多重は,ケーブルに収容する光ファイバ心線数を増やすことにより,ケーブル 1 条当たりの収容チャンネル数を増やす方法である。空間分割多重も,前述の三つの方式(波長分割多重,時分割多重,符号分割多重)のいくつかで多重化された符号を更に多重化する方式として用いられることが多い。現在,光ファイバ 1 000 心の光ファイバケーブルが実用化済みである。

DDM

上り・下り信号で同じ波長を用い、光ファイバを伝搬する光の方向により上り・下り信号を識別する技術は、DDM (Directional Division Multiplexing) といわれ、一般に、光方向性結合器が用いられている。

中継技術

光ファイバ通信システムの伝送距離は中継伝送により延長することが可能である。中継伝送には、中継器でいったん光-電気-光変換を行う再生中継伝送と、光領域で増幅して伝送する線形中継伝送がある。

再生中継

光ファイバは低損失で広帯域な伝送媒体ではあるが、長距離にわたって光信号が伝搬する際には、光ファイバ固有の損失や分散などにより、ある距離以上になると雑音やひずみが累積し、正確な情報を伝送できなくなる。そのため、長距離伝送においては、適切な間隔で中継器を設置し、減衰した光信号の増幅とひずみの補正を行う必要がある。長距離光中継伝送方式の一つである再生中継方式は、光ファイバ中を伝搬してきた光信号をいったん電気信号に変換して増幅した後、等化回路による波形整形などの後、再び光信号として送出するものである。等化回路では、利得周波数特性を適切に設定することにより、後段の回路においてパルスの有無を判定する際に必要とされる、符号間干渉と雑音の少ない波形を得ることができる。再生中継方式では、中継を繰り返しながら信号を伝送するため、中継区間が増加しても雑音やひずみが累積することはなく、長距離伝送が可能である。

再生中継方式では、送信機の能力を最大限に活用して高レベルの光信号を送出し、再生中継間隔の拡大を図ることができる。

再生中継方式において、符号間干渉や雑音などの振幅軸上の劣化要因と、タイミングジッタなどの時間軸上の劣化要因は、これを補正できない場合、信号の識別余裕度が低下し、最終的には符号誤り率の劣化を引き起こす原因となる。

従来の光増幅中継機能(Re-amplification)に,光信号の波形歪を除去する波形整形機能(Re-shaping)と時間揺らぎを抑圧するタイミング再生機能(Re-timing)を加えた 3R 機能を中継器にて実現している。

波形整形機能,または,等化増幅(Reshaping)

伝送により減衰し歪を受けかつ雑音を付加された信号波形から,過剰雑音を除去し歪んだ波形を成形するとともに信号を増幅する機能。

タイミング再生機能(Retiming)

デジタル信号を正確に識別して再生するためのクロックパルスを抽出し,受信パルスを識別する時点を設定する機能。

識別再生(Regenerating)

クロックパルスに対応した時刻において,等化増幅された信号が "1" か "0" かを識別して信号パルスを再生する機能である。

線形中継

線形中継器(光増幅器)は,伝送路損失の補償やアクセス系における分岐損失の補償などに用いられている。線形中継伝送方式で用いられる線形中継器は、光信号を電気信号に変換することなく、光のまま増幅のみを行うことから、1R 中継器ともいわれる。

線形中間中継装置は,光信号を直接増幅する装置であり,電気段がないため,主信号内の監視制御の抽出・挿入が不可能である。また,線形中継方式は、中継器内に符号形式や伝送速度を制約する要因となる電子回路類がないため、システムを構築した後でも伝送速度の変更に柔軟に対応することができる。

線形中継システムでは、一般に、線形中継器数の増加に伴って累積する光雑音と光ファイバの分散による波形劣化が、SN 比を低下させ、符号誤り率特性に影響を及ぼす支配的要因となる。高レベルの光信号を送出すると、光ファイバの非線形光学効果による波形ひずみが顕著になるため、送出信号レベルが制限される。また、線形中継方式を用いた伝送システムでは、中継数の増加に伴って累積する光雑音により SN 比の低下が生じ、さらに、光ファイバの分散による波形劣化も増大し、伝送システムの符号誤り特性に影響を及ぼす。

線形中継方式は、光信号を直接増幅しているため、超高速領域まで柔軟に伝送速度の選択が容易であり、また、WDM 方式を適用した伝送システムに用いることで、波長の異なる複数の信号の一括増幅を実現できることから、伝送容量を大幅に拡大することが可能であるなどの優れた特徴を有している。

線形中継システムでは、一般に、線形中継器の入出力光を監視することにより、励起用 LD を制御している。さらに、各線形中継器の状態に関する情報を主信号とは異なる波長を用いて転送することにより、線形中継システム全体の状態を監視し、励起用 LD の光出力レベルを調整することにより線形中継器の光出力レベルが一定となるよう制御している。

EDFA を用いた中継器は線形中継器又は 1R 中継器といわれ、EDF に励起用 LD などを付加した構造で増幅機能を実現している。

線形中継方式においては、光ファイバによる光信号の減衰と波長分散を補償するため、一般に、光信号の増幅には EDFA が、波長分散の補償には DCF などが用いられる。

線形中継器に用いられる光ファイバ増幅器において反転分布が完全に実現された理想的な場合、入力の SN 比を出力の SN 比で除した雑音指数は 3 [dB] である。

本稿の参考文献

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